大判例

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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)9892号・昭40年(ワ)2762号・昭40年(ワ)2761号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕本件特許発明は、

「次の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)を要件として構成される、山形断面の紙掛け板に紙を掛け、これを針ガイド板の下側へ持つて行き、紙掛け板内側の両下針で紙に孔をあけてから、糸針および鈎針を前記針ガイド板の各案内孔を通じ紙の内側へ下降させ、糸針の綴糸を紙掛け板内部の移動爪で鈎針に掛け、糸針および鈎針の上昇後に紙掛け板が前方に復帰して紙を順次綴付ける製本糸綴機である。

(イ) 針ガイド板に糸針用案内孔および鈎針用案内孔があけられ、更に両孔の間に綴糸くぐり出し孔があけられていること。

(ロ) 糸針用案内孔および綴糸くぐり出し孔は、いずれも機械の先方の側の孔壁部を欠除した形に作られていて、この両孔が針ガイド板にあけられた上下貫通孔部により互に連絡するようになつていること。

(ハ) 綴糸くぐり出し孔と糸針用案内孔との間に、綴糸を下面で案内して前者の孔にくぐり出しかつ上面で同綴糸を一時的に抑止する部分が形成されていること。

(ニ) 上下貫通孔部内に、綴糸切断刃物が取付けられていること。」

をもつて構成されているものである。

ところで、発明とは一定の課題を解決すべき具体的手段をもつて構成されるものであるから、特許発明の構成要素を構成要件に分解し、特許発明をその結合として表現することができるのであるが、この場合、各要件は一個の発明を構成する部分として有機的な結合を形成しているのであるから、分解された各要件は相互に他の要件の存在を前提としていて、これを解釈するにあたつては、それらの間に矛盾なくしかも総合的に考察する必要があることも当然のことである。

本件特許発明において、綴糸を一時的に抑止する部分は、(ハ)の要件によつて「綴糸くぐり出し孔と糸針用案内孔との間に」形成されなければならないのであるが、一方(ロ)の要件によると「糸針用案内孔および綴糸くぐり出し孔はいずれも機械の先方の側の孔壁部を欠除」し、「この両孔が針ガイド板にあけられた上下貫通孔部により互いに連絡するようになつている」という構造として規定されており、これに、前掲甲第一号証(本件特許発明の公報)第一頁右欄一七行目から二八行目までおよび第二頁左欄二三行目から二五行目までの各記載をも考え合わせると、この一時的抑止部分は、針ガイド板自体に機械先方(針が貫通する位置を基準として製本各冊の進行方向を先方とする。以下同じ。)の孔壁部を欠除した形に作られた糸針用案内孔および綴糸くぐり出し孔とこれらを連絡する上下貫通孔部とによつて劃成された構造をもつべきものであり、かかる構造により、綴糸を下面で案内して綴糸くぐり出し孔にくぐり出し、その上面で綴糸を抑止するという機能を果すことが可能になるように形成されているものと認められる。かくして、糸針用案内孔と綴糸くぐり出し孔とが機械先方側の孔壁部を欠除した形に作られていることおよびこの両孔間で針ガイド板にあけられた上下貫通孔部が存在することという(ロ)の要件の意味を正当に理解することができるのであり、これらは、単に綴糸をくぐり出すための手段であるのみならず、(ハ)の要件における一時的抑止部分を形成するための手段でもあるというべきであつて、かかる一時的抑止部分の構造は、(ニ)の要件上も必須の前提となつているものと認められるのである。

ところで、本件(一)の物件においては、綴糸くぐり出し孔20と糸針用案内孔13の機械先方の側の孔壁部はいずれも欠除されておらず、両孔間の隙間22は、単なる綴糸をくぐり出す作用をもつのみであり、これらにより一時的抑止部分を形成する構造にはなつていないから、本件特許発明の技術範囲に属さないものといわざるを得ない。

また、本件(二)の物件においては、定台を針ガイド板15と前面板15'という前後二個の部分に分割し、その左右両端に間隙保持板15''・15''を介在させて、針ガイド板15を前面板15'とねじ付けすることにより、全巾にわたり隙間22を形成しているため、特に綴糸くぐり出し孔というものを設けてはおらず、ただ、右隙間22に、本件特許発明における綴糸くぐり出し孔に対応する作用効果をもたせているのであるが、原告ら主張のように、隙間22のうち比較的鈎針用案内孔14側の部分がこれに該当するとしても、それは、単なる溝であつて、同部分の機械先方の側を欠除した形に作られておらず、また、糸針用案内孔13は、機械先方にある針ガイド板15側をやや削つて横幅のある溝になつているけれども、これと隙間22とによつては、くぐり出された綴糸を一時抑止する部分が形成されてはいない。もつとも、鈎針用案内孔14も針ガイド板15側をやや削つて孔部となし、前記糸針用案内孔13および隙間22とあいまつて、針ガイド板における凸部が形成されており、これが、本件特許発明に対比し前後は逆ながら、あたかも本件特許発明における綴糸の一時的抑止部分のような外形を現出してはいるけれども、この凸部は、くぐり出された綴糸を一時抑止する作用をもつていないから、これが本件特許発明の(ハ)の要件にいう一時的に抑止する部分にあたらないことは明らかである。したがつて、本件(ニ)の物件も本件特許の技術範囲に属さないものというべきである。

以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、その余の判断をするまでもなく、いずれも失当として棄却すべきものである。(荒木秀一 宇井正一 吉井参也は退官のため署名押印なし)

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