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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)10664号 判決 1968年11月25日

東京都港区西麻布四丁目一番一号

原告 加藤剛

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 中野道

右同 関根俊太郎

右同 田中登

右同 藤原寛治

右同 長野国助

右訴訟復代理人弁護士(但し、昭和四三年(ワ)第六、七三六号事件についてのみ) 小池健治

千葉県千葉市小倉台三丁目一三番一二号

被告 石郷岡健一

<ほか三名>

右四名訴訟代理人弁護士 古野陽三郎

右同 平山信一

右同 安藤嘉範

主文

一、被告山中昇、同木村勝美および同株式会社日本ジャーナルプレス新社は、原告らに対し、朝日新聞の朝刊社会面に、二段一〇センチメートル巾で、本文は五号活字(正楷)、その他の部分は三号活字(ゴシック)として、別紙謝罪広告文案のとおりの謝罪広告を、一回掲載せよ。

二、被告山中昇、同木村勝美および同株式会社日本ジャーナルプレス新社は、各自、原告らに対し、それぞれ各金二〇〇〇、〇〇円ならびに、被告山中昇および同木村勝美においてはこれに対する昭和四二年一〇月二〇日から、被告株式会社日本ジャーナルプレス新社においてはこれに対する昭和四三年六月二二日から、いずれも支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三、原告らの被告山中昇、同木村勝美および同株式会社日本ジャーナルプレス新社に対するその余の請求ならびに被告石郷岡健一に対する請求をいずれも棄却する。

四、訴訟費用は原告らと被告山中昇、同木村勝美、および同株式会社日本ジャーナルプレス新社との間においては、原告らに生じた費用の三分の二を右各被告らの負担とし、その余を各自の負担とし、原告らと被告石郷岡健一との間においては、全部原告らの負担とする。

五、この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、申立

一、原告ら

(一)  被告らは、原告らに対し、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の各朝刊社会面に、二段一〇センチメートル巾で、本文は五号活字(正楷)、その他の部分は三号活字(ゴシック)として、別紙謝罪広告文案のとおりの謝罪広告(但し、被告主催の株式会社日本ジャーナルプレス新社の次に「週刊実話社長石郷岡健一」と挿入する。)を各一回掲載せよ。

(二)  被告らは、各自、原告らに対し、それぞれ金一、〇〇〇、〇〇〇円ならびにこれに対する被告山中昇(以下、被告山中という。)、同木村勝美(以下、被告木村という。)および同石郷岡健一(以下、被告石郷岡という。)においては昭和四二年一〇月二〇日から、被告株式会社日本ジャーナルプレス新社(以下、被告会社という。)においては昭和四三年六月二二日から、いずれも支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決および第二項につき仮執行の宣言を求める。

二、被告ら

(一)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は、原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二、主張

一、請求原因

(一)  被告会社は、書籍雑誌などの出版並びに販売を目的とする会社で、雑誌「週刊実話」を発行しているが、昭和四二年九月二〇日ごろ、雑誌「週刊実話」昭和四二年一〇月二日号の第一二頁以下において、「(話題の焦点)加藤剛の“婚前同棲説”を心配する母親」と題し、四頁にわたり、別紙本件記事記載のとおりの記事(以下、本件記事という。)を掲載した。右記事の内容は、原告らが結婚前であるにもかかわらず現に同棲生活をしており、かつ、原告加藤牧子の実母である訴外伊藤糸子がその事実の表沙汰になることを怖れているかの印象を一般読者に植え付けるようなものであるから、これにより原告らの名誉は毀損された。

(二)  被告山中は、同誌の編集兼発行人であり、右記事の掲載を決定し、かつ冒頭のタイトルを加筆し、被告木村は、同誌の記者であり、右記事の内容全部を執筆した。また本件記事のうちの別紙前書の部分は、当時被告会社のデスクであった堀健記者が執筆したものである。

(三)  被告石郷岡健一は、被告会社の代表取締役であり、同社の最高責任者として、被告会社に代って出版物の発行など同社の事業の執行につき、その被傭者を監督する地位にある。

