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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)4703号 判決 1970年5月25日

原告 高橋豊作 外一名

被告 三和石油有限会社 外一名

主文

一、原告らの主位的請求をいずれも棄却する。

二、1、被告三和石油有限会社は、原告高橋豊作に対し金二、六七八、九三一円五六銭、原告高橋謙一に対し金一五、〇六二、三三七円〇三銭を支払え。

2、原告らの予備的請求のその余の部分をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は、原告らと被告華僑国際企業株式会社との間では全部原告らの負担とし、原告らと被告三和石油有限会社との間では、原告らに生じた費用の三分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とする。

四、本判決第二項1の部分は仮りに執行することができる。

ただし被告三和石油有限会社が原告高橋豊作に対して金五〇〇、〇〇〇円、原告高橋謙一に対して金四、〇〇〇、〇〇〇円の担保を立てたときは、当該原告に関する部分について仮執行を免れることができる。

事実

第一、求める裁判

一、原告ら

1、主位的請求

(一)、別紙物件目録<省略>一記載の土地について原告高橋謙一が、同目録二記載の建物について原告高橋豊作がそれぞれ所有権を有することを確認する。

(二)、被告三和石油有限会社は、原告高橋謙一に対し別紙物件目録一記載の土地につきなした東京法務局墨田出張所昭和四〇年一〇月一四日受付第三六、七七二号所有権移転登記の、原告高橋豊作に対し同目録二記載の建物につきなした同出張所同日受付第三六、七七三号所有権移転登記の、各抹消登記手続をせよ。

(三)、被告華僑国際企業株式会社は、原告高橋謙一に対し別紙物件目録一記載の土地につきなした前同出張所昭和四一年五月一一日受付第一七、三五七号所有権移転登記の、原告高橋豊作に対し同目録二記載の建物につきなした同出張所同日受付同号所有権移転登記の、各抹消登記手続をなし、かつ原告高橋豊作に対し右建物を明渡せ。

(四)、訴訟費用は被告らの負担とする。

(五)、前項のうち建物明渡を命じる部分は仮りに執行することができる。

2、予備的請求

被告三和石油有限会社は、原告高橋豊作に対し金四一八万五、五八四円、原告高橋謙一に対し金二、三五三万三、五一三円をそれぞれ支払え。

二、被告三和石油有限会社

(一)、原告らの請求はいずれも棄却する。

(二)、訴訟費用は原告らの負担とする。

三、被告華僑国際企業株式会社

(一)、原告らの請求はいずれも棄却する。

(二)、訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、原告らの請求原因

一、主位的請求原因

1、別紙物件目録一記載の土地(以下、本件土地という)は原告高橋謙一が所有し、同目録二記載の建物(以下、本件建物という)は原告高橋豊作が所有していたところ、被告三和石油有限会社(以下、被告三和石油という)、同華僑国際企業株式会社(以下、被告華僑国際という)は本件土地、建物について、それぞれ請求の趣旨掲記の各所有権移転登記手続を為し、かつ被告華僑国際は本件建物を占有している。

2、被告らは各原告の右所有権を否認する。

3、よつて、原告謙一は本件土地につき、原告豊作は本件建物につき、各自その所有権の確認および各所有権に基づき被告らの右各登記の抹消ならびに原告豊作は被告華僑国際に対し本件建物の明渡をそれぞれ請求する。

二、予備的請求原因

1、仮りに被告三和石油が原告らから本件土地建物を有効に取得したものとすれば、それは次に述べる原因に基づくものである。

原告両名は昭和四〇年一〇月一三日被告三和石油から二、八四〇万円を、弁済期日昭和四一年一月一二日利息、遅延損害金いずれも一箇月一四〇万円の約束で借り受け、右債務を担保する為原告謙一は本件土地の、原告豊作は本件建物の各所有権を被告三和石油へそれぞれ移転した。

2、原告らは右借受金につき、契約締結日に四二〇万円を昭和四一年一月一二日までの利息として天引され、また昭和四一年二月二三日頃一四〇万円、同年同月二八日頃一〇〇万円、同年三月四日から同月二二日までの間に計六〇万円を、それぞれ遅延損害金として弁済した。

