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東京地方裁判所 昭和41年(行ウ)93号 判決 1974年3月18日

東京都台東区鳥越二丁目二番一〇号

原告

株式会社三橋

右代表者代表取締役

三橋英昌

右訴訟代理人弁護士

吉岡秀四郎

緒方勝蔵

東京都台東区蔵前二丁目八番一二号

被告

浅草税務署長

山林保三

右指定代理人

前蔵正七

山崎司

内海一男

増原繁樹

主文

一  原告の昭和二八年一〇月一日から同二九年九月三〇日までの事業年度の法人税について、被告が同三四年一一月二八日付でした更正のうち、所得金額六四万一三二八円、法人税額二六万九三四〇円をこえる部分を取り消す。

二  原告の昭和二九年一〇月一日から同三〇年九月三〇日までの事業年度の法人税について、被告が同三四年一一月二八日付でした更正のうち、所得金額九七万〇四五九円、法人税額三八万八一六〇円をこえる部分を取り消す。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

主文と同旨の判決

二、被告

「原告の各請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決

第二、原告の請求原因

一、本件各処分の経緯等

1. 原告は、青色申告書提出の承認をうけた玩具の製造、販売を業とする法人である。

2. 原告は、昭和二八年一〇月一日から同二九年九月三〇日までの事業年度(以下「昭和二八年度」という。)の法人税について、同二九年一一月三〇日、所得金額六四万一三二八円、法人税額二六万九三四〇円とする確定申告をしたところ、被告は、同三四年一一月二八日付で、所得金額を一七六万二六〇二円、法人税額を八一万二三一〇円とする更正(以下「本件(一)更正」という。)をした。

3. 原告は、昭和二九年一〇月一日から同三〇年九月三〇日までの事業年度(以下「昭和二九年度」という。)の法人税について、同三〇年一一月二九日、所得金額九七万〇四五九円、法人税額三八万八一六〇円とする確定申告をしたところ、被告は、同三四年一一月二八日、所得金額を二七四万八〇五七円、法人税額を一二二万五六七〇円とする更正(以下「本件(二)更正」という。)をした。なお、東京国税局長は、原告の審査請求に基づき、同四一年五月一〇日付で、所得金額を二〇〇万四二〇〇円、法人税額を八八万八二五〇円とする旨の本件(二)更正の一部取消しの決定をした。

二、本件各更正の違法事由

しかしながら、本件各更正は、次の理由により違法である。

1. 更正の理由附記の不備

本件各更正は、旧法人税法(昭和二二年法律第二八号。以下おなじ)三二条被告(昭和三七年法律第六七号による改正前のもの。以下おなじ)の規定に反して、更正通知書に更正の理由を附記しない違法がある。

すなわち、およそ法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宣を与える趣旨に出たものであるから、処分の具体的根拠を明らかにすることを必要とすると解すべきである。ところが、本件各更正の通知書には、加算ないし減算すべき項目の計算の結論のみを示し、それらがいかなる具体的根拠に基づくものであるかについては全く記載していないから、右通知書の理由附記は不備であって、違法というべきである。

2. 更正期間の徒過

旧法人税法三一条の二第一項(昭和三二年法律第二八号による改正前のもの。以下おなじ)によると、更正は、確定申告書の提出期限から三年を経過した日以後においてはすることができないものと定められているところ、原告の法人税の確定申告書の提出期限は、昭和二八年度分については同二九年一一月三〇日、同二九年度分については同三〇年一一月三〇日であるにもかかわらず、被告は、前記のとおり、右各提出期限から三年を経過した日以後に本件各更正をしたものである。

3. 所得金額の過大な認定

原告の本件各事業年度の所得金額は、いずれも原告の確定申告にかかる金額のとおりであって、本件各更正は、所得金額を過大に認定したものであるから、そのうち、原告の確定申告額をこえる部分(ただし、本件(二)更正のうち、前記審査決定によって取り消された部分を除く。)は違法である。

三、結論

よって、原告は、本件各更正(ただし、本件(二)更正については、前記審査決定によって維持された部分に限る。)のうち、各確定申告にかかる所得金額及び法人税額をこえる部分の取消しを求める。

