大判例

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東京地方裁判所 昭和42年(刑わ)3516号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人は、その運転中のタクシーに、太田智を乗車させる意思がないのに、右太田が一方的に乗車方を強要して自動車の窓枠にしがみついたもので、これは自動車えの不法な侵入、若しくは侵入に類似する行為であり、被告人の自動車発進行為はこの不法行為を排除するため、やむを得ずなしたものであつて、違法性を欠き無罪である、と主張する。

証人太田智の供述及び被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書によると、太田智は帰宅の途次、判示御徒町駅附近で、流し中の被告人車に、タクシーを利用する意思表明の合図をしたところ、被告人もこれに応じて、直ちに右太田の待つていた地点に停車したのであるが、被告人は、太田の行先によつては乗車を拒否する意思であつたから、内側から客席のドアーも開けず、従つて太田を乗車させる前に、その窓口から行先を聞いたこと、太田は被告人のこの態度に接し、これは所謂乗車拒否であると断定して立腹し、車体左側運転席窓から頭を挿入し、車体中央部の窓枠に腕をまわして乗車拒否を責め、かつ、あくまで乗せるよう要請したが、被告人は食事に赴くとか、ガソリン不足等を申し述べてこれに応じようとせず、口論となつたが、この間太田において、乗車を要請したにとどまり、格別の暴言や、暴力を振うような態度は示さず、従つて被告人自身太田による身辺に対する危殆観念を抱いたこともなく、太田が車から離れる気配を示さないため、この上は車を発進させそれにより太田をして車体から離脱せしめる外はないと考え判示行為に及んだことが認められる。

右認定の事実に依拠して考えるに、被告人の態度は、明らかに乗車拒否である。夜の食事をとつておらず、またガソリンが不足であつたから、これらに便な方向に限つて客を乗せる意思であつた旨の主張は、乗車拒否を糊塗するための弁疏に過ぎないものと認める。仮りにこれらの事実が或程度事実であつたとしても、一たん要求に応じて停車したこと、その当時の運転状況、時刻からみて、それ以上運転継続が不可能な程度の空腹状態にあつたものとは認め難く、ガソリン注入も、一定の給油所以外では不可能であるものとは言えないから、これらの事実は、道路運送法第一五条、第六号所定のやむを得ない事由による運送上の支障があるときに該当しない。乗車拒否は違法である。これに対し拒否された者が、或程度、乗車方を強要したり、その態度を反省させるため、言動をもつて糺弾、叱責することは極めて自然であるところ、右認定の如き、太田の行為は、違法行為に対する糺弾、叱責の方法として、右の域を出ず、社会観念上、なんら非とする点はない。一方被告人としては、太田の要求に対して謝罪等をするのが、道義上からも当然であるところ、発進によつて太田を排除し、自己の非に対する追求から逃れ、もつて終局的に乗車拒否を完遂しようとしたもので、かかる態度こそ、指弾さるべきである。

従つて太田の行為に違法、不当な点はなく、また被告人には、弁護人所論の如き、太田との関連において、その当時保護さるべき法律上の利益は存在しない。

弁護人の主張は採用しない。(伊藤俊光)

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