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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)11740号 判決 1969年4月23日

原告

関まさ

ほか五名

代理人

森美樹

ほか一名

被告

東京トヨペット株式会社

被告

鈴木真

右両名代理人

宮内重治

ほか三名

被告

有限会社住川木工所

被告

住川元明

右両名代理人

江口保夫

ほか四名

主文

1  被告らは、連帯して原告関まさに対し金九八万七七二〇円、原告関任子、同関昌弘、同関二朗、同関友彦に対し各金二八万八七六三円および右各金員に対する昭和四二年一一月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

2  原告らのその余の各請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの、その余を被告らの、各負担とする。

4  この判決は、第一項に限り、かりに執行することができる。

事実

第一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して原告関まさに対し金二八一万二九八四円およびうち金二五六万二九八四円に対する昭和四二年一一月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の、原告関任子、同関昌弘、同関二朗、同関友彦に対し各金一〇六万五〇〇〇円およびうち金九八万〇五〇〇円に対する同日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の各支払いをせよ。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

との判決。

第三  請求の原因

一  (事故の発生)

昭和四二年四月三〇日午後一時一三分ごろ、訴外亡関武司(以下、訴外武司という。)および原告関まさ(以下、原告まさという。)の同乗する被告鈴木真(以下、被告鈴木という。)運転の普通乗用自動車練五に一一六九号(以下、甲車という。)が、東京都葛飾区立石八丁目四三番二〇号先交差点(以下、本件交差点という。)において、被告住川元明(以下、被告元明という。)運転の軽自動車六足立く三二〇七号(以下、乙車という。)と出合い頭に衝突し、その衝撃により訴外武司およびまさは車外に転落して訴外武司は死亡し、原告まさは傷害を受けた。

二  (責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故によつて生じた次項の損害を賠償する責任がある。

(一)  被告東京トヨペット株式会社(以下、被告東京トヨペットという。)は、甲車を、被告有限会社住川木工所(以下、被告住川木工所という。)は乙車をそれぞれ所有してこれを自己のため運行の用に供していたものであるから、ともに自賠法三条による責任。

(二)  被告鈴木、同元明は、それぞれ事故の発生につき、次のような過失があつたから、ともに不法行為者として民法七〇九条の責任。

1 被告鈴木は、甲車を運転して京成電鉄青砥駅方面から奥戸橋方面に向けて進行し交通整理の行なわれていない左右の見通しの悪い本件交差点に徐行しないで進入し、しかも右方、葛飾区役所方面から右交差点に進入しようとしている乙車を認めながらその前方を通過できるものと即断してそのまま進行し、本件事故を惹起したものであるから、徐行、前方注視、安全運転の各義務に違反した過失がある。

2 被告元明も、乙車を運転して葛飾区役所方面から旧奥戸橋方面に向つて進行し、右交差点に進入するにあたり徐行をせず、また右交差点を青砥駅方面から奥戸方面に向け進行しようとしている甲車を認めても直ちに制動の措置をとらなかつたため本件事故が発生したものであるから、徐行、前方注視、安全運転の各義務に違反した過失がある。

(三)  仮りに被告鈴木が甲車を被告東京トヨぺットから借り受けてドライブに使用していたとするならば、被告鈴木も甲車を自己のために運行の用に供していたことになるから、自賠法三条による責任。

三  (損害)

(一)  本件事故により、訴外武司は昭和四二年五月一日午後一〇時三五分ごろ死亡し、原告まさは同年四月三〇日から同年六月四日まで入院加療、同日から昭和四四年三月一日まで通院加療を要する脳振盪および左膝関節挫傷等の傷害を負つた。

(二)  訴外武司の死亡による損害および死亡に至るまでの損害の内容は次のとおりである。

1 訴外武司の得べかり利益および原告らによる相続

訴外武司が死亡によつて喪失した得べかりし利益は次のとおり金三九五万三一〇〇円(円未満切捨て)と算定されるところ、原告まさは訴外武司の妻であり、原告関任子、同関昌弘、同関二朗、同関友彦(以下、原告友彦という。)はその子供であるから、右逸失利益はその法定相続分に応じて原告まさに金一三一万七七〇〇円、その余の原告らに各金六五万八八五〇円宛相続された。

(死亡時) 演六〇歳―正確には三日足りないが。

(推定余命) 平均余命表によると14.97年であるが、計算の便宜上これを一五年とする。

(稼働可能年数) 一五年―訴外武司は、事故当日である昭和四二年四月三〇日までは第一化成株式会社に勤務していたが、翌五月一日からは新たに設立された関東車輛部品工業株式会社に部長待遇で勤務することになつており、同社には定年制がないうえ訴外武司はビニール関係に詳しく年令制限の必要のない職種であるから、その稼働可能年数は推定余命と一致する。

(収益) 金五万円―第一化成株式会社における訴外武司の給与は月額金三万九〇〇〇円であつたが、関東車輛部品工業株式会社においては部長待遇で入社することが確定していたので、月額金五万円を下らない給与を支給されることは明らかである。