第三、請求原因に対する被告の認否及び主張

一、請求原因に対する認否

請求原因一の事実および同二の2の事実は認めるが、その余の事実は争う。

二、被告の主張

1. 更正の理由附記の適法性

(一)  本件各更正における理由附記

旧法人税法三二条後段の立法趣旨は、要するに、青色申告書提出の承認をうけた者(以下「青色申告者」という。)に対しては、その帳薄書類の記載を無視して更正・決定を行ってはならないことを手続的に保障したことにあるから、更正の理由附記の程度については、更正の種々の形態に応じてその必要の程度を区別して考えるべきである。すなわち、青色申告者の記帳を否定して更正を行う場合には、その帳薄書類の記載を否定した具体的根拠を明らかにする必要があるか、その他の場合(例えば、税額計算の誤り、所得計算に関する規定の解釈の誤りがある場合など)には、帳薄書類の記載を否定して更正を行う場合におけるような詳しい理由附記は必要でないと解すべきであり、また、更正は、当該申告事実について個別的に当該申告者に対して行われるものであるから、その理由は、被処分者たる申告者との関係で相対的に判然としていれば足りるものというべきである。

ところで、本件各更正は、各更正通知書の下部欄外に「更正理由は、貸借対照表の当期利益金額を基として記載してあります。」と記載しているのであって、正規の薄記の原則に従って各取引行為を記帳経理し決算を誘導しうる能力のある原告に対して、原告が提出した確定決算を前提として更正の理由を附記しているものであり、そこに附記されている次のような各項目別の理由と相まって、帳薄書類の記載を否定すべき個所を特定し、かつ、その否定の根拠を明らかにしているから、法の要請する理由附記の程度を充たしているものというべきである。

(1) 本件(一)更正の各項目別附記理由

(ア) 「(加算)普通預金(収益)計上洩九九万七五九九円」

右の記載は、原告には、原告が決算書に表示しない吉田愛子(原告代表者の妻の旧姓名)及び平川辰夫(元従業員名)の各名義の普通預金口座があり、右預金の当事業年度中の増加額合計九九万七五九九円は当事業年度中の原告の資産の増加(収益)であるから、当事業年度の利益金額に加算するものであるとの趣旨を要約して附記したものである。しかも、否認の対照となった右各預金口座が存在し、かつ、その増加額が前記のとおりであることは、関係当事者の間で熟知されていたものである。

(イ) 「(減算)事業税認定損 一万三七〇〇円」

右の記載は、税務計算上前事業年度の所得につき更正をした結果、それにスライドして増額される事業税額一万三七〇〇円を損金と認め、当事業年度の損金に算入したものであり、これは法令の理解を前提とすれば当然の措置であって、青色申告法人である原告がその理解を欠くものとは考えられない。

(ウ) 「(加算)利子税認定損戻入 五二八〇円」

右は、被告が前事業年度の損金に算入した利子税額五二八〇円を、原告が当事業年度に申告により加算の調整をすべきであったのにかかわらず、加算をしなかったために、被告がこれを益金に算入するものであることを要約したものである。

(エ) 「(減算)受取手形計上洩認容 三万三六四〇円」

右の記載は、原告が前事業年度に益金として計上されるべきであった手形による収入金額三万三六四〇円を、本事業年度に計上した結果、前事業年度分と重複計上となったため、これが訂正されるべきであるとの趣旨を要約して附記したものである。

(オ) 「(その他)輸出所得による損金算入額 一六万五七三五円」

右は、旧租税特別措置法(昭和二一年法律第一五号。以下おなじ)七条の七第一項(昭和三〇年法律第三三号による改正前のもの。昭和二八年度分につき、以下おなじ)の規定による輸出所得の特別控除額は一六万五七三五円であって、原告の計算になる同申告額三三万一四七〇円は誤りであるから、前記の正当金額を損金に算入するものであるとの趣旨を要約して附記したものである。

なお、以上のうち、(ウ)ないし(オ)は、被告が昭和三〇年一月三一日付更正で、加算又は減算したものであるのにかかわらず、原告は、当時、右更正に対し何らの不服申立てをも行っていないものであるから、原告は、右理由附記により各理由を了知していたものである。

(2) 本件(二)更正の各項目別附記理由

(ア) 「(加算)売掛金計上洩 一八万二七一三円」

右の記載は、原告の貸借対照表の売掛金勘定には、売掛金の金額が過少に計算されているので、これが訂正されるべきであるとの趣旨を要約して附記したものである。

(イ) 「(加算)支払手形中否認 九九万四六五八円」

右は、原告の貸借対照表の負債科目である支払形勘定には、手形による支払金額が過大に計算されているので、これが訂正されるべきであるとの趣旨を要約して附記したものである。

