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東京地方裁判所 昭和41年(行ク)9号 決定 1966年3月12日

申立人 中央労働委員会

被申立人 合名会社宮川工具研究所

主文

被申立人は当庁昭和四一年(行ウ)第三号事件の判決確定に至るまで申立人が被申立人に対してなした中労委昭和四〇年(不再)第三五号事件命令(「被申立人は、直ちに誠意をもつて団体交渉に応じなければならない」)に従わなければならない。

(裁判官 橘喬 高山晨 田中康久)

〔参考資料〕

命令書

(大阪地労委昭和四〇年(不)第三一号 昭和四〇年七月三日命令)

申立人 総評全国一般大阪地連宮川工具労働組合

被申立人 宮川工具研究所

主文

1 使用者は、直ちに誠意をもつて団体交渉に応じなければならない。

2 申立人のその余の申立ては、これを棄却する。

理  由<省略>

命令書

(中労委昭和四〇年(不再)第三五号 昭和四〇年一二月二二日 命令)

再審査申立人 宮川工具研究所

再審査被申立人 総評全国一般大阪地連宮川工具労働組合

主文

本件再審査申立てを棄却する。

理由

第一当委員会の認定した事実

一 当事者

(一) 再審査申立人合名会社宮川工具研究所(以下「会社」という。)は、肩書地において、従業員約三〇〇名をもつて、ガス管、水道管等の配管工具の製造を業とする合名会社で、社長は宮川作次郎である。

(二) 再審査被申立人総評全国一般大阪地連宮川工具労働組合(以下「組合」という。)は、会社従業員をもつて昭和三九年一一月四日結成された労働組合であり、結成当時の組合員数は二〇七名で、本件再審査結審時の組合員数は四六名である。

二 団体交渉に対する社長の考え方と年末手当をめぐる団体交渉

(一) 昭和三九年一一月一〇日、宮川社長は、組合側と会見し、要旨下記の挨拶を行なつた。

<一> 従来会社の経営方針がよかつたので、金融関係の信用も非常によく、会社の経営も円滑にいつておりましたが、このたび総評系の組合ができたので、金融関係はますます困難になります。

<二> 今後の交渉は主として会社の任命する交渉委員でやります。団交を交渉委員でやらせることは、私や副社長が団交を拒否するものではありません。その点理解してほしい。

<三> 交渉中に感情的になり交渉を困難にしないようお互いの人格を尊重しあつて民主的に話し合つてもらいたい。

<四> 次のことは今後絶対に守つてほしい。

イ、組合に関することは就業時間中には一切認めない。それは生産に差支えるから。

ロ、交渉中はお互いに感情に走ることなくお互いの人格を尊重し、十分に話し合つてもらいたい。

もし感情に走り、口論になるような状態になれば交渉を打切ります。

ハ、今後の交渉は主として会社の任命する交渉委員でやる。最終的決定は私がする。

(二) 組合結成以来、組合は、会社に団体交渉を申入れたが、会社側は団体交渉の出席人員を交渉委員だけに限定しようとし、組合側は交渉人員制限に反対し、団体交渉中の賃金保障を要求したため、同年一一月三〇日に至りようやく第一回の団体交渉が行なわれた。その後、組合要求の年末手当をめぐり団体交渉が行なわれたが、宮川社長は、一二月一四日のトツプ交渉に一五分ほど出席したほか殆ど団体交渉に出席せず、交渉は概ね双方五人の交渉委員で行なわれた。

