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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)9802号 判決 1968年4月18日

原告

追林憲明

被告

日本自動車株式会社

主文

1  被告は原告に対し金三三万九六二五円およびうち金三〇万九六二五円に対する昭和四二年一一月一〇日から右支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は三分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

4  この判決は原告勝訴部分にかぎり、かりに執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告訴訟代理人は「1、被告は原告に対し金一〇四万五四八〇円、およびうち金九四万五四八〇円に対する昭和四二年一一月一〇日から右支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。2、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

二、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、原告の請求原因

一、昭和四二年四月一〇日午後三時三〇分ころ、東京都港区芝愛宕町一丁目一三番地先路上において、訴外土門忠雄の運転する被告所有の自動車品四そ二二三〇号(以下被告車という)と原告の運転するモーターバイクとが衝突し、原告は全治五ケ月の入院治療を要する右側脛骨、腓骨開放骨折の傷害を負つた。

二、被告は被告車の運行供用者である。

三、(損害)

(一)  得べかりし利益の喪失 金二四万五四八〇円

原告は事故当時料亭「光村」に勤務し板前見習および出前持ちとして働き、平均して月額三万六八五円の収入があつたが、本件事故のため、事故当日から入院中の五ケ月間は勿論、その後二ケ月間も歩行訓練などのため就労できず、その間、七ケ月分の給料および昭和四二年度夏の賞与として一ケ月分の給与相当額の収入をえられず、以上合計二四万五四八〇円の得べかりし利益を失つた。

(二)  慰謝料

原告は本件事故により七ケ月間の療養を必要とし、その間同僚から立ち遅れ、また被告からは治療費のほかの補償はされず、本件事故によつて原告の受けた肉体的精神的苦痛は多大であり、その慰謝のため七〇万円の支払を受けるのが相当である。

(三)  弁護士費用

原告は原告代理人となつた訴外長野国助ほか四名の弁護士に本件訴訟を委任し、着手金五万円を支払い、成功報酬五万円の約束をした。

四、よつて原告は被告に対し前項の合計金一〇四万五四八〇円およびうち前項(一)、(二)の合計金九四万五四八〇円に対する損害発生の後である昭和四二年一一月一〇日から右支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三、 被告の答弁

一、請求原因第一、二項の事実は認める。

二、同第三項の事実中、入院が五ケ月であつたことは認める。

その勤務先および収入は知らない。その余の事実は否認する。

第四、被告の抗弁

一、訴外土門忠雄は被告車を運転して南佐久間町方面から東京タワー方面に向けて進行し、本件事故地点付近に至り進行方向右側にある東急愛宕山ガソリンスタンドに入ろうとした。折から右道路には南佐久間町方面に向け自動車の流れがあつたが、道路中央付近で右折すべく方向指示灯をつけて停車していたところ、二台の対向してきた平行する自動車が停止して土門に対し先に通れとの合図をしてくれたので、右折をはじめ、その車の前面を徐行し、さらに一旦停止して二台目の自動車の側端と歩道との間の一・五米ほどの間から出てくる車の有無を確認しようとしていたところ、原告が東京タワー方面から時速五〇粁の速度で原告車を運転して右空間から出て来て原告車の右ハンドルを停車中の被告車の左側フエンダーに接触させて安定を失い原告の右足を被告車のバンバーのナンバープレインにはさめて負傷するに至つたものである。

すなわち土門は運転者として十分な注意をして運転し、一時停車していたもので何ら過失はなく、他方原告は右二台の自動車が進行を停止しているのを確認したのであるから、その前面を通過する自動車等のことを予見して徐行すべきところ徐行せず、かつ前方を注意せず速度を出しすぎて運転した過失によつて生じた事故であり、被告も被告車の運行について何ら注意を怠つていない。