(四)  原告らは、いずれも俳優であって、私生活上の品性、声望等に関する毀誉褒貶が直ちに公的な生活に敏感に反映せざるをえない立場にある。すなわち原告加藤剛は、昭和三六年早稲田大学を卒業し、劇団「俳優座」の正座員で、舞台のみならず、映画、テレビなどで活躍しており、数多くの作品に出演しているが、いずれも清廉、真摯な青年像を演じて来たもので、すがすがしい正義感をもった真面目な青年としてのイメージをファンから抱れている。原告加藤牧子は、昭和三五年早稲田大学を卒業し、劇団「三十人会」の幹部で主としてNHK関係の子供向放送番組の出演者として親しまれ、真面目で礼儀正しい人として知られてきているものである。また、原告らは、結婚問題などプライヴェートな事柄に関しては、一切公開を拒否してきた。

(五)  本件記事の内容は、その趣旨である原告らの結婚前同棲の点および原告加藤牧子の実母がこれの表沙汰になることを怖れているとの点においていずれも全く真実に反し、前項記載のとおりの原告らの社会的評価をいちじるしく傷つけ、かつ原告らに多大の精神的苦痛を与えた。この原告らの蒙った精神的損害に対する慰藉料は、それぞれ金一、〇〇〇、〇〇〇円宛が相当である。

よって、原告らは、被告らに対し、原告らの名誉を回復するのに適当な処分として、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の各朝刊社会面に、請求の趣旨記載のとおりの謝罪広告を各一回掲載すること、ならびに不法行為に基づく損害賠償義務の履行として、各自、原告らに対し、それぞれ金一、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の翌日である被告山中、同木村、同石郷岡においては昭和四二年一〇月二〇日から、被告会社においては昭和四三年六月二二日からいずれも支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

二、請求原因に対する答弁

(一)  第(一)項記載の事実中、本件記事の内容が、原告らが結婚前であるにもかかわらず同棲生活をしているかの印象を読者に与えるとの点および右記事により原告らの名誉が毀損されたとの点は否認し、その余の事実は認める。本件記事は、原告らの結婚を祝福するという前向きの姿勢により編集されたものであり、これを全体として読了すれば、原告らの関係およびその人柄、芸の将来性などにつき、すべて好意的に書かれており、原告らに対する評価を低下させたり名誉を毀損するような印象を与えるものではない。

(二)  第(二)項記載の事実を認める。

(三)  第(三)項記載の事実中、被告石郷岡が被告会社の代表取締役であることは認め、その余の事実は否認する。雑誌の編集方針の確認、指示、記事の取捨選択、発行は、すべて編集長の権限と責任においてするものであり、被告石郷岡はこれを監督するものではない。

(四)  第(四)項記載の事実中原告らが結婚問題等のプライヴェートな事柄に関しては一切公開を拒否してきたとの点は否認し、その余の事実は認める。

(五)  第(五)項記載の事実は否認する。

三、抗弁

(一)  原告らの関係は、すでに本件記事の掲載以前に週刊誌「女性自身」に掲載され、一般の人々に知られている事実であるから、プライバシーの侵害にならない。

(二)  原告らは、いわゆる有名人で、かつ俳優であるから、一般大衆に対し、私生活における恋愛、結婚の問題については、そのプライバシーの権利を制限されており、本件記事程度の内容は、プライバシーの侵害として法的制裁の対象とはならない。

(三)(Ⅰ) 原告らは、いわゆる有名人でかつ俳優であるから、その私生活における恋愛、結婚の問題は、公共の利害に関する事実である。

(Ⅱ) 本件記事の内容は、すべて真実である。

(Ⅲ) かりに本件記事の内容が真実に反するとしても、被告木村は、担当記者として、芸能界における取材慣行に則り、可能なかぎりの調査をして、慎重に本件記事を取材したのであるから、被告らにおいて本件記事が真実であると信ずるにつき過失がない。

(Ⅳ) 被告らは、専ら公益を図る目的をもって、本件記事を蒐集、執筆、掲載したものである。

(四)  原告の請求する謝罪広告は、朝日新聞につき金四七八、八〇〇円、毎日新聞につき金四七一、二〇〇円、読売新聞につき金四四六、五〇〇円の費用を要する。かりに被告らに謝罪広告の責があるならば、本件訴訟の提起が社会面のトップに写真入りで掲載されたのは毎日新聞だけであるから、毎日新聞一紙に謝罪広告を掲載するだけで十分である。

