大判例

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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)7554号 判決 1970年5月30日

原告 杉本重雄

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 高野長英

同 石井一郎

被告 鈴木陸雄

右訴訟代理人弁護士 萩野勝三

同 清水正明

同 早川雅夫

同 田部井俊也

主文

被告は原告らに対し金四〇万円を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その一を原告ら、その余を被告のそれぞれの負担とする。

この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の申立

一  原告ら

被告は原告両名に対し、金二一〇万八、〇〇〇円および内金一六〇万円に対しては昭和四一年九月三日から、内金五〇万八、〇〇〇円に対しては昭和四二年九月四日から、各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

(原告らの請求原因)

一  原告らと被告との法律関係

(一)1 原告杉本重雄(以下「重雄」という)は、昭和二三年一一月頃訴外亡鈴木理から同人所有の別紙第一目録(1)、(2)記載の各土地(以下「本件土地」という)を、次の約定で賃借した。

賃料 一ヶ月金一、八〇〇円 六ヶ月分後払い

目的 倉庫、店舗、住宅の所有および燃料置場として使用するため

期間 定めなし

2 右鈴木理は、右契約に際し原告杉本秀雄(以下「秀雄」という)が本件土地を使用し、本件土地上に同人名義の建物を建築所有することを予め承諾した。かりに右事実が認められないとしても原告秀雄は別紙第一目録(2)記載の土地のうち、別紙図面中青斜線表示の部分三九三・一二平方メートル(一一八・九二坪)(以下これを「乙区」といい、乙区を除いた赤線部分を「甲区」という)を普通建物所有の目的で実兄である原告重雄から転借し、鈴木理は、昭和二五年一一月はじめ頃右転貸借につき承諾したものである。

3 被告は右鈴木理の子であり、昭和二六年一一月二二日鈴木理の死亡によりその相続人として同人の権利義務を承継した。

(二) ところが被告は、(イ)原告重雄が、建物所有の目的で本件土地を賃借したものでもないにも拘らず昭和二六年九月頃原告秀雄をして乙区土地上に別紙第二目録(二)、(1)記載の建物(別紙図面(6)表示の建物)を建築せしめたこと、また昭和三四年九月頃原告重雄自ら同第二目録(一)、(1)記載の建物(別紙図面(1)、(2)表示の建物)を建築したこと、(ロ)原告重雄が被告に無断で原告秀雄に対し乙区土地を転貸したこと、を理由として原告重雄に対し昭和三四年一〇月一日到達の書面で本件土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

二  被告の訴提起等

(一) 被告は、昭和三四年一〇月五日原告重雄を債務者として右賃貸借契約の解除に基づく本件土地明渡請求権を保全するためと称して別紙第二目録(一)、(1)、(3)の各建物につきいわゆる占有移転禁止の仮処分を、原告秀雄を債務者として同目録(二)、(1)、(2)の各建物につきいわゆる占有移転禁止の仮処分および同目録(二)、(1)の建物につきいわゆる処分禁止の仮処分を、それぞれ東京地方裁判所に対し申請し(同庁昭和三四年(ヨ)第五、七五七号)、同月一四日その旨の決定を得て、同月一七日原告両名に対してそれぞれその執行をなした。そこで原告らは昭和四〇年三月一〇日右仮処分決定につき同裁判所に対し異議申立をなし(同庁昭和四〇年(モ)第四、〇〇三号)、前記一、(二)の各解除事由につき争った結果、同年一一月一日右仮処分決定をいずれも取消し、被告の仮処分申請を却下する旨の判決を得た。

(二) 右仮処分申請に次いで被告は、前記仮処分の本案訴訟として昭和三五年一二月二八日東京地方裁判所に対し原告重雄を相手方として別紙第二目録(一)、(1)ないし(4)の各建物を収去して甲区土地の明渡しを、原告秀雄を相手方として別紙第二目録(二)、(1)、(2)の各建物を収去して乙区土地の明渡しを求める訴(同庁昭和三五年(ワ)第一〇、七三一号)を提起した。右訴訟では前記一、(二)の(イ)、(ロ)の各解除事由の存否が争点となり、原告らは右(イ)の点につき主張どおりの建物建築の事実を認めたが、右賃貸借は建物所有の目的であったとして争い、右(ロ)の点につき原告秀雄への乙区土地の転貸の事実を認め、右転貸につき鈴木理の承諾があったとして争った。しかし、同裁判所は昭和三六年八月一〇日被告(本案訴訟の原告)の主張事実を全面的に認めて請求認容の判決をした。そこで原告ら(本案訴訟の被告ら)が控訴(東京高等裁判所昭和三六年(ネ)第一、八四五号)して立証をつくしたところ、同裁判所は解除事由(イ)については、本件土地の賃貸借の目的が当初から営業用倉庫建築所有の目的であったこと、同(ロ)について本件土地中乙区土地の原告秀雄への転貸につき鈴木理の承諾があったことをそれぞれ認定し、結局いずれの解除事由も理由がないとして昭和四〇年一月二五日右一審判決を取消し、被告(本案訴訟の原告)の請求を棄却する旨の判決をした。これに対して被告(本案訴訟の原告)が上告(最高裁判所昭和四〇年(オ)第五〇二号)したが、右上告は昭和四一年六月九日棄却され、同日右二審判決が確定した。

