東京地方裁判所 昭和42年(ワ)13472号 判決
一 本件甲実用新案権侵害に基づく損害賠償請求について
(一) 原告が昭和四四年三月一九日存続期間の終了した本件甲実用新案権の実用新案権者であつたこと、本件甲考案の願書に添付した明細書の登録請求の範囲の項の記載が請求原因二、(一)の項のとおりであること及び被告が昭和四〇年七月二四日から昭和四四年三月一九日までの間に被告甲浴槽を業として製造販売したことは当事者間に争いがない。
(二) 右争いがない本件甲考案の登録請求の範囲の項の記載によれば、本件甲考案は次の構成要件に区分説明することができる。
(A) 琺瑯引鉄板製浴槽の側壁に穴を開けて釜を浴槽内に収めること。
(B) 釜の浴槽貫通部にこれを囲繞する金属板を溶着し、これと浴槽の穴周辺部とをその間にパツキングを介してボルトで締着すること。
(C) 釜の浴槽貫通部と浴槽の穴端縁琺瑯壁との間に間隙を設けて両者が接触しないようにしたこと。
(D) 浴槽の構造であること。
(三) 右本件甲考案の構成要件及び前記争いがない被告甲浴槽の構造に基づき、本件甲考案と被告甲浴槽とを対比する。
1 被告甲浴槽は、琺瑯引鉄板製浴槽本体1の側壁に穴を開けて内釜2を浴槽本体1内に収めた構造であるから、本件甲考案の構成要件(A)を充足する。
2 被告甲浴槽は、内釜2の開口部にこれを囲繞する締付金属板22を溶着し、これと浴槽本体1の穴周辺部11とをその間にパツキング3を介してボルト4で締着した構造を有するから、本件甲考案の構成要件(B)を充足する。
3 被告甲浴槽は、浴槽本体1の前方側面で曲率半径一五〇Rの部分に設けられた開口部の内縁寸法が縦一五五粍、横一九〇粍の短形状であり、他方内釜2の開口部の外縁寸法が縦一四五粍、横一八〇粍に製作された構造であつて、浴槽本体1と内釜2の開口部の外縁との間隙が五粍あり、従つて内釜2の開口部と浴槽本体1の穴端縁琺瑯壁との間に間隙を設けて両者が接触しないようにした構造であるというべきであるから、本件甲考案の構成要件(C)を充足する。
被告は、本件甲考案の構成要件(C)にいう間隙は、(1)穴端縁の琺瑯壁が釜の高熱を受けない程度、(2)釜の開口端が幾分拡開していても出し入れを比較的容易に行える程度、(3)パツキングが高熱による損傷から防禦できる程度でなければならないところ、被告甲浴槽の穴端縁各周辺部には設計上五粍の間隙があるに過ぎず、この程度の間隙では本件甲考案の右(1)ないし(3)の効果のいずれをも実現することができないから、被告甲浴槽は本件甲考案の構成要件(C)を充足しない旨主張する。しかしながら、前記争いがない本件甲考案の登録請求の範囲の項には、釜の浴槽貫通部と浴槽の穴端縁琺瑯壁との間の間隙が両者の接触を避けるために設けられたものであることが明記されており、また成立に争いがない甲第一号証(本件甲公報)によれば、本件甲考案の実用新案の説明の項には、右間隙が「僅少の間隙」(本件甲公報一頁左欄八行、九行目)、「任意適当な間隙」(同一頁右欄二行目)、「適当な間隙」(同一頁右欄七行目)である旨記載されていることが認められ、以上の事実によれば、本件甲考案にいう間隙は、任意適当な、少なくとも釜の浴槽貫通部と浴槽の穴端縁琺瑯壁とが接触しない程度の僅少のものであれば足りる、ものと解される。そして、前掲甲第一号証によれば、本件甲考案の実用新案の説明の項には、釜の浴槽貫通部と浴槽の穴端縁琺瑯壁との間に右に説明したような間隙を設けることにより本件甲考案は被告が前記主張するような効果を奏するものであることが記載されていることが認められるところ、被告が浴槽本体1と内釜2の開口部の外縁との間隙が五粍の被告甲浴槽を長期間製造販売してきた前記争いがない事実に照らせば、被告甲浴槽もまた被告が前記主張するような本件甲考案の効果と同一の効果を奏するものであつたと推認することができ、他に右推認を左右するに足りる証拠もない。右事実によれば、被告甲浴槽の間隙は、本件甲考案にいう間隙に該当するものというべきである。被告の右主張は理由がない。
