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東京地方裁判所 昭和41年(特わ)1077号 判決 1967年9月27日

本店所在地

東京都新宿区大京町二五番地九

有限会社 胡坐荘

右代表者代表取締役

甲斐フサ子

本籍

長崎市本河内町六三番地

住居

東京都新宿区大京町一三番地

会社役員

甲斐フサ子

大正一三年一二月五日生

右の者に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官関野昭治出席の上審理して次のとおり判決する。

主文

被告有限会社胡坐荘を罰金七〇〇万円に

被告人甲斐フサ子を懲役六月に

それぞれ処する。

但し被告人甲斐フサ子に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社胡坐荘は、東京都新宿区大京町二五番地九に本店を置き、旅館業を営業目的とする資本金八、八〇〇、〇〇〇円の有限会社であり、被告人甲斐フサ子は、昭和四一年三月二三日より同会社の代表取締役として、その以前は同会社の事実上の経営者としてそれぞれ同会社の業務全般を統括していたものであるところ、被告人甲斐フサ子は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上を除外して簿外預金を蓄積する等の不正な方法によつて、被告会社の所得を秘匿したうえ

第一、昭和三七年一〇月一日より同三八年九月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が三二、二四〇、三八四円で、これに対する法人税額が一二、一四三、四〇〇円であつたのに拘わらず、昭和三八年一一月三〇日、東京都新宿区三栄町二四番地所在の所轄四谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五、五〇一、七三四円で、これに対する法人税額が一、九八一、七三〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて被告会社の正規の法人税額と右申告税額との差額一〇、一六一、六七〇円を免れ

第二、昭和三八年一〇月一日より同三九年九月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が三一、三八〇、三六九円でこれに対する法人税額が一一、七五九、七三〇円であつたのに拘わらず、昭和三九年一一月三〇、日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六、八二五、六七四円でこれに対する法人税額が二、四二八、九五〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて被告会社の正規の法人税額と右申告税額との差額九、三三〇、七八〇円を免れ

第三、昭和三九年一〇月一日より同四〇年九月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が三一、一〇一、〇四四円で、これに対する法人税額が一一、三〇七、一〇〇円であつたのに拘わらず、昭和四〇年一一月三〇日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七、三九二、三六〇円でこれに対する法人税額が二、五三四、八八〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて被告会社の正規の法人税額と右申告税額との差額八、七七二、二二〇円を免れ

たものである。

(判示各事業年度における実際所得金額の算定については、別表第一ないし第三に、逋脱所得の内容については、別表第四ないし第六にそれぞれ記載のとおりである。)

(証拠の標目)

一、判示冒頭事実および事実全般について

1  被告人甲斐フサ子の当公判廷における供述

2  同被告人の検察官に対する供述調書三通

3  同被告人の上申書二通

4  宮川克己の検察官に対する供述調書

5  証人宮川克己の当公判廷における供述

6  被告会社の登記簿謄本

7  大蔵事務官作成の所轄税務署の所在確認書

8  大蔵事務官作成の法人税額計算書

二、判示第一ないし第三の各事実について(末尾のカツコ内のアラビア数字は別表の勘定科目の番号を示す。)

1  大蔵事務官梅崎俊行作成にかかる

イ、銀行預金調査書(第一234、第二23、第三23)

ロ、建物勘定調査書(第一9、第二1112、第三11)

ハ、設備勘定調査書(第一10、第二13、第三13)

ニ、国定資産の減価償却額調査書(第一910、第二111213、第三1113)

ホ、未払金勘定調査書(第一21)

ヘ、貸付金および未収利息調査書(第二46、第三46)

ト、未納事業税の調査書(第一25、第二28、第三29)

チ、損金に計上した延滞税等の調査書(第一17、第二20)

リ、青色申告書提出の取消決議書等の写について

2  大蔵事務官細谷清作成にかかる

イ、建設仮勘定調査書(第一910、第二111213、第三1113)

ロ、不動産取得調査書(前同)

3  大蔵事務官川島貢作成にかかる現金有価証券等現在高検査てん末書二通(第二4、第三4)

4  橋本秀一の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(第二46、第三46)

5  平島庄太郎の大蔵事務官に対する質問てん末書(前同)

6  依岡敬男の大蔵事務官に対する質問てん末書(前同)

7  宮川克己の大蔵事務官に対する質問てん末書八通、昭和四〇年一二月七日付(第一234、第二23、第三23)、同月二五日付(前同)、昭和四一年二月二四日付(第一22、第二22、第三23)、同年四月一一日付(第一910、第二111213、第三1113)、同月一三日付(前同)、同年五月二三日付(第一19、第二23)、同年六月二日付(第二4、第三4)、同年九月九日付(第一910、第二111213、第三1113)

