東京地方裁判所 昭和41年(ワ)12669号 判決
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〔判決理由〕四、そこで、被告の商標が原告の本件登録商標と類似するかどうかを検討する。
(一) さきに認定したところから、本件両商標はともに、大中小三個の歯車の組合せまたはリングギアとプラネツドギアの組合せとみられる図形と、この図形の中央部に左右にはみ出して横一文字に記された英語の文字を結合させた構成を持つ点において共通しているということができる。
(二) 原告は、このうち図形部分が本件両商標の要部であると主張するところ、まず本件登録商標においては、歯車の図形は各歯車のピッチの輪郭を線書きにして表わした白地の平面的な図形であり、文字部分はこの図形の中央部を左右にはみ出して左から横一文字に筆記体で黒く顕著に記されており、しかもこの文字は側線を具えやや厚みを感じさせるように描かれていることが、前記甲第三号証から明らかである。これによつてみれば、本件登録商標は、図形を平面的白地のもの、文字をやや立体的黒色のものと対照的にし、この文字を図形の中央部に左右にはみ出して顕著に描くことによつて、文字がこの図形に背部からささえられて前面に押し出され、全体としてみる者の注意をこの文字に集中するように構成されているということができる。
そして、この「Nattional」という英字は、今日わが国における取引界の実情からして、通常人が英字のまま「ナショナル」というその発音を了解できる程度に日常しばしば使用されている文字であり、その意味が「国民の」「国家の」あるいは「国民的」「国家的」であつて、本件登録商標の指定商品との関係においてその産地、販売地、品質等を表示する語ではなくそれ自体識別力を有する語であることは、あえて根拠をあげて説明するまでもあるまい。してみれば、前記の構成とあいまつて、本件登録商標をみる者は、この「Nattional」という文字によつて強く印象づけられ、これによつてこの商標の附されている商品を記憶にとどめるものと解するのが相当である。
原告は、本件登録商標における図形は、原告の独自の発想に基づく独特な図形であつて、それ自体特別顕著性を有すると主張し、<証拠>によれば、本件登録商標の図形を上下逆にし、リングギアとプラネットギアの部分を黒く着色した標章が、本件登録商標の指定商品と同一ないし類似の商品を指定商品として商標登録(第六一二九七四号)されていることが認められる。
しかしながら、たとえ図形単独で特別顕著性があると認められるときでも、それが文字、記号または他の図形と結合されて一個の商標を構成する場合においては、必ずしも常にこの図形に特別顕著性があるということができないことは明らかである。けだし、その組合せや配置の仕方によつて、あるいはその文字等がとくにみる者の目をひきやすいものであるために、結合商標自体としては、附加された文字等によつて、あるいは商標全体としてはじめて自他商品の識別力を生ずる場合がしばしばあるからである。本件登録商標は、前記第六一二九七四号登録商標と異なり、図形そのものによつてみる者の注意をひくように構成されてはおらず、図形はむしろこれを背景に位置させることによつて文字部分に注意が集中するように構成されていることは、さきにみたとおりであるから、本件登録商標における図形と前記引用の登録商標の図形とを識別力の点で同一にみることは許されない。
<証拠>によれば、本件登録商標が「National」の文字だけからなる登録第三三〇一四八号商標と連合商標として出願登録されているのに対し、歯車図形のみからなる前記引用の登録第六一二九七四号商標は、同一または類似の商品を指定商品としながら、本件登録商標と連合関係なしに独立して出願登録されている事実が認められるが、このことはさきの見解を裏付けるものといえよう。
(三) 一方、被告の商標においては、歯車の図形は、大歯車、小歯車の輪郭を線書きにして表わし、中歯車ないしリングギアの内側空間部とみられる部分を梨地に塗りつぶしており、文字部分は、この図形の中央部を左右にはみ出して左から横一文字に筆記体で「million」の文字を白抜きで黒線で文字の輪郭を顕著に描いたものであることが、被告の商標の表示から明らかである。
これによると、被告の商標は、とくに図形の中央部分を梨地に塗りつぶし、文字を白抜きで図形の中央部を左右にはみ出して描くことによつて、文字部分を図形を背景として浮び上らせ、見る人の注意が主としてこの文字にひきつけられるように構成されているということができる。そしてこの文字は、今日わが国における取引界の実情から通常人が英字のままで、「ミリオン」という発音を了解できる程度の平易な英語であり、また、その意味が「百万」「百万の」であつて被告の商標が使用されている金銭登録機の産地、販売地、品質等を表示する語ではなく、それ自体同商品との関係で識別力を持つことが明らかである。したがつて、前記の構成とあいまつて、被告の商標をみる者は、この「million」の文字によつて印象づけられ、これによつてその使用されている商品を識別するものとみるのが相当である。
五、以上に述べたとおり、本件両商標はともに、その文字部分によつて商標としての自他商品識別力を発揮するものといわなければならず、そうである以上、両商標を全体として観察した場合、歯車図形と文字の組合せという構成が共通しているとはいえ、両商標が、その外観、観念称呼において相違し、類似のものでないと解されることは、あらためて説明するまでもなく明白である。
六、よつて原告の本訴請求は失当であるから棄却……する。(古関敏正 水田耕一 牧野利秋)