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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)31号 判決 1967年9月05日

原告 練馬農業協同組合

右代表者理事 加藤源蔵

右訴訟代理人弁護士 丸山悦昭

同 深沢守

被告 北町産業株式会社

右代表者代表取締役 鳴岡秋蔵

右訴訟代理人弁護士 高木新二郎

主文

本件手形判決はこれを取消す。

原告の本訴請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告の求める裁判および本訴請求原因事実として陳述する事実は、手形判決摘示事実のとおりであるからここにこれを引用する。

被告会社は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因事実はすべて認めると答弁し次のとおり抗弁した。

訴外保科栄一は昭和三六年七月六日設立された被告会社の代表取締役であったが、右設立以前に原告に対し本件手形金相当の借受金債務を負担していたところ、右のように被告会社の代表取締役となった後、被告会社を代表して原告との間に右借受金債務保証の契約を締結し、これが履行のために本件手形を原告に振出し交付したのである。しかしながら右保証契約については取締役会の同意を得ていないから無効である。被告会社は原告に対し本件手形金支払の義務はない。

原告は被告会社の抗弁に対し次のとおり主張して争った。

原告は被告会社の設立登記がなされる昭和三六年七月六日以前に本件手形金相当の金員を当時設立中の会社であった被告会社に対し貸付け、右貸借については便宜上右設立中の発起人代表である保科栄一個人の名義を用いたが、右貸付は保科栄一個人に対しなされたものではない。本件手形振出につき右保科が他の取締役の同意を得なかったとの原告主張事実は不知である。

立証≪省略≫

理由

請求原因事実はすべて当事者間に争いがないから被告会社の抗弁について判断する。

≪証拠省略≫によれば、被告会社は昭和三六年七月六日その設立登記がなされ、訴外保科栄一がその代表取締役に就任したのであるが、これよりさき右保科は原告から自己のために金銭を借り受け、自ら振出した本件手形金と同額の単名手形を交付しておいたところ、右債務は被告会社と何の関連もない債務であるに拘らず、他の取締役にはかることなく、右単名手形に代えて被告会社振出の本件手形を原告に交付したものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右の認定事実によれば訴外保科栄一は被告会社の代表者として自己の債務の引受をなし右債務履行のために本件手形を振出し交付したものというべく、右債務引受については被告会社の承認を得なかったものというべきである。ところで、右債務引受は被告会社とその代表取締役である保科栄一間の直接の取引ではないけれども、被告会社の不利益において右保科が利益を得るという実質関係からみて、商法第二六五条の適用あるものと解するのが相当であるから、右債務引受は取締役会の承認なき以上無効としなければならない。しからば、被告会社は原告に対し本件手形金支払義務を負うべきものではなく被告の抗弁(被告は保証契約というけれども右法律上の意見には拘束されない。)は理由がある。よって原告の本訴請求は失当であるからこれと符合しない手形判決は民事訴訟法第四五七条によりこれを取消し、原告の請求を棄却し同法第八九条により訴訟費用は被告の負担とし主文のとおり判決する。

(裁判官 綿引末男)

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