四、抗弁に対する答弁

(一)  第(一)項記載の事実は否認する。

(二)  第(二)、(三)項記載の事実については、原告らが有名人でかつ俳優であることは認め、その余の事実は否認する。

(三)  第(四)項記載の事実については、謝罪広告の掲載費用が被告主張のとおりであることおよび本件訴訟の提起が社会面のトップに写真入りで毎日新聞に掲載されたことは認め、その余の事実は否認する。

第三、証拠≪省略≫

理由

一  本件記事による名誉毀損の成立

原告加藤剛は、昭和三六年早稲田大学を卒業し、劇団「俳優座」の正座員で、舞台のみならず、映画テレビなどで活躍しており、数多くの作品に出演しているが、いずれも清廉・真摯な青年像を演じてきたもので、すがすがしい正義感をもった真面目な青年としてのイメージをファンから抱れていること、原告加藤牧子は、昭和三五年早稲田大学を卒業し、劇団「三十人会」の幹部で、主としてNHK関係の子供向放送番組の出演者として親しまれ、真面目で礼儀正しい人として知られてきていることは、当事者間に争いない。

また被告会社が、書籍雑誌などの出版並びに販売を目的とする会社で雑誌「週刊実話」を発行しているが昭和四二年九月二〇日ごろ、「週刊実話」昭和四三年一〇月二日号の第一二頁以下において、「<話題の焦点>加藤剛の“婚前同棲説”を心配する母親」と題し、四頁にわたり、本件記事を掲載したこと、被告山中は、同誌の編集兼発行人であり、右記事の掲載を決定し、かつ右タイトルを執筆したこと、右記事のうち別紙見出し部分は被告会社記者堀健が、別紙本文は被告会社記者の被告木村が執筆したことは当事者間に争いがない。

本件記事のうちタイトルの「加藤剛の“婚前同棲説”を心配する母親」との部分、その前文の「しかもこのところ同棲生活に入っていたというから、ファンは少なからずア然とさせられたようだ。……はぎれのいい剣さばき、すがすがしい正義感をもった彼のイメージとはおよそちがった加藤の私生活であった。」という記載、本文の「だが二人とも若い男女でもある。……母親をハラハラさせるような“事態”が起っていたとしてもなんの不思議はない。この“余期せぬ出来事”が周囲の堅いディフユスを破って、記者の耳に入ったのはまったくひょんなことからであった。」という記載、その後に続く数人の談話形式の部分および≪証拠省略≫によって認められる本件記事中に原告加藤剛の賃借したマンションの間取りを寝室・洋間と区別して掲載している部分は、原告らが結婚前であるにもかかわらず同棲生活をしているということを露骨に描写するものであることは明白である。従って通常人が本件記事を全体として通読するときは、原告らが結婚前に同棲しているという印象を与えることは否定できない。

一般に、ある者についての事実の摘示がその者に対する社会的評価としての名誉を毀損するものであるかどうかは、一般人の倫理観などを考慮のうえ決めなければならない。わが国においては、結婚は、合法的な性欲満足の形式であるのみならず、一般人は、結婚前の同棲生活を常態とみなすほどには結婚生活に入るための結婚式その他のこれを社会的に宣言する行為を軽視してはおらず、かかる行為以前に男女が同棲しているという事実を不道徳なものとみなしている。従ってこのような行為をしていることが流布されると、その者の社会的評価は、当然低下することは否めない。ことに原告らのように真面目な青年俳優としての印象をファンから抱かれている者にとっては、かかる記事がその社会的評価の低下に及ぼす影響は著しいものがあると考えられる。そうすると、本件記事の掲載は、原告らの名誉を毀損することになる。

二、違法性

(1)  記事の公知性

被告らは、本件記事掲載当時には、既に右事実が一般に知られていると主張するが、≪証拠省略≫によっても、原告両名が結婚の予定であることが被告ら主張の週刊誌に掲載されていることが認められるにとどまり、それ以上に原告らが同棲生活をしている事実が掲載されていることは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(2)  記事の真実性

被告らは、本件記事の内容が真実であると主張する。しかし、本件記事は、その事柄の性質上公益に関することではないから、真実の証明があっても違法性を阻却しないのみならず、原告らが結婚前同棲していたことを認めるに足りる証拠は全くない。かえって、証人伊藤糸子の証言および原告両名本人尋問の結果によれば、原告らの結婚前の交際は極めて純潔なものであったことが認められるのであるから、本件記事は、結婚前同棲という点において、事実無根の捏造記事であるといわなければならない。