(ウ) 「(減算)前渡金計上洩当期認容 二五万円」

右の記載は、原告の昭和二六年一〇月一日から同二七年九月三〇日までの事業年度に、原告が仕入れとして計上しているもののうち、大塚商店分一五万円、高橋製作所分一〇万円、合計二五万円は、仕入れではなく、前渡金であったため、昭和二七年一二月二一日付当該事業年度分にかかる法人税更正(これに対して原告は何らの不服申立てをも行っていない。)において、前渡金計上洩れとして益金に加算した金額を当事業年度において減算したものである。これによって、原告の決算書に表示されていない前渡金二五万円が消滅したことを要約して附記したものである。

(エ) 「(減算)普通預金計上洩認定損 七〇三四円」

右は、原告には、原告が決算書に表示しない前記の吉田、平川各名義の普通預金口座があり、右預金の当事業年度中の減少額七〇三四円は当事業年度中の原告の資産の減少であるから、これを当事業年度の利益金額から減算するものであるとの趣旨を要約して附記したものである。

(オ) 「(加算)損金計上役員賞与否認 四万八〇〇〇円」

右は、原告が預金として経理した役員賞与が税法上損金とされないものであることを了知して、原告みずから確定申告に当たり、これを「損金計上役員賞与」として決算利益に加算したものであるから、理由を附記するまでもなく原告には明らかな事項である。

(カ) 「(加算)減価償却償却超過額 一六万〇五六五円」

右の記帳は、原告が、固定資産科目中に資産として計上すべきであった一六万〇五六五円を損金処理をし、固定資産として計上していなので、これを計上すべきであるとの趣旨を要約して附記したものである。

(キ) 「(減算)事業税認定損 一一万四六七〇円」

右の記載は、金額の点を除き、前記(1)の(イ)と同趣旨を要約して附記したものである。

(ク) 「(その他)輸出所得による損金算入額 七二万一一八四円」

右の記載は、金額の点を除き、前記(1)の(オ)と同趣旨(ただし、適用法条は、昭和三二年法律第二六号による改正前の旧租税特別措置法七条の七第一項。昭和二九年度分につき、以下おなじ)を要約して附記したものである。

なお、以上のうち、(カ)ないし(ク)の各項目は、いずれも法令・会計慣行の理解を前提とすれば当然の措置であって、青色申告法人である原告がこれらについて理解を欠いていたとは考えられない。

(二)  瑕疵の治癒

仮に、本件各更正の理由附記が法の要求する程度に至らないとしても、その瑕疵は、訴願手続において治癒されたものというべきである。

すなわち、更正は、再調査決定及び審査決定とともに、租税確定に至るまでの一連の手続の一段階であって、それ自体自己完結的なものではないから、更正、再調査及び審査の各段階を通じて一体として公正手続の履践があれば足りると解すべきである。また、理由附記制度の趣旨は、被処分者に訴えの提起の要否を判断する資料を与え、かつ、これによって原処分庁の判断を慎重にさせることにあるところ、前者については、充分な理由附記のある決定が後にされれば、被処分者はそれらにより訴え提起の要否についてさらに適切な判断をすることができるのであり、また、後者については、そもそも課税庁は課税標準の適確な把握をその基本的責務としているから、安易な調査、処分をすることはないのであって、もし、調査が不充分で違法な処分をすれば訴願手続でこれを取り消されるわけであるから、理由附記の追完・補正が許容されるために、必要な調査を怠り、慎重を欠く処分をすることはない。のみならず、再調査庁や審査庁が充分な理由を附した慎重な判断を示しているのに、原処分を取り消し、再度これを行わせるのは、必要性を欠き行政経済にも反することになる。したがって、青色申告者に対する更正の附記理由に不備な点があったとしても、再調査決定ないしは審査決定において充分な理由が明示されれば、これによって更正における理由不備の形式的な瑕疵は治癒されるものというべきである。本件各更正に附記理由の不備の違法があったとしても、これに対する審査決定に詳細な理由附記があることによって、その瑕疵は治癒されたものである。