3、右約定利息および損害金はいずれも利息制限法に違反するものであるから、同法の制限に従つて適法な利息、損害金を計算し、超過分を元本に充当すると元金残債務は二、四八三万二、六七一円である。

4、被告三和石油は昭和四一年五月二日本件土地、建物を被告華僑国際へ代金四、〇〇〇万円で売却し、主位的請求原因1のとおり所有権移転登記を了えた。

5、従つて被告三和石油は、少くとも右売却代金と前記3、の元本残債務との差額である一、五一六万七、三二九円を清算義務の履行として原告らに支払うべき義務がある。

6、また、本件土地建物の時価合計額は五、二五五万一、七六八円であるにも拘わらず、被告三和石油はこれを四、〇〇〇万円で処分したものであるから、原告らはその差額一、二五五万一、七六八円に相当する損害を蒙つた。

7、ところで、本件土地、建物の価格比率は建物〇、一五一、土地〇、八四九の割合であるから、これによつて、右5、6の金額を按分し合計すると、本件土地所有者であつた原告謙一の取得額は二、三五三万三、五一三円、本件建物の所有者であつた原告豊作の取得額は四一八万五、五八四円となる。

8、よつて主位的請求が認められないことを条件として、予備的に被告三和石油に対し、原告らは各自右7の金額の支払を請求する。なお、右利息、損害金の充当計算の結果に差異がある場合は、申立総額の範囲で清算金の支払を求める。

第三、被告らの認否および抗弁

一、主位的請求原因の認否

1、被告三和石油

主位的請求原因1の事実は認める。

2、被告華僑国際

主位的請求原因1の事実は認める。

二、予備的請求原因に対する被告三和石油の認否

予備的請求原因1のうち、本件土地建物の所有関係は、被告三和石油への移転をも含めて認めるが、その余の事実は否認する。主位的請求における後記抗弁のとおり、本件土地建物は代金二、四一〇万円で買受けたものである。

同2のうち、利息天引の点は否認、その余の事実のうち三回合計三〇〇万円を受領した点は認めるが、金員授受の趣旨は否認する。右金員は買戻期限の猶予を承認した対価にすぎない。

同3は否認する。

同4の事実は認める。

同5ないし7は否認する。

三、主位的請求に対する被告らの抗弁

1、被告三和石油は昭和四〇年一〇月一三日原告両名との間で、口頭で、本件土地、建物を代金二、四一〇万円で買受ける旨の売買契約を締結した。したがつて被告三和石油は同日本件土地、建物の所有権を取得した。

2、被告華僑国際は昭和四一年五月二日被告三和石油から本件土地建物を代金四、〇〇〇万円で買受けた。

第四、原告らの認否および仮定再抗弁

一、抗弁に対する認否

抗弁1の事実は否認、同2の事実は認める。

被告らの抗弁1の売買契約は、被告三和石油の代理人蒔田弁護士と原告両名の代理人という安田(その後、犀川と改姓)弁護士との間で締結されたものであるが、原告らは安田弁護士にかかる代理権を与えたことはない。仮りに原告豊作は代理権を与えたとしても、原告謙一は本件土地に関して、何らの権限も与えていない。

二、再抗弁

仮りに抗弁1の売買契約が成立したとしても、同契約は以下に述べるとおり、双方代理、弁護士法違反、要素の錯誤、暴利行為の各事由によつて無効である。

1、被告三和石油の代理人である蒔田弁護士は、原告両名をして白紙委任状にそれぞれ記名、捺印させ、同委任状を用いて同弁護士の法律事務所にいた安田弁護士を原告両名の代理人に選任し、安田弁護士が原告両名の代理人として抗弁1の売買契約を締結したものである。

しかし、右選任行為および蒔田弁護士と安田弁護士とは同一法律事務所に属し、ことに安田弁護士は蒔田弁護士の言うがままに機械的に右契約を締結したものであることに鑑みれば、右契約は実質的にみて蒔田弁護士による双方代理行為と言うべきである。

