東京地方裁判所 昭和42年(ワ)5602号 判決
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〔判決理由〕一 請求原因(一)乃至(三)記載の事実は当事者間に争いがない。
右事実によると被告鳴海は民法七〇九条に基づき、被告会社は被告鳴海の使者者として民法七一五条に基づき本件事故によつて生じた原告の後記損害を賠償すべき義務がある。
二 よつて、原告の損害について審按するに
(一) 財産上の損害
(1) 本件建物倒壊による損害
≪証拠≫によると、本件事故による本件建物の破損状態は次のとおりであると認められる。すなわち、加害車が本件建物の階下店舗のシャッターを突き破つて店舗から洋裁室を経て奥玄関までつきぬけ室内の柱を折つたため、右車上に二階が落ちかかり同車を引き扱くと階上の重みで本件建物が倒壊する虞が生じた。そこで原告は建築業者に依頼して階上をまず取り毀して除去したうえで加害車を引き抜いたが、その結果本件建物は階下の台所と居間の部分が残るだけとなり、原告としてはこの部分を利用して他を新築しなければならない事態に陥つた。<中略>この認定によれば、本件建物は事故により直接倒壊したものではないけれども、被告らの損害賠償責任を論ずるに当つては、直接倒壊せしめたのと同視しうること明らかである。
ところで、本件建物倒壊による損害額の算定については、原告が本件建物とほぼ同一とみられる建物の新築費用を損害額とすべき旨主張するのに対し、被告らは本件建物の事故当時の価格によるべき旨抗争するので考えるに、一般に倒壊した建物を原状に復せしめる手段としては、建物の所有者が倒壊前その建物を他に処分しようとしていた事情があるとすれば事故当時における建物の価格をこれに賠償せしめることとするのも理由があるが、所有者自身右建物に居住し使用を続けようとしている事情の下では、所有者は、事故後も前と同種同等の建物を新築する必要がありしたがつて新築費用の支出を余儀なくされることとなるから、仮に右費用が事故当時における建物の価格を上廻らないならば右価額に相当する金員を受領することにより損害が発生しなかつたと同一の状態を回復しうることとなるが、右建物価格では新築費用を下廻る場合には新築費用自体が倒壊事故により建物所有者に生じた損害となるといわざるを得ない。ただその者は旧建物にかえて新築建物を取得する結果原状回復以上の利益を取得することとなるので、損害賠償の本質が原状回復にある点からしてその分は賠償額から除くべきである。そして、その方法としては、旧建物について経過した年数の耐用年数に対する割合に相当する額を新築費用から控除するのを相当とすると考える。これは、換言すれば、旧建物の新築費用が今回の新築費用と同額であつたと仮定した場合の事故当時の旧建物の価格を算定するためにいわゆる定額法(耐用年数に応ずる減価償却額を毎年一定とするもの)により減価償却額を算出するのと同じことになるのであるが、建物のように、その価格が年月の経過により急落せず、むしろ新築費用の逐年の価上りが既存建物の評価額にも強い影響を与えていること(この点は公知の事実として裁判所に顕著である。)の認められるものにあつては、この方法がもつとも合理的であると考えられるのである。
よつて、以下右観点にしたがつて本件事故につき検討するに≪証拠≫によると、原告は本件建物を他に処分する気持は毛頭なく今後も引続き家族と共にこれに居住し洋裁店を経営しようとしていた矢先本件事故に遭つて再築の必要に迫られるに至つたこと、そこで原告は本件建物の前記残存部分はそのまま利用して本件建物とほぼ同一構造及び規模の建物を新築し(但し、新築建物は二階の廊下部分が本件建物より一坪程広いが階下は却つて狭くなつている関係上結局全体的にみて本件建物より一坪程狭くなつている。)、その費用として金二〇二万一〇〇〇円の支出を要することとなつたのを認めることができ、そして、本件建物の耐用年数に対する経過耐用年数の割合が二割であることは原告の自陳するところであるから右新築費用金二〇二万一〇〇〇円から二割を控除した残金一六一万六八〇〇円が本件建物倒壊により生じた原告の損害となる(新築の規模が前と一坪程違うこと、及び旧建物の一部が新築に際し利用されたことは前記のとおりであるが、利用された小部分を除く全部が事故により倒壊した部分であり、その原状回復としての新築費用が右支出額なのであるから、右計算に際し坪数の相違や一部の残存を顧慮する必要のないことは当然である)。したがつて、原告の主張は右金額の限度で理由があるがその余は失当である。(倉田卓次 山口和男 原田和徳)