2. 更正期間の遵守

旧法人税法三一条の二第一項によると、更正は、確定申告書の提出期限から三年を経過した日以後にはすることができないが、詐偽その他不正の行為により法人税を免れた法人の当該法人税又は当該金額については右期間制限の適用がない旨定められているところ、原告は、本件各年度において、その営業たる玩具卸売業の売上げの一部をことさら帳薄に記載せず、原告の代表者の妻の旧姓吉田愛子、原告の元従業員平川辰夫の各名義の富士銀行浅草橋支店の普通預金口座を設け、これに右売上金を反覆かつ継続的に預け入れてその所得を隠ぺいし、もって、詐偽その他不正の行為により法人税を免れたものであるから、前記の期間の制限の適用はない。

しかも、法人税についての申告、更正及び再更正は、一個の納税義務の内容の具体的確定のために行われる一連の手続であるから、詐偽その他不正の行為が存した場合には、当該法人の所得金額の全体について前記の三年経過後においても更正し得るのである。

3. 原告の所得金額

(一)  昭和二八年度

(1) 決算利益 九七万二七九八円

(2) 加算したもの 一〇〇万二八七九円

(ア) 普通預金計上洩れ 九九万七五九九円

原告は、前記のとおり、売上げの一部を帳薄に記載せず、吉田愛子、平川辰夫の各名義の普通預金口座を設け、これに右収入金を預け入れてその所得を隠ぺいしていたので、同預金口座の前事業年度末残高より当年度末残高への増加額を原告の売上金によるものと認めて、加算した。

(イ) 利子税認定損戻入れ 五二八〇円

(3) 減算したもの 二一万三〇七五円

(ア) 受取手形計上洩れ認容 三万三六四〇円

(イ) 事業税認定損 一万三七〇〇円

(ウ) 輸出所得の特別控除額 一六万五七三五円

旧租税特別措置法七条の七第一項による輸出所得の特別控除は、直輸出総額一六五七万三五一四円の一パーセントに当たる一六万五七三五円であるのに、原告は、これを右直輸出総額の一〇〇分の五〇について三パーセント及び残一〇〇分の五〇について一パーセントに当たる三三万一四七〇円であると計算していたので、被告がこれを訂正したものである。

(4) 所得金額 一七六万二六〇二円

(二)  昭和二九年度

(1) 決算利益 一六五万一九一二円

(2) 加算したもの 一四四万八六三二円

(ア) 減価償却の償却超過額 一六万〇五六五円

(イ) 損金計上役員賞与否認額 四万八〇〇〇円

(ウ) 売上金の計上洩れ 一八万二七一三円

原告が、取引先の三陽商会ほか八件について、その売掛金記帳に当たって記入洩れしたもの、誤って記入したもの及び重複記入したものを加減計算した金額である。

(エ) 支払手形中否認額 九九万四六五八円

原告が昭和三〇年八月一日付で振り出した八千代製作所、平井製作所に対する各一〇万円、安藤製作所に対する八万六二五〇円、同月五日付で振り出した宮沢製作所に対する五五万八四〇八円、田原製作所に対する一五万円、合計九九万四六五八円の各支払手形については、支払先が受領した事実がないことを確認したので、被告はこれを否認したものである。

(オ) 輸出損失準備金の繰入超過額 四一三四円

(カ) 貸倒準備金の繰入超過額 五万八五六二円

(3) 減算したもの 一〇九万六二七八円

(ア) 前渡金計上洩れ当期認容 二五万円

(イ) 未払事業税認定損 一一万八〇六〇円

(ウ) 普通預金計上洩れ認容 七〇三四円

前記のとおり、吉田、平川の各名義の普通預金口座は、原告のものと認められるので、同預金口座の前事業年度末残高より当年度末残高への減少額を原告の損金と認めたものである。

(エ) 輸出所得の特別控除額 七二万一一八四円

原告が申告において輸出所得の特別控除額を誤算により七二万九四五三円としていたのを、被告が正当な計算により七二万一一八四円と訂正したものである。

(4) 所得金額 二〇〇万四二六六円

第四、被告の主張に対する原告の認否

一、被告の主張1(更正の理由附記の適法性)の(一)の事実のうち、本件各更正の更正通知書には、その下部欄外に「更正理由は、貸借対照表の当期利益金額を基として記載してあります。」との附記があること、本件(一)更正の更正通知書には、同(1)の(ア)ないし(オ)記載の、また、本件(二)更正の更正通知書には、同(2)の(ア)ないし(ク)記載の各理由附記(かぎカッコ内の部分)があることは認めるが、その余の点は、いずれも争う。

