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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)3844号 判決 1968年1月26日

原告 戸部商事株式会社

右代表者代表取締役 戸部光衛

右訴訟代理人弁護士 二関敏

村田壽男

被告 富士建業株式会社

右代表者代表取締役 菊池泰二郎

<ほか二名>

右訴訟代理人弁護士 石井嘉夫

稲田寛

中村浩紹

主文

一、原告会社に対して、

(一)  被告富士建業株式会社は別紙第一物件目録記載の不動産に対してなされた別紙第一登記目録記載の仮登記の本登記手続を、

(二)  被告菊池泰二郎は別紙第二物件目録記載の不動産に対してなされた別紙第二登記目録記載の仮登記の本登記手続を、

(三)  被告江戸川木材工業株式会社は被告富士建業株式会社および被告菊池泰二郎がそれぞれなす前記(一)、(二)の本登記手続をすることにつき承諾をそれぞれせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一申立

1  請求の趣旨(原告の申立)

主文第一項と同旨の判決。

2  被告江戸川木材工業株式会社の申立

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二主張と答弁

1  請求の原因(原告の主張)

一、原告は昭和四一年五月四日被告富士建業株式会社(以下「被告富士建業」という)と継続的金銭消費貸借契約を締結したが、それと同時に右契約上の現在および将来の債務を担保するため、被告富士建業はその所有にかかる別紙第一物件目録記載の不動産につき、また原告に対し前記貸金債務につき連帯保証した訴外佐々木千代寿はその所有不動産につき、さらに同じく連帯保証をした被告菊池泰二郎はその所有にかかる別紙第二物件目録記載の不動産につき、それぞれ債権元本極度額一、二二〇万円の根抵当権を設定し、かつ右債務不履行の際には弁済に代えて被告富士建業および被告菊池はその所有にかかる右各不動産の所有権を原告に移転する旨の代物弁済の予約を締結しその旨の仮登記をそれぞれ別紙第一、第二登記目録に記載のとおり経由した。

二、しかして、原告は前記継続的金銭消費貸借契約にもとずき、弁済期を昭和四一年七月から同四二年六月まで毎月末日かぎり金一〇〇万円ずつ(ただし最終月は金一二〇万円)弁済すること、その支払を二回分怠ったときは期限の利益を失うこと利息は日歩三銭三厘、遅延損害金は日歩四銭とする旨の約定のもとに金一、二二〇万円を貸し渡した。

三、しかるに、被告富士建業は、(1)昭和四一年八月二日金三一万五、〇〇〇円、(2)同年八月一〇日金七五万円、(3)同年九月六日金四一万三、五〇〇円、(4)同年同月同日金七万一、〇〇〇円、以上合計一五五万九、五〇〇円を支払っただけで、その後は債務者たる被告富士建業はもとより連帯保証人ともに全然支払をしないので、約旨により同年一〇月末日の経過によって分割弁済の利益を失い、かつ、与信契約は終了し債権が確定した。

四、そこで原告は昭和四二年四月七日付の内容証明郵便による書面で、被告富士建業、同菊池に対してそれぞれ右元本残額一、〇六四万〇、五〇〇円およびこれに対する昭和四一年一一月一日より後記内容証明郵便到達日たる同四二年四月八日まで日歩四銭の割合による損害金九八万三、一三六円の債権のうち金七五〇万円の代物弁済として、被告富士建業所有の別紙第一物件目録記載の不動産と、被告菊池所有の別紙第二物件目録記載の不動産の各所有権を取得する旨の代物弁済予約完結の意思表示をしたところ、右書面はいずれも同年同月八日被告富士建業、同菊池らに到達した。したがって、原告は右書面到達の日に前記第一、二物件目録記載の不動産の所有権を取得したのである。

五、他方、被告江戸川木材工業株式会社(以下「被告江戸川木材」という)は、別紙第一、二物件目録記載の各不動産につき別紙第三登記目録記載の各登記を経由しているが、いずれも原告の別紙第一、二登記目録記載の各登記より後順位のものであるから、原告に対抗することができない。

六、よって、原告会社に対して、被告富士建業、同菊池はそれぞれ前記各仮登記の本登記手続を、被告江戸川木材は原告が右本登記手続をするにつき利害関係を有する第三者としてそれぞれこれに承諾すべき義務があるので、これを求めるため本訴に及んだ。

2  請求の原因に対する被告江戸川木材の答弁

一、第一項のうち、原告主張の物件につき、主張のごとき根抵当権設定登記ならびに停止条件付所有権移転仮登記の経由されていることは認めるが、その余は不知。

二、第二、第三項の事実はいずれも不知。

三、第四項の事実は不知。ただし、原告が本件不動産の所有権を取得した旨の主張は争う。

四、第五項のうち、被告江戸川木材が原告主張の物件に主張のごとき各登記を経由していることは認める。

3  被告江戸川木材の抗弁

原告主張にかかる代物弁済予約完結権の行使は以下に述べるとおり無効であり、したがって、原告はいまだ別紙第一、二物件目録記載の不動産(以下「本件物件」という)の所有権を取得したものということはできない。

