東京地方裁判所 昭和41年(ワ)8693号 判決
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〔判決理由〕<証拠>によれば、つぎの事実が認められる。
原告は昭和二三年一二月二四日共和食品株式会社の商号のもとに本店を原告主張の場所に定め、原告主張の営業を目的として設立され、同三年一月六日商号を現在のとおり「株式会社アマンド洋菓子店」と変更し(商号変更の事実は当事者間に争いがない)、本店を肩書地に移転した。これよりさき、原告代表取締役滝原健之は昭和二一年頃から個人で菓子販売および喫茶の店を経営し、その当時「アマンド」の看板を掲げたが、原告設立後、原告は「アマンド」を自己の営業ないし商品を表示する名称として使用し洋菓子製造販売および喫茶店営業を始めた。原告は広告宣伝にも努めたが、事業は順調に発展し、昭和四〇年一〇月現在で東京都内に日本橋店、有楽町店、銀座六丁目店、銀座八丁目店、渋谷店、赤坂店、大井店、大森店等一六店舗を有し、年間売上高はほぼ八億円に達し、販売高、店舗数および規模からいつて都内でも屈指の洋菓子喫茶の店となつた。その間前記のとおり現商号に変更されたが、「アマンド」を含む原告の現商号は遅くとも昭和四〇年一〇月より以前から、東京都内はもちろんのこと、川崎市を含む東京都の隣接地域において一般大衆の間に周知著名のものとなつた。
二 被告は原告の商号が周知著名ではないと抗争する。そして、<証拠>によれば、アマンドは洋菓子の原材料の一つである扁桃を意味するフランス語amandeをフランス語風に読んだ語であり、洋菓子業界では英語almondを英語風に読んだアーモンドと並んで原材料を示す言葉として用いられていることが認められる。しかし、それは単に原材料を示す言葉であるというにとどまるのであつて、原告の商号が周知署名となることを妨げるものではない。また<証拠>によれば、横浜市、小田原市、北九州市、札幌市にアマンドを店名とする喫茶店ないし洋菓子店があることが認められるが、このことは原告が東京都およびその隣接都市において著名であることとなんら矛盾するものではない。また、原告の周知性がその営業の性質上場所的制約から免れないことは、被告の主張するとおりであるけれども、それが北海道、九州のような遠隔の地に及ばないというならば首肯できるとしても、川崎市のように東京都の隣接都市で通勤者の往来の激しい所にも及ばないというような結論には、とうてい賛意を表することができない。
三 被告が原告主張の経緯を経て昭和四〇年一〇月六日附で「アマンド」の商号登記を経由し、その頃から川崎市小川町二番地一一に店舗を設け「アマンド」の商号のもとに洋菓子の製造販売および喫茶店営業を始めたこと、被告が原告主張のような看板等を店頭に掲げ、原告主張のような表示のあるナプキン、シール、包装紙を使用していることは、当事者間に争いがない。
四 原告の商号のうちで特徴のある部分はアマンドであるから、この部分が原告の商号の要部であるといえよう。そうすると、被告の商号はこれと同一であるから、被告の商号は原告の商号と類似であるといつてよい。原告の商号が前述のように著名である場合、被告が原告と同じ洋菓子販売および喫茶店営業にかような類似の商号を使用するときは、その購買者ないし顧客が通常一般の大衆であること考慮をすれば、被告の商号が原告の商品と混同とされ、また、被告の営業が原告営業と混同されることは当然に起きるものと考えられる。
被告は、開店当初用いた包装紙は別として原告のように英語のALMONDの文字を併用していないと主張し、被告本人尋問の結果によるとその主張するとおりの事実が認められるけれども、購買者層、雇客層は広く一般の人々であるから、まず「アマンド」の片仮名文字の点で記憶に訴えて識別するものと考えられるので、英語の併用の有無によつて両者を混同しなくなるとはとうてい考えられない。また、被告は両者の使用するナプキン、シールの模様が異なると主張するけれども、その程度の差異があることは、混同の発生を否定する根拠とするにはほど遠いものといわなければならない。
このように混同が生ずれば、この種の商品、営業関係においては特別の事情のない限り原告の売上高に悪影響を及ぼすものと考えられるから、原告の営業上の利益が害されるおそれがあると認めるのが相当である。
五 被告は、アマンドが洋菓子の原材料の一を指称するものであり、被告の商号はその商品の普通名称を使用するものであると主張する。
アマンドが洋菓子の原材料の一であることは前認定のとおりであつて、被告が専らこれのみを販売しているとすれば、その取り扱う商品の普通名称を使用しているということもできよう。しかしながら、被告の販売する商品は洋菓子なのであつて、その原材料の一であるアマンドではないから、商品の普通名称を使用しているといえないことは明らかである。
また、被告はアマンドを使用した洋菓子がアマンドと呼ばれる旨主張するけれども、これを認めるに足りる証拠はなく、むしろ<証拠>によれば、アマンドを材料の一として使用した洋菓子は単にアマンドと呼ばれるのではなくて、アマンド・パイ、アマンド・クロアサン、アマンド・エ・ノア、アマンド・マドレーヌ等アマンドという文字と他の文字を組み合わせた言葉で呼ばれていることが認められる。のみならず、被告本人尋問の結果によれば、被告が販売している洋菓子はアマンド入り洋菓子はむしろ稀であつて大部分は普通の洋生菓子であることが認められる。そうすると、被告はその商品の普通名称を使用するものとはいえないことが明らかである。
六 被告は、さらに、原告の本件差止請求権の行使は権利の乱用であると主張しているが、証拠によると、原告は被告が「アマンド」の看板を掲げて開店して間もなくその事実を知り、直ちに被告に対しその使用中止を申し入れていることが認められる。もつとも、<証拠>によると、これより前に原告は被告が「ニューアマンド」の商号登記をしていることを知つたのにその時は何等の措置をとつていないことが認められるけれども、それは被告開店前の時期のことであるし、その時から被告開店後に前記のように原告が申入をするに至つた時までにはあまり日時も経つていないことであるから、これらの事情の下においては、原告の差止請求権の行使が権利の乱用にわたるものということはできない。
七 してみれば、原告が不正競争防止法第一条第一項第一、二号の規定に基づいて被告に対し「アマンド」の商号を洋菓子およびその販売ならびに喫茶店営業に使用することの禁止と、アマンドの商号登記の抹消登記手続とを求める請求は正当である。また、看板およびひさし型テントのアマンドの表示の抹消、アマンドの箱形文字の撤去と仮処分命令の執行により執行官保管中のナプキン、シール、包装紙の「アマンド」の表示の抹消とを求める請求は、同法第一条に基づく差止請求権を実効あらしめるために必要な手段として認容されてよいものと解する。(古関敏正 吉井参也 小酒礼)