東京地方裁判所 昭和42年(ワ)4441号 判決
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〔判決理由〕右(一)認定事実ならびに東京手形交換所規則第二一条の規定および同条に関する手形不渡届の通知方式と異議申立事務等取扱要領(交換所通知昭和四〇年四月一日実施)の(8)異議申立提供金の返還の項の記載内容に照らすと、いわゆる不渡手形の支払銀行は、右不渡事由が支払義務者の信用に関しないものと認めるときは、支払義務者の委託にもとづきかつ不渡手形金額に相当する金員の預託を受け、東京手形交換所にこれと同額の現金すなわち異議申立提供金を提供して異議の申立をすることにより支払義務者に対する取引停止処分の猶予を受けることができるとともに、当該不渡手形の事故解消前においても、右支払義務者が別口の不渡発生により取引停止処分に付されもしくは異議申立の日より満三ケ年を経過した場合又は事故未解消のままではあるが、取引停止処分を受けるのもやむをえないものとして提供金の返還を請求する場合でも、右提供金は東京手形交換所から支払銀行に返還され、これに伴ない前記預託金も支払銀行から支払義務者に返還されることが明らかであつて、これらの点よりみて、支払義務者と支払銀行との間には一種の委任関係が成立しており、右預託金は、支払銀行が支払義務者から委託された事務の処理として異議申立提供金を出捐するについて要する費用に該当し、右提供金は、支払銀行が支払義務者に対する取引停止処分の猶予を受けるべく、手形不渡事由が支払義務者の信用に関するものではないことの疎明を補強するものとして手形交換所に提供する金銭たるにとどまると解される。それ故預託金および提供金は、いずれも不渡手形の支払を担保するものではなく、不渡手形所持人が不渡手形の支払について有する利益を保護することを目的とするものではない。かように右預託金および提供金の性質および使用目的があらかじめ、しかも極めて明確に、限定されており、かつ委託者を除いては、右提供金について受益権を主張しうる者の存することが前記交換規則上考えられないのであるから、提供金を手形交換所に提供する行為は、受託者たる被告のする信託法上の信託行為であり、提供金はその信託財産であつて、手形所持人たる原告はこれについての信託法上の受益者であるとする原告の主張は、その根拠を欠くものといわざるをえない。したがつて、貸金債権の成立および預託金交付の経緯が前記(一)の1認定のとおりであるからといつて、貸金債権をもつて預託金返還債務と相殺することが許されないということはできない。(萩原直三)