2、右の事実が双方代理に該当しないとしても、蒔田弁護士の選任行為は弁護士法二五条一項に該当する無効なものである。

3、本件土地、建物は時価八、〇〇〇万円の価値を有するところ、被告三和石油の代表者松永清澄および訴外田中勇が原告らに対し、一ケ月後には責任をもつて信用金庫から特別に安い金利で有利な特殊金融を得させてやるから、これが実現するまでの一時つなぎとして被告三和石油から二、四一〇万円を借り受けるものであること、および右一時借用金の担保として本件土地建物を被告三和石油に提供する必要があることを説明したので、原告らはあくまで担保の趣旨で本件土地建物の売買契約を締結したものである。しかし、右の低利融資は虚偽であり、原告らは借入ができなかつたから、原告らの本件意思表示は、その重要な部分に錯誤があり、右売買契約は無効である。

4、仮りに純然たる売買契約であつたとすれば、被告三和石油は原告両名の無思慮窮迫に乗じ、時価八、〇〇〇万円相当の本件土地、建物を僅か二、四一〇万円で買い受けたことになる。

このような行為は暴利をむさぼることを目的としたもので、公序良俗に反し無効である。

第五、被告らの認否

再抗弁事実はいずれも否認する。

本件土地建物の売買契約は抗弁1のとおり先ず口頭で成立したものである。ついで、その内容を私製証書に作成したが、この時も安田弁護士は関与していない。右契約書の作成後に、これを即決和解とする合意が原告らとの間に成立したので、蒔田弁護士は、被告三和石油の委任を受けた後、原告らに対し、原告ら本人が即決和解期日に出頭しないときは安田弁護士に右和解事件の代理を委任する意思があるか否かを尋ねたところ、原告らが委任したいと申し出たので、和解条項案を添附した委任状に署名、捺印を得たものである。しかも原告豊作は右即決和解期日に出頭し、和解成立にも関与している。

第六、証拠関係<省略>

理由

一、原被告ら間に本件土地建物の各所有権の帰属について紛争があることは顕著であり、主位的請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

そこで被告三和石油の所有権取得原因について判断する。

二、成立に争いない甲第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証、第一七、一八号証、第二〇号証、原告高橋豊作尋問の結果により真正に成立したことが認められる甲第九号証の一五、被告三和石油代表者松永清澄、原告両名の各氏名下の印影が各当事者の印顆によつて顕出された事実(争いがない)および原告高橋豊作尋問の結果の一部と被告三和石油有限会社代表者松永清澄尋問の結果により全部真正に成立したものと認められる乙第一、二号証ならびに上掲各尋問の結果および鑑定人木村宇佐治の鑑定結果を総合すれば、

1  原告豊作は債務の返済や営業(食料品、乾物販売)資金を必要としていたところ、訴外田中勇こと横畠某から、同訴外人が蚕糸事業団から融資を受けるように取り計うのでそれまでのつなぎとして、融資を受けたらどうかとすすめられ、その紹介で昭和四〇年一〇月初め頃木下次郎こと具次竜に対し、本件土地建物を担保に三、〇〇〇万円の融資を受けたいと申し入れた。当時、三和企業と称する事業を経営していた具は被告三和石油の代表者松永清澄に右申込の処理を指示し、被告三和石油は昭和四〇年一〇月一三日本人兼原告謙一の代理人の資格において原告豊作との間で要旨、

(一)  原告らは本件土地建物を被告三和石油に対し金二、四一〇万円で売り渡し、右代金の引渡しと同時に本件土地建物の所有権移転登記をする。登記費用は原告らの負担とする。

(二)  原告らは昭和四一年一月一二日迄に金二、八四〇万円を現実に提供して、一括して本件土地建物を買戻すことが出来、それまでの間原告らは本件土地建物を無償で使用することができる。