被告江戸川木材が本件物件および原告主張の訴外佐々木千代寿所有の不動産(以下すべてを併せて「共同担保物件」という)を共同担保として、昭和四一年一一月二六日債権極度額一、〇〇〇万円の根抵当権を設定するにあたり、右共同担保物件に対しすでに原告のため債権元本極度額を一、二二〇万円とする根抵当権設定登記が経由されていたことはこれを認める。しかし右共同担保物件の価額は右抵当権設定当時においても二、五〇〇万円(そのうち本件物件の価額は約二、〇〇〇万円)を下らないものであったため、被告江戸川木材としては、原告の右担保権の実行がされても、なおその余剰をもって自らの債権の担保たりうる価値があると判断して右根抵当権を設定したのである。しかるに原告の主張するところによれば、その代物弁済予約完結権行使において、本件物件の価額をまったく一方的に時価を遙かに下廻る七五〇万円と定め、原告の被担保債権のうち右金額のみをもって本件物件の所有権を取得したと主張しており、原告がなおその残債権をもって他の担保物件を競売に付するときは、被告らが共同担保物件全体の価額を把握し、原告の債権極度額を控除してもなお余りある担保価値を目的として担保権を設定した後順位者の権利が恣意的に奪われるのみならず元来、根抵当権設定にあたり、代物弁済の価額をとくに定めず、予約完結権行使のときに残存する債権全額が物件の引当とされるのが通常であり、仮に債権額が物件額を上廻る場合には物件の客観的価値(時価)をもって、代物弁済価額とするのが当事者の意思に合致するものと解すべきであって、原告のごとく物件価額を遙かに下廻る価額を一方的に代物弁済の際の価額として充当するがごとき予約完結権の行使は許されぬものというべきである。されば原告の前記代物弁済の予約完結権の行使は債務者たる他の被告らとの関係においても効力を有しないものであり、したがって原告はいまだ本件物件の所有権を取得したものということはできないのである。

4  被告江戸川木材の抗弁に対する答弁

右抗弁は要するに、時価二、〇〇〇万円の本件物件の価額を、原告が一方的に金七五〇万円と定めてなした代物弁済完結の意思表示が無効であるというに帰着する。被告の主張する本件物件の時価が金二、〇〇〇万円であることは争わない。しかし、本件物件には、訴外株式会社常陽銀行のために先順位(第一、第二)の元本極度額を合計一、〇〇〇万円とする根抵当権が設定登記されているので、この先順位の被担保債権の額およびその他の諸費用を控除するときは本件物件の残存価値は金一、〇〇〇万円以下である。これとの見合いから原告は債権のうち金七五〇万円の弁済に代える趣旨で完結権を行使したのである。(本件物件の価額を金七五〇万円と定めたという被告江戸川木材の主張は見当違いである)。すなわち、原告の完結権の行使は確定した被担保債権と本件不動産の価格および根抵当権の債権極度額と比較してみても、何ら権衡を失するものではないから、原告の本件物件の所有権取得には疑義は存しない。

その他の主張はいずれも独自の見解であって原告はいずれも首肯し得ない。

5  被告富士建業、同菊池の関係

被告富士建業、同菊池は、いずれも適式な呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、また答弁書その他の準備書面を提出しない。

第三証拠関係≪省略≫

理由

第一被告富士建業および被告菊池泰二郎に対する主張(請求原因)について

被告富士建業および被告菊池はいずれも民事訴訟法第一四〇条第三項により請求原因事実をすべて自白したものとみなす。

第二被告江戸川木材に対する主張(請求原因)と同被告の主張(抗弁)について

一、請求原因事実のうち、(イ)本件物件につき原告主張のごとき根抵当権設定登記ならびに停止条件付所有権移転仮登記の経由されていること、被告江戸川木材が本件物件につき原告主張のごとき各登記を経由していることは当事者間に争いがなく、(ロ)その余の事実は、≪証拠省略≫によってこれを肯認することができ、(ただし原告の被告富士建業に対する金銭貸付は、継続的金銭消費貸借契約および代物弁済予約等より数前日に行われているが、右貸付債権をその対象とする旨を関係者間で合意していることが認められるから、その間の法律関係には何らの影響を及ぼすものではない。)右認定を動かすに足る証拠はない。

二、そこで被告江戸川木材の抗弁について審究するに、論旨は要するに、時価約二〇〇〇万円の価値のある本件物件を原告がこれを遙かに下廻わる七五〇万円と一方的に評価し、これを自己の債権額の一部の代物弁済に充当するごとき予約完結権の行使は不当であって効力を生じないというにある。しかして、本件物件の時価が約二、〇〇〇万円であることは原告の自白するところであり、これを原告が自己の債権額の一部たる七五〇万円の代物弁済にあてると明示したことは前に認定したとおりである。ところで、代物弁済予約の完結権を有する債権者がその権利を行使するにあたり、その目的物をいかに評価するか、すなわち代物弁済をもって債権額の全部に充当するか、もしくはその一部に充当するかは、まず当事者間の合意によって定められ、もしその合意が調わないときは代物弁済の予約完結当時における目的物の客観的価額によって決めるほかはないであろうが、代物弁済予約の完結権行使それ自体は、債権者の評価が目的物件の客観的価額と著しく隔絶しない限り、その効力を生ずるものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、本件物件の時価を約二、〇〇〇万円とみるべきこと前示のとおりであるが、≪証拠省略≫を総合すると、本件物件には原告の地位に優先する先順位担保権者として訴外株式会社常陽銀行が存在し、同銀行は元本極度額一、〇〇〇万円の根抵当権を有し、しかも代物弁済予約の完結当時、現実に債務者に対し元本一、〇〇〇万円の債権を有したことが認められ、これらの事実を考慮するときは、原告が本件物件に対し代物弁済予約の完結権を行使した当時、右物件を金七五〇万円と評価したことがその客観的価額と著しく隔絶したものということはできない。してみれば、原告のなした前示予約完結権の行使が不当であって効力を生じないとすることはできず、被告江戸川木材の前示抗弁は失当というほかはない。

第三結論

以上に認定した事実によれば、原告の被告ら三名に対する本訴請求はいずれも理由があるのでこれを認容し、訴訟費用は敗訴当事者たる被告ら三名に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡垣学)

<以下省略>

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