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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)410号 判決 1968年1月26日

原告 岩崎又吉

右訴訟代理人弁護士 白石資明

右訴訟復代理人弁護士 山根茂

被告 小国満

右訴訟代理人弁護士 佐川浩

被告 吉田鉄太郎

<ほか一名>

右被告両名訴訟代理人弁護士 菅原瞳

被告 金子福太郎

主文

被告小国満は原告に対し、原告から金一二九、二五〇円の支払を受けるのと引換えに、被告吉田鉄太郎に対して有する別紙物件目録二の(二)記載の建物に対する返還請求権、被告原田はなに対して有する同目録二の(三)記載の建物に対する返還請求権及び訴外金子昌弘に対して有する同目録二の(四)記載の建物に対して有する返還請求権を譲渡し、かつ被告吉田鉄太郎、被告原田はな及び訴外金子昌弘に対して、以後各建物を原告のために占有せよと通知せよ。

被告小国満は原告に対し、昭和三五年九月一六日から右引渡ずみまで一ヵ月金九〇〇円の割合による金員を支払え。

原告の被告小国満に対するその余の請求並びに被告吉田鉄太郎、被告原田はな及び被告金子福太郎に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告と被告小国満との間においては、原告に生じたものを二分し、その一を被告小国満の負担とし、その余を各自の負担とし、原告と被告吉田鉄太郎、被告原田はな及び同金子福太郎との間においては、原告の負担とする。

この判決は、主文第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求める裁判

原告は、被告小国は原告に対し、別紙物件目録二の(一)記載の建物(以下(一)の建物という)を収去して、同目録一記載の土地(以下本件土地という)を明渡し、かつ昭和三五年九月一六日から右明渡ずみまで一ヵ月一坪につき金四〇円の割合による金員を支払え。

被告吉田は原告に対し、別紙物件目録二の(二)記載の建物(以下(二)の建物という)から退去して、被告原田は原告に対し、同目録二の(三)記載の建物(以下(三)の建物という)から退去して、被告金子は原告に対し、同目録二の(四)記載の建物(以下(四)の建物という)から退去して、それぞれその敷地部分を明渡せ。訴訟費用は被告らの負担とする。との判決並びに仮執行の宣言を求める。

被告らは、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求める。

二  請求原因

原告は、本件土地を所有している。被告小国は、昭和三五年九月一六日から(一)の建物を所有して本件土地を、被告吉田は、(二)の建物に居住してその敷地部分を、被告原田は、(三)の建物に居住してその敷地部分を、被告金子は、(四)の建物に居住してその敷地部分を、それぞれ占有している。そして同日から右土地の賃料相当額は、一ヵ月一坪当り金四〇円である。

よって、原告は所有権に基づき被告らに対し、前記のとおり建物を収去または建物から退去して、当該占有土地の明渡を求めると共に、被告小国に対しては土地の不法占有による損害賠償として、同日から土地明渡ずみまで一ヵ月一坪当り金四〇円の割合による損害金の支払を求める。

三  答弁

被告小国が賃料相当損害金を否認し、右は一ヵ月金九〇〇円であると述べた外、被告らは請求原因事実を認める。

四  抗弁((一)(二)は被告らに共通、(三)は被告吉田、被告原田及び被告金子のみ主張)

(一)  被告小国の賃借権

原告は、昭和三年津山松太郎に対し建物所有の目的をもって本件土地を賃貸し、同人は、本件土地上に(一)の建物を所有していた。被告小国は、昭和三五年九月一六日津山松太郎から(一)の建物を買受けると共に、本件土地に対する右賃借権を譲り受けることを約し、同年一〇月二七日(一)の建物につき、所有権移転登記をした。

原告は、これより先昭和三五年九月一四日に被告小国に対し、同被告が津山松太郎から右賃借権と(一)の建物を譲り受け、建物について所有権移転登記を経ることを条件に、賃借権譲渡を承諾する旨約した。そして前記のとおり条件は成就したから、原告の承諾があったことになる。

よって、同被告は、本件土地に対する賃借権に基づき原告に対抗できる。

(二)  買取請求権の行使

原告が右賃借権譲渡を承諾しないならば、被告小国は、昭和四一年一〇月五日の口頭弁論期日において原告に対し、(一)の建物を時価をもって買取るべき旨の意思表示をした。よって、その代金の支払を受けるまで、留置権により(一)の建物の引渡と本件土地の明渡を拒む。