二、被告車には構造上の欠陥も機能上の障害もない。

三、なお被告は原告の入院中の入院費、治療費、付添人費用等で合計六四万四一五九円を支出している。

第五、原告の右に対する答弁

一、抗弁第一項の中、原告に過失があり、被告および訴外土門忠雄に過失がなかつたことは否認する。当時東京タワー方面から南佐久間町方面に向けての道路は南佐久間町寄りの交差点の信号が赤のため多数車両が渋滞していたものである。かかる際右折せんとする土門は道路歩道端と車両間には一・五米以上もあいているから、そこを通過せんとする直進車の通行を予想して細心の注意を払うべく、また優先順位にある直進車の進行を妨げてはならないものである。しかるにこれを怠つて進行し、原告車の側面に被告車の前部を衝突させたものであつて、同人の過失は明らかである。

また原告は、時速二〇粁の速度で原告車を運転していたものであり、車両が渋滞していたため、被告車を通すためにその通路があけられていたことが容易に判断できなかつたものであり、被告車を発見したときはもうその右側部に衝突されたものであり、原告自身の過失は土門忠雄の過失と対比すると全くないといつてよい。

二、同第二項の事実は知らない。

三、同第三項中、治療費および付添料などの被告側で支払つたことは認めるが、その額は知らない。

第六、証拠 〔略〕

理由

一、請求原因第一、二項の事実は当事者間に争いがなく、右事実によると、被告はその免責の主張が成立しないかぎり、原告に対し原告が本件事故によつて受けた損害を賠償しなければならない。

二、よつて免責の主張について判断する。

〔証拠略〕によると、本件事故地点は南佐久間町方面と東京タワー方面とを結ぶ道路であつて歩、車道の区別があること、訴外、土門忠雄は被告車を運転して南佐久間町方面から東京タワー方面に向けて進行し、本件事故地点付近に至り、進行方向右側にある東急愛宕山スタンドに入ろうとしたこと、当時、右道路には南佐久間町方面に向け自動車が二列に並進していたので道路中央付近で一分間ほど停車して右折して道路を横断する機会を待つていたが、二台の自動車が停止して土門忠雄に対し「先に通れ」との合図をしてくれたので同人は右折をはじめ停止車の前面を一・五米の距離をおいて徐行しながら被告車を進行させたこと、ところで停止車の側端と歩道との間には一・五米ほどの間があつたがその車は幌つきの車でそのため側面の見とおしを妨げられたので、そこから出てくる車の有無を確かめるために停止せんとしたところ、被告車はやや斜めに進行していたのでその右前部が僅かに停止車の横線から進出し東京タワー方面から時速約二〇粁の速度で右空間から出て来た原告車の右側面に衝突し、原告車は歩道上に倒れ原告は負傷したことが認められる。証人土門忠雄の証言中右認定に反する部分は前掲証拠と対比して措信しない。ところで道路を横断するには、他の車の正常な交通を妨げてはならないのであるから、(道路交通法第二五条の二参照)横断せんとする土門は、前記空間から被告車の進行に気づかずに進行してくる車両の進行をも妨げてはならないのである。

そうだとすると、土門はそちらに対して徐行などはしたものの十分な警戒をせず停止車の左側の線で停止して安全確認することなく僅かに被告車を突出させた過失があると推定され、土門に全く過失がなかつたとは認められない。

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、被告の免責の主張は理由がない。

三、(一) 得べかりし利益の喪失いずれも成立に争いがない甲第一、二号証および原告本人尋問の結果によれば、原告は事故当時飲食店「光村」に勤務し、板前見習および出前持ちとして平均して月額三万六八五円(事故前三ケ月分の平均)の収入があつたが、入院治療に五ケ月間を要し、退院時もまだびつこをひきその後二ケ月間は療養し、その間就労できず七ケ月分の給料および昭和四二年度夏の賞与として一ケ月分の給与相当額の収入をえられず、合計二四万五四八〇円の得べかりし利益を失つたことが認められる。

(二) 精神的損害

原告本人尋問の結果によると原告は当時二〇才の男子であつたが本件事故のため五ケ月間入院し、安全に歩行できるようになるまで八ケ月間を要したこと、しかし、昭和四三年二月になつても、走ることや正座することができないことが認められ、また前記認定の傷害の部位、程度、治療期間、休業などの事情を考え合わせると、原告は多大の肉体的ならびに精神的な苦痛を受けたことが認められ、当事者間に争いがない被告が治療費、付添費を負担している事実を考え合わせるとその苦痛を金銭でもつて慰藉するとすれば七〇万円を相当とする。

