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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)10932号 判決 1968年12月19日

原告 小林忠彦

右訴訟代理人弁護士 小林宏也

同 永井津好

右訴訟復代理人弁護士 川瀬仁司

被告 酢谷尚八

同 株式会社 武藤商店

右代表者代表取締役 武藤三郎

右両名訴訟代理人弁護士 栗脇辰郎

主文

1  被告らは、各自原告に対し金一〇〇万円およびこれに対する昭和四二年四月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

2  原告その余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、これを三分してその二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

4  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自原告に対し金二八五万八七四六円およびうち金二六〇万七九五一円に対する昭和四二年四月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。との判決ならびに第一項について仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  事故の発生

原告は、昭和四一年五月二三日午前一一時三〇分ごろ、普通乗用自動車(いすずベレット六四年式)群五そ二四一八号(以下原告車という。)を運転して東京都千代田区代官町二番地先交差点(以下、本件交差点という。)を乾門方面から科学技術館方面に向けて進行しようとしたところ、同交差点を左方の田安門方面から北桔門方面に向けて進行してきた被告酢谷尚八(以下、被告酢谷という。)の運転する普通貨物自動車品四ふ〇六九六号(以下被告車という。)に原告車左側前部ドアーおよびフェンダーに衝突されたうえさらに後部トランク付近に追突され、よって全治までに一〇ヵ月を要する後頭部打撲傷、脳震盪症、左側頸部、左臀部大腿部打撲後胎症などの傷害を受けるとともに原告所有の原告車を大破された。

(二)  被告酢谷の過失および責任

前記事故(以下、本件事故という。)の発生について、被告酢谷には先入車の優先権無視、速度違反、安全運転義務違反の過失がある。すなわち、本件交差点は交通整理の行われていない交差点であり、被告酢谷の進行してきた道路には東京都公安委員会の指定によって車両の最高速度を毎時四キロメートルとする制限があったが、被告酢谷は、被告車を運転して右交差点の手前約六〇メートルの地点において右方道路を本件交差点の手前二二メートルの地点にあって同交差点に向け進行している原告車を認めたにもかかわらず、同車よりも早く交差点に進入しようとして毎時六〇キロメートル以上の速度で進行し、既に同交差点に進入していた原告車の確認を怠って同交差点進入直前に原告車に気付き、それでも右にハンドルを切れば原告車との衝突を避けえたものをあわてて左にハンドルを切ったため原告車に衝突したものである。

したがって、被告酢谷は民法七〇九条により原告が蒙った第四項の損害を賠償する責任がある。

(三)  被告株式会社武藤商店の責任

被告株式会社武藤商店(以下、被告会社という。)は、被告車を所有して自己のために同車を運行の用に供しており、被告酢谷は被告会社の従業員であってその業務に従事中前記過失によって本件事故を惹起したものであるから、被告会社は人身損害については自賠法三条により、物件損害については民法七一五条により、原告が蒙った以下の損害を賠償する責任がある。

(四)  損害

1 治療費 金一五万七九五一円

原告は、前記傷害の治療のため昭和四一年五月二三日から同月二六日まで神保医院、同三〇日から翌六月六日まで三輪病院、同日から一〇日までと同年七月五日から八月三日まで前田外科病院にそれぞれ入院し、その費用として神保医院に金一万九〇九五円、三輪病院に金一万五九五〇円、前田外科に金一二万二九〇六円計金一五万七九五一円を支払った。

2 入院雑費 金一〇万円

原告が前記入院中に支出した諸雑費である。

3 通院交通費 金五万円

原告が病院に通院するため支出したタクシー代の総計である。

4 得べかりし利益の喪失 金一〇〇万円

原告は、クラウンレコード専属歌手訴外北上淳也の芸能マネジャーとして報酬月額金一〇万円の約定で同人の出演契約の締結やステージへの送迎等の業務に従事していたところ、前記傷害のため昭和四一年五月二三日から翌四二年三月末まで稼働できなかったので、その間の報酬金一〇〇万円を失った。

