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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)2285号 判決 1968年12月11日

原告(反訴被告) テクニカルコード株式会社

右訴訟代理人弁護士 赤沢俊一

同 本間勢三郎

被告(反訴原告) 東京電気株式会社

右訴訟代理人弁護士 小川保男

同 堺田真夫

主文

一、昭和四二年(手ワ)第二八五号小切手金請求事件につき当裁判所が昭和四二年三月九日言渡した小切手判決はこれを取消す。

二、本訴原告の本訴請求はこれを棄却する。

三、反訴被告(本訴原告)は反訴原告(本訴被告)に対し金一、八六五、四七〇円およびこれに対する昭和四二年五月一〇日以降右完済まで年六分の割合による金員を支払え。

四、訴訟の総費用は全部本訴原告(反訴被告)の負担とする。

五、本判決は第三項に限り反訴原告(本訴被告)において金三〇万円の担保を供するとき仮に執行することができる。

事実

<全部省略>

理由

一、本訴請求原因事実についてはすべて当事者間に争いがないので被告の相殺の抗弁について判断する。

<証拠>を綜合すれば、昭和四一年六月二七日、原被告間に被告主張のとおり原告が被告に平行線アイボリーを継続的に製造納品する売買契約が成立したことを認めることができる。右認定に牴触する<証拠>は<証拠>に徴し容易に措信しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

しかるところ、原告が右約定の納期に反し納品を遅滞し、昭和四一年八月二五日以降は全く納品なく、現在に至るまで被告主張の数量の納品のないことは原告の明らかに争わないところである。ところが、原告は長さ八〇糎のもの(別表(一)記載Ⅰの商品)については、昭和四一年七月二九日以降被告の申出によって無期延期されたと主張し、<証拠>中右主張に副う部分があるが、右は直ちに措信し難く他にこれを認めるべき証拠はない。さらに、原告は、昭和四一年八月二七日原告からその後の取引については現金取引にして欲しい旨の申入れをしたところ被告は取引を一切破棄する旨宣言したから、原告は納品遅滞による責任はないという。しかしながら、<証拠>によれば、被告は当初の約定支払条件と異なる現金取引を拒否したのであって、従来の支払条件による納品をも受領を拒否する旨を述べたのではないことが認められ、右認定を左右できる証拠はないので現金取引に契約条件を変更する申入れを拒否することが信義に反すると認むべき事情の認められない本件においては、現金取引を条件とする納品を拒絶したからといって被告に受領遅滞の責任を問うことはできない。

しからば、原告は前記のとおり納期を過ぎて納品しなかったことによる責任を免れないところ、原告は、被告は本件小切手を振出した際、従前の原告の納品遅滞による責任を一切免除したものであると主張する。なるほど従来の買掛代金の支払のために小切手を振出すということは遅滞による責任を一応不問にして支払請求に応ずる趣旨であったということもできるであろう。しかしながら、その後に約旨に従って履行のなされることを期待して遅滞の責任を追及しないでおくという趣旨に解するのが相当であって、売掛代金受領後もなお遅滞ある場合にも従前の遅滞の責任を追及し得る余地もなくしてしまうものとは考えられないところ原告が右小切手を代金支払のために受領した後も納品をしなかったことは前認定のとおりであるから、原告は責任の免除を主張することはできない。

してみれば、原告は被告に対し、右履行遅滞による損害を賠償する義務あるものとしなければならないから次に損害およびその数額について検討する。

<証拠>によれば、昭和四一年三月頃から海外を中心としてイヤホーンの引合が増加し、月平均五〇万個ないし六〇万個を増産しても十分販売し得る状勢にあったので、月間五〇万個を増産する計画を樹てたが、イヤホーンの生産については主材料たるコードの供給事情が問題であったところ、当時被告は訴外有限会社新田ビニールから仕入れていたが、右新田ビニールの生産能力に限度があったので約二五%割高の単価ではあったが、前記のとおり原告からの納入を得てクリスマスを頂点とする利用者の需要に応ずることとしたこと、ところが、前述のとおり原告からの納品に不足があったので受注を拒まざるを得なかったことが認められ、右認定を左右できる証拠はない。してみれば、被告は右受注を拒まなければならなかったことによりイヤホーンの製造販売による利益を得られなかったものというべきである。

ところで、<証拠>によれば、昭和四一年七月一日から同年八月三一日までの間に被告が売渡したイヤホーンの売上価格(但しジヤツク付のものはジヤツク価格を控除)を納品数一万個以上を超えるものについて平均すれば、その価格はコード八〇糎のものを材料とした場合は別表(二)記載の別表(一)のⅠの場合一米のものを材料とした場合別表(二)記載の別表(一)のⅡの場合のとおりであることが認められる。

<証拠>によれば、イヤホーンの材料たる部品の仕入価格は端子板については前記期間に最も近い時期の仕入価格、組立済のコードについては右の期間中における最高価格その他のものについては右の期間中における平均価格をとれば別表(二)記載のとおり八〇糎のコードを使用した場合は一個当り八円八九銭、一米のコードを使用した場合九円九八銭であることが認められる。

そして右の期間中に売渡したイヤホーンの組立工賃は<証拠>によれば、当時被告は下請業者と工賃を協定しておりそのうち最も高い協定価格が別表(二)に記載したとおりであることが認められる。

さらに昭和四一年度における被告のイヤホーン製造に支出した材料費と組立工賃の総額と支出した経費の額との割合は<証拠>によれば後者が前者の一六%であることが認められ、<証拠>によれば当時被告は本件契約により納品せられたコードによってイヤホーンを製造するについて特に固定的な設備等をする必要のなかったことが認められるから、右の製造販売については右認定の比率により経費は増大するものとみるべく、これをさらに上廻る経費を要するものとすることはできないから、右比率に従い前認定の材料費組立工賃の合計額によって算定すると別表(二)記載のとおりである。

しかるときは、イヤホーンの売上価格より右材料費工賃経費を差引いた残額は原告がコードが被告から約定どおり納入せられたとき得べかりし利益というべきところ、その数額が八〇糎のものについては別表(二)記載別表(一)Ⅰの場合一米のものについては同表記載別表(一)Ⅱの場合のとおりとなるから、これに未納のコードの数量をそれぞれ乗じて得られる数額は得べかりし利益の総額である。しかるときはコード八〇糎のものの場合一、四〇三、五一一円、コード一米のものの場合一、九八一、五八五円、以上合計金三、三八五、〇九六円をもって得べかりし利益というべく原告は被告に対し同額の損害賠償義務がある。

しかして右の利益は販売によって得べかりしものであるところ、如何なる時期までに販売し得たかはこれを明確にする資料はないのであるが前認定の事実によれば利用者の需要の最も高い時期クリスマスまでには遅くとも販売し得るものであることは明らかであるから、昭和四一年一二月二四日に右の得べかりし利益喪失による損害を蒙ったものと認める。

しからば被告の相殺により本訴請求権はすべて消滅することとなるから被告の抗弁は理由があり、原告の本訴請求は失当として棄却すべきである。

三、よってさらに被告の反訴請求について判断する。

右に判断したとおり、被告は原告に対し損害賠償請求権を有するところ右請求権をもって前記のとおり本訴請求債権と対等額で相殺するもなお金一、八五六、四七〇円の請求権を有すること明らかであるから右金員およびこれに対する本件反訴状送達の日の翌日たること記録上明かな昭和四二年五月一〇日以降右完済まで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める反訴請求は理由があり認容すべきものである。<以下省略>。

(裁判官 綿引末男)

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