(控除すべき生活費) 金二万円。

(毎月の純利益) 金三万円。

(年五分の中間利息控除) ホフマン複式年ごと計算による。

2 原告らが平等に負担して支出した治療費等

訴外武司は、事故後直ちに京成外科に入院して前記死亡時まで治療を受けた。治療費等の内訳は次のとおりである。計金三〇万九五七〇円の五分の一にあたる金六万一九一四円が原告ら各自の損害額となる。

(1) 診療費 金四万〇七五〇円

(2) 付添看護料 金三九二〇円

(3) 寝具使用料 金三五〇〇円

(4) 寝巻下着の購入費 金三三〇〇円

(5) 付添つた知人が付添の仕事中に負傷したため支出した治療費 金八一〇〇円

(6) 担当医師の東京大学石崎、杉浦両博士、東京医科歯科大学稲葉、石井両博士に対する謝礼 金二五万円

3 原告らが平等に負担して支出した葬儀費用

訴外武司は、ビニール業界その他に多くの友人、知己を有し、また生前世話好きな人柄から交友範囲がきわめて広かつたため、通夜は昭和四二年五月一日から三日にかけ三夜にわたつて営まれ、告別式に参列する者も七―八〇〇人を数えたほどで葬儀の規模としてはかなりのものであつた。葬儀費用の内訳は以下の如くである。計金一一〇万五三〇九円の五分の一にあたる金二二万一〇六二円弱が原告ら各自の損害額となる。

(1) 供花、祭具一式、火葬料等 金六〇万八〇九七円

(2) 通夜、告別式の来客に対する接待費 金一四万三八六二円

(3) 葬儀当日の車代等 金九万八三五〇円

(4) 右自動車の運転手一五人に対する心付 金一万五〇〇〇円

(5) 親族の連絡用東京都内タクシー代金五万円

(6) 葬儀参列者一〇〇人に対する交通費、寸志 金一〇万円

(7) 葬儀手伝人三〇人に対する心付 金九万円

4 慰謝料

本件事故によつて、原告まさは最愛の夫を、その余の原告らは敬愛する父を喪つた。原告らのこれら精神的苦痛を金銭に見積るときは、原告まさについて金一〇〇万円、爾余の原告らについて各金七〇万円とするのが相当である。

5 弁護士費用

以上により、原告まさは金二六〇万〇三六七円、その余の原告らは各金一六四万一八二四円をそれぞれ被告らに対し請求しうるものであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告らは弁護士たる本件原告ら訴訟代理人にその取立てを委任して手数料として原告まさは金二七万円を支払つたほか、成功報酬として同原告は金一六万円を、その余の原告らは各金八万円を第一審判決言渡後に支払うことを約した。

6 賠償額の支払いの受領と充当

原告らは、自賠法一六条に基づき保険会社から金三〇四万三七五〇円の賠償額の支払いを受けたので、右金員を原告まさの右請求権に金一〇一万四五八〇円、その余の原告らの右各請求権に各金五〇万円七二九〇円宛それぞれ充当した。

(三)  原告まさは、次の如き内容の前記傷害による損害を蒙つた。

1 診療費

(1) 京成外科分(入院料を含む。)

金六五五〇円

(2) 東京医科歯科大学医学部附属病院分(入院料を含む。)

金三万四四二四円

(3) 東京大学医学部附属病院分

金五万五二六八円

2 薬代 金三万六七四七円

3 慰謝料 金八〇万円

4 弁護士費用

以上のとおり、原告まさは金九三万二九八九円を被告らに対し請求しうるものであるところ、前記(二)5と同様の事情から本件原告訴訟代理人に手数料として金五万円を支払つたほか成功報酬として金九万円を第一審判決言渡後に支払うことを約した。

四  (結論)

よつて、被告らに対し、原告まさは金三〇八万八七七六円、その余の原告らは各金一二一万四五三四円の損害賠償請求権を有するところ本訴においてはそのうち原告まさは金二八一万二九八四円ならびにこれから前記三(二)5および(三)4のうちの各成功報酬を控除した金二五六万二九八四円に対する訴状送達の日の翌日である昭和四二年一一月一〇日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、その余の原告らは各金一〇六万五〇〇〇円およびこれから前記三(二)5のうちの成功報酬を控除した金九八万五〇〇〇円のうち金九八万〇五〇〇円に対する同日から支払済みに至るまで右割合による遅延損害の各支払いを求める。

第四  請求原因に対する答弁

一  被告東京トヨペット、同鈴木の各答弁

1  請求原因第一項のうち原告まさが負傷したことは不知。その余は認める。

2  同第三項のうち(一)の被告東京トヨペットが甲車を自己のために運行の用に供していたものであるであることは争い、その余は認める。

3  同第三項のうち(一)の訴外武司が原告ら主張の日時に死亡したことおよび(二)6の原告らがその主張の額の賠償額の支払いを受けたことは認めその余は不知。

二  被告住川木工所、同元明の各答弁

1  請求原因第一項のうち原告まさが負傷したことは不知。その余は認める。

2  同第二項のうち(一)の被告東京トヨペットが甲車を所有してこれを運行の用に供していたことは不知。その余は認める。

3  同第三項のうち(一)の訴外武司が原告ら主張の日時に死亡したことおよび(二)6の原告らがその主張の賠償額を受領したことは認める。(二)4および(三)3の慰謝料額は争う。その余は不知(仮りに(二)2(6)の担当医師に対する謝礼の支出が認められるとしても、それは通常生ずべき損害以外の支出であり、また(二)3の葬儀費用についても、同様葬儀の参列者に支払つた交通費の如く通常生ずべき損害以外の支出が計上されていて右葬儀費用中のいずれを通常生ずべき損害として判定するかは困難であるから、右葬儀費用は訴外武司および遺族たる原告らの社会的地位、生活程度、経済力等を勘案してその範囲を劃するのを相当とすべく、しかるときはその額は金二〇万円とするのが妥当である。