5 原告車の破損 金四〇万円

原告車は本件事故によって修理不能となり、廃車せざるを得なかったが、事故時までの同車の使用期間は一年一ヶ月であり、走行距離は一万五〇〇〇キロメートル未満であったから、その取引価格は少なく見積っても金四〇万円を下らなかった。したがって、原告車の破損によって原告の受けた損害は金四〇万円である。

6 慰謝料 金八〇万円

原告は、前記のように各病院に入院して加療を受け、退院後も今日まで通院加療を続けているがいまだに頭痛、耳鳴りなどに悩まされている。そのため、事故前は淳也のステージへの送迎は原告が自ら原告車を運転していたが、事故後は自動車の運転ができないのでハイヤーを雇い入れて同人に提供し使用させることを余儀なくされたばかりでなく、同人は原告の実子であり目下売出中の歌手であるところから、原告は他から多額の借金をして淳也を売出すために費消していたが、本件事故に遭遇してマネジャーとして十分の活動ができず所期の成果を上げることができなかった。このような原告の精神的苦痛を金銭に見積るときは、金八〇万円を下らないことは明らかである。

7 弁護士費用 金三五万〇七九五円

原告は、以上のように被告らに対し金二五〇万七九五一円の損害賠償請求権を有するところ、被告らはこれを任意に弁済しないので、原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人両名に対し昭和四一年一一月一〇日本訴の提起と追行を委任し、同日着手金として金一〇万円を支払うとともに原告勝訴の判決があったときは判決確定の日を支払日として右賠償請求金額の一割に当る金二五万〇七九五円を成功報酬として支払うことを約した。そして右弁護士費用も本件事故による原告の損害というべきである。

(五)  結論

よって、原告は被告らに対し金二八五万八七四六円およびうち右成功報酬を除く金二六〇万七九五一円に対する本件事故発生の日以後の日である昭和四二年四月一日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

(一)  請求原因第一項について

原告主張の日時場所において原告の運転する原告車と被告酢谷の運転する被告車が衝突したことは認めるが、衝突の態様および原告が負傷し、原告車が破損したことは争う。

(二)  同第二項について

本件交差点が交通整理の行われていない交差点であることは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  同第三項について

被告会社が被告車の運行供用者であることおよび被告酢谷が被告会社の従業員であり、本件事故当時その業務に従事していたことは認める。

(四)  同第四項について

全て不知

三  抗弁

本件交差点は交通整理の行われていない交差点であるところ、原告車の通行していた乾門方面から科学技術館に通じる道路は車道の幅員が八・四メートルであり、被告車が通行していた田安門方面から北桔門方面に通じる道路は車道の幅員が一一メートルであるから、被告車が通行していた道路の方が、その幅員が明らかに広いものであるにかかわらず、原告は、被告車を認めながらそれに進路を譲らず、しかも相当のスピードで本件交差点に進入したのである。この過失は本件事故発生の一原因をなすものというべく、賠償額の算定にあたっては十分斟酌さるべきであり、原告の右過失と被告酢谷の前方不注視の過失と対比すると、その割合は六対四とするのが相当である。

四  抗弁に対する答弁

本件交差点が交通整理の行なわれていない交差点であることおよび原告車の進路と被告車の進路の各幅員がそれぞれ八・四メートルと一一メートルであることは認めるが、その余の事実は否認する。

第三証拠≪省略≫

理由

一  事故の発生

原告主張の日時、場所において、原告の運転する原告車と被告酢谷の運転する被告車とが衝突したことについては、当事者間に争いがない。≪証拠省略≫によれば、本件事故の態様は、本件交差点の中心やや科学技術館寄りの地点において原告車の左前部と被告車の右前部フェンダー付近が衝突しさらに原告車の左前、後ドアー部分と被告車の右側中央部付近が衝突したものであることが認められ(る。)≪証拠判断省略≫そして≪証拠省略≫によれば、本件事故によって原告が後頭部打撲傷、脳震盪症、左側頸部、左臀部大腿部打撲後胎症等の傷害を負うとともに原告車の左前部フェンダーおよび左前、後ドアー等が破損したことが認められる。

二  被告酢谷の過失および責任

本件交差点が交通整理の行われていない交差点であることについては当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると次の事実を認めることができる。