(三)  原告らは買戻期限前に損害金として一四〇万円を現実に提供して右期限の一ケ月の猶予を受けることができる。ただし猶予は六回を限度とする。

(四)  買戻期限を徒過したとき、原告らが振出した約束手形、小切手が不渡となつたとき、原告らが第三者から強制執行を受け、または破産の申立を受けたときは、原告らは右買戻権を失い、被告三和石油に対して本件土地建物を明渡さなければならない。この場合原告謙一は訴外斉藤いと子から収受すべき地代(本件土地のうち同訴外人に賃貸している一六坪一合に関する賃料)を昭和四〇年一〇月一三日に遡つて被告三和石油に支払う。

(五)  右明渡義務の遅滞による損害金は一ケ月一四〇万円とする。

(六)  本契約条項により裁判上の和解をする。和解費用は原告らの負担とする。

との内容の契約が締結され、乙第一号証の和解契約書と題する書面が作成された。

2  右契約書の作成に関与した弁護士蒔田太郎は、(五)に定める裁判上の和解の期日に原告ら本人が出頭するか、それとも代理人を選任するかを原告豊作に尋ねたところ、代理人を選任したいとの返事であつたので、訴訟委任状用紙に委任事項として、「別紙和解契約書の条項により渋谷簡易裁判所に於而裁判上の和解をする件」と記入し、原告豊作がこれに自己および原告謙一の氏名を記載し、各原告の印章を押捺して、弁護士安田千代子に対する即決和解の委任をした。

そこで被告三和石油代理人蒔田弁護士は渋谷簡易裁判所に即決和解を申し立て、昭和四〇年一〇月二〇日原告ら代理人安田弁護士との間に右1の契約と同一内容の裁判上の和解をした。当時、安田弁護士は蒔田弁護士の法律事務所に籍を置いていたが、右即決和解の期日には原告豊作も出頭し、同手続に関与している。

3  原告豊作は被告三和石油に対し、昭和四〇年一〇月一三日振出、金額二、八四〇万円、満期日昭和四一年一月一二日、支払場所三和銀行亀戸支店の記載のある約束手形一通を右和解契約に際して交付した。

4  原告豊作、その妻加津は住居および営業の根拠である本件土地建物を失わないようにと買戻期限の猶予を得るため前記1(三)の「損害金」を再三にわたり約束手形、小切手で被告三和石油へ支払おうとしたが、予備的請求原因2の三回合計三〇〇万円を除けば不渡となり買戻もできず、けつきよく前記2の和解調書に基づく強制執行を受け、原告らは本件土地建物を明渡し、原告豊作は日傭人夫となつてしまつた。

5  昭和四〇年一〇月一三日当時、正常取引価格で本件土地は四、四六一万六、〇〇〇円(更地価格)、本件建物は七九三万五、七六八円(復成現価のみ)の価値を有していた(合計五、二五五万一、七六八円)。

との事実を認めることができる。

原告高橋豊作の供述のうち右認定に反する部分は採用しない。他に右認定を動かす証拠はない。

原告豊作が原告謙一を代理して右二1の和解契約(以下本件契約という)を締結したことは前示認定のとおりであるが前顕甲第一号証、第二〇号証、乙第一、二号証、原告ら各本人尋問の結果によれば、もともと本件土地は原告豊作が資金を調達し、息子の原告謙一名義で買い受けたもので、以後、原告豊作は本件土地を自由に担保物として使用し、各種金融機関のため抵当権を設定し、営業資金を調達してきたが、これについて原告謙一はさして気にするでもなく、原告豊作のこのような管理処分行為に対して異議を述べることもなかつた事実、本件契約の締結に当つても、原告豊作は原告謙一のいわゆる実印、印鑑証明書を所持し、行使していた事実を認めることができ、これら事実を合わせ考えれば、原告謙一は本件土地取得の経緯および親子関係から、父である原告豊作が本件土地を担保に供して、営業資金を調達することにつき包括的に代理権を与えていたものと認めるのが相当である。原告ら各本人の供述のうち、これに反する部分は措信できない。他に右認定を動かす証拠はない。