第五  抗弁

一  被告東京トヨペットの甲車の運行支配喪失の抗弁

以下に述べる事情により、本件事故時における甲車の運行供用者は被告東京トヨペットではなく、被告鈴木あるいは訴外武司である。

1  被告東京トヨペットは、従業員の慰安およびレクリエーションなどの便宜を図るためその所有車輛を従業員の利用に供していたところ、同被告の従業員である被告鈴木は、昭和四二年四月二九、三〇両日の連休を利用して日光ヘドライブするため同月二〇日被告東京トヨペットの厚生課に対し車輛の貸出しを申し出、納車時刻は同月三〇日午前九時との期限を付されたうえ貸出しを許可された。そして被告鈴木は、同月二八日、被告東京トヨペットを退社後同被告の虎の門営業所から甲車を借り出した。本件事故は右借出中に発生したものである。したがつて、本件事故当時における甲車の運行供用者は被告鈴木であつて被告東京トヨペットではない。

2  仮りに被告東京トヨペットが右貸出しによつてはいまだ甲車の運行支配を喪失しないとしても、被告鈴木は、同月二九日夜日光から帰り、翌三〇日営業所に甲車を返還するべくそれを運転して肩書住所を出たのであるが、たまたま近くに住んでいる高校以来の友人で親交のあつた原告友彦のところに一寸寄つてみる気になり、同原告の肩書住所に赴いた。関方に到着した時刻は午前一〇時ごろである。そして、関方では被告鈴木は日光にドライブに行つたことや甲車を右虎の門営業所に返還する途中立寄つたものであることなどを話したが、そのうちに原告友彦やその両親である訴外武司および原告まさから、訴外武司と原告まさがこれから原告友彦の結婚の結納を持つて同被告の勤め先である被告東京トヨペットの墨田営業所の近くの相手方のところに行くところであるが、ついでだから甲車で送つてほしい旨を頼まれ、拒絶するわけにも行かずに訴外武司および原告まさを甲車の後部座席に乗せて関方を出発し、右婚約者の家に向つた。本件事故はその途中で起きたものである。このように、被告鈴木は甲車を被告東京トヨペットの許容しない前記貸出しの目的および期限を著しく逸脱して私の用に使用したものであり、また訴外武司は甲車を結納持参の目的のために被告東京トヨペットの意思に反して被告鈴木に運転させたものであるから、訴外武司らが乗車したときからは、甲車の運行支配は被告鈴木および訴外武司に帰したのであつて、被告東京トヨペットは運行供用者ではなかつた。

二  被告住川木工所、同元明の過失相殺の抗弁

訴外武司が甲車に乗車した事情は相被告東京トヨペットの抗弁にあるとおり、かかる甲車の運行の状態からすると、訴外武司と被告鈴木の関係は民法七一五条にいう、使用者関係に立つものと解すべく、そうとすれば同被告に過失があるときはそれは使用者たる訴外武司が負うべきである(仮りに訴外武司と同被告の関係が使用者の関係でないとしても、被害者グループという考え方から同様のことがいえる)。ところで本件事故の態様は原告主張の如くであり、そのうえ甲車の進行していた道路は主要道路でなく、しかもその幅員は乙車の走行してきた道路のそれより狭かつたから、被告鈴木にも過失があり、それも被告元明の過失に対比して大きなものである。したがつて訴外武司に関する賠償額の算定にあたつては、右賠償額から六割方減額されるべきである。

第六  抗弁に対する答弁

一  被告東京トヨペットの抗弁に対する答弁

被告鈴木が被告東京トヨペットの従業員であることおよび被告鈴木が被告東京トヨペット主張の日時関方を訪れたことは認める。同被告がその主張の如き目的でその所有車輛を従業員の利用に供していたことおよび被告鈴木が被告東京トヨペット主張のような目的および期限で甲車を借り受け使用したことは不知。訴外武司および原告まさが甲車に乗車した事情は次のようなことからである。

右両名は本件事故当日原告友彦の婚約予定者を訪問する予定であつたが、それは結納のためではなく両名がうち揃つて相手方を訪問するという儀礼的な色彩の濃いものであつた。そこへたまたま原告友彦の高校時代同窓であつた――しかし同被告主張の如きとりわけ親しい間柄ではない――被告鈴木が甲車を運転して訪れ、同原告と雑談を交わすうち当日が前記のような「おめでたい日」であることを聞き知り「是非自分に送らせてほしい」と両名を婚約予定者宅まで送ることを自発的に申し出た。両名はハイヤーかタクシーを利用するつもりであつたので、この申出を一応ことわつたのであるが、同被告がたつてすすめるので結局甲車で送つてもらうことになつた。もちろん両名は甲車が被告東京トヨペットの所有にかかる車であることも、被告鈴木がそれを借り出していることについては知らなかつたし、いわんや返還時刻を過ぎていることは知る由もなかつた。