被告はなお、(1)被告甲浴槽に設けた五粍の間隙は浴槽開口部の製作上の誤差、内釜自体の製作上の誤差を考慮したうえでの最少限度の間隙で、この程度の許容量を計算しておかなければ実際問題として浴槽の生産は不可能である、(2)一般の都市ガス、プロパンガスが使用される浴槽では、浴槽開口部と内釜の接触部の温度は琺瑯の耐熱性に影響を及ぼさない程度の温度並びに温度差しか生じないという発見に基づき、被告甲浴槽は本件甲浴槽のように熱に対する配慮をすることなく設計されているものであつて、本件甲考案の考え方を採用するものではないと主張する。しかしながら、(1)釜の浴槽貫通部と浴槽の穴端縁琺瑯壁との間に間隙を設けなければ浴槽一般が製作できないということであればともかく、証人野村栄の証言によれば、被告が製造販売した浴槽の中には浴槽本体と内釜とが接触したものもあつたことが認められ、右事実によれば、積極的に間隙を設けない浴槽を製作することも可能であると解されるところであつて、被告甲浴槽の間隙が単に被告の被告甲浴槽の製作上の都合から設けられたものであるからといつて、そのことをもつて被告甲浴槽の間隙が本件甲考案にいう間隙に該当しないことの理由とはしえないし、(2)仮に、被告甲浴槽では間隙を設けることによる熱に対する配慮を必要としないのであれば、前説明のとおり間隙を設けない浴槽を製作することが可能であるのであるから、そのような浴槽を製作することもできるのに、前説明のとおり被告が製造販売した被告甲浴槽には本件甲考案にいう間隙に該当する間隙が設けられており、且つ本件甲考案の効果と同一の効果を奏することが認められるのであるから、被告甲浴槽は本件甲考案にいう間隙の構成を採用するものであるというべきであつて、本件甲考案の考え方を採用しないものであるとはいえない。被告の右主張は理由がない。
4 被告甲浴槽が本件甲考案の構成要件(D)を充足するものであることはいうまでもなく明らかである。
5 右のとおりであつて、被告甲浴槽は、本件甲考案の構成要件をすべて充足するものであるから、本件甲考案の技術的範囲に属する。
(四) 被告は、原告は訴外アダン工業株式会社においてその職務として浴槽の研究、改良、設計等の業務を遂行していたものであり、本件甲考案も原告の任務の一部に属したものであるから、アダン工業株式会社は本件甲実用新案権について実用新案法第九条に準用されている特許法第三五条に規定する通常実施権を有したものであるところ、同会社は昭和三八年一二月化工機浴槽関係の事業一切、右事業のための一切の有体、無体の財産権を被告に譲渡して右事業部門を廃止したので、右通常実用権もまた被告に移転されたのであると主張する。しかしながら、成立に争いがない甲第一三、第一四、第二〇、第二一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる乙第九号証の六、七、第一〇号証の一によれば、原告は昭和三一年ころアダン工業株式会社に入社し、その在任中本件甲考案をし、その実用新案登録出願をしたものであることが認められるが、本件甲考案が原告の職務に属する考案であることを認めるに足りる証拠はなく、かえつて前掲甲第一三、第一四、第二〇、第二一号証によれば、本件甲考案は原告が琺瑯化学機器の販売のかたわら考案したものであつて、原告の職務に属する考案ではないことが認められる。そうすると、アダン工業株式会社が本件甲実用新案権について実用新案法第九条に準用されている特許法第三五条に規定する通常実施権を取得するいわれはなく、従つてまた被告が右訴外会社から右通常実施権の移転を受けるということもあり得ない。被告の右主張は理由がない。