三、原告らは、弁護士蒔田太郎に事実上の双方代理ないし弁護士法二五条一号違反の所為があつたから、本件契約は無効であると争うけれども、前示認定のとおり、安田弁護士が原告らの代理人として関与したのは本件契約締結の後になされた即決和解手続についてであり、その主張は対象を取り違えた理由のないものであることは明白である。のみならず前示1・2に認定の事実に照らせば、安田弁護士は形式的に原告ら代理人として裁判所に出頭し、既定の和解契約書どおりの内容の即決和解手続をなしただけで、本件契約の内容を定めるについてはなんら関与していないことは明らかであるから、再抗弁1・2の主張はいずれも理由がない。

また、前記二1のとおり、原告豊作は蚕糸事業団から低利の融資が受けられるまでのつなぎとして被告三和石油から融資を受けたものであるが、同事業団から融資を受けられなかつたとしても、それは本件契約締結の動機の錯誤にすぎず、かつ、この点の錯誤は契約の要素に関するものではない。原告らの再抗弁3の主張も理由がない。

四、被告らは、本件契約は買戻(再売買予約)の特約を附してはいるが債権との関連のない単なる売買契約であると主張し被告三和石油代表者松永清澄は、金銭の貸付を断わり売買としたものであると供述する。

しかし、前記二で認定した諸事実、ことに本件契約締結に至つた原告側の動機、いわゆる代金額と正常取引価格(客観的価値)との著しい不均衡、被告三和石油へ所有権が移転するにもかかわらず第三者に賃貸中の土地部分の賃料は、原告らにおいて買戻した場合はそのまま原告謙一において収受できる約定の存在(二1(四)の反対解釈)ならびに本件契約締結に際して原告豊作から被告三和石油に対して金額二、八四〇万円の約束手形が差し入れられている事実に徴すれば、本件契約は売買の形式を装つてはいるが、いわゆる売渡担保にとどまるものではなく、再売買代金の名の下に、元本債権二、八四〇万円、弁済期日昭和四一年一月一二日、期間中の利息四三〇万円(再売買代金額と売買代金額との差額)、ただし天引、遅延損害金一ケ月一四〇万円とする金銭消費貸借を隠匿したところの譲渡担保契約と認めるべきものである。けだし、右約束手形を振出すに至つた原因関係は本件契約から生ずる債務以外にあり得ないからである。この点について、前掲松永清澄は、右約束手形を受取つたのは、原告豊作が必ず本件土地建物を期日に買戻すと言つて自発的に差し出したので預つただけで、他意はないもののように供述するけれども二、八四〇万円もの約束手形を債務もないのに振り出すなどとはたやすく信じられないことであり、原告高橋豊作尋問の結果に照らしても、右供述はとうてい信用できない。

そして、譲渡担保においても清算不要の特約があり、かつその特約が利息制限法や民法九〇条に照らしてもなお有効であると認められる特段の事情がないかぎり、常に清算を要すべきものと解するのが担保権設定の趣旨にも合致し、合理的な解釈ということができる。本件契約においても、債権者である被告三和石油は譲渡担保契約の趣旨に従い清算義務を負うものと解すべきである。このことは、当事者間に争いがない予備的請求原因2の原告らの前後三回にわたる損害金の支払が、いずれも、本件契約に定める買戻権喪失事由発生後であり、契約の文言そのままならば、被告三和石油は期限に遅れたかかる提供を受領すべきいわれはないにもかかわらず、これを受領している事実に照らせば一層明白である。このように被告三和石油に清算義務が生じるものである以上、原告らの暴利行為の主張は当らない。

五、右のとおり、本件契約は清算型譲渡担保契約と解すべきものであるが、それにしても、原告らは本件土地建物を受戻していないのであるから、その所有権が原告らに帰属していることを理由とする主位的請求はすべて理由がない。

そこで、右譲渡担保契約に基づく清算金等の予備的請求について判断する。

1  予備的請求原因2のうち、損害金の支払(三回合計三〇〇万円)の点は当事者間に争いがなく、天引利息額は前記二および四のとおり四三〇万円となるはずであるが、原告らは四二〇万円を天引による弁済として主張し、(つまり一ケ月一四〇万円の割合であり、遅延損害金と同率という)原告高橋豊作もその旨供述するので、以下四二〇万円として考える。そして予備的請求原因4のとおり被告三和石油は昭和四一年五月二日被告華僑国際に本件土地建物を代金四、〇〇〇万円で一括して売却した事実も当事者間に争いがない。

