東京地方裁判所 昭和42年(ワ)14109号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕二、本件事故現場は歩行者横断禁止の道路であることは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば次の事実が認められる。
(一) 本件現場は国道二四六号線通称青山通りの赤坂見付交差点の東南方約一〇〇〇米、青山一丁目交差点の西北約四〇〇米の地点で、道路の車道幅員三〇米、両側に各五米の歩道があり、車道中央部分に幅三米の中央分離帯(グリーンベルト)が設置されている。中央分離帯は約二〇糎高さの盛土がしてありその上は芝生が植られ、高さ約0.7米の植樹が約五米間隔に植えられている。両側車道はアスファルトで舗装され各四車線に区分されており、直線、平垣、乾燥した道路である。
(二) 本件現場付近西側は東宮御所があり高さ二米の石垣が連つており、道路東側はカナダ大使館心臓血管研究所となつており、カナダ大使館と心臓血管研究所の間には幅5.2米の道路があり本件道路と丁字型に交差している。
(三) 夜間道路照明は水銀灯七〇〇W、街路灯等が設置されているが、うす暗い場所で車道上では前方約五〇米の障害物を識別し得る。夜間車両の交通は繁しいが歩行者はほとんどない。
(四) 道路の制限速度は中、高速車道は毎時五〇粁となつており、歩行者横断禁止の標識は道路両側の歩道上に設置されている。
(五) 訴外桜井は被告車を運転し時速約六〇粁で本件道路左側第二車線を赤坂見付交差点方面に向つて進行し、被告車の前方約二〇米位先の第二車線の右側の線附近を右から左に小走りに横断している訴外申三を発見し、危険を感じ急制動をかけ、ハンドルをやや右に切つたが及ばず、第二車線内で訴外申三に被告車を衝突させ、同人を約一〇米斜前方にはね飛ばし、死にいたらしめた。
(六) 訴外申三は当日晩訴外伊藤斉とともに訴外西村方の通夜に行き、飲酒のうえ帰途につき約一〇〇米位歩いて前記カナダ大使館横の道路から本件道路にいたり、タクシーを待つていたが、空車が来ないので、反対側に行つてタクシーをひろおうと考え、右伊藤が先に立ち本件道路を横断し、グリーンベルトを踏み越え、反対側の第二車線まで来たとき被告車に衝突された。
(七) 本件道路上に被告車のスリップ痕として右前輪19.5米、右後輪18.65米、左前輪19.9米、左後輪18.65米が残されていた。
(原告は、被告車の当時の速度は七〇粁であつたと主張するけれどもこれは次の理由で採用しない、すなわち、右認定のスリップ痕を基礎とし、乾いたアスファルト舗装道路の摩擦係数はほぼ0.6であることから計算すれば、被告車の制動初速度は約五五粁と算定されるが、訴外申三を約一〇米飛ばした点を考慮して、前記のとおり約六〇粁と認定したものである。
右(一)ないし(七)に認定した事実によれば、訴外桜井には制限速度を約一〇粁超えて被告車を運転し、前方右側に対する注意を欠いたためグリーンベルトから下りて横断して来た訴外申三を第二車線右側の線附近に来てはじめて発見し発見の遅れた過失が認められ、一方訴外申三には、横断禁止となつており夜間でも車両の通行の多い幅員三〇米の車道を、中央のグリーンベルトを踏みこえて横断し、進行して来た被告車に対し注意を払わなかつた過失が認められる。従つて、被告の免責の抗弁は採用し難い。そして、右認定事実によれば訴外申三と訴外桜井の過失割合は訴外申三、八〇%、訴外桜井二〇%と認めるを相当とする。
三、<証拠>によれば、訴外申三は本件事故当時五九歳六月の健康な男子で、訴外扶桑動熱工業株式会社取締役副社長として勤務し、昭和四二年一月一日から同年七月三日まで6.1ケ月分の報酬は二、一〇七、二二〇円であつたことが認められ、右事実によれば本件事故により死亡しなければ申三は事故時よりさらに八年間程度は右会社の取締役副社長として就労可能であつたこと、そしてこの間一ケ月三四五、四四五円程度の給与を得ることができるものと推認でき、この間出費を免れる同人の生活費はその半額である一七二、七二三円と認めるを相当とする。一ケ月の純喪失額一七二、七二二円につき八年間の年別複式のホフマン方式により年五分の中間利息を控除すれば一、三六五万円(一万円未満切捨)となる。(荒井真治)