本件交差点は原告車の進行方向からも被告車の進行方向からも左右の見透しのきかない交差点ではなく、本件事故当時小雨が降っていたが、見透しをさまたげるほどのことはなく、原・被告車の通行していた道路には東京都公安委員会の指定によって車両の最高速度を毎時四〇キロメートルとするほかは交通規制はなかった。被告酢谷は、被告車を運転して毎時約五〇キロメートルの速度で道路左側部分の中央、中央線を仮定するとやや中央線寄りを漫然と田安門方面から北桔門方面に向って進行し、本件交差点に進入しようとしてはじめて乾門方面から本件交差点に進入していた原告車を右前方数メートルの地点に発見し、衝突の危険を感じてブレーキを掛けようとしたが、ブレーキペダルに足をのせた瞬間被告車を原告車に衝突させてしまった。

以上の事実を認めることができる。≪証拠判断省略≫

右事実によれば、被告酢谷には被告車を制限最高速度を超え、かつ右方に対する注視を怠って運転した過失があるといわなければならない(原告は、被告酢谷にはさらに先入車の優先権を無視した過失があることをも主張するものの如くであるが、原告車に先入車の優先権がないことは後記のとおりであるから、原告の右主張は採用することができない。)。したがって被告酢谷は民法七〇九条により本件事故によって原告が蒙った後記第五項の損害を賠償する義務がある。

三  被告会社の責任

被告会社が被告車の運行供用者であることおよび被告酢谷が被告会社の従業員で本件事故は酢谷が被告会社の業務に従事中に惹起したものであることは当事者間に争いがないから、酢谷に本件事故の発生について前記の如き過失がある以上、被告会社に人身損害に関しては自賠法三条により、物件損害に関しては民法七一五条により、後記原告の損害を賠償する義務がある。

四  原告の過失

本件交差点が交通整理の行われていない交差点であることは前記のとおりであり、原告車の通行していた道路の車道の幅員が八・四メートル、被告車の通行していた道路の車道の幅員が一一メートルであることについては当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、原告は原告車を毎時三五ないし四〇キロメートルの速度で運転進行していたことが認められるところ、被告らは被告酢谷には本件交差点への進入にあたって道交法三六条二、三項のいわゆる広路優先権があった旨主張するが、毎時三五ないし四〇キロメートルの速度で進行する車両を運転するものにとって右の程度の差では交差する道路の車道の幅員が「明らかに」広いと認識することは困難であると考えられるから、被告らの右主張は採用できない。

しかしながら、本件交差点は前記の如く交通整理の行われていない交差点であり、原告は原告車を運転して時速三五ないし四〇キロメートルで進行していたものであるが、≪証拠省略≫によると、原告は、本件交差点の相当手前において左方の道路を毎時五―六〇キロメートルの速度で本件交差点に向け進行している被告車を右交差点から田安門方面に数十メートルの地点に認めたが、被告車が減速してくれるものと考え、また原・被告車の本件交差点に対する距離差を誤認して被告車が同交差点に進入する前に原告車は十分右交差点を通過できるものと判断し、原告車を駐車する場所を求めつつ漫然と直進して本件交差点に進入したことが認められる。≪証拠判断省略≫そして右認定事実に前記原・被告車が進行していた各車道の幅員、両車の各速度、衝突地点および衝突の態様を併せ考えると、本件交差点には原告車が先に進入したが後れて同交差点に進入した被告車との時間の差は〇・五秒前後であると推認される。