このように両名は同被告のすすめに応じて甲車に乗つたにすぎないのであるから、訴外武司が甲車の運行供用者であろうはずがない。

なお、被告東京トヨペットの主張する被告鈴木の甲車の使用状況を前提とすれば、同被告も甲車の運行供用者といえるかもしれないが、仮りにそうだとしても、被告東京トヨペットが運行供用者であることにかわりはないというべきである。けだし、同被告はその従業員に対する厚生福祉の一環として自己の計算において本件の如き車両貸与の制度を設け、しかして被告鈴木はその従業員たる資格において甲車を借り受け使用していたものだからである。

二  被告住川木工所、同元明の抗弁に対する答弁

本件事故が被告鈴木の過失と被告元明の過失が競合して発生したものであることは認めるが、訴外武司が甲車に乗つた事情については被告東京トヨペットの抗弁に対する答弁において述べたとおりであり、訴外武司と被告鈴木が使用者の関係にあつたことは争う。

第七  証拠関係<略>

理由

一(事故の発生)

請求原因第一項については、原告まさの負傷の点を除き、当事者間に争いがなく、同原告が本件事故により傷害を負つたことは後に認定するとおりである。

二(被告住川木工所、同元明の責任)

請求原因第二項のうち右被告両名の責任原因に関しては、当事者間に争いがないから、被告住川木工所は乙車の運行供用車として自賠法三条により被告元明は不法行為者として民法七〇九条によりそれぞれ後記損害を賠償する義務がある。

三(被告東京トヨペット、同鈴木の責任)

被告東京トヨペットが甲車を所有したことについては、原告らと同被告、被告鈴木においては当事者間に争いなく、原告らと被告住川木工所、同元明においては<証拠>によつて認められるところ、被告東京トヨペットは本件事故当時甲車の運行支配を喪失していた旨主張するので、以下その点について判断することにする。

1  被告鈴木が被告東京トヨペットの従業員であることについては当事者間に争いない。そして<証拠>によれば、次の事実が認められる。

被告東京トヨペットは、従業員の慰安およびレクリエーションなどの便宜を図るためその所有する車両を貸し出す制度を設け、その適正な運用を期して「貸出車両利用規定」を制定し、利用資格を制限し、利用の申込方法や利用料、利用時間の延長などを規制するとともに各車輛に任意保険を付けていた。

そして昭和四二年四月当時の右制度の実態は次のようなものであつた。すなわち、貸出車両を利用できる者は原則として運転免許証を有する従業員とその同伴者であるが、利用を希望する者は、貸出車両利用申込書に所定の事項を書き入れて所属長を経て利用日の一週間前までに同被告厚生課に申し込むことになつていた。厚生課では、右申込書を受理すると、申込者が右規定の定める利用禁止規定に該当する者か否か、すなわち虚偽の申込みをした者、運転未熟とみなされ車両の保全上支障があると認められる者、過去の利用状況に鑑み利用させることが不適当と認められる者などであるかどうかを、さらに右申込の内容が同課の内規に定める条件に適合するか否か、すなわち期間が四日間以内かどうか、往復走行キロ数が六〇〇キロメートルを超えないかどうか、同乗者が本人の家族または友人(ただし、余り付合いのない知人を含まない。)かどうかなどを審査し、右申込みがこれらの要件を満した場合にのみ利用を許可した。ちなみに、貸出車両は従業員が利用していないとかやむを得ないとき以外には被告東京トヨペットの社用に使用されることはない。貸出車両の利用料は、当日午前九時から当日午後五時まで、あるいは当日午後五時から翌日午前九時までクラウン金五〇〇円、トヨエース金四〇〇円となつており、燃料も同被告の補給ガソリンを利用すると市価より一割位安く、総じてドライブクラブから借りる場合と比べて一―二割の費用で済み、この料金は利用者の翌月の給料から差引かれることになつていた。そしてあらかじめ申し出た利用時間の延長はやむをえない事由がない限り認められず、時間を超過したときは割増金を追徴された。

被告鈴木は、それまでにも年に二―三度貸出車両を利用したことがあつたが、同月二〇日「使用目的=レクリエーションのためのドライブ、期間=同月二八日午後五時から同月三〇日午前九時まで、行先および主要経由地=東京―小山―宇都宮―日光、同乗者=友人の福田、広田および妹の鈴木和子」を事由に所属長を通して右厚生課に対し貸出車両の利用を申し込み、同日二二日、今度前記の借用期間、借用理由、行先地および主要経由地等の条件で甲車を借用するに当つては、前記規定を遵守し、万一事故を惹起した場合には、すべて自己の責任で処理して被告東京トヨペットには一切迷惑をかけない旨の念書を同被告宛差し入れ甲車の利用を許可された。ところで貸出しに供される車両は当時一三台であつたがこれらは同被告の各営業所に分散して配置されており、甲車は虎の門営業所に配置されていた。そこで被告鈴木は、同月二八日午後七時ごろ同営業所から甲車を借り出し、翌二九日前記福田らと日光にドライブに行つた。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、被告鈴木は甲車を被告東京トヨペットから借り受けて自己のレクリエーションのためのドライブに使用したのであるから、自己のためにこれを運行の用に供していたというべきであるが、さればといつて右に認定した貸出車両制度の目的、貸出しの期間等に前記の両被告間の身分関係を併せ考えると、被告鈴木の甲車の運行支配取得に伴い被告東京トヨペットが甲車に対する運行支配を喪失したということはできない。