三  被告の責任

被告の前記二に記載した仮処分の申請および訴提起の行為は、次に述べるとおり被告の故意または過失によってなされた違法な行為であり、被告は原告らが右行為によって蒙った後記四の損害を賠償すべき義務がある。

(一) 被告は、昭和三四年四月頃原告らに対して本件土地の売却の交渉をはじめ、強引に高額で売りつけようとしたが、それが失敗したため何とかして原告らから本件土地を取り上げようと図り、何ら解除原因がないのにも拘らず虚構の事実を作りあげ、前記一、(二)のとおり使用目的違反および無断転貸借を理由として敢えて前記二、(一)、(二)の訴訟等を提起したものである。

(二) かりに被告が本件土地の明渡請求権のないことを知らなかったとしても、被告にはその知らないことにつき次のような過失がある。すなわち仮処分または本案訴訟を提起するには、その前に調査を十分につくすか、事後においても相手方の主張立証の内容から当然自己の主張について検討し直す等の注意を払い、不当な訴訟を避け或は訴を取下げる等の措置をとるべき義務があるべきところ、本件の場合被告において事前調査ないし事後の注意を払えば請求権のないことが判明し得たにも拘らず、その調査注意等を怠り、請求権ありと誤信して漫然仮処分の申請および本案訴訟の提起ならびに異議に対する応訴を続けたものである。とくに仮処分の申請につき被告に過失のあったことは、本案訴訟において、前記のとおり、被告(本案訴訟の原告)敗訴の判決が確定したことに徴しても明らかである。

四  損害

(一) 弁護士費用 合計金一四〇万円

(内訳)

1  金五万円

原告らが昭和三六年一月頃被告の提起した本案訴訟(第一審)に応訴するため弁護士富川寅次郎に対し訴訟行為を依頼して支払った手数料。

2  金二〇万円

原告らが昭和三六年八月頃本案訴訟(第二審)につき弁護士高橋銀治に対し訴訟行為(執行停止の申立を含む)を委任した手数料および右執行停止の費用。

3  金六〇万円

原告らが右事件および仮処分異議事件の報酬の内金として弁護士高橋銀治に対し昭和四〇年三月から同年一二月にかけて分割して支払ったもの。

4  金五五万円

原告らが右の報酬の残金として右高橋に対し昭和四一年一月から同年三月にかけて支払ったもの。

なお原告らが弁護士高橋銀治に対して支払った右2ないし4の費用合計金一三五万円の算出根拠は、所属第二東京弁護士会の旧報酬規定(昭和二九年五月一五日改正、昭和三八年一二月三一日廃止)にしたがい、訴訟物である本件土地につき東京地方裁判所指定鑑定人川口長助が算出した借地権の鑑定価額一、五三六万五、〇〇〇円を基礎として計算した右報酬規定(三〇万円迄一割五分以上、三〇万円を超え一〇〇万円に達する迄の額に付一割二分以上、一〇〇万円を超え五〇〇万円に達する額に付一割以上、五〇〇万円を超える額に付八分以上)の最低額である金一三五万七、〇〇〇円によったものである。

(二) 鑑定費用 金八、〇〇〇円

原告らが本案訴訟(第二審)において鑑定人鳩山茂に支払った筆跡の鑑定料。

(三) 信用毀損による損害金七〇万円

原告らは、本件土地上の建物で燃料商を共同で営んでいたが、前記一、(三)の仮処分を受けたことが取引先にも知れるところとなり、そのために著しく信用を毀損された。例えば仕入先よりの仕入れは現金によらざるを得なくなり、支払手形の期限も以前より短縮され、銀行からの融資についても多額の追加担保の差入れを余儀なくされたりして有形無形の損害を蒙った。これを金銭的に評価すれば金一〇〇万円に相当するが、本訴ではその内金七〇万円を請求する。

五 請求

よって原告らは被告に対し不法行為(不当仮処分、不当訴訟)に基づく損害賠償として前記四の損害合計金二一〇万八、〇〇〇円および内金一六〇万円については右不法行為の後である昭和四一年九月三日から、内金五〇万八、〇〇〇円については昭和四二年九月四日からそれぞれその支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の答弁および主張)

