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東京地方裁判所 昭和42年(レ)172号 判決 1968年10月11日

控訴人 羽根田孝夫

被控訴人 株式会社 三進社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人は被控訴人に対し、被控訴人が別紙目録(本訴関係)図面黒斜線部分の土地と公道との接続地線の高低を平担にして歩行および自動車通行に支障のないよう補修することを認容せよ。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

第一審の訴訟費用のうち三分の一を被控訴人の負担とし、その余の訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、別紙目録(反訴関係)記載土地と公道との接続地線において、高さ〇・九メートルになるまで土盛せよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人の請求につき請求棄却の判決を求めた。被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求め、請求を変更して「控訴人は被控訴人に対し、別紙目録(本訴関係)図面黒斜線部分の土地と公道との接続地線の高低を平坦にして、歩行および自動車通行に支障のないよう補修せよ。」との判決を求め、予備的請求として、主文第二項と同旨の判決を求めた。

二、当事者双方の主張、証拠関係は、控訴代理人において「被控訴人主張の地役権は、控訴人と訴外平野太郎との間の昭和二五年一〇月一八日付土地売買契約の際、設定されたものであるが、右地役権の内容は、控訴人が人および自動車の通行を目的とするのに対し、平野太郎は単に人の通行のみを目的としたのである。従つて右訴外人から要役地の所有権を取得した被控訴人の地役権も右訴外人の有していた以上のものではなく、また、被控訴人において自動車を有することとなつたとしても、これによつて何らの変更をも受けないものである。」旨付加し、被控訴人において、右控訴人の主張を否認し、(証拠省略)………外は、すべて、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

一、別紙目録(本訴関係)図面表示の被控訴人本社および住宅の敷地から公道に通じる私道(以下本件私道という。)が昭和二六年一月一日被控訴人代表者の父平野太郎と控訴人とで各自半分ずつの土地を提供して開設したもので、右図面横点線の上の部分が被控訴人の所有地、黒斜線部分を含む下の部分が控訴人の所有地であること、本件私道の控訴人所有土地部分について、被控訴人のため、通行地設権が設定されている旨の判決がなされたこと、同図面赤斜線部分が東京都に買収され、公道拡張工事を実施した結果、公道の路面が本件私道より約〇・九メートルほど低くなつて、自動車の通行ができなくなつたこと、被控訴人外一名が控訴人に対する私道復旧工事に対する妨害排除仮処分決定をえて、右黒斜線部分と公道との間の右段差を除去する工事をなし、右土地の土を削り取つて、平坦にしたことは、当事者間に争がない。

二、従前公道と段差なく平坦に接続して通行の便益に供されていたことは、弁論の全趣旨により認められ、その幅員が二・二五間あることは当事者間に争いないところであり、本件私道の通行地役権はかかる地形と幅員とにおいて通常期待できる通行の便益をその内容としているものというべく、かかる幅員を有する道路は人間のみならず車馬の通行も許容されていると見るほかはない。したがつて、本件土地の通行地役権は人間のみならず自動車の通行も含むと認められる。これに反する控訴人の主張はこれを認めるべき適切な証拠がなく、採用できない。

三、地役権の承役地に、その所有者の故意過失によらずして障害が発生し、これがため、地役権の円滑な行使ができなくなつた場合には、要役地所有者は自己の費用をもつて、右障害を除去し、あるいは補修をなしうるのである。この場合承役地所有者は、右障害の除去補修工事が通行地設権の円滑な行使に必要な最少限度を超えない限り、右工事を認容しなければならないのであつて、かかる不作為義務を負うものというべきである。

しかし、承役地所有者は障害が自己の責によつて発生したものでない限り修繕の義務を負うものではなく、ただ設定行為または特約により、これを負担した場合にのみその責に任ずるものである。

四、本件においては、通行地役権に対する障害が第三者たる東京都の工事によつて発生したものであるから、このために、通行地役権の円滑な行使ができなくなつた要役地所有者たる被控訴人においては、自己の費用をもつて、右障害たる公私道間の段差を削り取つて、平坦となすことができ、承役地所有者たる控訴人は、右被控訴人の補修工事を認容すべき義務があるものというべきである。しかし、控訴人がその修繕義務を負担したと認めるべき証拠はない。

また、被控訴人が右障害除去の補修工事をなしたことは相当であつて、控訴人もこれを認容しなければならないから、原状回復を求めることはできず削り取られた部分の土盛りを求めることは、ゆるされない。なお請求の趣旨の変更により、被控訴人の原審における請求は取り下げられたから当裁判所としてはこれに対する判断を示さない。

五、以上のとおりであるから、土盛を求める控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、また、被控訴人の補修請求は、失当であるから、これを棄却し、予備的請求として、被控訴人が控訴人に対し、補修工事の認容を請求している点は前記のとおり理由があるので、これを認容することとし、訴訟費用につき、民事訴訟法第九六条、第九二条、第八九条を適用し、原審の訴訟費用のうち三分の一を被控訴人の、その余を一、二審とも控訴人の各負担とすることとし、よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺一雄 菅原敏彦 池田真一)

(別紙)

物件目録(本訴関係)

東京都渋谷区原宿三丁目二八七番ノ一二

宅地 (公簿面一一坪二合四勺(三七・一五平方メートル)

現況 八坪七合六勺(二八・九五平方メートル)の内

左記図面黒斜線部分 巾 一間一分二五(一・八五五メートル)

長サ 四間半(八・一七七メートル)

五坪〇六二五の部分

(左図面中赤線部分は公道敷地に取入部分)

図<省略>

(別紙)

物件目録(反訴関係)

東京都渋谷区原宿三丁目二八七番ノ一二

宅地 一一坪二合四勺(三七・一五平方メートル)

現況 八坪七合六勺(二八・九二平方メートル)

黒斜線は公道敷として買収され公道となつた部分

見取図<省略>

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