(三)  被告吉田及び同原田の賃借権と被告金子の占有権原

被告吉田は、昭和八年頃津山松太郎から(二)及び(三)の建物を賃借して引渡を受け、昭和一五年に同人の承諾を得て、被告原田に対し、(三)の建物を転貸して引渡した。従って、同被告らは賃借権に基づき(二)又は(三)の建物の敷地を占有する権原を有する。被告金子の長男金子昌弘は、昭和三六年一二月一四日被告小国から(四)の建物を賃借して引渡を受けた。従って、同被告は、昌弘の賃借権の範囲内で(四)の敷地を占有する権原を有する。

五  抗弁事実に対する認否

原告が昭和三年津山松太郎に本件土地を賃貸したこと、同人が本件土地上に(一)の建物を所有していたこと、被告小国が昭和三五年一〇月二七日(一)の建物につき所有権移転登記手続をしたこと、被告ら主張の日、被告ら主張の者から被告吉田が(二)及び(三)の建物を、同原田が(三)の建物を、被告金子の長男昌弘が(四)の建物を賃借して引渡を受けたことを認める。被告小国が賃借権の譲渡を受けたこと、被告原田が転借につき津山の承諾を得たことは知らない。被告小国の賃借権の譲受について原告が承諾したことを否認する。

六  再抗弁

被告小国に対する本件訴状は、昭和四一年一月二四日同被告に送達されたが、同被告は、(一)の建物の買取請求権を行使することを予知して、同月三一日をもって(一)の建物につき買取価格の約二〇倍に相当する金二、三〇〇、〇〇〇円の金銭消費貸借を原因とする抵当権を設定した上、買取請求権を行使した。

原告が抵当権の付着した建物を買取らざるをえないようにし原告を害することのみを意図した買取請求権の行使であるからこれは権利の濫用として許されない。

七  再抗弁事実に対する認否

被告小国が原告主張の消費貸借を担保するため、その主張の日に抵当権を設定したことを認める。原告を害する意図をもって抵当権を設定したことを否認する。

八  証拠≪省略≫

理由

一  請求原因事実は、賃料相当額の点を除いて、当事者間に争いない。

二  原告が昭和三年津山松太郎に建物所有の目的をもって本件土地を賃貸し、同人が本件土地上に(一)の建物を所有していたことは、当事者間に争いない。≪証拠省略≫によれば、被告小国が昭和三五年九月一六日津山松太郎から(一)の建物を買受けたことが認められ、また同年一〇月二七日その所有権移転登記を経たことは当事者間に争いない。従って、特別の事情のない限り、同被告は、右建物の買受と同時に津山松太郎からその建物の敷地である本件土地の賃借権を譲り受けたものと推認される。

被告小国満は、右賃借権譲受について、原告の承諾を得たと主張し、被告本人小国満尋問の結果中には、右主張に副う部分があるが、これは原告本人尋問の結果に照し措信せず、その他これを認めるに足りる証拠はない。

三  ≪証拠省略≫によれば、原告は、右賃借権の譲渡を承諾しなかったことが認められるのであり、被告小国が昭和四一年一〇月五日の口頭弁論期日において原告に対し、(一)の建物を時価をもって買取るべき旨の意思表示をしたことは記録上明らかである。

原告は、右買取請求権の行使は権利の濫用であると主張する。

被告小国に対する本件訴状が昭和四一年一月二四日同被告に送達されたことは、明らかであり、同被告が同月三一日消費貸借に基づく金二、三〇〇、〇〇〇円の債務を担保するため、同年二月一日(一)の建物に抵当権設定登記をしたことは、当事者間に争いない。≪証拠省略≫によれば、被告小国は石油販売業を営み、小池一矢から継続的に石油類を買受けて来たが、昭和四〇年一一月頃にはその買掛金が累積して金四、〇〇〇、〇〇〇円となり、同人から担保を差し入れるよう要求されていたため、内金二、三〇〇、〇〇〇円の債務について(一)の建物に抵当権を設定することを約し、前記のとおり抵当権設定登記をしたことが認められる。しかし、それ以上に同被告が将来の買取請求権の行使を予想して、訴状送達後に他から借財して抵当権を設定する等、特に原告を害する意図をもって抵当権を設定したことを認めるに足りる証拠はない。のみならず、買取請求権の行使を有効としても、原告において抵当権の滌除をすることができるし、また抵当権の存在する限り、代金の支払を拒むことができるのであるから、右買取請求権の行使をもって権利の濫用と認めることはできない。従って買取請求権の行使は、有効である。

買取請求権の行使により、昭和四一年一〇月五日原告と被告小国との間に(一)の建物について売買契約が成立したと同様の効果を生じ、(一)の建物の所有権は原告に移転した。従って、同被告の建物収去土地明渡の義務は消滅したが、土地所有物返還請求権を訴訟物とする建物収去土地明渡の請求において、有効な買取請求権の行使があった場合には建物収去土地明渡の請求には、建物売買契約の履行としての建物引渡の請求を包含するものと解するのが相当である。