2  被告鈴木が事故当日の昭和四二年四月三〇日午前一〇時ごろ関宅を訪れたことについては当事者間に争いないところであり、<証拠>によると、同被告の前記ドライブは同被告がかねて好意を抱いていた前記福田との仲を緊密なものとするためであつたが、そのことについて同被告は同月二七―八日ごろ高校時代の友人であつた原告友彦に相談に乗つてもらつたので、甲車を前記虎の門営業所に返還がてらドライブの成果を同原告に話すつもりで同月三〇日午前一〇時少し前ごろ甲車を運転して同被告の肩書住所を出発し、同原告の肩書住所に向つた。同被告が右自宅を出たとき既に前記貸出しの返還時刻は過ぎていたのであるが、それは同被告が前記甲車を借り出したときに接続して同車を借りる者がいないことを聞いており、また以前に貸出車両を利用したとき返還時間が多少遅れたことがあつたが別段問題にならなかつたので、今回も昼ごろまでに返せばよいつもりでいたためである。したがつて同被告は甲車の返還が遅れることについて被告東京トヨペットの了解を得ることはしなかつた。ちなみに、被告鈴木の右住所から右虎の門営業所へ直行するとすれば、京葉道路を通つて五〇分位もあれば行けるのであるが、原告友彦方を経て右営業所に行くには、一旦同営業所の方向とは逆行して大廻りをしなければならず、その所要時間も一時間二〇分位かかるものである。こうして同被告が原告友彦方=関宅に着いたのは前記のように午前一〇時をまわつたころであつた。そして同被告は関宅の近くの広場に甲車を駐車させ、同原告からドライブの成果などを話しているうちに、同原告から両親の訴外武司と原告まさがこれから原告友彦が結婚の約束をしている金子某方に行くのだが武司らを甲車に乗せていつてほしい旨を頼まれた。武司らは、当日午後関・金子両家の親同志の顔合わせと結納の日取りをきめるために金子宅を訪問することになつていたものである。原告友彦は、右依頼をするとき、甲車が被告東京トヨペットのものであり、被告鈴木が甲車を返しに行く途中立寄つたものであることを承知していた。同被告は、金子とも高校時代の同級生で同原告から同女との交際を聞かされており、同女の家が関方から右虎の門営業所までのほぼ順路にあたる同被告の勤め先である被告東京トヨペット墨田営業所の近くであることを知つていたので、同原告からこの「晴れがましい」依頼を受けるやほとんど躊躇なくこれを承諾した。武司らは金子方へは当初ククシーで行くつもりでいたが、原告友彦が被告鈴木に甲車で送つてもらうことをすすめ、同被告もそれに合わせて勧誘したので、甲車に同乗することになつた。しかし武司らは昼食時に金子方に行つては迷惑をかけることになるので、同被告に昼食をふるまうなどして時間をすごしたが、その際同被告の話などから甲車が借物であり、同被告はそれを返しに行く途中であることにうすうすではあるが気付いた。そうこうして同被告は午前一二時過ぎになつて武司らを甲車の後部座席に同乗させ関方を出発したのである。そして中川にかかる高砂橋を渡つて左折し、中川に添つて南下して旧奥戸橋方面に向う途中、道路が工事中であつたので、原告まさは高砂橋まで戻ることを訴えたが、訴外武司がたまたま近くに勤め先の第一化成株式会社があつて道を知つていたため、その案内で脇道に入り、再び中川の堤方面に向うべく本件交差点を通行中、本件事故を惹起したものであることが認められる。原告友彦本人尋問の結果中、訴外武司らが甲車に同乗するようになつたのは同被告が甲車で送らせてほしい旨申出たからであつて同原告の方から乗せて行つてくれといつたことはないという趣旨の部分および原告まさ本人尋問の結果中、訴外武司が道案内をしたことはないという趣旨の部分は、いずれも信用できない。また、乙第一号証の一および三の記載中、当日は原告友彦と金子の結納の日であつたという趣旨の部分は、原告まさおよび原告友彦各本人尋問の結果に徴し、採用できない。