(三) 上記トツプ交渉の際、宮川社長が早々に退席してしまつたので、事態を収拾するため、組合は会社に対し、

<一> 職場の秩序については上長と協力し、従前のとおり行なう、

<二> 組合員が組合活動のため職場をはなれる場合、上長と話し合い職場の秩序を守りその上で行なう、

但し、就業時間中に組合員に対し、会社は不当労働行為になるようなことは注意する。

との約束をし、総評全国一般大阪地連より組合へオルグに来ていた平尾勝義も、この点を組合に対し実施するよう指導すると、約束している。

(四) 同年の年末手当は、その間、作業カードの記入をめぐつて労使間の対立があり、又、交渉委員による団体交渉において、妥結までの措置として、同年一二月一五日に一ケ月分支給することが了解されていたが、宮川社長により覆えされたので、組合は、同月一六日から全員斗争態勢に入つたが、結局同月一九日に妥結した。

三 昭和四〇年賃上げ要求をめぐる団体交渉

(一) 昭和四〇年三月三日、組合は、賃上げ分として、組合員一人当り一律五、〇〇〇円プラス是正分一、〇〇〇円、ほかに全員月給制の要求を行ない、同年三月一〇日会社に対し同日午後五時から団体交渉を開くよう文書で申入れを行なつた。

(二) これに対し、会社は、同月一三日会社側交渉委員と組合役員との間で団体交渉に応ずる旨の回答を行ない、同日、会社側交渉委員樋渡総務課長、小林労務係長(昭和三九年一一月九日入社)の二名と組合役員をもつて団体交渉が行なわれた。その後も、文書で、あるいは口頭で連日の如く団体交渉の申入れを行なう組合側と会社側の間で、後記四月二一日の団体交渉を含めて四回の団体交渉が行なわれたが、会社側の最終決定権は社長がもつているため、交渉委員は社長の意見を伝えるだけで金額を示しての回答はなく、団体交渉は進展をみなかつた。その間宮川社長は一度も団体交渉に出席していない。

また、この間、交渉中のトラブルはなかつたが、「進展性がないから」と会社側交渉委員が退席しようとして阻止されたことがあつた。

(三) 同年三月九日から同月一六日の間に、会社は、組合役員の配置転換を行なつたが、同月二四日午前九時すぎ、組合は、上記配転に抗議するため四班を編成し、その中の一班が第二工場内や倉庫の前で工場巡視中の宮川社長を取囲み上記配転について激しい抗議を行なつた。

同月二九日、社長は、高血圧症動脈硬化症糖尿病兼腰部打撲症で大阪赤十字病院に入院し、同年五月一九日に退院しているが、後記のように入院期間中、東京へ出張している事実がある。

(四) 同年四月一日、組合は、団体交渉申入書の協議事項に前期賃上げのほかに「配置転換に関する事項」を加えた。

(五) その後、組合と会社の間に、賃上げ要求と配置転換をめぐり団体交渉が行なわれたが、同年四月一七日、会社は、賃上げについては五月中旬に回答を行なうと文書で回答した。

また、同日、会社に宮川工具研究所労働組合(以下「新労」という。)が結成された。新労の組合員数は、本件初審当時一三八名である。

その後、四月二一日にも組合との間に団体交渉が行なわれたが、何らの進展もみなかつた。

四 組合役員の解雇と団体交渉拒否

(一) 昭和四〇年四月二八日、組合は、前記交渉事項につき団交申入れを行なつたが、宮川社長は、「身体の調子の見通しがつく五月一日ごろ回答します」と文書回答を行ない、同日、組合委員長辻井重一、副委員長飯田晴夫、書記長山本淳弘、書記次長植辻一、執行委員北尾圭司、同井内文行、同岩田修、同船越良明、同河江重松、同田中良秀に対し就業規則違反の理由で懲戒解雇を行なつた。

(二) 同年五月四日、組合は、従来の前記協議事項に組合執行部一〇名の懲戒解雇の件を加え団体交渉の申入れを行なつた。これに対し会社は、同日文書をもつて下記の回答を行なつた。