(三) 過失相殺

被告は原告にも過失があると主張するので判断する。

証人土門忠雄の証言の一部および原告本人尋問の結果によると原告は東京タワー方面から佐久間町方面に向け原告車を時速約二〇粁の速度で運転してきたが前方の交差点の信号が赤であり事故現場付近で自動車が二列をなして停止していたので、車の列とガードレールの間の幅一・五米のところを、アクセルをゆるめて進行したこと、そしてガソリンスタンド入口付近で前方約五米の地点で停止していた車の前が二台分くらいあいているのに気づいたがその瞬間右横から衝突されたこと、原告自身は現場付近を一日に何十回も通行しておりガソリンスタンドに入る車のことのあることは良く知つていることが認められる。

証人土門忠雄の証言中右認定に反する部分は措信しない。

なお証人土門忠雄の証言によると、衝突後車からおりたとき南佐久間町方面にある信号が青であつて被告車の右側にはもはや車がなかつたことが認められるが、右証言も右原告本人尋問の結果と対比するとこれによつて衝突の時点には被告車の右側に車が全くなくなつていたものと断ずることはできない。

右事実によると、原告は、現場付近にガソリンスタンドがあり、そこへ道路を横断して入る車のあることは知つていたのであり、また停止している車は、その前を通過する車や人を通すために停止していることも多くあるのであるから、停滞している車の脇を走るに当つては単に前方の信号が「赤」だから停止しているものと軽信することなく車のため見えない死角から車や人がとび出すことも考えて十分に注意を払いつつ徐行して進行すべきであるのに、原告はこれを怠つて進行した過失があり、右過失も本件事故の一因となつていることが認められる。しかして、その過失を被告側の過失と対比すると、原告の方が交通法規上の優先権はあるが、他方安全確認をするに当つて、どちらが容易であるかといえば被告車の方はその構造からして停止車で隠されている部分への見とおしは容易でないのに反し、原告の方は、停止車の前に相当の空間があるかどうかを注意しつつ進行し、もしこれを発見すれば直ちに停止すれば容易に衝突の危険を感知して停止措置ができ、事故を容易に回避できるものと考えられる。そういつたことを勘案すると原告の過失と訴外土門忠雄、すなわち被告側の過失の割合は四対六が相当であると考えられ、損害賠償額は損害の約六割を相当とする。

ところで原告の損害は前に認定したように(一)得べかりし利益の喪失の損害が二四万五四八〇円、(二)精神的損害七〇万円の合計九四万五四八〇円であり、他方証人土門忠雄の証言によつて真正に成立したと認められる乙第二号証および同証言によると、被告は原告の治療費として四六万五七〇〇円、付添費として一六万四〇五九円、マツサージ料他として一万四四〇〇円を支出しており、合計六四万四一五九円の損害を負担していることが認められるので、本件事故による損害の総計は以上合計一五八万九六三九円と考えられる。よつてその約六割である約九五万三七八四円を被告で負担すべきであるが、既に負担している六四万四一五九円を差し引くと残額は三〇万九六二五円となる。

(四) 弁護士費用

原告が原告代理人となつた訴外長野国助ほか四名の弁護士に本件訴訟を委任したことは記録上明らかである。

そして弁論の全趣旨からして、原告は着手金五万円を支払い、成功報酬五万円の約束をしたものと認められる。弁護士費用はその事件の難易、請求認容額等に応じ、事故と相当因果関係にたつものは被告に負担を命じうるものと考えられるところ、本訴に即し右事情を考えると原告の右支出ならびに債務負担のうち、金三万円を被告において損害賠償として負担するのが相当である。

その余は、本件事故と相当因果関係に立つものではなく、原告において負担すべきである。

四、そうすると、原告の本訴請求は被告に対し前項(三)(四)の合計金三三万九六二五円およびうち前項(三)の金三〇万九六二五円に対する損害発生の後である昭和四二年一一月一〇日から右支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浅田潤一)

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