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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)6765号 判決 1970年5月28日

原告 内田豊治

右訴訟代理人弁護士 高島謙一

被告 有泉フミ

右訴訟代理人弁護士 楽名邦雄

主文

被告は原告に対し金三二〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三三年六月二日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決の主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決および仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

原告訴訟代理人は請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告は、被告に対して、東京地方裁判所昭和三二年(ワ)第七五〇四号約束手形金請求事件の確定判決に依り、金三二〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三一年一二月一日から支払済まで年六分の割合による金員の支払を目的とする債権をもっている。

二、原告は、前項の債権に基づき、前項の金員(但し附帯請求は昭和三三年六月二日以降)につき左記債権を目的として債権差押および転付命令を得、右正本は、昭和三三年一二月一七日債務者たる被告に、同年同月一三日第三債務者たる株式会社東京都民銀行(以下東京都民銀行と称す)に、それぞれ送達された。

金三四五、三一八円

債務者が第三債務者たる株式会社東京都民銀行銀座支店に対し有する月掛貯金たる債権

(昭和三三年二月より同年一一月までの毎月金五三、〇〇〇円宛の掛込金一〇ヶ月分)

三、しかし右第三債務者東京都民銀行は、被告に対する金六〇〇、〇〇〇円の貸金債権の担保として、被告の前項の債権に対し、昭和三三年五月三〇日質権を設定し、同年一二月三〇日右質権を実行した。従って、第二項記載の金三四五、三一八円の差押および転付債権は存在しないこととなった。

四、よって被告は、第二項において主張する、差押、および転付を受けた債権額に相当する金三二〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三三年六月二日より完済まで年六分の割合による金員を不当に利得した受益者であるから、原告は被告に対し、このうち、金三二〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三三年六月二日より完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める。

被告訴訟代理人は、答弁として、原告主張の請求原因事実につき、第一、二項および第三項のうち差押債権が存在しない事実を認め、第三項のその余の部分は知らない、第四項は争う

と述べ、抗弁として次のとおり述べた。

一、請求原因事実第一項記載の被告の債務について、原告の代理人清水光夫と被告との間に、昭和三四年一月一九日、左記の如き裁判外の和解が成立した。

(一)元利金を金三二一、四九五円とする。

(二)内金二一、四九五円は同日支払う。

(三)内金三二〇、〇〇〇円は昭和三七年五月より毎月末日に支払う。

二、しかしその後に至り、原告は、被告に対し、債権の請求をしないことを承諾した。

三、仮りに前記の主張が認められないとしても、被告と原告の弟内田東一との間に、昭和三九年一月一七日裁判上の和解が成立した(昭和三五年(ワ)第二二一一号家屋明渡請求事件)。

右和解によれば、被告は、右内田東一に競落家屋の代金一、〇〇〇、〇〇〇円を支払うと同時に、同人から右建物の引渡をうけること、被告と右内田東一との間には右債権以外の債権債務は一切存在しないことを確認することが定められており、従って原告の本請求は失当である。

原告訴訟代理人は、被告の抗弁に対し、その第一、二項の事実は否認し、第三項のうち内田東一が原告の弟であることは認めるが、内田東一の債権と原告主張の債権とは何等関係がない、よって被告の抗弁は失当であると述べた。

証拠≪省略≫

理由

原告が、被告に対して、金三二〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三三年六月二日より完済まで年六分の割合による遅延損害金の支払を目的とする債権を有していることは、当事者間に争いがない。

原告が、金三四五、三一八円の被告の東京都民銀行に対する月掛貯金たる債権のうち金三四五、三一八円について、債権差押および転付命令を得、右正本が、同年一二月一七日債務者たる被告に、同年同月一三日第三債務者たる東京都民銀行に、それぞれ送達されたこと、東京都民銀行が、被告の前記債権に対し、同年一二月三〇日質権を実行し前記金三四五、三一八円の差押および転付債権が存在しなくなったことは当事者間に争いがない。

そこで被告の抗弁について判断する。

乙第二号証の有泉フミ作成部分については被告有泉フミの本人尋問の結果により、清水光夫作成部分については同人名下の印影が同人の印章によるものであることは当事者間に争いがないので全部真正に成立したものと推認すべき乙第二号証によれば、原告の本訴請求にかかる債権について、訴外清水光夫が原告の代理人として被告との間に昭和三四年一一月二九日乙第二号証による裁判外の和解が成立した旨主張し、被告本人尋問の結果中にはこの主張に添う部分があるが、この供述部分は、原告本人尋問の結果に照し、信用できず、乙第三号証の一ないし三も未だ心証を惹かず、他に右清水光夫が原告の代理権を有していた旨の主張を認めるにたりる証拠はない。

また、原告が被告に対して債権の請求をしないことを承諾した事実は、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

被告と内田東一との間に昭和三九年一月一七日裁判上の和解が成立し、被告主張の如き内容の和解調書が作成され、また右内田東一が原告の弟であるとの主張は、原告と被告との間の債権債務とは何等の関係もなく、原告の請求を排斥する適法の抗弁となり得ないから採用の限りでない。

そうすると、東京都民銀行が質権を実行した昭和三三年一二月三〇日に、差押および転付にかかる債権は不存在に帰し、転付命令は実質上効力を生ぜざるに至り、被告は、法律上の原因なくして、原告主張の債務名義に基づく金三二〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三三年六月二日より同年一二月三〇日まで年六分の割合による金員の支払を免れて、これを利得し、このため原告が同額の損失を蒙ったことになるから原告は、このうち金三二〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三三年六月二日より同年一二月三〇日まで年五分の割合による金員の支払ならびに金三二〇、〇〇〇円に対する同年一二月三一日より完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるものといわなければならない。

よって、原告の被告に対する本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 長井澄)

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