ところで、後記認定のとおり、被告吉田は、(二)の建物について、被告原田は、(三)の建物について、いずれも被告小国に対抗できる賃借権を有して右建物を直接占有しているのであり、また、被告金子は、長男昌弘が被告小国に対して有する賃借権に基づき(四)の建物に居住している。これによれば、被告小国は、(一)の建物について直接占有を有せず、(二)の建物については被告吉田を、(三)の建物については被告原田を、(四)の建物については金子昌弘をそれぞれ占有代理人として、間接占有を有するわけである。従って、被告小国は原告に対し、この間接占有を指図による引渡によって移転する義務がある。そして鑑定の結果によれば、買取請求権行使当時における(一)の建物の時価は、金一二九、二五〇円であることが認められ、(一)の建物について抵当権の設定されていること前記のとおりであるが、抵当権の存在によって買取請求の価格に変動を及ぼすものではないから、原告と被告小国との間に右代金をもって売買契約が成立した。そして同被告の原告に対する右代金債権は、建物に関して生じたものであるから、同被告は、原告から右代金の支払を受けるまで、(一)の建物の引渡を拒むことができる。以上により同被告は原告に対し、原告から代金一二九、二五〇円の支払を受けるのと引換えに、被告吉田鉄太郎に対して有する(二)の建物に対する、被告原田に対して有する(三)の建物に対する、金子昌弘に対して有する(四)の建物に対する各返還請求権を譲渡し、同被告ら及び昌弘に対して以後右各建物を原告のため占有すべき旨を通知する義務がある。

被告小国は、昭和三五年九月一六日から昭和四一年一〇月五日までは、原告に対抗できる権原なく、本件土地を占有していたのであるから、その占有は、原告の本件土地の所有権を侵害する不法行為というべく、同被告は原告に対し、右期間中本件土地の賃料相当額を損害賠償として支払う義務がある。また同被告は、買取請求権行使の翌日たる同月六日からは、留置権の行使により(一)の建物の引渡を拒むことができる。同被告は、建物引渡を拒めることの反射的効力として本件土地の占有を維持できるのであるが、この占有は、原告に対する関係で法律上の原因なく利得していることになるから、同被告は原告に対し、同日から建物引渡ずみまで本件土地の賃料相当額を不当利得として支払う義務がある。そして原告の賃料相当額の損害を求める請求には、買取請求権行使が有効になされた場合には、賃料相当額を不当利得として返還を求める請求を包含するものと解するのが相当である。原告は、本件土地の賃料相当額が一ヵ月一坪当り金四〇円であると主張し、原告本人尋問の結果中には、右主張に副う部分があるが、これは確たる根拠のある供述とも思われないから採用せず、その他右主張事実を認めるに足りる証拠はないが、本件土地の賃料相当額が少くとも一ヵ月金九〇〇円であることは、原告と被告小国との間に争いない。以上により被告小国満は原告に対し、昭和三五年九月一六日から(一)の建物引渡ずみまで一ヵ月金九〇〇円の割合による損害金又は不当利得金を支払う義務がある。

四  被告吉田が昭和八年頃津山松太郎から(二)及び(三)の建物を賃借して引渡を受けたことは、当事者間に争いない。

被告吉田が昭和一五年頃被告原田に対し、(三)の建物を転貸して引渡したことは、当事者間に争いなく、≪証拠省略≫によれば、右転貸借については賃貸人津山松太郎の承諾を得たことが認められる。

右の事実によれば、被告吉田及び同原田は、(二)又は(三)の建物に対する賃借権をもって、津山松太郎から右建物を譲り受けた被告小国に対抗することができる。また被告金子の長男金子昌弘が昭和三六年一二月一四日被告小国から(四)の建物を賃借して引渡を受けたことは当事者間に争いないから、被告金子は、昌弘の賃借権を援用して被告小国に対抗することができる。

買取請求権の行使により建物の所有権が原告に移転すると共に、被告吉田は(二)の建物の賃借権をもって、被告原田は(三)の建物の賃借権をもって、被告金子は長男昌弘の(四)の建物の賃借権をもって、それぞれ原告に対抗できるわけであるから、その効力として、その建物敷地の返還請求を拒むことができる。

五  よって、被告小国に対する請求を前認定の限度で認容し、同被告に対するその余の請求及びその余の被告らに対する請求をいずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九二条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岩村弘雄)

<以下省略>

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