東京地方裁判所 昭和42年(むのイ)365号 決定 1967年6月26日
主文
本件準抗告の申立を棄却する。
理由
本件申立の趣旨は、「東京区検察庁検察官○○○○が昭和四二年六月一九日なした、押収中の指輪一個についてこれを上田明子に還付するとの処分を取り消し差出人たる申立人にこれを還付するとの裁判を求める」というにあり、その理由の要旨は「申立人は古物商であるところ、昭和四一年五月二〇日、本件指輪(プラチナ台立爪ダイヤ〇・九一カラット入りのもの)を斎藤広公こと梶原繁次郎から金二〇万円で買いうけたが、上田明子から右物件につき盗難被害届が提出された為、同年五月二六日申立人は、東京地方検察庁に任意提出し同庁はこれを押収した。梶原繁次郎に対する窃盗被疑事件は中止処分となったが、右指輪については、申立人及び上田明子両名から還付請求がなされ、同四二年四月六日申立人に還付する旨の処分が為されたところ、右還付処分に対し上田明子から準抗告の申立がなされ、東京地方裁判所刑事第二一部の二係で審理の結果同年六月八日付で申立人に還付するとの処分を取り消し上田明子に還付しなければならない旨の決定がなされ、これに基き東京区検察庁検察官○○○○は同年六月一九日付を以て右指輪を上田明子に還付するとの処分をなしたものである。しかしながら右検察官の処分は本件還付が、刑訴法一二四条にいう『被害者に還付すべき理由が明らかな』場合に当らないから、違法である。従って申立の趣旨どおりの裁判を求める次第である」というにある。
そこで審案するに、取寄にかかる東京地方裁判所昭和四二年むの(イ)第二六〇号準抗告申立事件記録並びに本件申立自体に徴するに申立人が本件申立の対象とするところは、所論区検察庁検察官が右準抗告申立事件の決定についてなした本件物件を上田明子に還付するとの執行指揮そのものであり、本件申立の実質は前記決定を論難するものであることが明らかである。従って本件申立は、一方において、処分検察官所属の検察庁に対応する裁判所に対してこれをなさなかった点において不適法であるばかりか、他方において確定裁判についての執行指揮自体の如き検察官に何ら裁量の余地なき行為は、刑訴法四三〇条一項にいう検察官の「処分」に含まれないと解すべきであるから、本件申立はこの点においても適法要件を欠くものというべきである。仍て刑訴法四三二条四二六条一項に則り主文のとおり決定する。
(判事 井口浩二)