(3)  真実と信ずるについての相当性

被告らは、本件記事を真実であると信ずるについて相当の理由があったと主張する。被告木村勝美の本人尋問の結果によっても、本件記事は被告木村が執筆したが、その記事の一部は河田記者が取材し、また一部は他から提供された資料原稿によって執筆したと述べるのみであって、これのみによっては、本件記事の取材経過において、本件記事を真実であると信ずるについて相当の理由があったということはできない。かえって同本人尋問の結果および被告山中昇の本人尋問の結果によれば、本件記事を取材するについて、被告山中および同木村のみならず、被告会社の何人も原告らに会って直接真偽の程を確めるなどして、取材したことがないことが認められるのである。このような取材の方法は、こと人の名誉に関する記事を掲載するための取材としては、甚しくずさんなものという外はない。ことに前認定のとおり、本件記事中には原告加藤剛が賃借したマンション室内の見取図が掲載されているが、同図にことさら寝室と記載してあるところをみれば、この図はいかにも原告らが同室で同棲したことを印象づけるために書かれたものと解されないわけでもない。それはともかくとしても、原告加藤剛の本人尋問の結果によれば、右の間取りは、同原告の居住していたマンションの間取りとは全く異なるものであることが認められるから、この一事によっても、本件記事は単なる推測によって執筆されたものと推認せざるを得ない。

(4)  プライバシーと法的保護

被告らは、原告らが有名な俳優であることを理由に、原告について本件記事のような事実を摘示することは、法的制裁の対象とならないと主張する。

有名人でかつ俳優であっても、結婚前同棲したといわれることは、その者の名誉を毀損することに変りはない。俳優などの芸能人が週刊誌などのマス・メディアを一つの媒介として、民衆の間に人気を形成しているという職業上の特質を考慮に入れれば、これら芸能人がマス・メディアの上で保護されるプライバシーの権利は、他の一般人に比してある程度限定的に解されるかもしれない。しかし最近の大衆週刊誌が芸能人の恋愛・結婚・離婚などの記事を好んで掲載し、さながら激しいゴシップ発掘競走を展開していることは、目をおおうばかりである。本来このようなことは私生活に属することで、みだりに公開されないという法的保障を有する。本件記事は、この法的保障を侵害するものである。芸能人であっても、商業主義的興味本位の犠牲に供されてはならないのであって、氾濫するプライバシーの侵害を甘受しなければならない理由は全くない。芸能人のプライバシーは法的保護の対象とならないという被告らの主張は、大衆週刊誌の現況を規範化しようとする見解であって、採用に値しない。

以上により、被告らの抗弁はいずれも採用せず、本件記事による名誉毀損には違法性がある。

三  被告らの責任

被告山中および被告木村が被告会社に雇用される社員で、本件記事の記載または執筆に関与したこと前認定のとおりであるから、これは被告会社の業務の執行としてなされたものと解される。そうすると、被告会社は、被用者のした不法行為につき使用者として、被告山中および同木村は、不法行為者として、それぞれ原告らに対し、右記事につき不法行為の責を負うことになる。

被告石郷岡が被告会社の代表取締役であることは、当事者間に争いがない。しかし、民法第七一五条第二項の「使用者ニ代リテ事業ヲ監督スル者」とは、使用者に代って、被用者の選任・監督事業の執行を現実に監督する者を指す。被告会社の代表取締役である事実のみによっては、直ちに、右の監督する者であると認めることはできない。被告石郷岡が本件記事の編集などにつき現実に被告山中または被告木村を監督したとか、同被告らを選任したことを認めるに足りる証拠はない。従って、本件記事の掲載については、被告石郷岡に責任を問うことはできない。原告らの同被告に対する請求は、この点において失当である。