本件交差点の通行に関して、道交法三六条の適用がないことは先に判示したところであり、また原告車も被告車も、本件交差点に直進車として進入したのであるが、その両車のいずれにとっても、本件交差点が左右の見透しのきかない交差点ではなかったことも、先に認定したとおりであるから、本件交差点における両車の優先順位を決するには、道交法三五条の規定によるべきものである。同条一項は先入車の優先を、同条三項は同時進入の場合の左方車優先を定めている。本件において、結果的には原告車が先入していることは右に見たとおりであるが、当裁判所は、本件事案のような場合には、同条一項ではなく、同条三項を以て律すべきものと考える。けだし、同条が交差点に進入し、あるいは進入せんとする両車の優先劣後の関係を法定する趣旨は――両車衝突のあとになってどちらが優先していたかを決定することが本来の目的ではなく、むしろ、そのような衝突のないよう――同条の規定するところをあらかじめ運転者に周知せしめることにより交差点における交通の混乱を避け安全を期するにあること明らかである以上、本件のように当該の交差点が左右の見透しのよいものであって、進入する左右両方の車両のいずれにも徐行の期待できない場合に同条を適用する際の、同条三項の「同時」とは、進入に先立ち、見透しにより相手車を視認しえた時点ないし、しえた筈の時点に遡って、「その時点における両車の交差点までの距離および進行速度に即し、両車がそのまま進行したとき、ほぼ同時に交差点に進入すべきこと」を意味すると解すべきである。従って、右方車は、結果的に先入していたからといって当然優先権を認められるわけのものではない。右方車としては、左方車が明らかに優先権を放棄したと認められるような場合は格別、そうでない限り、両車がそのままの速度で進行した場合自車の方が先に交差点を通過し終ることができると認められるのでなければ、交差点に進入すべきでなく、むしろ減速して左方車に譲るべきものであって、逆に左方車の減速を期待して交差点の通過を敢行することは許されない。換言すれば、この種の交差点において両車のいずれかが加速ないし減速しなければ衝突が避けられない条件下にある場合には、同条項の適用上は、両車が「同時」に進入すべき場合であると解して差支えないものと言うべきである。もし、かように解しえず、右方車が少しでも先入すれば優先するというのであれば、左方車を視認後、右方車が加速して強引に先入し、優先権を主張するような危険な事態をも許すこととなり、先に見た同条の法意にももとることとなろう。

本件事案においては、被告車の交差点進入は原告車に〇・五秒遅れたのみなのであるから、ほぼ同時に進入すべき左方車であったと見るをさまたげず、しかも、両車いずれも減速しなかった結果本件衝突の事態に立ち至ったこと前判示のとおりであるから、前記の意味において「同時」に交差点に進入すべき場合であったと言うことができる。従って、原告が、左方道路を本件交差点に向って進行する被告車を認め、かつ原・被告車の進行速度をほぼ的確に把握しながら、両車と交差点との距離差を誤認し、また被告車の減速を期待して漫然本件交差点に進入したのは、左方から「同時」に進入しようとしていた被告車の進行を過失により妨げたものと言わなければならない。

そして、原告の右過失が本件事故発生の一原因であることは明らかであるから、賠償額の算定にあたってこれを斟酌すべく、原告の右過失と被告酢谷の前記過失とを対比すると、その割合はおおよそ五対五と認めるのが相当である。

五  損害

(一)  財産損害(弁護士費用を除く。)

1  治療費

≪証拠省略≫によれば、原告は、本件事故による傷害のため昭和四一年五月二三日から同月二六日まで神保医院に入院し、入院治療費として金一万五〇〇〇円、付添費として金三六四五円を支払い、次いで同月三〇日から翌六月六日まで三輪病院に入院し、入院治療費として金一万五九五〇円を支払い、さらに同日から一〇日までと同年七月五日から八月三日まで前田外科病院に入院し、入院治療費として金八万八二四五円、付添費として金三万四八〇四円を支出したことが認められる。そして原告が支出した右入院治療費金一一万九一九五円は、本件事故による損害ということができるが、付添費については、神保医院に入院した際の症状が≪証拠省略≫によれば安静加療に約二週間を要する後頭部打撲傷(脳震盪症)であり、前田外科に入院した際の症状が≪証拠省略≫によれば頭部打撲症および頸推捻挫症(鞭打症)で、脳圧が軽度上昇以外とくに異常は認められないことが認定できるから、原告が右各病院に入院中付添の必要があったとは考えられないので、本件事故による損害とは認められないというべきである。

2  入院雑費および通院交通費

原告が四六日間入院したことは前記のとおりであり、入院中には通常の病状の場合自宅療養等においては支出を要しない一日一〇〇円程度の通信費、洗たく代等の諸雑費を支出することは公知の事実であるから、原告が前記入院中の諸雑費として主張する額のうち金四六〇〇円はこれを認めることができるが、その余の部分については、これを認めるに足りる証拠がない。また、通院交通費についてはその支出額、必要性、相当性等を立証することを要するところ、原告主張のように金五万円もの額に達することについてはこれを認めるに足りる証拠がない。もっとも、前記退院後前田外科や虎の門竜病院等に通院したことは認められ、相当の交通費を要したことは明らかであるが、その額を確定すべき資料に缺けるので、これらは、後に慰謝料を算定する際斟酌することとする。

