東京地方裁判所 昭和42年(ワ)3272号 判決
原告
小川満之助
ほか一名
被告
藤原鋼材株式会社
ほか一名
第一 主文
一、被告らは連帯して
原告満之助に対し金一、五四六、〇〇〇円
原告富美に対し金一、四六六、〇〇〇円
およびこれに対する昭和四二年二月六日から完済にいたるまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、原告らその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用は八分し、その三を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。
四、この判決一項はかりに執行することができる。
事実及び理由
第二本訴請求の趣旨
「被告らは連帯して
原告満之助に対し金四、二〇〇、〇〇〇円
原告富美に対し金三、八〇〇、〇〇〇円
およびこれに対する昭和四二年二月六日から完済にいたるまで年五分の割合による金員の支払をせよ。」との判決ならびに仮執行宣言。
第三争いない事実
一、死亡自動車事故発生
とき 昭和四一年六月一九日(日曜日)午後〇時一五分頃、
ところ 東京都足立区西新井町二七八番地先交差点(アスファルト舗装)
事故車 被告会社所有の自家用乗用車、ダットサン四〇年型、多摩五ひ六九九六号
右運転者 被告橋本
受傷死亡者 亡小川光春(軽自動二輪車、ヤマハ六二年型)、一東え〇三〇五号運転中)
態様 幅員約七・八メートルの東入道路(歩車道区別なし)を進行してきた事故車と、幅員約一〇・一メートルの南入道路(幅員各約三メートルの両側歩道また交差点手前に一時停止の標識あり)を進行してきた亡光春の二輪車とが出会がしらの衝突をし、ために亡光春は顛倒し、頸部挫滅創により死亡した。
二、責任原因について
被告会社は本件事故車をその運行の用に供しているものである。
三、損害の填補
原告らは強制保険金一、〇〇〇、〇〇〇円の給付を受け本件事故による損害に填補した。
第四争点
一、原告らの主張
(一) 責任原因
本件事故につき被告橋本に左のような過失があつたから、
同人は民法七〇九条により、従つて被告会社は自賠法三条により原告らの損害を賠償する責に任じなければならない。
すなわち被告橋本は時速六〇キロ以上で疾走してき、亡光春の進行してくる左方道路に対する見通しが交差角附近が空地のため極めて良好であつたのにかかわらず、左方への注意、状況確認を全くせず、徐行することなく直進通過しようとした過失は重大である。
これに対し亡光春に過失があつたとしても、道路左側を時速四〇キロ以内で進行し、一時停止の標識を街路樹の柳の葉のかげのために、また通り馴れぬところであつたために見過してしまつたが、交差点進入前事故車を発見し、衝突地点の十数メートル手前で急ブレーキをかけて事故を防ぐべく最大の努力を払つていた。そしてその進行路の方が事故車進行路よりは道路幅も広かつた。したがつて被告橋本の過失に比して亡光春のそれは軽小というべきである。
(二) 損害
1 葬儀費 四八三、七〇五円
原告満之助は亡光春の死亡のため、右出費を余儀なくされた。
2 逸失利益 各金七、九九一、五三五円
亡光春は事故当時専修大学経済学部二年在学中であつたが、死亡により失つた得べかりし利益の現価は、次のとおり金一五、九八三、〇七〇円となるが、原告らは父母として法定相続分に従い各二分の一あて右額を相続した。
(死亡時)一九才四ケ月(昭和二二年二月五日生)
(推定余命)四九・九九年(一一回生命表)
(稼働可能年数)二二才から六六才に達するまで四四年
(収益)別紙添付別表月収欄記載のとおり(労働大臣官房労働統計調査部作成、昭和四〇年賃金構造基本統計調査による)、
(控除すべき生活費)一二、六一八円(厚生省大臣官房統計調査部昭和四〇年都市勤労者世帯の月額消費支出が四・一一人で五一、八五九円になるのでその一人当り)(毎年純益)別表年間純益欄記載のとおり
(毎年純益)別表年間純益欄記載のとおり
3 慰藉料 各金一、五〇〇、〇〇〇円
亡光春は健康明朗な青年で将来を非常に期待した原告らにとつて、その死による衝撃落胆は、はかり知れないものがあり、これを慰藉すべく右金額が相当である。
4 弁護士費用 各金二五〇、〇〇〇円
被告らは本件損害につき任意に支払に応じないので、本訴請求のため訴訟委任をやむなくされ、謝金として各金二五万円あての支払債務を負担した。
5 原告らの請求額
原告満之助は右1、2、3、4の合計額のうち金四二〇万円を同富美は2、3、4の合計額のうち金三八〇万円を遅延損害金とともに請求するものである。
二、被告らの主張
(一) 被告らの無責
本件事故は左のとおり、もつぱら亡光春のみづから招いた自殺行為ともいえる一方的過失により発生したもので、被告橋本に運転上の過失はなく、本件事故は業務外に被告橋本が自宅に持ち帰つて晴海海岸にドライブに出ようとした際起つたもので、被告会社に運行供用者としての過失はなかつた。従つて被告ら側に帰すべき事故要因は全くなかつたので賠償義務は発生しない。
