東京地方裁判所 昭和41年(ワ)227号 判決
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〔判決理由〕一 請求原因第一、二項および第四項の事実ならびに同第三項の事実のうち被告トキコがが被告物件のうちのインジケーターの製造をしている点を除くその余の点は、いずれも当事者間に争いがない。
(編注、四 被告給油所は、本件実用新案の構成要件をすべて具備し、その技術的範囲に属する。)
二 被告物件は、その物自体の性質効用等から考えて被告給油所の製造にのみ使用される物件でないことが明らかである。
そうすると、被告物件が被告給油所の製造にのみ使用される物件であることを前提とする原告の被告トキコに対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、既にこの点において理由がない。
三 そこで、被告トキコ油器の抗弁について検討する。
まず、<証拠>によれば、次のとおりの事実が認められる。
訴外トヨタ自動車工業株式会社は、その土橋工場(後に元町工場と改称される。)に自動車総組立ライン二基を建設するに当り、被告トキコ油器に対しライン終端部に設置する給油設備の建設を依頼した。そこで、被告トキコ油器は、訴外会社から指示されたタンクを屋外地下に設け、これから工場の天井梁を伝つて組立ライン真上に配油管を導き、機器類は床上に設けず頭上にある配管の途中に設ける等して組立ラインに乗つて移行する自動車の邪魔にならないようにするとともに、表示計を給油位置から見うるところに設ける等の基本的設計方針により施工のための仕様設計を行い、これに基き昭和三四年七月末頃本件給油所を建設し、訴外会社に引き渡した。
本件給油所の構造は、次のとおりであつた。
(い) タンクを自動車組立工場外の地下に設け、この地下タンクに連結した配油管を工場の壁に沿わせて立ち上らせること
(ろ) この配油管を床上約六米の高さの梁に導くこと
(は) 梁に導かれた配油管を梁に沿つて水平に延長した後自動車総組立用コンベヤーライン終端部附近北側方の位置で下方に垂下して床上約二米の高さで開口すること
(に) 吸上ポンプおよび電動機を屋外のポンプ室に、流量計を梁の上にそれぞれ設けること
(ほ) ノズルバルブを有するホースを配油管に連結し、これを配油管に取付けられている吊下部材に吊り下げること
(へ) 吸上ポンプに電動機を連結し、配油管の途中にこのポンプおよび流量計を挿入すること
(と) 配油管の開口部から東西に走るコンベヤーライン上を東へ約三・三米離れた地点のコンベヤーライン北側方床上に、東へ約一米の巾をもつた箱に収納された表示計を設け、これと流量計とを電気的に連結したこと
四 そこで、本件給油所と本件実用新案の要件とを対比する。
(一) 本件実用新案の(1)の要件に対応するのは、本件給油所の(い)の構造であるから、両者を対比してみると、本件給油所の(い)の構造が本件実用新案の(1)の要件を具備していることは明らかである。
(二) 本件実用新案の(2)の要件に対応するのは、本件給油所の(ろ)の構造であるから、両者を対比してみると、後者における床上約六米の高さの梁が前者における自動車の制限高さよりも高い天井に該当することは明らかであるから、本件給油所の(ろ)の構造は、本件実用新案の(2)の要件を具備している。
(三) 本件実用新案の(3)の要件に対応するのは、本件給油所の(は)の構造である。ところで、前者の要件のうち天井に導かれた配油管を天井に沿つて水平に延長するとの構造は、後者もこれを備えている。しかしながら、前者における配油管は天井に開口するとされており、天井は自動車の制限高さよりも高いとされているのであるから、配油管の開口部は道路交通取締法施行令(昭和二八年政令第二六一号)ないし道路交通法施行令(昭和三五年政令第二七〇号)による許容の積載制限高さ三・五米一杯に荷積した貨物自動車の給油にも邪魔にならない位置でなければならない。これに対して後者における配油管の開口部は、床上わずかに二米の高さであつて、コンベヤーラインに乗つている組立自動車の移行の邪魔にはならないとしても、前記のような荷積をした貨物自動車の給油には障害になる場合も出て来る位置にある。そうすると、本件給油所の(は)の構造は、この点において本件実用新案の(3)の要件を具備せず、またその有する作用効果をも果しえないものといわなければならない。
(四) 本件実用新案の(4)、(5)、(6)の各要件にそれぞれ対応するのは、本件給油所の(に)、(ほ)、(へ)の各構造であるが、これら(に)、(ほ)、(へ)の各構造が、それぞれ本件実用新案の(4)、(5)、(6)の各要件を具備することは、あらためて説明するまでもない。
(五) 本件実用新案の(7)の要件に対応するのは、本件給油所の(と)の構造である。ところで、前者の要件のうち、表示計と流量計とを電気的に連結するとの構造は、後者もこれを備えている。また、検証の結果によれば、後者における配油管の開口部、すなわち給油地点と表示計との位置および距離からみて、本件給油所においては、給油地点から見うる位置に表示計が設けされているといえないことはない。そうすると、前者の要件のうち、給油地点から見うる位置に表示計を取付けるとの構造もまた後者に備わつているといつても差支えないであろう。しかしながら、前者における表示計の取付位置は、天井または構築物に接する位置のような自動車の走行に邪魔にならない位置であるとされている。これに対して後者における表示計の取付位置は、自動車組立用ライン側方の床上であつて、コンベヤーラインに乗つている組立自動車の移行の邪魔にならないのは当然のことながら、それ以外の自由な経路を辿つて給油地点に接近しようとする自動車の走行には障害になる位置にある。そうすると、本件給油所の(と)の構造は、この点において本件実用新案の(7)の要件、ひいてはその有する作用効果を具備していないものといわなければならない。
これを要するに、本件実用新案の給油所は、原本の存在およびその成立に争いのない甲第一号証からも明かなように、狭い敷地をできるだけ効率的に使用し、しかも給油所附属の機器類と自動車との接触事故の発生を防止することを狙いとした給油所である。これに対して、本件給油所は、その構造自体からも窺われるように、コンベヤーラインに乗つて移行する組立自動車の組立作業の円滑な遂行に障害を来たさないよう設計されたにすぎないものである。この両者の差異がすなわち本件給油所において本件実用新案の(3)、(7)の要件を欠くという構造上の差異となつて現われざるをえなかつたということができる。
五 以上の次第で、本件給油所は、本件実用新案の技術的範囲に属しないから、被告トキコ油器は、本件実用新案権につきその主張のような通常実施権を有するものということはできない。
したがって被告トキコ油器がその主張のような通常実施権を有することを前提とする同被告の抗弁は理由がない。
六 よつて、原告の被告トキコに対する請求は失当であるから棄却し、被告トキコ油器に対する請求は正当であるから認容する。(古関敏正 吉井参也 小酒礼)