2  所有権移転の形式をとる担保契約における清算の基準時点は、担保権実行方法がいわゆる処分清算(換価清算)であるか帰属清算(評価清算)であるかによつて分れるけれども、特段の定めがない場合は、第一次的にはいずれの方法によるかの選択を債権者に委ねたものと解するのが妥当である。しかも本件契約の場合、前記四および右1のとおり債権者において数次にわたり買戻期限徒過後に遅延損害金を受領している事実からみれば、いわゆる帰属清算を約したものでないことは明らかである。(もつとも、だからといつて債権者自身が担保物件を買取るいわゆる帰属清算の方法をとつたとしても客観的な適正価格で清算すべきものである以上、その効力を否定する理由もないことは、あたかも介入権行使の場合と異ならない。)したがつて、本件契約に基づく清算は被告三和石油が担保物件を被告華僑国際に代金四、〇〇〇万円で換価処分した昭和四一年五月二日を基準時点とすべきものであり、右1の天引利息四二〇万円および遅延損害金の弁済額を利息制限法の規定に従つて計算し、超過額を元本に充当するときは、別紙計算書の1ないし5項のとおり昭和四一年五月二日当時の残元本債権および遅延損害金債権の合計額は二、四三〇万〇、一四五円八一銭となる。(厘以下切捨。なお、最後の遅延損害金六〇万円は昭和四一年三月四日から同月二二日までの間に弁済されたものであるところ、その日時は右期間中のいずれであるか明らかでないから、主張責任の帰するところに従つて、原告らに不利益な右期間の末日に弁済があつたものとして計算する。)そうすると、換価代金から換価処分に要した経費を控除した額と右被担保債権残額との差額は被告三和石油から原告らに返還すべきものであるが、右処分経費についてはなんら主張立証がないので、清算剰余金は一、五六九万九、八五四円一九銭となること計算上明らかである。

六、次に低廉処分による損害について判断する。

1  譲渡担保などの所有権移転型担保契約において、担保権者として、債権者が設定者から担保物の所有権の移転を受けても、それはあくまで担保のためという一種の信託的譲渡にほかならないから、いわゆる善管注意義務があるのは勿論、その延長として担保権を実行し担保物を換価処分するに当つても債権者(担保権者)は、かかる受託の趣旨に反した不当な処分をしないように注意すべき契約上の義務を負つているものと解すべきである。したがつて、債権者の担保物の換価処分が不当に低廉であるときは、その責に帰すべからざる特段の事由がある場合を除き、右契約上の義務に違反したものとして、設定者に生じた損害を賠償すべき責任を負うものと言わなければならない。

2  ところで、昭和四〇年一〇月一三日当時の本件土地建物の正常取引価格は五、二五五万一、七六八円相当と認められることは前示のとおりであるが、正常取引価格といつても不動産は取引所の相場のある商品ではなく、秀れて個性的な財貨であるため、この価格で常に換価できるとは限らず、まして不動産を事実上限られた期間内に換価処分する場合は、むしろこれを下廻る代金額でなければ成約を期待できないことは経験上明らかな事実である。したがつて、被告三和石油が被告華僑国際に売却した価格が右の正常取引価格を下廻つたからといつてそれだけで直ちに被告三和石油に債務不履行責任を問うことはできない。

