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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)13841号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(一) 被告カネヨ水産の免責の成否

<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 本件事故現場は、東西に通ずる車道幅員13.0米の直線舗装道路上で、中央線の表示があり、両側に幅員約1.5米の歩道が設けられている。

(2) 被害車両の車幅は1.28米、長さ三米、第一事故車の車幅は2.47米、長さ9.14米、第二事故車の車幅は1.695米、長さ4.635米である。

(3) 訴外藤山運転の第一事故車は、本件道路中央線寄りを東に向けて時速約四〇粁で進行していたが、車道左端寄りを時速約四〇粁(ただし第一事故車よりやや遅い速度)で同方向に進行中の原告常太郎運転の被害車を、約一〇〇米追尾しつつ次第に接近し、本件事故現場手前において、これを追抜くべく、時速約五〇粁に加速して、その右後方約三米の位置まで接近した。両車両の位置関係から、そのまま進行すれば第一事故車が特に進路を変更しないでも被害車の右側を安全に追抜きできる状態にあつた。

(4) 一方、訴外土方は第二事故車を運転して第一事故車後方を同一方向に進行し、前記のような状態にある第一事故車に迫つて来たが、対向車とすれ違うまでにこれを追越せるものと思つて第一事故車を追越すべく時速約六〇粁で対向車線に進入してこれを並んだところ、十分にその前方に出ないうちに、対向車が意外に早く接近したのに驚いてハンドルを左に急転把し、そのため第二事故車左後車輪フェンダーを第一事故車右前輪の足かけ(ディスクホイルの突出部分)に引つかけるような形で衝突させた。

(5) 訴外藤山は、右のように追越しをかけた第二事故車のライトを自車のバックミラーで認めると同時に近接する対向車を認め、危険を感じたが、その次の瞬間に右衝突に至つたため、右衝突を回避する余裕はなかつた。

(6) 第一事故車は、右衝突によつて車体前部を左前方に振られるとともにハンドルを左に取られ、同車運転の訴外藤山は急制動の措置に出たがハンドルを右に戻すいとまもなく、第一事故車左前部を被害車右後部に衝突させ、これを左前方歩道上に押上げて転覆させ、更にこれを押し進んで歩道脇のブロック塀を突破り、左右二条各八米のスリップ痕を残し、第二事故車との衝突地点から約25.6米進行して停止した。

(7) 第一事故車運転の訴外藤山は、当日、午前中の休みの後、午後一時頃、東京築地の魚市場に向うべく、鮪の箱約一屯を積んで松本市を出発したが、車両運転のため特に精神的肉体的な支障はなかつた。

(8) 訴外藤山は、本件事故後、再び第一事故車を運転して松本市に帰つたが、その際も同車のブレーキ、その他の機構に異状になかつた。

以上の事実が認められ、<証拠判断略>。

右事実関係のもとにおいては、第一事故車の運転者訴外藤山にとつて、被害車の追抜きにかかる以前に第二事故車が更に自車を追越そうとしていることを予知すべきことは期待できず、また第二事故車の追越しを認めもしくは認めうべき時期以後において第二事故車もしくは被害者との接触を回避すべき措置に出ることもまた期待できないし、更に第二事故車と衝突した後の措置についてもとがむべき点はないものというべく、その他運転上の過失はないものといわざるをえない。本件事故は、第二事故車が、第一事故車を追越そうとするに当り対向車との距離の目測を誤り、しかも道路左側部分の幅員が六米以上あるのに被害車追抜中の第一事故車に対してさらに道路中央を越えて追越しにかかり、そのうえ、第一事故車の動きを意に介することなくハンドルを左急転把してその前に割り込もうとしたことによるものであつて、これは第二事故車運転の訴外土方の一方的過失に起因するものというべきである。また本件事故と因果関係を有する第一事故車の運行供用者の不注意、同車の構造上の欠陥、機能上の障害もなかつたものと認められる。

従つて、被告カネヨ水産は自賠法三条但書によつて免責されるものといわなければならない。

(二) 被告アロハカーレンタルの抗弁

(2) 示談の成否

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。

(イ) 同被告は、訴外住友海上火災との間に第二事故車につき対物五〇万円、対人二〇〇万円の任意責任保険契約を締結していた関係から、本件事故後、同被告の損害賠償額支払いについての事務処理を同社に任せていた。