四  損害と賠償の方法

(1)  謝罪広告

原告らがいずれも俳優であって、私生活上の品性、声望等に関する名誉毀損が直ちに公的な生活に敏感に反映せざるをえない立場にあることは、当事者間に争いない。

かかる者に対する名誉毀損がなされた場合は、金銭賠償のみをもってしては、被害者の蒙った財産的・精神的損害の十分な填補は不可能と思われるから、名誉を回復するために原状回復処分を命ずるのが相当である。名誉毀損が新聞や雑誌の記事によってなされた場合は、その原状回復処分として最も適当な措置は、当該記事が掲載された新聞または雑誌において、加害者が自発的にその記事を取り消すことである。けだし、その記事の読者の印象において、被害者の社会的評価が最も低下するのであるから、その記事が誤りであるから取り消す旨を同じ読者に告知するのが最良の名誉回復処分となるわけである。不法行為者が名誉毀損の記事を自発的に取り消さない場合に、法は謝罪広告の強制を認めている。謝罪広告においても、当該名誉毀損がなされた新聞または雑誌上に広告するのが、最も有効適切な名誉回復処分と考えられることは前記取消記事の場合と同様である。本件記事は「週刊実話」誌上に掲載された。しかし原告らは、同誌上に謝罪広告をすることを請求していない。謝罪広告請求の訴の訴訟物は、単に謝罪広告を求めるということではなく、特定の新聞または雑誌に一定の趣旨の謝罪広告を求めるということである。本件の場合「週刊実話」誌上に謝罪広告の掲載を命ずるのが適切であると思われるのに、訴訟物の制約のためにそれができない。そこで原告らの請求するように、朝日新聞・毎日新聞・読売新聞の各朝刊社会面に謝罪広告の掲載を命ずるのが適切にして必要かどうかということになる。

申立の範囲内において、謝罪広告の内容、規模または回数をどうするかについては、不法行為の態様、被害者の蒙った損害、広告の掲載により加害者の負担する費用など一切の事情を斟酌して決めるべきである。名誉回復処分も損害賠償の一方法であるから、名誉毀損によって被害者の蒙った損害に比して余りにも過大な費用を要するような名誉回復処分を命ずることは、名誉回復処分を制裁的なものに引き戻してしまうことになるからである。原告ら主張の三新聞紙に原告ら申立の謝罪広告を掲載するときは、被告ら主張の内訳費用で、その合計は金一、三九六、五〇〇円になることは当事者間に争いない。このことと本件記事の内容、その掲載が一週刊誌になされたこと、原告らの蒙った後記認定のような精神上の苦痛などを斟酌して、本件名誉回復処分としては、全国的規模を有する一般向けの日刊新聞一紙の社会面に原告ら申立のとおりの謝罪広告を一回掲載すれば十分である。原告ら主張の三紙のうちいずれを選択すべきかであるが、本件記事の読者のみならず、その記事内容を了知した者に広く謝罪広告を到達させるためには、最も発行部数の多い新聞紙に掲載する必要がある。ところで朝日新聞と他の二紙の新聞とを比較すれば、朝日新聞の方が発行部数が多いことは公知の事実であるから、本件名誉回復処分としては、朝日新聞の社会面に原告ら申立のとおりの謝罪広告を一回掲載することが適当であり、その余の方法は不必要と認める。

(2)  慰藉料

≪証拠省略≫によれば、原告らが結婚問題等私的な事柄に関しては一切公開を拒否してきたことを認めることができる。このことと前認定の諸事情を考慮すれば、本件記事の掲載によって原告らの蒙った精神的苦痛は甚大なものがあると考えられるが、他方、≪証拠省略≫によれば、原告らがその後結婚し、これを新聞記者会見の方法により公にしている事実を認めることができるのである。そこでこれら一切の事情と前記謝罪広告請求を認容したこととを勘案すれば、原告らの蒙った精神上の苦痛を慰藉するためには、各原告につきそれぞれ金二〇〇、〇〇〇円をもってするのが相当であると認める。

五  結論

よって原告らの本訴請求のうち、被告会社、被告山中および同木村に対する朝日新聞への謝罪広告の掲載を求める部分ならびに原告らに対しそれぞれ各金二〇〇、〇〇〇円およびこれに対するいずれも不法行為の後である被告山中および同木村においては昭和四〇年一〇月二〇日から、被告会社においては昭和四三年六月二二日から、いずれも支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分を正当として認容することとし、右被告らに対するその余の請求および被告石郷岡に対する請求をいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩村弘雄 裁判官 原健三郎 裁判官 江田五月)

<以下省略>

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