(五) 被告は、仮に右(四)の項の主張が理由がないとしても、原告はアダン工業株式会社に在職中本件甲実用新案権について同社に対し無償かつ権利の存続期間全部の通常実施権を許諾したものであるところ、右通常実施権は同社から被告に譲渡されたと主張する。しかしながら、原告がアダン工業株式会社に対し被告主張のような通常実施権を許諾したことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて前掲甲第一三、第一四、第二〇、第二一号証によれば、原告は訴外会社に対し本件甲実用新案権について期間を原告の在職中とする通常実施権を許諾したが、後に原告は右訴外会社から同会社の親会社である被告会社に移籍し、被告会社も昭和四〇年四、五月ころには退職したことが認められるところであつて、仮に原告が許諾した通常実施権の期間の原告の在職中というのが被告会社に在職していた期間をも含むものであるとしても、右の昭和四〇年四、五月ころには右通常実施権は消滅したことになるから、原告が本訴で本件甲実用新案権を侵害したと主張する昭和四〇年七月二四日以降の被告の行為は右通常実施権が消滅した後の行為であり、右通常実施権をもつて原告の本訴請求を妨げることはできない。被告の右主張は理由がない。
(六) 以上のとおりであるから、前記争いがない被告の被告甲浴槽を業として製造販売した行為は、本件甲実用新案権を侵害するものというべく、そして被告は右侵害行為について過失があつたものと推定されるところ、右推定を覆すに足りる証拠はない。
従つて、被告は、原告に対し、右侵害行為により原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。
そこで、進んで原告が被つた損害について検討する。原告は、被告に対し、本件甲考案の通常受けるべき実施料相当額を損害として請求することができるものであるところ、被告が被告甲浴槽を別紙(〔編註〕省略)原告計算表(一)の販売先欄(1)及び(2)記載の販売先に、販売期間欄記載の期間、販売価額欄記載の一台当り販売価額で販売台数欄記載の台数販売したこと、被告が被告甲浴槽を同計算表(一)の販売先欄(3)記載の販売先に、販売期間欄記載の期間販売したことは当事者間に争いがないが、被告が、被告甲浴槽を同計算表(一)の販売先欄(3)記載の販売先に販売期間欄記載の期間販売した際の販売価額、販売台数が原告主張のとおりであること、それらが被告が自認する額、台数を超えるものであること及び被告甲浴槽販売についての実施料率が原告主張のとおりであることを認めるに足りる証拠はなく、成立に争いがない甲第二二号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、本件甲実用新案権の実用新案権者である原告とその実施者となる三基産業との間で、昭和四〇年八月ころ、本件甲考案の実施に対し実施料として実施に係る浴槽の販売価額の二パーセントの額を支払う旨の契約が締結されたことが認められ(他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)、右事実によれば、本件甲考案の実施に対する通常受けるべき実施料は少なくとも実施に係る浴槽の販売価額の二パーセントの額であると認めることができる。以上の事実によれば、原告が被告に対し損害として請求することができる実施料相当額は、1 別紙原告計算表(一)の販売先欄(1)記載の販売先について、当事者間に争いがない販売価額欄記載の一台当り販売価額金二万七、五五〇円に当事者間に争いがない販売台数欄記載の台数一、〇六九と前認定の実施料率一〇〇分の二を乗じた金五八万九、〇一九円、2 同計算表(一)の販売先欄(2)記載の販売先について、当事者間に争いがない販売価額欄記載の一台当り販売価額金一万五、三七〇円に当事者間に争いがない販売台数欄記載の台数一、三九八と前認定の実施料率一〇〇分の二を乗じた金四二万九、七四五円(円未満切捨て)、3 同計算表(一)の販売先欄(3)記載の販売先について、被告が自認する一台当り販売価額金一万二、四七〇円に同じく被告が自認する販売台数一、二七〇と前認定の実施料率一〇〇分の二を乗じた金三一万六、七三八円の合計金一三三万五、五〇二円となる。