二、被告の主張2(更正期間の遵守)の事実は、すべて争う。

仮に、原告に、詐偽その他の不正行為により法人税を免れようとした行為があったとしても、申告書の提出期限から三年を経過したのちにおいては、右の税を免脱しようとした部分についてのみ更正し得るにとどまるから、その余の部分についての更正は違法というべきである。

三、被告の主張3(原告の所得金額)の事実のうち、(一)、(二)の各(1)の決算利益の点は認めるが、その余の事実はいずれも争う。

第五、証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一、請求原因一(本件各処分の経緯等)の事実は、当事者間に争いがない。

二、そこで、まず、本件各更正における理由附記の適否について検討する。

1. 青色申告書にかかる法人税の課税標準等について更正を行う場合、更正通知書に更正の理由の附記が要求されている(旧法人税法三二条)のは、青色申告者の所得の計算が法定の帳簿書類に基づいてされるべきことに対応して、更正する処分庁の判断が合理的根拠に基づいて慎重にされることを担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を納税者に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものということができるから、更正の理由の記載は、申告の基礎である帳簿書類との関連において、処分庁が申告にかかる所得の算出根拠のいかなる点にどのような誤りがあると判断し、どのような根拠に基づいて更正の結論に達したものであるかを客観的に明らかにする程度のものであることを要すると解すべきである。

2. そこで、本件についてこれをみると、本件各更正の更正通知書にそれぞれ次のような理由の附記がされていたことは、当事者間に争いがない。

(一)  本件(一)更正の附記理由

(1)  「(加算)普通預金(収益)計上洩 九九万七五九九円」

(2)  「(減算)事業税認定損 一万三七〇〇円」

(3)  「(加算)利子税認定損戻入 五二八〇円」

(4)  「(減算)受取手形計上洩認容 三万三六四〇円」

(5)  「(その他)輸出所得による損金算入額 一六万五七三五円」

(二)  本件(二)更正の附記理由

(1)  「(加算)売掛金計上洩 一八万二七一三円」

(2)  「(加算)支払手形中否認 九九万四六五八円」

(3)  「(減算)前渡金計上洩当期認容 二五万円」

(4)  「(減算)普通預金計上洩認定損 七〇三四円」

(5)  「(加算)損金計上役員賞与否認 四万八〇〇〇円」

(6)  「(加算)減価償却償却超過額 一六万〇五六五円」

(7)  「(減算)事業税認定損 一一万四六七〇円」

(8)  「(その他)輸出所得による損金算入額 七二万一一八四円」

(三)  本件各更正の更正通知書に共通の附記理由

「更正理由は、貸借対照表の当期利益金額を基として記載してあります。」

ところで、以上の加算項目における附記理由のうち、まず、(一)の(1)は、いかなる普通預金をどのような理由で原告の普通預金と認定したかの記載がなく、(二)の(1)は、売掛金の内容及びいかなる理由により原告の帳簿の記載を誤りとして売掛金計上洩れを認めたかを明らかにしておらず、また、(二)の(2)も、どの支払手形をいかなる理由で否認したかを記載していない。さらに、前示のその他の加算項目の記載についても、被告の主張1の(一)の(1)、(2)のような更正の理由を理解することはとうてい不可能であり、このような理由附記では、本件各更正の具体的根拠を知るに由ないものというほかない。

してみると、前記の旧法人税法三二条の更正に理由附記を必要とする趣旨に鑑み、本件(一)(二)更正の更正通知書には、同条に定める理由の附記がないものといわなければならない。

被告は、原告が種々の事情から本件各更正の具体的な理由を了知していた旨を主張するが、前記法条の趣旨からして、たまたま納税者が更正通知書に記載されていない更正理由を他の何らかの事情と相まって了知し、或いは推知しえたとしても、書面による客観的な理由附記による処分庁の判断の慎重、合理性を担保しようとする法の要求をみたしたことにはならないのであるから、被告の右主張は失当というべきである。

また、被告は、更正通知書の理由附記に不備があるとしても、かかる瑕疵は、訴願手続で補完されることによって治癒される旨主張するが、更正通知書に理由附記が要求される趣旨が前記説示のとおりであることに鑑みれば、このような被告の見解が採用できないことは明らかである。

三、よって、本件(一)(二)更正が理由附記の不備により違法であることは明らかであるから、その取消しを求める原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、相当として認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山克彦 裁判官 加藤和夫 裁判官 石川善則)

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