一  答弁

(一) 請求原因一、(一)、1の事実のうち、賃貸借契約締結の日時および賃貸借の目的を除くその余の事実はすべて認める。契約を締結した日は昭和二五年一一月頃である。

同一、(一)、2の事実のうち、原告秀雄がその主張の頃、原告重雄から本件土地のうち乙区土地を転借したことは認める。その他の事実はすべて否認する。

同一、(一)、3の事実は認める。

(二) 請求原因一、(二)の事実中、(イ)および(ロ)を解除事由として、その主張の頃本件土地の賃貸借契約の解除の意思表示をしたことは認める。

(三) 請求原因二、(一)、(二)の事実はすべて認める。

(四) 請求原因三、(一)、(二)の事実はいずれも否認する。

(五) 請求原因四の事実のうち、本件土地の借地権の鑑定価額および所属弁護士会の報酬規定がいずれも原告らの主張するとおりであることは認める。その他の事実はいずれも知らない。

二  主張

被告は、原告らに対する本件土地明渡請求権の存在を確信していたものであるが、後記(一)ないし(四)の事情を考慮すれば被告において右請求権があるものと信ずるにつき相当の理由があるものというべきである。また本案訴訟の第一審で被告(本案訴訟の原告)が勝訴したことからみても、右請求権の存在を信ずるにつき被告に過失がなかったことは明らかである。

(一) (鈴木家における被告の地位)被告の父理は昭和二四、五年頃から、八〇才を越える高令のため、中風を煩って病床にあり、理の妻さとも七八才で耄碌も甚しく、また、両親と同居していた被告の兄理一も癌で駿河台の病院に入院していたので、当時父理の実印、権利証等を預っていた被告が、実質的には鈴木家を代表していた。

(二) (契約締結時の事情)原告重雄は、もと本件土地より約一キロメートル離れたところに住居と居間を構え、燃料販売商を営んでいたが、本件土地が西武鉄道の保谷駅に近く、右鉄道から引込線をひいて石炭等を運送、貯蔵するのに便利なことに目をつけ、昭和二五年頃被告の父理に対し燃料置場として本件土地を使用させてほしい旨申し込んできた。その頃、被告は父理および兄理一の治療費に苦慮していたところであったので、本件土地を含む約八五〇坪の農地を一括して借りてほしいと原告重雄に交渉したところ、同人から線路に面した土地だけで十分であるが、余りの部分は高橋仙次郎に耕作させるとの返事をえたので、昭和二五年一一月初旬頃理と原告重雄との間に燃料置場および農耕用として使用する目的で本件土地賃貸借契約が締結されたものである。

(三) (その後の交渉)

1 昭和二六年九月頃本件土地のうち乙区土地上に別紙第二目録(二)、1記載の建物(別紙図面(6)表示の建物)が建築されつつあったが、被告はこれを原告重雄の建物であると思っていたので同人に対し口頭で使用目的に反するから建築を中止するよう申し入れたが、同人はこれを無視して原告秀雄をして右建物の建築を完成させてしまった。また、昭和三四年九月頃原告重雄が本件土地のうち甲区土地上に別紙第二目録(一)、(1)記載の建物(別紙図面(1)、(2)表示の建物)を建築中であることを聞知したので、被告は直ちに口頭ならびに書面で原告重雄に対し右工事の中止を申し入れたが、同人はこれを無視して工事を続け、右建物を完成させた。結局その頃までに本件土地の使用目的に反して建築された原告重雄所有の建物は別紙第二目録(一)、(1)ないし(4)記載のとおりである。

2 被告は、原告重雄が、右のように、次々と不信行為を続けるので、昭和三四年九月中旬頃登記所で本件土地上の建物につき調査したところ、原告重雄のものと思っていた別紙第二目録(二)、(1)記載の建物(別紙図面(6)表示の建物)は、原告秀雄名義で保存登記(但し、当初その所在地番は練馬区南大泉町五一一番地として登記されたが昭和三四年九月九日同区同町五二一番一と更正登記がなされた)されており、同目録(二)、(2)記載の建物(別紙図面(7)表示の建物)とともに原告秀雄の所有であることがはじめて判った。

(四) そこで被告は、度重なる原告重雄の違反行為に対し法的手段をもってこれに対抗するため止むなく、原告ら主張のとおり、仮処分の申請およびその執行をなしたものである。

(被告の主張に対する原告らの答弁)

(一)  被告主張前段の事実中被告において明渡請求権があると信ずるにつき相当の理由があるとの点は争う。

(二)  主張(一)の事実は知らない。

(三)  主張(二)の事実中原告重雄が、もと本件土地より約一キロメートル離れたところに住居を構え燃料商を営んでいたこと、当初本件土地を含む約八五〇坪の農地を借り受けたことはいずれも認める。その他の事実は否認する。