(七) よつて、原告の被告に対する本件甲実用新案権侵害に基づく損害賠償請求は、右損害金一三三万五、五〇二円及びこれに対する不法行為の後であつて原告の請求に係る昭和四四年七月一六日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるので、これを認容し、その余は失当として棄却すべきである。
二 被告乙浴槽についての本件乙実用新案権侵害に基づく損害賠償請求について
(一) 原告が昭和四七年八月二四日、存続期間の終了した本件乙実用新案権の実用新案権者であつたこと、本件乙考案の願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の項の記載が請求原因三、(一)の項のとおりであること及び被告が昭和四三年四月一日から昭和四四年三月一九日までの間に被告乙浴槽を業として製造販売したことは当事者間に争いがない。
(二) 右争いがない本件乙考案の実用新案登録請求の範囲の項の記載によれば、本件乙考案は次の構成要件に区分説明することができる。
(A) 浴槽本体の上部端縁を外側にコ字状に折曲げて、その先端に内方折曲部を形成すること。
(B) 浴槽本体の外周壁面に保温層を被着すること。
(C) エプロンの上端に内方折曲部を形成すること。
(D) エプロンの上端を浴槽本体の内方折曲部と保温層間の間隙を通じてその上方に位置せしめること。
(E) エプロンの下端部を浴槽本体の下端又は中腹に設けられた受板に固定すること。
(F) エプロン付浴槽の構造であること。
(三) 右本件乙考案の構成要件及び前記争いがない被告乙浴槽の構造に基づき、本件乙考案と被告乙浴槽とを対比する。
1 本件乙考案は、浴槽本体の外周壁面に保温層を被着することを構成要件とするものである(構成要件(B))ところ、被告乙浴槽には本件乙考案でいう保温層なるものがない。
本件乙考案にいう保温層は、その語の有する普通の意味からいつて温度を保つ層、つまり浴槽内の湯水の温度を保つための層状の部材を意味するものと解され、更に成立に争いがない甲第二号証(本件乙公報)によれば、本件乙考案の保温層の説明として、「この保温層14としては通常発泡スチロール板等が最も適当な材料として使用される。この材料は保温用の役目をすると同時に、また後述のようにエプロンの上端折曲部21の先端を弾性的に受ける緩衝作用の役目をも兼ねる。」(本件乙公報一頁左欄二五行目ないし二九行目)、「上端の内方折曲部21の先端は保温層14の表面に弾性的に衝当るので、エプロン2の確実な保持が容易に達成される。」(同一頁右欄二行目ないし四行目)と記載されていることが認められ、右事実によれば、本件乙考案にいう保温層が温度を保つ作用を有する部材を意味することは明らかであるところ、被告乙浴槽の浴槽本体1の側面には一粍前後吹付塗装されたロツクウール材14があるが、これが浴槽内の湯水の温度を保つ作用をするものであることを認めるべき証拠はなく、従つてこれを本件乙考案でいう保温層であるということはできない。
また、本件乙考案の右考案の詳細な説明の項の記載によれば、本件乙考案にいう保温層はエプロンの上端折曲部の先端を弾性的に受ける緩衝作用を有する部材でもあると解されるところ、被告乙浴槽のロツクウール材14がそのような作用を奏するものでないことは目録の記載自体から明らかであつて、この点からも被告乙浴槽のロツクウール材14は本件乙考案にいう保温層に該当しないというべきである。
原告は、前掲本件乙公報一頁左欄二五行目ないし二九行目の記載を引用して、被告乙浴槽のロツクウール材14は右記載にいう保温作用及び緩衝作用を有するから本件乙考案の保温層に該当するとの趣旨の主張をするが、前説明のとおり原告の右主張は理由がない。
右のとおりであるから、被告乙浴槽は本件乙考案の構成要件(B)を充足しない。