右事実および前記1の事実を総合すれば、本件事故当時の甲車の運行供用者は依然として被告東京トヨペットと被告鈴木であつて訴外武司は単なる同乗者にすぎないというべきである。すなわち、これらの事実によれば、仮りに原告友彦の被告鈴木に対する訴外武司および原告まさの同乗依頼を訴外武司らの行為と同一視して考えうるとしても、なお同人らが同被告に対し同乗を強く要請し同被告をして甲車を運転することを余儀なくさせたというには程遠いものであり、また訴外武司の道案内にしてもたまたま道路工事のために迂回路を教えたものにすぎず同人が独自の目的のために進路を指示したというものではないから、他に同人らが被告東京トヨペットの甲車に対する運行支配を排除する目的をもつてあえて甲車に同乗した等の特段の事情の認められない本件においては、必ずしも同人を甲車の運行供用者と考えるわけにはゆかないのであつて、結局同人らは単に被告鈴木の好意により甲車に便乗したにすぎないものである。もつとも、同被告が同人らを同乗させた行為は、被告東京トヨペットの主張するとおり貸出しの目的、期間および同乗者について貸出の条件を逸脱したものではあるが、しかし被告鈴木が返還時間を徒過したといつても僅々数時間にすぎず、また同人らを便乗させていてもその主たる目的はやはり甲車の返還であつたというべきであるから、同被告の右程度の無断運転では被告東京トヨペットの甲車に対する運行支配が喪失するものではない。そして好意(無償)同乗というだけでは、法文上とくにこの場合を自賠法三条の適用から除外する規定はない。もつとも好意(無償)同乗者の被害については、同乗に至る経過および同乗後の挙動によつては、運行供用者の責任を全部ないし一部制限すべき場合もありうると考えられるが、本件事実関係においてはその必要性はないというべきである。結局同被告の抗弁は理由がない。

(二) よつて、被告東京トヨペットは甲車の運行供用者として自賠法三条により第四項の損害を賠償する義務がある。また被告鈴木も以上のように他人のために甲車を運転していたものではなく、甲車の運行供用者であるから、同項の損害については民法七〇九条の特別法である自賠法三条により責任を負うものである。

四(被告住川木工所、同元明の過失相殺の抗弁について)

なお、右被告両名は、訴外武司と被告鈴木は使用者の関係にあり、少なくとも被害者グループであるから、同被告にも過失がある以上訴外武司関係の賠償額の算定にあたつては右過失を斟酌すべきであると主張するが、同人と同被告の関係は前項に見たとおりであつて契約上はもとより事実上の使用者関係もないというべく、また、被害者グループなる観念はその趣旨必らずしも明らかではないが、それが自動車の運行に対する関与の度合から事故に関して運転者または運行供用者と同一の権利しか有し得ない同乗者等をいうのであるとするものならば、訴外武司は前項の如く甲車の運行に関しては無関係であつて――このことは同人が本件事故の直前道案内をしたとしても変りはない――したがつて右の被害者グループには当らないというべきであるから、右主張は失当である。

五(損害)

(一)  訴外武司関係

本件事故により訴外武司が昭和四二年五月一日午後一〇時三五分ごろ死亡したことは当事者間に争いがない。そこで、次に同人の死亡による損害の内容を検討することにする。

1  訴外武司の得べかりし利益および原告らによる相続

訴外武司は、明治四〇年五月三日生まれの健康な男子で、本件事故日の昭和四二年四月三〇日まで前記第一化成株式会社に勤務し、月額金三万五〇〇〇円位の収入を得ていたが、関東車両部品工業株式会社が設立された後は同社に勤務する予定になつており、同社は中小企業であつたのでとくに定年制などもなかつたことが<証拠>により認められる。<証拠判断略>

右事実によれば、訴外武司は満六八歳に達するまでなお八年(端数の日は切捨て)稼働することができ、その間少なくとも月額金三万五〇〇〇円の収入を挙げえたものと考えられるところ、<証拠>によれば、訴外武司の同居の家族は妻原告まさ、長女原告関任子、三男原告友彦の三人であつたことが認められるから(本件事故当時、原告関任子は嫁に行つており、訴外武司の同居の家族は原告まさ、同友彦の二人だけであつた旨の原告友彦の供述部分は措信できない。)、訴外武司の生活費は月額金一万二〇〇〇円とするのが相当である(原告らの自陳するところによると、訴外武司の生活費は月額金二万円であるが、これは同人の収入を月額金五万円とした場合のことであるから、それを前記のように認定した以上、生活費を認定するにあたつて右自陳額には拘束されないというべきである)。したがつて訴外武司が死亡によつて喪失した得べかりし利益は年ごとホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除すると金一八一万八四六一円(円満切捨)てになる。原告らは、訴外武司は関東車両部品工業株式会社において部長待遇で入社することが確定していたので、その給与は月額金五万円を下らないこと明らかであると主張し、前出甲第一〇二号証にはそれに副うかの如き記載があるが、他方同号証には給与の額については具体的なとりきめをしていなかつた旨の記載もあり、加えて、原告まさ本人の供述によれば、同社は倒産した第一化成株式会社の第二会社として新たに設立された会社であることが認められ、これら諸事実に鑑みると同号証をもつてはいまだ右主張を認めることはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。原告らは、また、同社には定年制がないうえ訴外武司はビニール関係に詳しく年令制限の必要のない職種であるからその稼働可能年数は推定余命と一致すると主張する。同社に定年制がないことは前に認定したとおりであり、前出甲第一〇二号証および原告まさ本人の供述中には訴外武司がビニール関係のエキスパートで同社としては同人が働ける限り働いてもらうつもりでいた旨の記載ないし供述部分があるが、同社は前記のように経営基盤も脆弱で社員の就業規則も満足に確立されていない中小企業にすぎないから、右の程度の立証ではいまだ同人が推定余命一杯に稼働可能であるとの心証を得ることはできないので、右主張も採用しない。

