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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)9624号 判決 1968年4月06日

理由

原告主張請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。そして同(二)の事実中、生駒俊一が原告主張の各手形をその主張のとおり偽造した事実は当事者間に争いがなく、《証拠》に依ると、原告は本件各手形についてその支払場所として記載されている株式会社千代田銀行梅田支店(甲第一号証と証人中島保の証言によると、被告は同人を代理人として同行と手形取引があつたことが認められる)および株式会社大和銀行平野町支店に当つて各振出人名下の印章とそれぞれえの届出印鑑との照合をしてその同一性を確めた上、適法に振出されたものと信じて、訴外大和興業株式会社のこれが割引依頼に応じてその主張のとおり各手形の裏書譲渡をうけ、これが割引金を右訴外会社に交付したことが認められる。

《証拠》および生駒俊一の本件各手形偽造の事実とを綜合すると、生駒俊一は、本件手形振出当時、被告の子会社ともいうべき訴外日坩商事株式会社の大阪営業所に経理主任として勤務するかたわら、被告の暗黙の了解のもとに主として被告の大阪事務所においてその所長伊藤友武の指揮監督のもとに主として被告のための金融操作事務を担当し、所長伊藤友武もしくは被告から手形振出の権限を与えられていた本社経理部長中島保の提示にしたがつて、伊藤友武保管にかかる被告の大阪事務所所長伊藤友武および被告の経理部長中島保の記名判ならびに大阪事務所所長の印章および被告の取締役経理部長の印章を使用してそれぞれの名義による手形を作成する事務を担当していたところ、これよりさき、正規の指示にしたがつて互に融通手形を振出していた訴外大和興業株式会社が、昭和三八年初頭から営業不振による資金枯渇のため、その被告から融通をうけた手形についての決済不能の危険が生じたため、これを恐れた生駒は、同社から請われるままに同社に右決済資金を得させるため本件手形を偽造して振出したものであることが認められる。

右認定事実によると、原告が当時本件各手形の受取人兼第一裏書人たる訴外大和興業株式会社に対し遡求権を有していたことを考慮しても、原告は、本件各手形についてその割引金名下に前記出捐をしたことに因り、同額の損害を蒙つたものということができるし、また右損害は、被告の被用者である生駒俊一が被告の事業の執行について原告に加えたそれであると解すべきである。

そして、被告が生駒俊一の選任監督について相当の注意をしたことまたは相当の注意をしても損害が生じたであろうということについては、被告のなんら主張立証しないところであり、これを認めることのできる証拠もない。

したがつて、被告は原告に対し民法七一五条により原告の蒙つた損害を賠償する責任があるというべきである。

そこで進んで被告の消滅時効の抗弁について按ずるのに、かりに被告主張の各事実が認められたとしても、右事実のみによつては、原告の所持する本件各手形が生駒俊一の偽造であることしたがつてこれらを取得したことによつてすくなくとも損害および加害者の一人である生駒俊一を知つたということはできても、同じく民法七一五条所定の要件にもとづく加害者すなわちその損害賠償義務者が被告であることまでも知つたとすることは相当でない。したがつて、被告の抗弁は採用できない。

よつて、原告の被告に対する損害賠償およびこれに対する原告がその請求をした日の翌日であること当裁判所に明らかな原告主張の日以降の法定の遅延損害金の支払を求める本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

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