すなわち、亡光春は無免許で、約八〇キロの高速のまま一時停止の標識を無視し、前方注視を怠り、脇見運転で交差点に突入したため、先入した本件事故車の左側面中央に衝突したものである。
これに対し被告橋本は時速約三〇キロにて進行し、本件交差点に入るに際しては時速約一五キロに減速し、左右の進路に一時停止の標識があるため、これを信頼して先入したものであり、亡光春の暴走による突入は全く予測もつかず避譲の余地もなかつたものである。
(二) 過失相殺
かりに被告らに何らかの責任があるとしても、すでに述べたとおり、亡光春の過失は重大であるから、賠償額算定につき考慮されねばならない事案である。
第五争点に対する判断
一、責任原因
本件事故発生について後記のように亡光春に重大な過失があつたことはいうまでもないが、左のように被告橋本に過失が認められるから、同人は民法七〇九条により、従つてまた被告会社は事故車を運行の用に供するものとして、支配排除の特段の事情も認められないので自賠法三条により、いずれも原告らの損害を賠償する責に任じなければならない。
すなわち被告橋本は交差する南北道路に一時停止の標識があることに気をゆるして、空地のため見透しのよい左方に対する注意も衝突直前まで全く払わずに制限時速約四〇キロを下らないまま本件交差点を通過しようとした点、市街地である現場の運転として注意義務を欠いたものというべきである。(〔証拠略〕)
なお、〔証拠略〕には右認定に反し当時の事故車のスピードが低速で、徐行したむね述べるところがあるが、目撃者の警察官面前調書である甲第六号証の四の記載に反するし、亡光春の車と衝突後も事故車はその進行方向に向つて約一四・七メートルのスリップ痕を残して前進し道路左側ブロック塀に衝突して回転右下に横転している現場の状況からも、にわかに採用できないところである。
二、損害
(一) 葬祭費 金二〇〇、〇〇〇円
亡光春の年令などを考慮し原告満之助が出捐した範囲内で右額を本件事故による損害とするのが相当である。
(二) 逸失利益 各金三、一六五、〇〇〇円
亡光春は事故当時一九才、専修大学経済学部二年在学中であり、健康で大学卒業後は化学工業染料などを扱う原告満之助の経営する株式会社小川商店の従業員として稼働する予定であつた。右会社の給与、労働大臣官房労働統計調査部の昭和四〇年度労働統計年報による賃金構造基本統計調査など考慮して、亡光春生存の際の得べかりし利益の現価は次のとおり金六、三三〇、〇〇〇円とするのが相当であり原告は父母として法定相続分に従い各二分の一あて死亡により亡光春が失つた右請求権を相続した。
稼働可能年数、二二才から六三才まで四二年間(死亡時一九才)
収益 年収六〇〇、〇〇〇円
控除すべき生活費 右収入の半額
毎年純収 三〇〇、〇〇〇円
300,000×(22.9-1.8)=6,330,000
(三) 慰藉料 各金一、五〇〇、〇〇〇円
未来を嘱望していた二男光春を失つた父母として、原告らを慰藉すべく、右額が相当である。(〔証拠略〕)
三、過失相殺
しかしながら本件事故発生について亡光春には、一時停止の標識を無視して制限時速四〇キロを下らない速度で本件交差点にさしかかり、直前交差点の危険を感じて制動をかけたがおよばず約一〇・六メートルのスリップ痕を残しつゝ、事故車の左側中央部に衝突のやむなきにいたつた重大な過失がある。そして現場の道路状況、優先権、車種の対比などから過失割合は亡光春六、被告橋本四とするのが相当である。
従つて亡光春の相続人である原告らの損害賠償請求権につき、被害者側の過失として六〇%の過失相殺を適用すべき事案である。
(〔証拠略)〕
そうすると被告らが負担しなければならない額は、原告らの損害合計額の各四〇%、すなわち原告満之助につき四、八六五、〇〇〇円の四〇%、一、九四六、〇〇〇円、原告富美につき四、六六五、〇〇〇円の四〇%、一、八六六、〇〇〇円となる。
そうして右被告らの負担額から、強制保険金一、〇〇〇、〇〇〇円を法定相続分に従い填補されたものとして、各五〇〇、〇〇〇円あて差引くと、未済残額は、原告満之助一、四四六、〇〇〇円、原告富美一、三六六、〇〇〇円となる。
四、弁護士費用 各金一〇〇、〇〇〇円
ところで被告らは任意に賠償額の支払に応ぜず、本訴請求のため、訴訟委任をやむなくされたが、事案の性質に従い、その費用として右額を本件事故と因果関係ある損害として加算すべきである。
そうすると、被告らに請求できる原告満之助の損害額は金一、五四六、〇〇〇円、原告富美のそれは金一、四六六、〇〇〇円となる。
五、結論
そうすると原告らの請求は被告会社に対しては運行供用者として、被告橋本に対しては不法行為者として、それぞれ主文一項掲記の金額にみつるまで支払を求める限度で認容すべきである。
訴訟費用につき、民訴法第九二条、第九三条、仮執行宣言につき第一九六条を適用した。
(裁判官 舟本信光)
別紙 <省略>