「<一> 団交については身体の調子が悪いので当分出席の見込はない。

<二> 賃上げについては、本年五月中旬乃至五月下旬に回答する。

<三> 配置転換の問題は大阪地方労働委員会の命令によつて処置する。

<四> 一〇名の懲戒解雇の問題については撤回の意思がない。」

(三) 同月七日、新労は、宮川社長と病院内で団体交渉を行ない夏期手当の仮払いを妥結した。

(四) その後、組合は、連日の如く団体交渉の申入れを行なつたが、会社は、同月一二日には、東京に出張中の社長との連絡がつかないことを理由に延期の回答を行ない、翌一三日、次の回答を行なつた。「本日貴組合より団体交渉の申入れがあつたが、所用のため出席出来ないので明一四日午後五時より開催願いたい。なお、私が出席不可能の場合は会社交渉員をもつて当らせる。ただし組合側交渉委員の中に解雇者を含むときは団交しない。」

その後も、組合の団交申入れに対し、「解雇者を含む団体交渉はしない。」との態度を変えず解雇された組合幹部を含めての団体交渉は現在まで開かれていない。

(五) 組合は、同年五月一四日、大阪府地方労働委員会に本件初審申立てを行なつた。これに対し、同地労委は、同年七月三日「使用者は、直ちに誠意をもつて団体交渉に応じなければならない。申立人のその余の申立ては、これを棄却する。」との命令を交付した。

(六) 同月五日、会社は、組合の団体交渉申入れに対し、文書で次の回答を行なつた。

「<一> 昭和四〇年七月三日付大阪地方労働委員会の命令は、会社はこれを拒否する。従つて今後の係争については中央労働委員会にするか、大阪地方裁判所にするか検討中である。

<二> 係争中の団体交渉については、会社は従来の方針どおり組合側交渉委員に解雇者を含まない時はいつでも行なう。

但し、就業時間外とする。」

以上の事実が認められる。

第二当委員会の判断

会社は、組合との団体交渉を拒否する理由として

<一> 従来の団体交渉においても、会社側は誠意をもつて、交渉権限を委ねている交渉委員をもつて交渉に当つており、具体的進展がなかつたのは、組合の非常識な交渉態度によるものである、

<二> また、組合の交渉態度は、正常なものとは云い難く、ただ反対するのみで会社側の説明を聞き入れようともしない、

<三> 社長に暴行を加えるような組合とは、社長の安全の保障がない限り団体交渉に応ずるわけにはいかない、

<四> 会社は、団体交渉を拒否するものでなく、正常な交渉をもてるよう望むため被解雇者を除いた組合役員との団体交渉を望むものである、

と主張し、

一方、組合は

<一> 過去の団体交渉において、暴力行為が行なわれたことはなく、会社の主張は事実無根である、

<二> 会社側交渉委員は全く権限がなく、従来の交渉に進展がみられなかつたのは、ただ、団体交渉拒否といわれないためのおざなりの団体交渉に由来するものである、

<三> 組合の団結権、団体交渉権、生活権は、上記一連の不当労働行為によつて侵害されている、

と主張する。

一 組合結成以来の団体交渉について

組合と会社との間の団体交渉の実情は、前記第一の二の(一)の宮川社長の組合に対する挨拶、同じく(二)の第一回団体交渉がもたれるまでの経緯、同(三)の年末手当をめぐるトツプ交渉の実態、および第一の三の(一)の春季賃上げ申入れ、同(二)の賃上げ交渉の実情、同(四)の賃上げ交渉期間内の組合役員の配転、同(五)の昭和四〇年四月一七日の会社回答と第一の四の(三)の同日結成された新労との交渉態度、に認められるとおり、

会社の団体交渉に対する考え方は、「今後の交渉は、主として会社の任命する交渉委員を以つて当らしめ、最終的決定は私がする。」との社長挨拶に示されたとおりであり、社長は、団体交渉に出席せず、年末手当問題および賃上げ問題についての団体交渉では会社側交渉委員と社長との連絡に空費され、ときに会社側交渉委員の意見が覆されたこともあつて、社長が出席しないことにより、無意義な交渉が重ねられたことも多かつたことが認められる。このような最終的決定は私がするとの社長の態度は、交渉権限を委ねた交渉委員をもつて交渉に当らしめているとはいい難く、団体交渉を労使間の問題解決の場と認めての誠意ある交渉態度とは見なし難い。

