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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)1492号 判決 1967年9月13日

原告 伊藤武男

右訴訟代理人弁護士 猪股正清

同 猪股正哉

被告 安房貨物自動車株式会社

右代表者代表取締役 中村庸一郎

同 鈴木重司

右訴訟代理人弁護士 増岡章三

主文

被告は原告に対し、別紙目録記載(ロ)の建物が収去せられるときは、右建物から退去せよ。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し別紙目録記載(ロ)の建物(以下本件建物という)から退去して、同目録記載(イ)の土地(以下本件土地という)を明渡せ。訴訟費用は被告の負担とする」との判決と仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、原告は訴外桜金属工業株式会社に対し本件土地を含む九八八坪の土地を、昭和三〇年一一月二六日裁判上の和解により、建物所有の目的をもって、二〇年間賃料一ヵ月一三、〇〇〇円(昭和三六年七月以降は三二、一一〇円に合意により改訂)、賃料延滞額が三ヵ月分に達したときは何等の催告を要せず契約を解除して本件建物を収去し、本件土地の明渡を請求することができる旨の約定で賃貸した。

二、しかるに訴外会社は昭和三七年二月から四月までの三ヵ月分の賃料を全然支払わないので、同年五月八日解除の意思表示をなし、前記和解条項に基き同年六月二一日訴外会社に対する執行文の付与をうけた。

三、従って原告は訴外会社に対し、賃貸借契約の終了に基き、本件建物を収去して、本件土地の明渡を請求することができるものである。

四、ところが被告は本件建物を占有することにより、本件土地を不法に占有している。

五、よって原告は被告に対し、原告と訴外会社間の本件土地賃貸借契約の終了による原状回復のための土地明渡請求権(賃借物返還請求権)に基く反射的効果として、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

と述べ、被告の権利濫用の抗弁事実を否認し(た。)

立証 ≪省略≫

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、請求原因第一項は認める。第二項以下中原告が訴外会社に対する執行文の付与をうけたこと、被告が本件建物を占有していることは認めるが、その余は否認。本件訴は訴外会社との間の本件土地賃貸借契約の解除を前提としているが、訴外会社は地代を延滞していないから、原告は解除権を有しない。即ち被告他二名が訴外会社のために、原告に対し地代を現実に提供したが、原告はその受領を拒絶したので、これを供託しているから、訴外会社の地代の延滞はない。かりにそうでないとしても、原告の解除権の行使は左記の事情からみて権利の濫用として許されないから、解除の効果は発生せず、訴外会社は本件土地につき依然賃借権を有する。即ち(1)被告外二名の者が本件土地の賃借権を訴外会社から譲受けることにつき原告は基本的に承諾を与えており、名義書換料の協定につき交渉がなされている過程で生じた些細な行違いから(約定に反して原告が約六割という法外な書換料を請求して解決を遅延させたこと)延滞を生じたものであるから、通常の状態でなされた延滞とは異り、背信性がなく且つその期間が僅かであること。(2)その間賃料が全く支払われていないのではなくして、被告他二名より現実の提供もなされており、実質的には支払がなされているに等しいこと。(3)本件土地を含めた原告から賃借地合計九八八坪の借地権の価格は約一億円に相当し、従って僅か数ヵ月分の地代(金額にして一〇数万円)の延滞によって、原告は訴外会社より約一億円の価値を奪って利得する結果になること。

と述べ(た。)立証≪省略≫

理由

原告と訴外会社間に昭和三〇年一一月二六日原告主張のとおりの裁判上の和解が成立したこと及び訴外会社が昭和三七年二月から四月まで三ヵ月分の賃料の支払を怠ったことを理由に右和解に定められた特約に基き、原告が訴外会社に対し、同年五月八日右和解による賃貸借契約解除の意思表示をなし、土地返還義務履行の条件が成就したものとして、同年六月二一日右和解調書正本に執行文の付与をうけたこと並びに被告が本件建物を右和解の成立する以前から占有していることはいずれも当事者間に争いがない。そして≪証拠省略≫によれば、訴外会社において賃料の不払があったこと、右不払を理由とする契約解除が権利濫用に当らないことについては、原告と訴外会社間の訴訟事件(一審、当庁昭和三七年(ワ)第六三七一号執行文付与に対する異議の訴、二審、東京高裁昭和三八年(ネ)第二二四一号事件、三審最高裁昭和四〇年(オ)第四九二号事件)の各判決において認定されているとおりであって、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

しからば、原告は訴外会社に対し本件土地の賃貸借契約が適法に解除されたことを理由として前記和解条項に基き、本件建物を収去し、本件土地の明渡しを求める権利を有し、訴外会社はこれにより本件建物を収去し、本件土地を原告に対し明渡すべき義務を有することは明らかである。

ところで本件の訴は、右和解成立以前から本件建物を占有している被告に対しては、右和解調書の執行力が及ばないところから、被告に対し本件建物からの退去を求めるものであるが、その根拠とするところは、原告が土地の所有権者として所有権に基く妨害排除を求めるものではなく、或は賃借人として、賃貸人である所有権者に代位して妨害排除を請求するものでもなく、訴外会社との間における賃貸借契約解除に伴う原状回復義務の履行を、被告が妨げているものとして直接その妨害排除を求める趣旨であることは明白である。

ところで排他性のない債権については一般に妨害排除請求は認められないとされているが、右のような権利があるからといって建物収去請求ときりはなして退去請求が認められるか否かの問題は別として、本件の場合はその権利が債務名義まで高められた実在性と執行力を有しているのであるから、このような場合には、特段の事由のない限り、独自の占有権限に基いて本件土地の占有するのではなく、本件建物の占有権限の、所謂反射的効力としてこれを占有しているに過ぎないような被告に対しては、建物収去の強制執行を停止条件として本件建物からの退去を求めうる権利を有するものと解するのが相当である。そうだとすると、特段の事由についてなんら主張、立証のない以上、被告は本件建物から退去し、原告の本件建物に対する収去請求権の行使を妨げてはならないと謂うべきである。

よって原告の請求は建物収去の執行を停止条件とする限度において正当として認容すべきも、その余は失当として棄却すべく民事訴訟法第八九条、第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。なお、仮執行は適当でないので、これを付さない。

(裁判官 加藤宏)

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