(四)  主張(三)、1の事実のうち、被告主張の頃その主張する各建物を原告らがそれぞれ建築したことは認める。

同(三)、2の事実のうち、被告主張の建物が原告秀雄名義で保存登記されていること、別紙第二目録(二)、(2)の建物とともに原告重雄の所有であることはいずれも認める。その他の事実は争う。

(五)  主張(四)の事実のうち、被告が仮処分の申請およびその執行をなした事実を除くその余の事実を否認する。

第三証拠関係≪省略≫

理由

一  原告重雄が鈴木理から同人所有の本件土地を賃料一ヶ月金一、八〇〇円で期間を定めずに賃借したこと、原告秀雄が本件土地のうち乙区土地を原告重雄から転借したこと、被告が相続により右鈴木理の権利義務を承継したこと、被告が原告重雄に対し請求原因一、(二)記載の理由をあげて本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと、被告のなした仮処分の申請とその執行、本案訴訟の経緯が請求原因二、(一)および(二)に記載したとおりであり、その訴訟の争点が右解除事由の存否にあったことはいずれも当事者間に争いがない。

二  原告らは本訴において、被告が上記のように、原告らに対して仮処分を申請してその執行をなし、原告らをして止むなく仮処分異議の訴を提起させるように仕向け、かつ上記のように、被告が右仮処分の本案訴訟を提起して原告をしてやむなく応訴(第一審については応訴、第二審については原告らが控訴、上告審については応訴)させるに至ったが、右一連の被告の訴訟行為は違法ないし不当なものであるから、これによって原告らに生じた損害のうち、原告らが右応訴のため支払った弁護士に対する手数料報酬一四〇万円、第二審で採用された鑑定費用(原告らの申請)八、〇〇〇円、仮処分の結果原告らの信用が毀損されたことによる損害金七〇万円、これらの合計金二一〇万八、〇〇〇円とその遅延損害金を請求するものである。

三  思うに、仮処分は、被保全権利の存否未確定の間に、比較的簡単な疎明と保証金とによって債務者に財産の現状維持等を命ずるもので、その手続においても、通常、債務者に陳弁の機会を与えずになされる(本件においても、口頭弁論は開かれず、原告重雄のために金四万円、同秀雄のために五万円の各保証金を納付させている、甲第一一号証参照)。そして、仮処分が一旦執行されると、債権者は極めて有利優勢な地位を占めるのに反し、債務者は、終始受身の劣勢な立場にあり(たとえば、和解・示談等の交渉の場合、債務者側は、保全処分の苦痛から逃れようとするため弱腰となることが多い)、その社会経済上の活動に対しても、少なからざる不利益を与えるのが通常である。すなわち、一般に保全処分制度は、債権者の確定判決後の権利実現を実効あらしめるために、判決手続による権利の確定に先立ち、これにより債務者が蒙るかも知れない損害や不利益には、一応目をつむって、債務者の財産等の現状不変更その他の措置を命ずるものである(異議の訴や、事情変更、特別事情等による取消の訴も認められてはいるが、これらによって右の基本的性格は変るものでないことは実務家の知るところである)。

