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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)4368号 判決 1966年10月08日

原告 伊藤文夫

被告 日本通運株式会社

主文

被告は原告に対し金五〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四一年五月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分にかぎり、仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金一、二二四、〇〇〇円およびこれに対する昭和四一年五月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決と仮執行の宣言とを求め、請求原因および抗弁に対する答弁として、つぎのとおり述べた。

「一、昭和四〇年一二月一一日午後六時二〇分頃横浜市西区桜木町五丁目二六番地先交差点において、桜木町方面から東京方面に向つて進行していた訴外天野一雄運転の被告所有の自動三輪貨物自動車(神六あ八六九二号、以下被告車という。)は、停止信号のため停止線の手前で停車していた原告の運転する普通貨物自動車(足一す三一一七号、以下原告車という。)に追突し、その衝撃により原告に対し、第一二胸椎圧迫骨折、後頭部打撲傷、頸椎捻挫の傷害を蒙らせた。

二、原告は右負傷につき横浜市内の亀田病院で診断および応急手当を受け、ついで同月一四日から昭和四一年三月二六日まで東京都足立区の尾竹橋病院に通院加療した。

三、原告は事故のときから昭和四一年四月一〇日まで休業し、その後一旦就業したが、第一二胸椎圧迫骨折の後遺症として腰部と右脚のしびれがひどく、痛みを伴うので、同年六月二五日から八月三一日まで再度休業し、その後も症状は好転しないので同年九月一日から三ケ月間は労働しえたとしても、その日数は通常の半分以下とならざるをえない状態である。

四、原告は原告車を使用運転して単独で運送業を営んでいるものであつて、事故の当時一ケ月約金一五〇、〇〇〇円の収益を挙げていた。これに対しその経費としては一ケ月約金三〇、〇〇〇円を要するのでこれを差引き金一二〇、〇〇〇円が一ケ月の純益であつた。従つてもし前述のように休業しなかつたとすれば、前の休業期間につき金四八〇、〇〇〇円、後の休業期間につき金二六四、〇〇〇円、昭和四一年九月から三ケ月間の分につき金一八〇、〇〇〇円(一ケ月金一二〇、〇〇〇円の半分の純益と見て計算)、合計金九二四、〇〇〇円の利益を挙げえたはずのところ、本件事故による負傷の結果これを失い、同額の損害を蒙つた。

五、また原告は右の負傷により多大の精神的苦痛を受けた。その慰藉料としては金五〇〇、〇〇〇円の支払を受けるのが相当である。

六、よつて原告は、被告車を自己のため運行の用に供していた者としての被告に対し損害の賠償として前四、五項の合計金一、四二四、〇〇〇円から、被告が原告に生活費として支払をなした金二〇〇、〇〇〇円を差引し、残金一、二二四、〇〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四一年五月二七日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

七、被告が原告に対し病院の治療費、自動車の修理費を負担したことおよび原告が運送業を営むにつき免許を受けていないことは認める。」

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁および抗弁として、つぎのとおり述べた。

「一、請求原因第一、二項の事実は認める。

二、同第三項以下の事実中、被告が原告に対し生活費として金二〇〇、〇〇〇円を支払つたことは認めるが、その他は不知または否認する。

三、原告は運送業を営むにつき免許を受けていない。

四、被告は原告に対し、既に治療費、生活費の全額を支払い、慰藉料についても、その支払を交渉中であつた。」

証拠<省略>

理由

一、請求原因第一、二項の事実は当事者間に争いがない。従つて被告は被告車の運行供用者として、その運行によつて生じさせた原告の負傷によりその受けた損害を原告に対し賠償すべき義務がある。

二、証人松川清の証言、これによつて成立の認められる甲第一号証、第二号証の一ないし一二および原告本人尋問の結果によれば、原告は原告車を所有し、これを運転して訴外鹿島建設株式会社からの注文に応じ、その建設資材等の運送をすることを業としていたものであるところ、本件事故による負傷およびその治療のため、事故当日から昭和四一年四月一〇日まで休業のやむなきに至り、ついで一旦就業したものの長時間運転すると右足と腰とにしびれを来すので、同年六月二〇日頃から再び休業して現在に至つており、レントゲン写真撮影の結果によると骨には異状はなく、局所を温めたり、マツサージをしたり、痛み止めの注射をしたりしているが、歩行には差支えないものの、ブレーキペタルをうまく踏めないので自動車の運転は危険であつて、いつ頃全快するか明かでない状態であること、その結果原告はもし事故にあわなければ、その業務を続けることによつてうべかりし収入を休業期間中は挙げることができず、また事故により多大の精神的苦痛を受けたことが認められる。

三、しかし原告が前認定の運送業を営むについては道路運送法による運輸大臣の免許を受けなければならないものであるところ、原告がかかる免許を受けていなかつたことは当事者間に争いがない。そうとすれば原告のなしていた運送営業は違法であり、原告が主張する失つたうべかりし利益というのは、かかる違法な行為を継続することを前堤としているものであると認められるから、それは法の保護に値せず、その利益喪失をその蒙つた損害として加害者側に対し賠償を求めることは許されないと解すべきである。

四、つぎに上来認定の本件事故に関する一切の事情および当事者間に争いのない被告が原告のため既に病院の治療費、自動車の修理費を負担した外、生活費として金二〇〇、〇〇〇円を支払つていることから認められる、被告が事故後の原告に対しその損害の補償に意を用いている事実を綜合すると、原告が本件事故により蒙つた精神的苦痛を償うための慰藉料としては金五〇〇、〇〇〇円が相当と認められる。

(被告が支払つた右の金二〇〇、〇〇〇円は前示のとおり生活費として支払われたというのであるから、右の慰藉料には充当されないものと認めるのが相当である。)

五、以上により、本訴請求中被告に対し、金五〇〇、〇〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四一年五月二七日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉岡進)

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