2 次に、本件乙考案はエプロンの上端を浴槽本体の内方折曲部と保温層間の間隙を通じてその上方に位置せしめることを要件とするものである(構成要件(D))ところ、右にいう「その上方に」とは、文理上「保温層の上方に」の意味に解され、これに右1の項に掲記した本件乙考案の考案の詳細な説明の項の記載及びエプロンの上端に内方折曲部を形成するという本件乙考案の構成要件(C)を併せ考えると、本件乙考案は、エプロンの上端の内方折曲部を保温層自体の上部表面に弾性的に衝当るよう位置せしめる構成であると解される。これに対し、被告乙浴槽においては保温層がないことは前認定のとおりであり、従つてエプロンの上端の内方折曲部が保温層の上部表面に弾性的に衝当るよう位置せしめられている構造をとつていないことは明らかである。
従つて、被告乙浴槽は、本件乙考案の構成要件(D)を充足しない。
3 以上のとおりであるから、被告乙浴槽は、その余の点について検討を加えるまでもなく、本件乙考案の技術的範囲に属しないものといわなければならない。
(四) よつて、原告の被告が被告乙浴槽を製造販売した行為が本件乙実用新案権を侵害するものであることを理由とする損害賠償請求は、その余の争点について判断するまでもなく、理由がないので、棄却すべきである。
三 被告丙浴槽についての本件乙実用新案権侵害に基づく損害賠償請求について
(一) 原告が本件乙実用新案権の実用新案権者であつたこと及び本件乙考案の実用新案登録請求の範囲の項の記載が請求原因三、(一)の項のとおりであることは前記二、(一)の項に説明したとおり当事者間に争いがないし、また被告が昭和四〇年七月二四日から昭和四四年三月一九日までの間に被告丙浴槽を業として製造販売したことも当事者間に争いがなく、そして本件乙考案の構成要件は前記三、(二)の項の認定のとおりである。
(二) 右本件乙考案の構成要件及び被告丙浴槽の構造に基づき、本件乙考案と被告丙浴槽とを対比する。
1 前記二、(三)、2の項に説明するとおり、本件乙考案は、エプロンの上端の内方折曲部を保温層自体の上部表面に弾性的に衝当るよう位置せしめる構成であると解されるのに対し、被告丙浴槽は、エプロン2の上端折曲部21が保温材14自体の上部表面に弾性的に衝当るように位置せしめられている構造ではない。従つて、被告丙浴槽は、本件乙考案の構成要件(D)を充足しない。
原告は、被告丙浴槽にはエプロン支持材18が用いられているが、これはエプロン支持方法の一応用に過ぎず、エプロン2の上方折曲部21を伸し保温材14の表面を支えることによつて、エプロン2の取付方法も本件乙考案と全く同一となり、支持板18は不要となるから、被告丙浴槽は本件乙考案の構成要件(D)を充足するとの趣旨の主張をする。しかしながら、被告丙浴槽のエプロン2の上端折曲部21を保温材14自体の上部表面に弾性的に衝当るよう位置せしめれば、原告主張のようにエプロン支持材18を要することなくエプロン2の支持ができるものと解されるけれども、前説明のとおり被告丙浴槽はエプロン2の上端折曲部21が保温材14自体の上部表面に弾性的に衝当るよう位置せしめられている構造ではないのであるから、原告の主張は被告丙浴槽の実際の構造に基づかないものであつて、既にこの点において理由がない。
2 右のとおりであるから、被告丙浴槽は、その余の点について検討するまでもなく、本件乙考案の技術的範囲に属しないものというべきである。
(三) よつて、原告の被告が被告丙浴槽を製造販売した行為が本件乙実用新案権を侵害するものであることを理由とする損害賠償請求は、その余の争点について判断するまでもなく、理由がないので、棄却を免れない。
四 三基産業に対する債権の侵害に基づく損害賠償請求について
(一) 原告は、原告と三基産業との間において、昭和四〇年八月ころ、原告の本件甲考案の実施を三基産業に許諾する旨の本件実施契約を締結したところ、被告は関係諸会社及び三基産業に対し同年九月ころから口頭で、更に同年一一月一〇日付文書で本件甲実用新案権は原告ではなく被告及びアダン工業株式会社に帰属する旨の虚偽の事実を流布して、三基産業の本件実施契約に基づく本件甲考案の実施を妨害し、遂に右実施を不能にしたものであつて、被告の右行為は原告の三基産業に対する本件実施契約上の権利を侵害する不法行為を構成するものであると主張するので、この点について検討する。
