東京地方裁判所 昭和41年(ワ)2927号 判決 1966年6月03日
原告 横浜信用金庫
被告 城南信用金庫
主文
被告は原告に対し金五〇万円およびこれに対する昭和四一年四月一三日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決はかりに執行することができる。
事実
原告訴訟代理人<省略>請求の原因として
一、原告は訴外新日東興業株式会社振出の左記約束手形一通の所持人として昭和四〇年一一月二九日これを支払場所に呈示したところ、契約不履行の理由で支払を拒絶された。
金額 金五〇万円
満期 昭和四〇年一一月二八日
支払地 東京都港区
支払場所 城南信用金庫青山支店
振出地 東京都新宿区
振出日 昭和四〇年六月一〇日
振出人 新日東興業株式会社
受取人兼第一裏書人 中央重機建設株式会社
第二裏書人 金谷産業株式会社
そして、訴外新日東興業株式会社は不渡処分を免れるため、被告に対し、不渡届に対する異議申立を依頼し財団法人東京銀行協会東京手形交換所に提供する目的で金五〇万円を預託し、被告は同所に右金員を提供して異議申立をした。
二、その後原告は前記訴外会社に前記手形金の支払を求めたところ、同会社は昭和四一年二月一九日同会社の被告に対する右預託金返還請求権を譲渡し、被告に対し書面をもってその旨譲渡通知を発し、同書面は同月二一日被告に到達した。
三、そして右提供金は、原告の依頼による不渡処分取止め請求により、昭和四一年三月一日東京手形交換所から被告に返還された。
四、よって、原告は被告に対し右預託金五〇万円とこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四一年四月二一日から完済まで民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める。
と述べ、被告主張の委任事務は前記手形交換所からの提供金返還により終了しているから被告の主張は理由がない。と述べた。
被告訴訟代理人は答弁として、請求原因事実はすべて認め、抗弁として、訴外新日東興業株式会社の被告に対する本件金員の預託は、東京手形交換所に対する異議申立提供金として提供することを委任してなされたものであるから、右訴外会社は被告が東京手形交換所から右提供金の返還を受けるまですなわち委任事務終了前は被告にその返還を請求しえないものであり、従ってこれを他に譲渡処分しえないものである。それ故右委任事務終了前になされた原告に対する本件譲渡は効力を生じない。と述べた。
理由
原告主張の請求原因事実は当事者間に争がない。よって被告の抗弁につき考えるに、訴外新日東興業株式会社の被告に対する本件金員の預託が被告主張のような委任契約に基くものであることは原告の争わないところであるが、本件のような約束手形の振出人が取引銀行に対し不渡処分を免れるため手形交換所に提供すべき異議申立提供金を預託する場合は、特段の意思表示のないかぎり、事故解消により右提供金が手形交換所から取引銀行に返還されたときすなわち委任事務終了のときには当然これを預託者に返還する趣旨のもとになされるものと解すべきである。従って、右委任事務の終了は、預託者の預託金返還請求権の発生要件ではなくこれに付された履行の期限(不確定期限)とみるのが相当である。とすれば、被告主張のとおり本件預託金返還請求権の譲渡が右のような委任事務の終了前になされたからといって、これを無効ということはできないから、被告の抗弁は理由がない。<以下省略>。