しかし、鑑定人木村宇佐治の鑑定結果によれば、本件土地建物を一括して競売したとしても、その競落価格(不動産鑑定理論上いわゆる特殊価格の一種)は、前示正常取引価格から二割を減じた四、二〇四万一、四一四円四〇銭を下るものではないことが認められる。右鑑定人は、前示正常取引価格を基準とした場合の競売価格としての減価率は通常一ないし二割の幅であるが、本件の場合はむしろ一割を減じた四、七二九万六、五九一円二〇銭をもつて相当とするとの結論を出しているが、その理由とするところは債務者側の事情を考慮してというのみであるから、にわかに右鑑定の結果をそのまま採用することはできない。他に右認定に反する証拠はない。右認定によれば、担保物の処分であるという点を考慮に入れても、被告三和石油の換価処分はやはり低廉処分に該当するものと言わなければならない。けだし、右競落想定価格と現実の処分価格との差額は、処分価格の五パーセント強にすぎないものではあるが、すでに担保物の処分という特殊性を考慮してもなお生じた差額であり、もはや意味のない金額ということはできないものだからである。

3  そして、被告三和石油が本件土地建物を換価処分するに当つて不動産鑑定士その他これに準ずべき権威ある第三者の鑑定評価に依拠するなど相当の注意義務を尽した事情は認めるべくもないから、右被告は本件土地建物の不当な低廉処分によつて少くとも原告らに生じたことの明らかな前示差額二〇四万一、四一四円四〇銭に相当する損害を賠償すべき責任を免れることはできない。

七、以上五、六の清算剰余金および損害金の合計一、七七四万一、二六八円五九銭について、原告謙一、同豊作は各自の所有であつた物件の価格に応じた金額で請求権を取得したものであるが、昭和四〇年一〇月一三日当時の本件土地および本件建物の価格は前記二5のとおりであるから、他に格別の証拠がない本件では昭和四一年五月二日の時点においても両者の価格比は同一と推定し、これによつて右金額を原告ら間で按分すると、別紙計算書6項のとおり原告謙一は一、五〇六万二、三三七円〇三銭、同豊作は二六七万八、九三一円五六銭となること計算上明らかである。

原告らは前示正常取引価格と現実の処分価格との差額全部について損害賠償を請求するけれども、これを採り得ないことは前記六において説示したとおりである。原告らの予備的請求は右のとおり別紙計算書6項(二)、(三)の金額の限度で理由があり、その余は失当である。

八、よつて、原告らの被告両名に対する主位的請求は全部棄却し、被告三和石油に対する予備的請求は右の限度で認容し、その余を棄却することとし、民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項本文、一九六条(職権)を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山本和敏)

(別紙) 計算書

1.昭和41年1月13日における元本債権額

24,100,000円×15/100×(19+30+31+12)/365 = 911,178円08銭(厘以下切捨)

28,400,000円-(4,200,000円-911,178円08銭)= 25,111,178円08銭

2.昭和41年2月24日における元本債権額

25,111,178円08銭×30/100×(19+23)/365 = 866,851円62銭(厘以下切捨)

25,111,178円08銭-(1,400,000円-866,851円62銭)= 24,578,029円70銭

3.昭和41年3月1日における元本債権額

24,578,029円70銭×30/100×5/365 = 101,005円60銭

24,578,029円70銭-(1,000,000円-101,005円60銭)= 23,679,035円30銭

4.昭和41年3月24日における元本債権額

23,679,035円30銭×30/100×23/365 = 447,631円07銭(厘以下切捨)

23,679,035円30銭-(600,000円-447,631円07銭)= 23,526,666円37銭

5.昭和41年5月2日当時の元本および遅延損害金債権額

(一) 元本債権額 23,526,666円37銭

(二) 遅延損害金債権額 23,526,666円37銭×30/100×(8+30+2)/365 = 773,479円44銭(厘以下切捨)

合計 24,300,145円81銭

6. 清算剰余金および低廉処分による損害額の按分

(一)本件土地の本件土地建物一括価格に対する比率

44,616,000/44,616,000+7,935,768 = 0.848899……≒0.849

(二) 本件土地所有者(原告謙一)に帰属すべき金額

(40,000,000円-24,300,145円81銭+2,041,414円40銭)×0.849 = 17,741,268円59銭×0.849 = 15,062,337円03銭(厘以下切捨)

(三) 本件建物所有者(原告豊作)に帰属すべき金額

17,741,268円59銭-15,062,337円03銭 = 2,678,931円56銭

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