3  得べかりし利益の喪失

≪証拠省略≫によれば、原告は、本件事故当時西銀座プロダクションを経営し、実子であるクラウンレコード専属歌手訴外北上淳也こと大橋誠臣の芸能マネジャーを勤め、同人の出演契約の締結、作詞、作曲家に対する折衝、報道機関に対する宣伝活動、淳也のステージ等への送迎等をして同人との間に報酬月額金一〇万円の契約を結んでいたが、本件事故による傷害のため昭和四一年五月二三日から同年一一月末ごろまで右仕事に従事することができず、その間の報酬金六〇万円を得ることができなかったことが認められる。≪証拠判断省略≫したがって、原告が本件事故によって喪失した得べかりし利益は、金六〇万円をもって相当とする。

4  原告車の破損

原告所有の原告車が本件事故によって破損したことは前に認定したとおりであり、≪証拠省略≫によると、原告車は昭和四〇年金六七万円で購入した新車であったが、本件事故による破損のため金二四万三五三〇円の費用をかけて修理しても金二〇万円以下でなければ売却できないので、廃車せざるをえなかったことが認められる。ところで、原告は原告車の本件事故当時の価格は少なく見積っても金四〇万円を下らなかった旨主張するが、これを直接に認めるに足りる証拠はない。そこで原告車の事故当時の価格は法人税法九条の八、同法施行令四八条一項、所得税法一〇条の三、同法施行令一二〇条、昭和四〇年三月三一日大蔵省令第一五号減価償却資産の耐用年数等に関する省令のいわゆる定率法によって算出することとし、原告車の購入年月日は前記のように昭和四〇年というだけで月日が不明なのでこれを同年初頃とすると、償却率は〇・三九であるから、原告車の右価格は万円未満の端数を切り捨てて金三九万円となり、これが原告車の破損による原告の損害と認められる。

5  過失相殺

以上、1ないし4の合計額金一一一万三七九五円が原告が本件事故によって蒙った弁護士費用を除く財産損害ということができるが、本件事故については原告にも前記のような過失があるので、これを斟酌するときは、原告が被告らに対し請求しうる右損害は、金五六万円とするのが相当である。

(二)  慰謝料

原告は前記傷害のため多額の借金までして育成しようやく売出しはじめた前記淳也のマネジャーとして十分な活動が出来ず、ために所期の成果を挙げえなかったことが≪証拠省略≫により認められ、右事実に前記原告の傷害の部位、程度や本件事故に対する過失その他諸般の事情、なかんずく前示のとおり、原告が退院後通院したことは認めながら、そのために交通費の詳細が算定し難いこと、また≪証拠省略≫により原告が虎の門竜病院に対し支払った診療費が一万円近くあることが明らかであるが、原告はこれを治療費請求中に算入していないことなどを考慮すると、原告の本件事故による精神的苦痛に対する慰謝料は、金三〇万円をもって相当とする。

(三)  弁護士費用

以上のとおり原告は被告らに対し金八六万円の損害賠償請求権を有するところ、被告らがこれを任意に弁済しないことは弁論の全趣旨により明らかであり、≪証拠省略≫によれば、原告は、弁護士たる本件原告代理人両名に対し本訴の提起と追行を委任し、着手金として金一〇万円を支払い、さらに原告勝訴の判決があったときは謝金として判決認容額の一割を支払う債務を負担するに至ったことが認められるが、本件事案の難易前記請求認容額その他本件にあらわれた一切の事情を勘案すると、うち金一四万円を本件事故と相当因果関係のある原告の損害として被告らに賠償させるべきである。

六  結論

よって、原告の被告らに対する本訴請求のうち金一〇〇万円およびこれに対する本件事故発生の日以後の日である昭和四二年四月一日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 倉田卓次 裁判官 福永政彦 並木茂)

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