債務者のこれに基づく損害は、本案で債権者勝訴の判決が確定した場合には、制度上止むを得ないものとして、債務者は受忍すべきであろう。しかし、本案訴訟において、仮処分の被保全権利の存在しないことが一旦確定された暁には、債務者が仮処分によって受けた損害や苦痛は、本来その受忍を強制することができず、全くいわれのない損害・苦痛であったと言うべきであり、これを受けたのは、畢竟するに、債権者の仮処分申請、裁判所の仮処分命令が結果的に不当であったことに帰因するのである。それならば、不当な仮処分命令が出されないように、債権者の申請手続を厳重にし、裁判所の審理をいやが上にも慎重にし、判決手続と同様にせよと要求すれば、迅速性を尊ぶこの制度の狙いと妙味とは忽ち失われ、正当な債権者の仮処分制度に寄せる期待は断ち切られるに至るであろう。このようなことを考え合わせると、債権者主張の被保全権利が後日本案裁判所において確定判決をもって否定された場合には、その仮処分によって債務者が蒙った損害は完全に賠償されなければならないものと言うべきである。これが正義であり、公平というものである。もし、この保障がないとすれば、裁判所としても疏明や保証金等の簡易手続によって債務者に前示のような重大な結果を招来するおそれのある仮処分命令を発すべきではない。債権者が仮処分制度を濫用し、保全すべき権利も必要性もないのに、不当な利益を得、ないしは徒らに債務者を苦しめる目的のもとに仮処分を申請すれば、申請自体が不法行為であることは当然である。また、仮処分裁判所が重大な過失などにより、本来出すべからざる仮処分命令を発布すれば、国家賠償責任の問題となる。しかし、仮処分の申請自体は元来起訴の自由が認められているのとほぼ同様に、申請の自由が認められているのであるから、仮処分の申請自体が従来の観念における不法行為に当るような場合は、むしろ稀であろう。また、前示の国家賠償にしても、これにあたる場合は前同様おそらく稀であろう。してみれば、債務者が蒙った右の損害は、債権者の故意過失の有無を問わず、この制度により利益を蒙る債権者をして賠償せしめるのを至当とする。債権者に保証金を予納させる趣旨も、かかる解釈をすることによって、初めて全うすることができる。この無過失責任は、仮処分制度を維持するための要請であり、その要請は条理にかなうものと信ずる。もちろん、当裁判所としても、従来判例がこの種の損害賠償請求につき、債務者の勝訴を容易ならしめるため、種々努力を重ね、不法行為論を採りながらも、本案の確定判決によって債権者の被保全権利が否定された場合には、債権者に過失ありと推定していることも知らぬわけではない。しかし、この論法をもってしても、債権者が過失がなかったことの反証を挙げて、その賠償責任を免れうる余地がある。しかもその反証が容易に成功する場合が実務上少くないことは、右不法行為論の欠陥である。たとえば、債権者が手持ちの資料により、被保全権利ありと思料して、仮処分を申請して仮処分を執行し、その後、本案の第一審では、他の証拠も調べたが、結局、申請者と同一意見のもとに被保全権利ありと判決し、第二審においては、それらの資料のもとに第一審判決を覆えして、被保全権利なしと判決し、上告審では、第二審判決を支持して、上告を棄却し、結局、被保全権利の不存在が確定した場合(本件の場合もこれとほぼ同じである)においては、この訴訟の経過自体からして、少くとも、被保全権利の存否の認識に関しては、債権者の過失を認めることは困難であり、背理である。すなわち、過失責任主義に依拠する不法行為論をもってしては、債務者が仮処分によって受けた損害の賠償を得難い場合が少くないのである。そこで、当裁判所は、我が法制にはドイツ民事訴訟法第九四五条のような明文はないが、前示のように、債権者には損害賠償について無過失責任を課するのが正しいと考えるのである。もちろん、債務者側に責むべき重大な事情があるなど、信義則上債権者に賠償責任を課することが相当でないと認められる特段の事情がある場合には、債権者に責任を認めえないことは当然である。また、その責任を認める場合においても、いわゆる過失相殺の法理も適用すべきであるし、賠償すべき損害の範囲については、相当因果関係の法理に従うべきことは当然なのである(消滅時効については、無過失責任ではあるが、不法行為のそれを類推適用すべきであろう。)。

かかる見解に立って本件をみるに、本件仮処分の被保全権利である本件土地の明渡請求権が、前示のように、本案訴訟で否定されたのであるから、被告は、仮処分申請につきいわゆる故意過失があったかどうかに関係なく、前記特段の事情のない限り、右仮処分と相当因果関係にたつ原告らの損害を賠償すべき義務があるものというべきである。しこうして、後に(五ないし七参照)認定説示する事案の経過によれば、被告の賠償義務を阻却するに足る前記特段の事情はなんら発見することができない。

四  次に本件では、原告らは、被告の提起した前記本案訴訟もまた、不法行為にあたるから、これにより蒙った損害の賠償をも請求している。ところで、訴の提起がいかなる場合に不法行為となるかについてもかなり問題がある。しかし、この点については、当裁判所は、概ね判例通説に従い、つぎのように考える。すなわち、

本案訴訟の提起を不法行為としてこれによって生じた損害の賠償を求める請求は、単に応訴した者が右訴訟で勝訴の確定判決を得たことのみをもってしては足りず、訴提起者が請求権の不存在を知りながら他の目的意図をもって訴を提起するなど、それ自体公序良俗に反するような違法性のあるものであるかまたは訴提起者がわずかな注意を払うことによって容易に請求権がないことを知り得たのにこの注意を払うことを怠り、ために請求権ありと誤信して訴を提起する等四囲の情況からみてあまり軽卒に過ぎると非難される程度の重大な過失がある場合に限って認められると解するのが相当である。

五  そこで次に本件紛争の発生するに至った経過について検討する。

(一)  被告の仮処分の申請とその執行、本案訴訟の提起は、本件土地の売買交渉が失敗したため虚構の事実に基づき原告らから本件土地を取り上げるためになされたものであるとの主張をめぐって。≪証拠省略≫によれば、

1  被告は、教育者の家に生まれて成人し、自らも高等学校の教師をしていたが、急に幼稚園の経営を思い立ち、その建設資金を捻出するため、父理から相続した本件土地を含む土地を処分することにし、まず土地の実測をするかたわら、従兄弟の鈴木利一郎を代理人として昭和三四年三月頃本件土地の賃借人である原告重雄と売買の交渉をはじめ、価格について双方の意見を出し合ったところ、更地価格は別紙第一目録(1)記載の土地が坪約金一万円、同目録(2)記載の土地が坪約金三、〇〇〇円ということで一致をみたが、借地権の評価をめぐり双方が対立したので、第三者を入れて調整しようという話しが出たこと、

