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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)6841号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕民法第六一一条は『賃借物ノ一部カ賃借人ノ過失ニ因ラスシテ滅失シタルトキハ賃借人ハソノ滅失シタル部分ノ割合ニ応シテ借賃ノ減額ヲ請求スルコトヲ得』と規定しており、右規定の文言からすると、賃借人が賃借物の一部の滅失を理由として賃料の減額を主張する場合において、賃借物の一部の滅失が賃借人の過失によらないものであるということについて、賃借人が立証責任を負うものと解されないではない。しかし、右の規定は双務契約における危険負担について定めた民法第五三六条第一項によると、賃借物の滅失部分の割合に応じて賃料が当然に減額される(滅失部分の賃料債務は当然に消滅する)ことになるのであるが、賃貸借契約の賃料は当然には減額されず、賃借人の請求によつてはじめて減額される(その効果は賃借物の一部が滅失したときまで遡及するが)という権利関係の実体面の特則を定めたものであること、立証責任については、右の双務契約における危険負担についての一般規定である民法第五三六条の第一項と第二項を合わせて考えると、右条項は、双務契約の一方の債務者が自己の債務が履行不能となつたにかかわらず、反対給付を受けようとする場合には自己の債務の履行不能が相手方(債権者)の責に帰すべき事由に因るものであることについて立証責任を負うことを定めたものであり債権者が自己の債権(相手方の債務)が履行不能となつたことにより相手方(債務者)に対する反対給付(自己の債務)を免かれるためには、自己の債権の履行不能が、自己の責に帰すべからざる事由に因るものであることについて立証責任を負うということまで定めたものでないと解するのが相当であること、賃借人は賃借物について善良な管理者としての保管義務を負うが、この義務は、直接には賃借人の賃貸物を賃借人に使用、収益させる債務と対応するものではなく、賃貸借契約終了時における賃貸人の賃貸物返還請求権に対応するものであること民法第六〇六条によると、賃貸人は賃貸物の一部が滅失したときには、すくなくとも右滅失が賃貸人の責に帰すべき事由によるものでない限り(賃借人の責に帰すべき事由による場合については議論があるから暫く措くこととする)、その修繕義務を負い、その修繕がなされない限り賃借人は修繕されるべき部分に相当する賃料の支払を拒絶でき、さらに修繕がなされた場合においても、修繕がなされるまでの間、右の部分を使用収益することができなかつたことに因る損害賠償請求権(これは、通常は少くなくとも右部分の割合に応じた賃料額と同額になると考えられる)と賃料債権とを対等額において相殺することができると解されること等を合わせ考えると、民法第六一一条は前記のとおりの権利関係の実体面の特則のみを定めたものであつて、立証責任についてまで規定したものではなく、賃借人が賃借物の一部の滅失を理由として賃料の減額を主張する場合には、賃借人は賃借物の一部の滅失について立証責任を負うが、右滅失が賃借人の過失に因らないという点についてまで立証責任を負うものではなく、賃貸人が賃借物の一部の滅失が賃借人の責に帰すべき事由に因るということを立証することによつて、賃借物の一部の滅失にもかかわらず、賃料の減額を免かれることができると解するのが相当である。 (寺井忠)

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