大判例

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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)6006号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕そこで、原告らの主張する池田の過失の有無について考えてみるに、証拠を総合すると次の事実を認めることができる。

すなわち、池田は、請求原因第二項のとおり責任分界点開閉器の挿入を命じるに先きだち、作業中であつた前田らに時刻を尋ね、停電終了予定時刻の一〇分前である旨の報告を受けた。そこで池田は、右停電終了時刻には本件電気室から部隊への送電を開始しなければならなかつたので、その準備として本件電気室まで送電することとし、責任分界点開閉器の挿入を命じたところ、下平がこれに応じて右開閉器を挿入するため本件電気室を出ていつた。その直後、池田は孝夫に対し本件電気室の窓を閉めるように指示したため、孝夫は窓を閉める作業にとりかかつた。その際、本件電気室の西側壁中三か所に設けられている回転窓はいずれも開放されていたところ、それらの窓は土間から窓下まで約2.2メートル、同じく窓上部までは約2.7メートルの高さにあり、それらの内最寄りの窓際には、右開閉器を挿入すると本件電気室内の装置中まず最初に通電する変成器が設置されていた。その変成器は、土間上約1.2メートルのところに据え付けられている高さ約0.6メートルの箱型のもので、その上部に後記端子がとりつけられていた。この変成器を支える鉄製パイプは、窓際部分においては西側壁から僅かに三七センチの距りを有するにすぎないところに設けられていた。

一方、下平は、数分後には前記開閉器の挿入を終えて本件電気室に戻り、池田に対してその旨報告した。そして、池田、下平に対し、油入開閉器の絶縁抵抗測定の方法を指導し、同人に孝夫とともに右測定をするよう命じた時、右変成器のアングルの上に右足をかけて乗るような姿勢になつていた孝夫が右手を変成器の端子に接触し、当事者間に争いのない本件感電死事故が発生するにいたつた。

ところで、池田は、請求原因第二項掲記の作業の開始にあたつて、孝夫ら作業員に対し、事故防止のための特段の注意を何らなさず、下平に対し責任分界点開閉器の挿入を命じた時も、右作業員らがそれぞれまもなく本件電気室の変成器のところまでは通電されるに至ることを当然に了知したものと軽信して、同人らにそのことを周知させて注意を喚起するようなことをせずに前記のとおり孝夫に対して窓を閉めるよう命じさらに前記のとおり下平が右開閉器の挿入を終えて戻り、その旨報告したときにも、孝夫らは下平の報告を耳にして本件電気室内の変成器まで既に通電されていることを承知し、各自において必要な注意を払うものと過信して、同人らが右挿入の事実を知つたか否かの確認すらしなかつた。そればかりか、池田は、その際同人らがそれぞれ如何なる部署にあつて如何なる仕事に従事しているかを改めて確認するような配慮をも払わなかつた。

以上の事実が認められ、前掲証人池田の証言中、池田は、下平に右開閉器の挿入を命じた後、孝夫、前田と三人で作業をやめて下平の報告を待ち、同人から報告がなされた後に再び作業に入つた旨の供述部分は、前記証人前田、同下平の各証言に照らし、到底信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、およそ本件電気室の如く高圧電気が流入しこれを調整する諸装置が設備されている区域において清掃等の作業をなした上、一旦中止していた区域への送電を再開するような場合においては、その区域の主任技術者であつて当該作業を指揮監督する立場にある者は、作業関係者に対し、通電が再開されることをもれなく明示して確実に告知し、高圧電気の流入に伴う危険に対する注意を喚起し、特に通電が開始された場合に高圧電流に接触することがある得る器械設備の周辺にいる作業員に対しては退避を命じるとか挙動の細部についてまでも具体的な注意を指示するなどし、さらに通電開始の前後を通じて作業関係者全員の動静に改めて配慮し、作業関係者それぞれがどこで何をしているかを十分に掌握して事故防止のため臨機の指示命令を発し得るよう格段の注意を払い、もつて感電事故の発生を未然に防ぐべき指揮監督上の義務を負担しているものというべきである。そして、このことは、当該作業が終了して後に通電を開始する場合においてももとよりであるが、作業終了前に通電する場合においては、それが後片付け程度のものであつても、尚更守られなければならないことである。

これを本件についてみるに、前記池田は、本件電気室の主任技官として、前記作業を指揮する立場にありながら、作業が終了しない段階で下平に対し漫然と責任分界点開閉器の挿入を命じ、しかもその折、孝夫が前記高窓を閉めるため前記変成器に接近することを当然予想し得た筈であるのに、右に説示した注意義務を何ら果さなかつたものであることは、先に認定した諸般の事実から明らかである。

しかして、前記池田に右のとおりの注意義務の懈怠があり、他方、後記のとおり孝夫が本件事故当時既に変成器に通電されていることを認識していたとは認められない以上、孝夫の本件感電事故死は、池田が右のとおり孝夫ら作業関係者に対し指揮監督上の注意義務を十分に果されなかつた過失により惹起されたものと認めるのが相当である。

(倉田卓次 奥平守男 相良明紀)

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