2  ところが同年六月一九日頃になって右鈴木利一郎が原告重雄を訪ね、同人に対し、「本件土地につき坪金九、〇〇〇円で買い手が出た、あなたにはこれまで借していた土地でもあるので坪金七、〇〇〇円ならあなたに売ってもよい、もし明後日までに返事がなければ、この土地を第三国人に売ってしまう、その場合は後の責任は負わない」、と申し入れたこと、

3  これに対し原告重雄は被告の条件に応じるのを拒み、そのまま放置しておいたが、その後被告に対し「自分は被告の父理から使用目的につき何ら制限を付けずに本件土地を賃借したものであり、右理の相続人たる被告が本件土地を原告重雄の承諾なしに処分することはできないはずであるから、右の点を了解した上での相談なら何時でも応じる用意がある」旨の書面を同年七月二七日付の内容証明郵便で送達したが、これに対し被告からのなんらの応答もなかったので、被告と原告重雄間の本件土地の売買交渉はこれをもって中断したこと、

などの経緯が認められる。しかしながら右認定事実のほか更に進んで、被告が本件土地の賃貸借の目的には、建物所有の目的も含まれていたこと、原告秀雄への一部転貸につき理の承諾があったことをいずれも知っていた事実、換言すれば本件土地の明渡請求権のないことを知っていた事実を認めるに足りる証拠はないから、右認定の事実によっては原告らの主張事実を推認するに足りないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(二)  被告の訴提起等の行為が被告の過失によるものであるとの主張について。

当事者に争いない前記一の事実のほか、≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告らの父泰助は、明治四一年頃から東京都練馬区南大泉町三三〇番地一で燃料販売業を営み、戦前は西武池袋線の保谷駅前の土地約五〇〇坪を借り、八棟の倉庫を建てて手広く営業していたが、第二次大戦の終り頃、一般的な品不足や統制の影響で取引も少なくなったところへ、右借地返還の要求があったのでこれに応じ、商売の規模を縮少してしまった。原告重雄は、大正一五年に高等小学校を出てから引き続いて父泰助の家にあって同人の手伝いをしていたが、終戦後は、自ら商売を以前の規模にするため適当な場所を物色していたところ、丁度被告の父理の所有する本件土地を含む約八五〇坪の土地が倉庫、事務所を建て燃料置場とするのに適当な広さであったので、昭和二三年頃父泰助を代理人として理に対し五〇〇ないし六〇〇坪の借地の交渉をした。ところで当時理は本件土地を含む地続きの約八五〇坪の土地を訴外稲垣平作に敷地として賃貸していたが、理自身すでに七九才の老令で床にあり、また同居していた長男理一もガンの症状があって静養中で、その妻のぶも病弱な身を支えながら看病にあたっているような状態で、わずかに理の妻であり被告の母であるさと(当時七六才)が家事その他を処理できるといった状況にあり、生活費、治療費の捻出に苦慮していた折とて、鈴木の方では、稲垣の了解があればまとめて八五〇坪全部の土地を借りてほしい、賃料は坪当り月三円ほしいと原告重雄に懇請した。そこで原告重雄は、父泰助所有の土地二〇〇坪を稲垣に無償で耕作させることを交換条件に同人から八五〇坪の土地を明けてもらうことに話しをつけ、同年一一月頃本件土地を含む約八五〇坪の土地を借り受けた。その際、賃料については、原告重雄は営業拡張のためには止むを得ないと考え、理の要求通り近隣の土地の相場(敷地の場合だと反当り年に三〇〇円ないし五〇〇円)の約倍額にあたる坪当り月三円の割合という条件に従った。しかし、交渉に当たった泰助と理の妻さととが懇意な間柄であって右契約に関しては、特に契約書などは作成しなかった。

2  被告は、昭和二三年一一月当時仕事の関係で本件土地のすぐ近くにある父理の家から約二キロメートル離れた武藤関に居住しており、父母の淋しさをまぎらすため次男を預けていたこともあって、時折父母の家に帰り、何ごとにつけても相談を受けており、本件土地の賃貸借についてもまた相談を受けたが、表立って契約の衝に当ったわけでもなく、賃貸借の目的についても、燃料置場という程度の漠然とした認識しかなかった。