8  総勘定元帳三綴(昭和四二年押第五一〇号の1ないし3)(第一910131719212225、第二23411121320222328)

9  明日香荘建築費明細表一綴(前同押号の8)(第一9101321、第二11)

10  税務関係綴(前同押号の9)(第一17、第二2028、第三29)

11  決算関係書類綴一綴(前同押号の10)(第一9101317192225、第二1213192328、第三111329)

12  手帳二冊(前同押号の12)(第一23、第二427、第三4)

13  総勘定元帳一綴(前同押号の15)(第三234511132329)

14  昭和三八年九月期の法人税確定申告書一綴(前同押号の19)(第一の申告事実)

15  昭和三九年九月期の法人税確定申告書一綴(前同押号の20)(第二の申告事実)

16  昭和四〇年九月期の法人税確定申告書一綴(前同押号の21)(第三の申告事実)

(争点に対する判断)

一、未払金の主張について

弁護人は、「被告会社の被告人フサ子に対する未払金として六、七九八、一四五円を修正貸借対照表に追加計上すべきである。すなわち、被告会社は、昭和三二年一二月二六日設立当時資本金五、〇〇〇、〇〇〇円であり、旅館の営業用に供した建物は被告人フサ子名義で建築許可申請され、同人が右建物取得に一〇、六〇〇、〇〇〇円、什器備品の取得に二、〇〇〇、〇〇〇円合計一二、六〇〇、〇〇〇円の個人資産を投入した。そして右建物は、被告会社名義に保存登記され、法人税確定申告書には設立当時被告会社が右建物を五、八〇一、八五五円で取得した旨申告されたのである。しかし、被告会社の設立は、現物出資によるものでなく、またフサ子に当時右建物等を贈与する意思はなかつたのであるから、被告会社か右建物、什器備品の譲渡を受けた上、法人税確定申告にあたつて価格を圧縮して申告したものとみるべきである。したがつて、フサ子が投入した前記個人資金合計一二、六〇〇、〇〇〇円と右建物の申告額五、八〇一、八五五円との差額六、七九八、一四五円は被告会社のフサ子に対する譲渡未払金として処理すべきである。」旨主張する。

よつて前掲各証拠(とくに一1、2、4、6、二12、14、15、16)ならびに有限会社胡坐荘定款に基づき検討する。被告人フサ子は、昭和二八年ころより都下新橋に新富旅館を経営していたが、昭和三二年一二月二六日本店所在地に被告有限会社胡坐荘を公表資本金五、〇〇〇、〇〇〇円で設立したが、営業用の旅館の敷地はフサ子個人が買い求め、被告会社において、営業用建物、什器備品を取得し、建物は昭和三三年一月一三日被告会社名義に保存登記された。ところで、被告会社の設立にあたりフサ子が右建物の建築費に約一〇、六〇〇、〇〇〇円、什器備品に約二、〇〇〇、〇〇〇円の個人資金を投じたことをうかがうことができるし、右建物、什器備品を同女が会社法上の手続を経て現物出資の対象としたものでないことは明らかである。しかし前述のようにフサ子は設立当時より被告会社の実質上の経営者として業務全般を統括していたところ、設立にあたつて右建物を五、八〇一、八五五円、什器備品を合計五三九、八三〇円、設備(室内電話)を八三、六〇〇円でそれぞれ取得した旨の法人税の確定申告をし、これらの資産は、同額を基礎として判示各事業年度までに順次償却されて来ているが、この間、右建物、什器備品類につき譲渡未払金あるいはその取得のための借入金等の経理をしたような事実はなく、また当時フサ子と被告会社間に右建物、什器備品類の譲渡契約のあつたことを認めるに足りる資料もない。さらに法人設立時における被告会社の資産、負債、資本関係の財産状態は不明であり、フサ子が投入したとする前記の合計約一二、六〇〇、〇〇〇円の内容も具体的ではなく、設立当時の被告会社の公表資本金五、〇〇〇、〇〇〇円についても、その出資社員は甲斐サヨ外七名となつているが、実際はフサ子および同女の内縁の夫宮川克己との出資にかかるものであることは、被告人フサ子が自認しているところである。以上の状況の外被告会社は設立時よりフサ子の個人経営的色彩の濃厚な法人であり、フサ子自身、被告会社の営業活動を通じ個人資産の蓄積、事業の拡大をはかつて来た等の事情をあわせ考えると、右建物、什器備品類につき、弁護人の所論の譲渡未払金そのものがあいまいであつて、判示各事業年度に追加計上すべきものとは、とうでい認められないというべきである。よつて弁護人の右主張は採用しない。