一方、組合は、交渉委員数の制限にも応じており、交渉態度にも別段非難さるべき事情もないのであるから、「組合は、ただ権利を主張するのみ」であつたとする会社の非難は、自らの態度を顧みず他を責めるものであるといわねばならない。

二 会社の団体交渉拒否理由について

(一) 会社は、前記第一の三の(三)認定の事実をもつて、社長に対する暴行行為とみなし、このような組合とは団体交渉するわけにはいかないと主張する。

なるほど暴力の行使は如何なる場合にも許されるものでない。会社が主張するような事実がかりにあつたとすれば、組合としても当該団体交渉を拒否されても止むをえないところである。しかしながら、団体交渉に対する会社の一貫した不誠意な態度もあり、賃上げ要求に具体的な回答を示されなかつた不満、さらに組合幹部が配転されたことに対する組合員の不満も重なつていた当時の組合及び組合員が、多忙を口実として交渉に出ようともしない社長をとらえた機会に強く抗議したことも肯けないこともなく、その際、多少激しいやりとりがあつたとしても事の成り行き上致し方ないところである。しかも暴行されたという、宮川社長は、その五日後に入院していること、その症状についての診断書からみても、又、入院中出張したり、新労と団体交渉をしていること、が認められるのであるから、前記第一の三の(三)認定の事実は、現在会社が主張するように暴力を行使したと認めうる程度のものではなかつたとみなさざるをえない。加えて執行部一〇名を懲戒解雇するまでは団体交渉を行なつており、その後においても、団体交渉の場において暴力が行使されるような惧れもなかつたのであるから、会社が、「このような組合とは団体交渉をするわけにはいかない」と主張することは、組合との団体交渉を拒否するについての正当な理由あるものとは認め難い。

(二) 会社は、最終的に団体交渉を拒否するのではなく、被解雇者を含めた団体交渉は感情的になり、正常を保ち難いので、被解雇者を含めた団体交渉は行なわないと主張する。

しかしながら、組合側交渉委員の人選については組合が自主的に決定すべき事柄であつて、特段の事情がない限り、会社は、組合の人選に干渉することは許されない。このことは、組合が、被解雇者を交渉委員とした場合にあつても同様である。

しかして、上記特段の事情について考えてみても、上記(一)認定のとおり暴力行為発生のおそれを団体交渉拒否の理由とする会社の主張は認められず、又、前記第一の二の(二)認定のとおり双方の交渉委員数も概ね五名にしぼられており、そのほかには、前記第一の四の(一)認定のとおり、組合執行部大半を解雇した後においても、その執行部との団体交渉を拒否しうる特段の事情も見出し難い。従つて、上記の如き会社の主張を認めることはできないのである。しかも、組合とは正当な理由なく団体交渉を拒否しながら、前記第一の四の(三)認定のとおり、新労とは宮川社長の入院中にも、団体交渉をしているのである。かくては、会社の主張するところはすべて組合を忌避しての団体交渉拒否であるといわざるをえない。

三 本件不当労働行為の成否

会社の、団体交渉に対する態度は前記第二の一認定のとおりであり、さらに、第二の二の(一)および(二)認定の諸事情からすれば、会社は、組合執行部の大半を解雇し、かつ、これを団体交渉の場より排除することにより組合の団体交渉機能の行使を阻害し、正当な理由もなく組合との団体交渉を拒否しているものと認めざるをえない。

従つて、本件団体交渉拒否をもつて労働組合法第七条第二号に該当するものと認定した初審判断に誤りはない。

以上のとおり本件再審査申立てには理由がない。

よつて労働組合法第二五条、同第二七条、労働委員会規則第五五条を適用して、主文のとおり命令する。

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