(ロ) 本件事故による原告らとの示談交渉には、もつぱら被告カネヨ水産の当時の代表取締役訴外関が応対していたが、原告ら、ことに同常太郎は、事故後相当期間の入院を余儀なくされたため、生活費にも窮し、ことに購入間もなかつた被害車の月賦代金の支払いに苦慮していたことから、同人に対してまず車両損害金の支払いを早急になすべく求めていた。

(ハ) 被告相互間においては、被告カネヨ水産において訴外同和火災海上保険株式会社との間で対物三〇万円、対人一〇〇〇万円の任意責任保険に加入し、被告アロハ・カーレンタルにおいても前記任意保険に加入していたが、原告らの右要請に応じ、とりあえず、被害車の車両損害三七万二〇〇〇円に第二事故車の車両損害金を含めて、これを被告アロハ・カーレンタルの右任意保険によつて支弁すべく、これらを同被告が負担することを約し、その旨記載の示談書(第一乙および第四号証)を付して、訴外住友海上火災に対して保険金支払請求の手続をとつた。

(ニ) 右請求を受けた訴外住友海上火災の担当者石井は、右物損の全てを同社の保険で支弁するについては、本件事故に基づく人損を含めて被告相互の負担配分を決定し、もつて後日の対人保険の支払いに争いが残らないようにしようとし、独自の調査に基づいて、本件事故における訴外土方および同藤山の過失割合を、前者三に対して後者七と断定し、この判断を基礎に被告アロハ・カーレンタルの負担部分として原告常太郎および被告カネヨ水産の車両損害のみを填補し、原告らのその余の損害は被告カネヨ水産の負担分として処理しようと考えた。

(ホ) そこで、右石井は、昭和四二年五月ごろ、原告登美および原告らの委任を受けてこれに同行した訴外寺田秀夫に対して、原告らは人身損害については一切被告アロハ・カーレンタルひいては住友海上火災に請求せず、これを被告カネヨ水産に対して請求する旨記載した訴外住友海上火災宛の念書文案を示し、右負担割合についての判断を示したうえ、人損を含めて被告両名の負担配分が決定しなければ車両損害保険金は支払えない、従つて右念書を差出さなければ車両損害保険金は直ちには支払えない、人身損害については被告カネヨ水産が責任をもつて支払うし、そうでない場合でも住友海上火災と同和火災海上とが過失割合に応じて責任を持つ旨説明し、原告登美および右寺田はこれを諒として右念書に同常太郎名義の記名押印をして差出した(乙第二号証の一)。一方、原告常太郎から車両損害金の支払いを催促され同原告の意を受けてその支払いを求めて来た被告カネヨ水産の訴外関に対しては、同被告の車両損害を住友海上火災において填補する代り、原告らの人身損害は同被告において一切負担して同社に迷惑をかけない旨記載した念書文案を送付し、右念書を提出して書類を完備しなければ原告常太郎に対する車両損害保険金は直ちには支払えないとして、同原告の窮状を察し、しかも同被告においても若干の過失があり、その損害分を負担しなければならないと信じていた同人は、右念書の効果に深く思いを致すことなく、これに同被告の記名押印のうえ、同社に差出した。

以上の事実が認められ、<証拠判断略>。

そうとすれば、原告らは、アロハ・カーレンタルの代理権を有する訴外住友海上火災に対して、本件事故に基づく原告らの人身損害の賠償請求権を放棄する旨の意思表示をしたと認められるが、右認定のとおり、右意思表示は、被告相互間の損害賠償義務の負担割合について一方的判断を下した訴外住友海上火災担当者石井の説明により、被告カネヨ水産にも過失に応じた過半の責任があり、右過失割合に従つて同被告が責任を負担するから、いずれにしても人身損害につき任意保険の保険金の裏付けある填補を受けられるものと信じて右意思表示をしたものと認められる。しかるに、被告カネヨ水産が責任を全く負担しないこと前認定のとおりであるから、原告らの被告アロハ・カーレンタルに対する債権放棄の意思表示は、契約の重要な基礎において錯誤があり、要素の錯誤としてその効力を有しないものと解すべきである。

従つて、被告アロハ・カーレンタルは、原告らに対する後記損害の賠償義務を免れない。

(坂井芳雄 浜崎恭生 鷺岡康雄)

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