3  原告重雄は、昭和二四年末頃まず別紙図面中(5)の位置に、次いで同(3)の位置にそれぞれ倉庫を建てたが、鈴木理の方からは何の文句も出なかった。またその間、兄重雄の仕事を手伝っていた原告秀雄は、住宅金融公庫から融資を受けられることになったので、重雄が借りている本件土地の一部(当初は乙区土地の一部)を借りて住宅を建てたいと考え昭和二五年一〇月頃鈴木理を訪ね、右転借について承諾を求めたところ、同人の妻はこれに快く応じ、謂われるままに借地上の建物が右公庫に抵当に差し入れられることを地主として承諾する旨の承諾書に押印してこれを原告秀雄に渡した。原告秀雄は昭和二六年春、別紙第二目録(二)、(1)記載の建物(別紙図面(6)表示の建物)の完成と同時に入居し、同所で燃料の小売りを担当し、原告重雄は本件土地から約一キロメートル離れた父泰助の家で従来通り燃料の卸商を営んでいた。

4  被告は、父理が死亡した翌年である昭和二七年に現在の住居地に帰って来て母さと(昭和三三年に死亡)らと同居するようになったもので、それまでの原告らとの交渉経過について直接立会ってもいないし、現住地に帰ってからも、本件土地上に建てられた倉庫の建築については、バラック建てだと考えていたため別に異を唱えず、原告秀雄が住んでいる家も、原告重雄が居住し商売している家が別にあったところから、燃料の管理のために建てたものだろうと考え、その住人が誰れであるかということすら気に掛けていなかった。そして被告自ら原告重雄と本件土地について交渉したのは、昭和三〇年頃賃料値上げの交渉をしたのがその最初であった。

5  その後の本件土地の売買の交渉経過は、前記(一)認定事実のとおりである。

6  右のように本件土地の売買の交渉が行づまり、被告と原告重雄とのやり取りが絶えて約二ヶ月たった昭和三四年九月頃、被告は、原告重雄が別紙第二目録(一)、(1)記載の建物(別紙図面(1)、(2)表示の建物)の建築を始めたことを関知したので、あらためて本件土地の建物の登記簿を調べてみたところ、昭和二六年に建てられた別紙第二目録(二)、(1)の建物は原告重雄の所有ではなく、原告秀雄所有のものであることをはじめて知った。

7  そこで被告は、同年一〇月一日到達の書面で原告重雄に対し請求原因一、(二)記載のとおりの事由をあげて本件土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、同時に原告重雄、同秀雄に対し各所有建物を収去して本件土地のうち各自占有部分を明渡すよう求めた。

8  その後、被告のなした仮処分の申請およびその執行、本案訴訟の提起およびその終結に至る経緯は、請求原因二、(一)および(二)記載の事実のとおりであるが、先の地主承諾書について、第一審裁判所はこれを何人かの偽造にかかるものであることが推認されるとして、これを採らず、結局原告秀雄への一部転貸については地主の承諾はなかったとして被告(本案訴訟の原告)の解除事由を認めたのに対し、第二審裁判所は、右地主承諾書が書かれたと主張される頃存命していた被告の兄嫁のぶの発行した稲垣宛の畑小作代領収書(乙第一一号証中の算定資料(一)参照)の筆跡と承諾書中の「杉本秀雄」の筆跡の異同を鑑定させ、異同不明との鑑定結果をふまえたうえで、右承諾書には鈴木理の妻さとが捺印してこれを原告秀雄に渡したものであると認定し、結局被告(本案訴訟の原告)主張の解除事由は認められないとして右一審判決を取消して、請求を棄却した。

以上のように認められる(≪証拠判断省略≫)。

六  さて、なるほど前記五、(二)の1の認定事実からすれば、被告は原告重雄との間の権利関係について紛争が生じた後において、本件土地の賃貸借の目的が建物所有の目的を含んでいた点について容易に真偽を確かめ得たといい得ないではない。しかし被告はこの点を誤解していたとはいえ、それがもとで原告重雄が昭和三四年九月建築を始めた際本件土地上の建物の登記簿を調査したところ、はじめて原告秀雄名義の建物があることが判ったというのであるから、この点で被告が原告重雄に対し大きな不信感を抱いたことも推測するに難くない。この場合被告が訴を提起する前に原告らに対して転貸につき理の承諾があったか否かを確かめることは容易であり、本案訴訟の第一審裁判所で提出された地主承諾書が原告らから示されれば、被告において解除事由のないこと、従って明渡請求権のないことを知ることができた筈であるといい得ないではない。しかし前記五、(一)の3認定のとおり相手方たる原告重雄は右建築を開始するより約二ヶ月前に被告に書面を送り、自己に賃借権があり、自分の承諾なしに本件土地の処分はできないはずだと主張している状態であるから、被告としては、原告側からの資料を期待できないと考えたとしても止むを得ないものといわざるを得ないし、またかりに訴提起前に右承諾書が被告に示されたとしても被告側の人として当時の事情を知る人達はすでに亡く、前記五、(二)の8認定のとおり右承諾書について第一審裁判所と第二審裁判所とでは異なった評価をしている事実を併わせ考えると、これのみによっては、被告の誤解が氷解し、紛争が一挙に解決されて訴を提起しなくてもすんだ筈であるとはとうてい認められない。以上の次第で、結局本件の本案訴訟の提起については特にこれを違法として責めるに当たらないものといわねばならない。