そして原告まさが訴外武司の妻であり、原告関任子、同友彦が武司の子供であることは前にみたとおりであり、<証拠>によれば、原告関昌弘、同関二朗も武司の子供であることが認められるから、同人の右逸失利益は、その法定相続分に応じて原告まさに金六〇万六一五三円(円未満切捨て)その余の原告らに各金三〇万三〇七六円(右同)宛相続されたものである。

2  治療費

<証拠>によれば、訴外武司は本件事故後直ちに訴外京成外科に入院して前記死亡するまで治療を受け、次の費用を原告らが平等に負担して支出したことが認められる。

(1) 診療費 金四万〇七五〇円

(2) 付添看護料  金三九二〇円

(3) 寝具使用料  金三二〇〇円

ところで、<証拠>によると、入院中の武司に以添つた知人訴外前田久子が付添の仕事中に誤つて負傷し、右京成外科に入院して治療を受けた費用金八一〇〇円および寝具使用料(同女の付添人の分も含む。)金三〇〇円を原告らが支出したことが認められるが、右費用は本件事故と相当因果関係のある損害とはいえない。また<証拠>によると、原告らは訴外武司の入院に際し寝具等を購入し、その代金を支払つたことが認められるが、その金額を明らかにすることが出来ないから(甲第三五号証には男物と女物の寝巻その他の代金として金三三〇〇円が計上されているのみである。)、右購入費はこれを認めるに由ないといわなければならない。さらに原告らは、武司の入院中治療にあたつた東京大学の石崎、杉浦両医師、東京医科歯科大学の稲葉、石井両医師に対しその謝礼として金二五万円を支出した旨主張し、原告友彦本人はそれに符号する供述をするが、武司の入院先は京成外科であり、<証拠>によれば武司の担当医師は岩崎哲であることが認められるから、右供述は信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。結局治療費としては金四万七八七〇円となるので、原告ら各自の損害額は金九五七四円となる。

3  葬儀費用

<証拠>によれば、訴外武司は交友関係が広く、通夜および告別式の参列者が多かつたため盛大な葬儀が営まれ、原告らはその費用として

(1) 供花、祭具一式、火葬料等

金六〇万八五九七円

(2) 通夜、告別式の来客に対する接待費 金一四万二一四〇円

(3) 葬儀当日の車代等

金九万八三五〇円

を支出したことを認めることができ、特段の事情もないので、これを平等に負担したものと推定すべきである。

原告らは、この他にも葬儀当日の自動車の運転手に対する心付金一万五〇〇〇円、親族の連絡用東京都内タクシー代金五万円、葬儀参列者に対する交通費、寸志金一〇万円、葬儀手伝人に対する心付金九万円を支出した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。また、原告らは通夜、告別式の来客に対する接待費として右(2)のほかにも金一七二二円を支出している旨主張するが、<証拠>によれば、それは原告まさ方で昭和四二年四月八日に有限会社八百信から買つた野菜等の代金であつて右葬儀費用はもちろん本件事故とも全く関係のない出費であると認められるから右主張は理由がない。

ところで葬儀は、人の死を哀悼し、死体を処理するため、宗教や慣習等と結びつきながら伝統的に形成された形式ないし手続であるが、地域により宗教によりまたその社会的地位によるなどの違いでそれを施行する態様を異にし、したがつてまたその費用に関してもおのずから多寡の差を生ずるものである。更に、ある場合には、葬礼が故人の生前の業績を顕彰しあるいは冥界における故人の生活を規制するとの思想から、遺族がこれを営むに当り盛大なればなるほどよしとすることもあるため、その場合には葬礼の規模は前記諸般の事情に由来する相違を起えて著しく大きいものになる。しかしながら、法律上加害者に賠償を求めうる葬儀費用は事故と相当因果関係あるものに限られるのであり、ここに「相当」とは、その地域、宗教、社会的地位等に応じ葬儀上通常必要とする費用をいうが、単に祭壇の費用とか香典返しとかのような葬儀費用の各費目についてのみ判断されるものではなく、結局葬儀費用全般について考えられなければならないものである。そうとすると、本件においては――右に認定した個々の出費中には本件事故と相当因果関係のないものも若干含まれているがそれについて判断するまでもなく――葬礼は仏式であり、葬法は火葬であるうえ亡武司は平均的な給料生活者であつたから、同人の交友範囲が普通の人より広かつたことを考慮に入れても、葬儀費用は金三〇万円とするのが相当である。よつて原告ら各自の損害額としては金六万円宛となる。

