東京地方裁判所 昭和41年(ワ)9793号 判決
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〔判決理由〕本件事故現場は東方国電大森駅方面は池上通りに接する山王三差路から西方第七環状道路方面は谷中通りに接する馬込銀座に通ずる東西に延びた全長約六〇〇米の山王改正道路の中程で、歩車道の区別があるアスファルト舗装道路であつて、車道の巾員一二・一〇米、西側の歩道巾員各四米、車道の中心に白色ペイントで明瞭に中央線が引かれており、比較的見通しのよい個所である。事故地点から東方約三五米の地点からゆるい右カーブ(東方から見れば左カーブ)とともになめらかな上り坂(東方からは下り坂)となりさらに東方約一二〇米の地点が坂の頂点となり、さらに東方へ一五〇米の地点が山王三差路である。事故当夜賢二は大田区大森一丁目の原告(賢二の父親)宅に寄つて午後九時半頃まで酒を飲み、それから大森駅東口付近のバーでさらに午後一一時過頃まで酒を飲んだ後、訴外車を運転して五反田の自宅へ帰るべく豪雨の中を池上通りを経て山王三差路を左折し、山王改正道路の車道左側を時速四〇キロ位で進行したが、前示の下り坂を下つて左カーブになつている付近に至り前方を走行しているスズライト自動車を右側から追越した際ジグザグ運転をなし、その直後ほぼ直角に右に向いて中央線をこえ車道反対側に入つたため、反対方向から大森駅方面に向い進行してきた被告車の直前を遮る格好となり、訴外車左側面と被告車正面とが衝突して本件事故となつた。他方被告中村としては、当時豪雨とはいえ比較的見通しもよかつたのでライトを下向きにし車道左側を時速四〇キロで進行し、その車道反対側前方に訴外車を認めたが、別段の危険や不安を感ずることもなかつたところ、双方の間隔が一〇米以下になつてから突然右のように訴外車が直角に右折するような態勢で被告車の進路前面に進入してくるのを認め、直ちに急制動の措置をとり、かつハンドルを左に切つたが及ばなかつた。
以上の事実関係からすると、賢二が訴外車を突然中央線をこえて車道反対側へ進入させたことが本件事故発生の原因であつたと認むべく、そのような運転をした理由は必ずしも明確ではないけれども、元々賢二としては相当の時間飲酒をした後であるから本来自動車の運転をすべきではなかつたのであり、あえて運転するのであれば、当時は豪雨中でもあつたのであるから十分慎重にしなければならず、下り坂の下り切つた付近で左カーブになつている本件事故現場付近は特に深甚の注意を払つて運転すべきであつたのに拘わらず、前示のように時速四〇キロで進行した上さらに前車を追越したため、これら悪条件が総合された結果、運転を誤つたものと推認されるのであつて賢二には運転上の過失が存したものというべきである。これに対して被告中村としては、時速四〇キロでライトを下向きにして進行したとの点、訴外車を車道反対側前方に認めたが、別段の危険不安を感じなかつた点、訴外車が至近距離にいたり突然中央線をこえてその前方進路上に進入したのを発見し、直ちに急制動の措置およびハンドル操作をとつた点等から考え、通常の自動車運転者の運転としてそれ以上の措置を期待することは困難と見るべきである。従つて結局同被告は当時被告車の運行に関し注意を怠らなかつたということができる。
また他方右認定の事故の体様および被告中村本人尋問の結果によれば、被告会社もまた被告車の運行に関し注意を怠らなかつたことおよび被告車に構造上の欠陥または機能の障害がなかつたことが認められる。(吉岡 進)