なお、原告らは、訴訟中に明らかにされた資料などから被告は請求権のないことが知り得たのに漫然と上告までして争ったのは、違法であると主張するけれども、事実審たる第一審と第二審の裁判所の結論の違いが、一つには前記五、(二)の8認定のとおり地主承諾書の評価の違いにあり、第一審裁判所が右承諾書につき何人かの偽造にかかるものと推認されるとしてこれを採らず、被告(本案訴訟の原告)の請求を認容したこと、第二審で右承諾書の筆跡鑑定をしたところ、理と同居していた者の筆跡との異同は不明であるとの結果が出たことなどの事情に照らせば、被告がこれらの判断ないし資料を支えとして上告審まで抗争したとしても、止むを得ないものというべく、違法というに当たらない。これを要するに、被告の本案訴訟の提起、およびその後の一連の訴訟行為は、不法行為とはいえず、これに基づく原告ら主張の損害については、被告は賠償責任はない。

七  次に原告らが蒙った損害および額について判断する。

(一)  弁護士費用

不法な仮処分の執行を受けた者が、これを取消すためやむなく仮処分異議につき弁護士に訴訟委任し、そのために支払った費用は、事件の難易等諸般の事情を斟酌して相当と認められる限度で、右不法な仮処分の執行により通常生ずべき損害というべきものである。

本件についてみると、≪証拠省略≫によれば、原告らは共に弁護士高橋銀治に対し、本案訴訟(東京高等裁判所昭和三六年(ネ)第一、八四五号、最高裁判所昭和四〇年(オ)第五〇二号)および仮処分異議事件(東京地方裁判所昭和四〇年(モ)第四、〇〇三号)につき訴訟委任をなし、いずれも勝訴判決を得たが、その間同人に対し本案訴訟の手数料として金二〇万円を本案訴訟と異議事件双方の報酬として合計金一一五万円をそれぞれ支払ったことが認められる。そこで本案訴訟の報酬も含めて支払われた右金一一五万円のうち異議事件の報酬の相当額について検討する。≪証拠省略≫によれば、1仮処分異議の申立は本案訴訟の第二審において原判決を取消し、被告(本案訴訟の原告)の請求を棄却する旨の判決が言渡されたのちになされたものであること、2昭和三六年六月当時の本件土地の鑑定価額が金一、五三六万五、〇五八円であること、3高橋弁護士所属の第二東京弁護士会会則(昭和二九年五月一五日施行)では、民事訴訟事件の謝金に、三〇万円迄に付一割五分以上、三〇万円を超え一〇〇万円に達する迄の額に付一割二分以上、一〇〇万円を超え五〇〇万円に達する額に付一割以上、五〇〇万円を超える額に付八分以上と定められ、異議事件の謝金は本案訴訟とともに受任したときは、その二分の一とする旨定められていること、がそれぞれ認められ、右認定の事実の外事件全体の経過等に照らして、考えると、右金一一五万円のうち仮処分異議事件の報酬として金四〇万円が含まれているものと認めるのが相当である。

(二)  本案訴訟(第二審)における筆跡の鑑定費用

仮処分の申請およびその執行により蒙った損害には当たらない。

(三)  信用毀損による損害

当事者間に争いない前記一の事実のほか≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。すなわち原告らは、昭和三四年一〇月一四日被告から請求原因二、(一)の事実のとおりの仮処分の執行を受けたが、そのことが仕入先その他取引関係者の間で話題となり、原告らの方で何か重大なことが起きているのではないか、差押でもされたのではないかとの噂となって拡まり、そのため一部の取引先から代金決済につき現金決済に切替えられたり、手形の満期も以前の九〇日から六〇日に短縮され、仕入れの枠も制限されてきた。右のような事態に立ちいたった原告らは、仕入資金の調達のため昭和三四年一二月一七日農協組合員を保証人として大泉農業協同組合から金一〇〇万円を日歩三銭五厘、弁済期間を昭和三五年一二月一六日と定めて借り受けたり、現金決済に充てるため三菱銀行からの借入れ限度額を金三〇〇万円から金六〇〇万円に増額するのに新たに別個の土地三筆を追加担保として差し入れざるを得なくなった。

しかしながら、右認定の事実のほか損害額算定の計数上の根拠につき原告らは何ら主張、立証をしないので、結局この点について原告らの請求は理由がない。

八(むすび)

以上のとおり原告らの本訴請求のうち、弁護士費用金四〇万円およびこれに対する不法行為の後である昭和四一年九月三日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項を、仮執行の宣言につき同法第一九八条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊東秀郎 裁判官 松本昭彦 裁判官寺井忠は転補のため署名できない。裁判長裁判官 伊東秀郎)

<以下省略>

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