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東京地方裁判所 昭和41年(手ワ)930号 判決 1966年6月23日

原告 本間善三郎

被告 倉田屋印刷株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告は、「被告は原告に対し五〇万円およびこれに対する昭和三九年九月三〇日より完済までの年六分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、次のとおりその請求の原因を述べた。

(一)  被告は次の約束手形一通を振出し、原告はその所持人である。

金額 五〇万円

支払期日 昭和三九年九月二七日

支払地 東京都新宿区

支払場所 東京相互銀行新橋支店

振出地 東京都新宿区

振出日 昭和三八年一二月一八日

振出人 被告

受取人 訴外笹山直

(二)  原告は右手形を訴外笹山直より昭和三九年七月三〇日白地式裏書によって譲り受け、支払期日に支払場所に支払のため呈示したが支払を拒絶された。

(三)  よって被告に対し右手形金とこれに対する満期の翌日から完済まで年六分の金員の支払を求める。

二、被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁および抗弁として次のとおり述べた。

(一)  請求の原因(一)の事実中支払期日の点を除いて他の事実および(二)の事実は認める。原告主張の手形における支払期日は昭和三九年一月一七日と記載されていたものであるがこれを昭和三九年九月二七日と変造されたものである。

(二)  本件手形は、被告会社代表者倉田赤次郎個人が訴外笹山直から昭和三八年一二月一七日借り受けた二五〇万円、及び同三九年一月二六日借り受けた二〇〇万円に対する月五分の割合による、利息の支払方法として振出したものであるが、被告の同訴外人に対する、右元利金支払債務は同四〇年一月一一日までに、被告において完済した。従って右債務は全部消滅しており、右訴外人は本件手形を被告に返還すべきものである。そのうえ不当にも本件手形金を取立るべく、右訴外人は原告と通謀の上、右手形を原告に裏書譲渡したもので(そのことは本件訴状に添付の本件手形写が分離の相被告たる右訴外人の筆跡であることからも明らかである)、これは通謀虚偽表示によるものとして、または信託法違反行為として無効である。

(三)  仮りに右訴外人の原告に対する、裏書譲渡が通謀虚偽表示によるものでないとしても、本件手形の支払期日は(一)のとおり変造されたものである以上、原告は、その主張によれば支払拒絶証書作成期間経過後の被裏書人であることになるから、被告は同訴外人に対する前記支払済の抗弁事由をもって対抗することができるものである。

三、原告は被告の抗弁を否認し、本件訴状添付の本件手形写が訴外笹山直の手記にかかることを認めた。

四、証拠関保<省略>

理由

一、請求の原因事実は、原告主張の本件手形の支払期日の点を除き、当事者間に争いがない。そこで右支払期日が被告主張のように変造されたものかどうかについて判断するのに、被告本人尋問の結果によって真正に成立したと認められる乙第六号証および同本人尋問の結果によって被告の筆跡と認められる乙第七号証中の算用数2の筆跡によれば本件手形の支払期日は元来昭和三九年一月一七日と記載されていたものであるがその後何人かによってみだりに昭和三九年九月二七日と改ざんされたものとみるべきであり、この認定の妨げとなる証拠はない。

二、原告の本件手形裏書取得は原告と訴外笹山との通謀虚偽表示によるものであるとの被告主張事実および右両者間の裏書譲渡行為は訴訟を目的とした信託法違反行為であるとの被告主張事実の証明としては本件訴状に添付の本件手形写の筆跡に関する前記争いのない事実のみでは足りず、他にこれを認め得る証拠はない。よってこの点に関する被告の右各主張を容れるわけにはいかない。

三、ところで、原告が訴外笹山から本件手形の裏書譲渡を受けたのは昭和三九年七月三〇日であることは、原告においてみずから認めるところであるから訴外笹山から原告への裏書譲渡は支払拒絶証書作成期間経過後のものとなり、被告は訴外笹山に対し主張しうる抗弁をもって原告に対抗されるものである。

しかして、成立に争いのない乙第二号証によれば、本件手形が被告主張の原因債務支払のため振り出され(被告主張昭和三九年一月二六日借受けの二〇〇万円分については前利息と思われる)、その後被告から遅くとも昭和三九年六月二七日までの間に前記二口の借受金に対する約定の高利が訴外笹山に支払われ、本件手形金を含む前記各貸借金の利息が弁済ずみであることか推認され、これに反する証拠はない。

したがって、被告は訴外笹山に対する右原因債務消滅による本件手形債務消滅の抗弁をもって原告にも対抗し得るものというべきである。

四、以上によれば、原告の請求は理由がないので棄却する<以下省略>。

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