成立に争いがない甲第二二号証及び原告本人尋問の結果によると、原告が三基産業に対し、昭和四〇年八月ころ、本件甲考案の実施を許諾する旨約したことが認められるところ、原告本人は、被告が三基産業の本件実施契約に基づく本件甲考案の実施を妨害することにより、原告の三基産業に対する右契約上の権利を侵害した旨供述するけれども、これを裏付けるに足りる的確なる証拠はなく、右供述部分のみから、被告が原告の三基産業に対する契約上の権利を侵害したものであると認定することは困難である。すなわち、成立に争いがない甲第七、第八号証の各一、二によれば、被告会社管財人及びアダン工業株式会社から、三基産業その他に対し、昭和四〇年一一月一〇日付で、被告らが琺瑯製和風浴槽について多くの実用新案権を取得しているものであるところ、右実用新案権の登録名義人は原告となつているが、これは単なる便宜上のもので、被告らは原告が権利者であることを認めておらず、現にそのための法的措置を進行させており、従つて原告と右実用新案権の譲渡、使用等について契約をしても無効となるおそれがあるのみか、種々紛糾が生ずることが多いとも思われるので、充分注意されたい旨記載された文書が送付されたことが認められるが、他方前掲甲第一三、第一四、第二〇、第二一号証によれば、被告から原告に対し本件甲実用新案権を含む原告名義の実用新案権について譲渡による移転登録手続を求める訴えが提起され、右実用新案権の帰属について原、被告間で訴訟上実際に争われたこと、右訴訟では第一、第二審とも被告の訴えが排斥されたが、原告は昭和三一年ころ被告会社の子会社であるアダン工業株式会社に入社し、その在任中本件甲考案その他の考案をし、原告名義で登録出願して登録を受けたが、右登録費用及び登録料はすべて右訴外会社が負担したものであり、また右考案は原告の職務に属するものではないが、右訴外会社の業務に属するものであつたことが認められ、右事実によれば、前認定の被告らが三基産業その他に頒布した文書には、結果的にみて被告らが右実用新案権の実用新案権者であるとの虚偽の事実が記載されていたことになるが、そのほかは事実に即した記載がされていたのであり、全体的にみれば、右文書が送付された当時としては、被告が前認定のとおり記載された文書を送付したことは無理からぬことであつたと認められ、被告が右文書を送付したことをもつて直ちに原告の三基産業に対する契約上の権利の侵害を構成するものということは困難である。更に、成立に争いがない甲第九号証の一ないし三、前掲第二二号証、証人野村栄の証言及び原告本人尋問の結果を総合すると、三基産業は被告らから前認定の文書の送付を受けた後、本件甲考案の実施についての計画を一部中止したが、それは、三基産業が原、被告間に本件甲実用新案権を含む実用新案権の帰属について紛争があることを知り、本件甲考案を実施すれば右紛争にまき込まれるかも知れないということをおそれ、本件甲考案の実施を原、被告らから異議の述べられるおそれがなかつた住宅公団に納入する浴槽の製造販売など一部に押えたからであると認められるところであつて、被告が三基産業の本件甲考案の実施をことさら妨害したためであるとは認められない。
原告本人は、被告の妨害行為のため、三基産業は原告との契約に基づいて立てた計画の三分の一の実施しかできなかつた旨供述するが、これを裏付けるに足りる的確なる証拠もない。
以上の判断によれば、被告が原告の三基産業に対する契約上の権利を侵害する不法行為をしたものとは到底認められないし、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
(二) 右のとおりであるから、原告の原告が三基産業に対して有する債権が侵害されたことを理由とする損害賠償請求は、その余の争点について判断するまでもなく、理由がないので、棄却すべきである。