二、未払利息の主張について

弁護人は、「被告会社は設立当時被告人フサ子に対して、(イ)前項主張の建物等譲渡未払代金六、七九八、一四五円、(ロ)負債七、一〇六、七七八円(別紙第二<27>の仮受金の内容と同旨)の合計一三、九〇四、九二三円の負債があつた。租税法上の所得も原則として実体法上の権利関係を前提として計算されなければならないから、以上の合計額につき昭和三三年一月以降年六分の商事法定利率による金員(一年間八三四、二九四円)を被告会社の被告人フサ子に対する未払利息として勘定科目に計上し、かつ本件各事業年度において貸借関係を整理すべきである。」旨主張する。

まず(イ)の被告会社の未払代金勘定が認められないことは前述したとおりであるから、右代金債務の存在を前提とする弁護人の右主張部分は失当である。

次に(ロ)の仮受金七、一〇六、七七八円の内容については、別紙第五<27>(1)(2)記載のとおりである。右の関係証拠によれば、以上の金員には、利息の約定があつたわけでないこと、被告会社は、被告人フサ子の個人経営的色彩の濃厚な法人であること、その他法人設立に至る経緯、設立後の経理状況等の諸事情をあわせ考えるならば、むしろ前記仮受金につき、フサ子は利息をとる意思を有しなかつたとみるのが相当である。したがつてこの点に関する弁護人の主張は採用しない。

三、別紙第二<6>、第三<6>の未収利息について

検察官は、「右未収利息は、法人の被告人フサ子に対する貸付金として認定したものに対し、法人税法個別通達(昭和三四年直法―一―一五〇)二九の八および三六に従つた通常取得すべき利率である年一割を乗じて計上したものである。」と主張し、弁護人は、「個別通達は一般人の知り得ないものであり、かかる個別通達に基づく年一割なる認定利率は、貸付行為当時に個人に明らかであつたとはいい得ないから、税務行政上の是否認行為として課税の対象とされることは格別犯則所得に加算すべきではない。」旨主張する。

よつて検討するに、本件未収利息ならびに元本である貸付金の内容は、別表第五<4><6><27>、第六<4><6>に記載したとおりである。そして、フサ子が被告会社より無償貸付けを受けた右金員をもつて、フサ子個人が平島、平岡らに所携のとおり高利をもつて貸付け、担保とした宝石をもつて代物弁済を受け、あるいは依岡から宝石を購入する資金に充てたが、右の代物弁済や買受けた宝石はいずれもフサ子個人の使用に供されたのであり、被告会社のフサ子に対する右貸付が実質的に被告会社の業務遂行のために行われたものとは認め難い。

ところでこのような金銭の無償貸付は、税務会計上被告会社が、被告人フサ子に対し、通常取得すべき利率により計算した利息の額相当の給与を支給したと同様経済的利益を与えたものと観念すべきである。すなわち、このような利益は、昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法九条八項の委任により、昭和四〇年政令九七号による改正前の法人税法施行規則一〇条の四、一〇条の三第三項にいう「債務の免除等による経済的な利益」に該当するというべきであつて、当該利益の評価額を役員に対する給与として支給したものと認める取扱いをすることは、法令においてすでに定められた事項に外ならない。そして前記個別通達二九の八、三六は、このような法人の役員に対する金銭の無償貸付をしたばあいにおいて、法人が通常取得すべき利率をおおむね年一割とする旨規定しているのであつて、右個別通達も法令にその根拠を有するものである。そして本件における被告会社の業態、貸付の目的、使途その他経済取引界における通念等に照らし、被告会社の前記貸付けにおける通常取得すべき利率を年一割と認定することは相当というべきであり、逋脱の概括的犯意の認められる本件において、これをことさらに犯則所得より除外すべきであるとする論拠も見出し得ない。したがつて弁護人の主張は採用しない。

(法令の適用)

被告会社ならびに被告人甲斐フサ子の判示第一および第二の各所為は、昭和四〇年法律第三四号附則一九条によりその改正前の法人税法四八条一項(被告会社につきさらに同法五一条一項)に判示第三の所為は、昭和四〇年法律第三四号法人税法一五九条一項(被告会社につきさらに同法一六四条一項)に各該当するところ、右は刑法四五条前段の併合罪であるので、被告会社については、同法四八条二項により各罰金額を合算した金額の、被告人については所定刑中懲役刑を選択したうえ、同法四七条、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の各範囲内において、被告会社を罰金七〇〇万円、被告人を懲役六月に処し、被告人に対し、刑法二五条一項を適用して、本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 小島建彦)

別表第一 修正貸借対照表

昭和38年9月30日

No.

<省略>

別表第二 修正貸借対照表

昭和39年9月30日

No.

<省略>

別表第三 修正貸借対照表

昭和40年9月30日

No.

<省略>

別表第四 逋脱所得の内容(38年9月期)

<省略>

別表第五 逋脱所得の内容(39年9月期)

<省略>

別表第六 逋脱所得の内容(40年9月期)

<省略>

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