4  慰謝料

前記諸事情なかんずく原告友彦が甲車を被告東京トヨペットのものであることを知りつつ被告鈴木に訴外武司らの同乗を依頼し、同人らもまた甲車が同被告以外のものに属するものであることを察知しながらその好意にあまえて同乗したものであることを考慮すると、本件事故により夫であり父である武司を失つた原告らの精神的苦痛に対する慰謝料としては、原告まさについて金九〇万円、その余の原告らに対し各金四〇万円をもつて相当とする(ちなみに、原告まさの慰謝料額とその余の原告らのそれとの差は、原告まさ以外の原告らがいずれも立派に成人していることが<証拠>により認められることを考慮したものである。)

5  賠償額の支払いの受領と充当

原告らが保険会社から金三〇四万三七五〇円の賠償額の支払いを受けたことは当事者間に争いがない。ところが、原告らは右金員を弁護士費用を含めた損害賠償請求権に充当することを主張する。生命侵害に基づく損害賠償請求権は――請求権者毎に――一個であるから、本来の意味の弁済充当の問題はおこらないわけであるが、保険の給付においては当該保険制度の目的からその対象となる費目が限定されているので、その限りでは弁済充当の趣旨を類推して本来の給付対象となつている損害に充当すべきものと解されるところ、自賠責保険においては弁護士費用は――それは事故と相当因果関係のある損害ではあるが――給付対象たる損害費目に含まれていないから(自賠責保険普通保険約款八条、一条参照)本件賠償額の支払いもその余の損害に充当すべく、しかるときはまず治療費と葬儀費用に充当し、その残額金二六九万五八八〇円を法定相続分に応じ、原告まさの逸失利益の相続分および慰謝料に金八九万八六二八円、その余の原告らのそれに各金四四万九三一三円宛配分して充当すべきものである。

6  弁護士費用

以上のとおり、被告らに対し原告まさは金六〇万七五二五円、その余の原告らは各金二五万三七六三円をそれぞれ請求しうるものであるところ、弁論の全趣旨によれば、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告らは弁護士たる本件原告ら訴訟代理人に訴の提起と追行を委任し手数料として原告まさは金二七万円をを支払い、さらに成功報酬として原告まさは金一六万円、その余の原告らは各金八万円を第一審判決言渡後に支払うことを約したことが認められるが、本件事案の難易、前記各請求認容額その他本件にあらわれた一切の事情を斟酌すると、本件事故と相当因果関係ある損害として被告らに負担さすべき弁護士費用は、原告まさについて金九万円、その余の原告らについて金各三万五〇〇〇円とするのが相当である。

(二)  原告まさの負傷分

<証拠>によると、原告まさは、本件事故により脳震盪および左膝関節挫傷の傷害を負い、昭和四二年四月三日から翌五月一日まで京成外科に、同日から同年六月四日まで東京医科大学医学部附属病院にそれぞれ入院して治療を受け、同病院を退院後も同年一一月二五日まで同病院に通院して治療を続けたことが認められる。同原告は、東京大学医学部附属病院においても治療を受けた旨主張し、甲第一〇六号証(同病院物療内科医師石崎達作成の昭和四三年三月二日付診断書)の記載には、昭和三八年七月一八日から高血圧症兼心筋障碍で治療中に交通事故に会い、ショックをうけたため症状が悪化したが、現在治療により軽快しつつあり、なお一年間通院を要する旨の部分があるが、右記載部分からも明らかな如く高血圧症は同原告の長年の持病ともいえるものであり、また東京医科歯科大学医学部附属病院においても治療の対象となつていたが、とくに問題となるような症状であつたとは前出甲第一〇五号証からは窺えないから、右程度の証拠では東京大学医学部附属病院において治療を継続中の高血圧症が本件事故によるものとの心証を形成することができない。

そこで次に同原告の右に認定した傷害による損害の内容を検討することにする。

1  診療費

<証拠>によると、原告まさは右傷害の診療費として

(1) 京成外科分 金六五五〇円

(2) 東京医科歯科大学医学部附属病院分 金三万四四二四円

を支払つたことが認められる。

2  薬代

<証拠>により認められるところによると、原告まさは右治療のための薬代として金一万四二二一円を支出した。

3  慰謝料

前記原告まさの傷害の部位、程度および同乗の態様等諸般の事情を考慮すると、同原告が本件事故による自己の負傷によつて蒙つた精神的苦痛を慰謝すべき額は金二〇万円とするのを相当とする。

4  弁護士費用

以上のとおり、原告まさは被告らに対し金二五万五一九五円の賠償を求めうるものであるところ、前記(一)6と同様の事情から本件同原告訴訟代理人に手数料として金五万円を支払つたほか成功報酬として金九万円を第一審判決言渡後に支払うことを約したことが弁論の全趣旨より認められるが、本件事故による損害として被告らに負担させるべき弁護士費用としては金三万五〇〇〇円をもつて相当とする。

以上合計金二九万〇一九五万円が原告まさの本件負傷による損害である。

六(結論)

よつて、原告らの被告らに対する本訴請求のうち原告まさの金九八万七七二〇円、原告関任子、同関昌弘、同関二朗、同友彦の各金二八万八七六三円および右各金員に対する本件事故発生の日以後の日である昭和四二年一一月一〇日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるからこれを認容し、その余の各請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。(倉田卓次 福永政彦 並木茂)

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