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東京地方裁判所 昭和42年(手ワ)2595号 判決 1968年4月26日

原告 イクタツ米殼商事株式会社

右訴訟代理人弁護士 清水繁一

同 小宮正己

被告 株式会社川本製菓商会

同 川本与助

右両名訴訟代理人弁護士 日佐戸輝一

同 佐藤孝

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告らは原告に対し各自金四八万円およびこれに対する昭和四二年三月一二日から右完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり陳述した。

(一)  原告は訴外土屋賢一振出に係る金額金四八万円・満期昭和四二年三月一二日・支払地藤沢市・支払場所株式会社第一銀行藤沢支店・振出日昭和四二年二月一二日・振出地横浜市戸塚区・振出人さつき商事・名宛人兼第一裏書人被告会社・被裏書人白地・第二裏書人被告川本与助なる約束手形の所持人である。

(二)  右手形は第二裏書人たる被告川本与助において亀有信用金庫に取立委任裏書をなし、同金庫は満期に支払場所に呈示したところ、支払拒絶されたので返還を受け右取立委任文言および被裏書人の記名の抹消権限を授与して訴外江津巖に譲渡したものであるが、右江津巖は昭和四二年三月末頃倒産し、これが負債整理のため同年四月一三日同人方で開催された債権者集会において同人の営業に関する諸帳簿小切手帳等とともに債権者を代表する原告に本件手形を譲渡し、原告をして手形上の権利を行使せしめもって全債権者の債権の弁済に充当せしめることとしたものである。

被告らは主文同旨の判決を求め、原告の主張を争い次のとおり答弁した。

(一)  原告は正当なる手形所持人ではない。即ち、

本件手形の最終裏書は公然の記名式取立委任裏書であるから原告に至る裏書の連続を欠き手形法第一六条第一項により権利者たるの推定を受けないものである。また、本件手形は訴外江津巖が受取人白地で土屋賢一から振出交付を受け被告会社は右江津より割引のため譲受け受取人に自己の名称を補充したのであるが、自己資金がなかったのでさらに被告川本において割引依頼に応じて裏書譲渡を受け訴外亀有信用金庫から定期預金を担保として金四八万円を借り受けこれをもって割引金の支払に充てた。そして、右手形の取立を同金庫に委任し取立委任裏書をして交付した。しかるに不渡となったので返還を受け所持していたところ、江津巖の経営する江津製菓が倒産し、昭和四二年四月八日開かれた債権者会議に被告会社専務取締役川本正行が出席した際その席上他の債権者から右の倒産は被告会社との共謀による計画倒産ではないかとの疑惑をかけられこの疑いをはらすため川本正行が江津製菓の倒産により被告会社も多大の損失を蒙っている例証として外三通の約束手形とともに本件手形を他の債権者らに示したのであるが、債権者の一員として出席していた原告会社代表者榎本安治が預ると称して川本正行の返還の申出にも応ぜす今日に至っているもので、被告川本は訴外江津巖に本件手形を譲渡したとか、右江津巖が原告に譲渡したという事実はなく、原告は本件手形を不法に抑留しているのであるから正当なる所持人ではない。

(二)  本件手形になされた被告川本の裏書は公然の取立委任裏書であるから被告川本は右手形により手形上の責任を負ういわれはない。<証拠省略>

理由

一、被告川本与助に対する請求について

原告の本訴請求は被告川本が裏書人として償還義務を有することを理由とするものであるところ、被告川本が本件手形になした裏書は公然たる取立委任裏書であるから、裏書人として遡求義務を負う理由はない。尤も原告は被告川本は取立委任文言を抹消する権限を授与して訴外江津巖に本件手形を譲渡したと主張するのであるが、右主張事実を証明する資料はない。被告川本に対する本訴請求は理由なく失当として棄却せられるべきものである。

二、被告会社に対する請求について。

原告は裏書の連続する手形の所持人として本訴請求をなすものと解すべきところ、被告会社は本件手形は裏書の連続が欠けているという。

本件手形は受取人被告会社のなした被裏書人白地の第一裏書に続いて最終裏書として被告川本の取立委任裏書が存するのみであること当事者間に争いなく、取立委任裏書は裏書の連続については存在しないものとみなされるから結局本件手形は被裏書人白地の第一裏書のみ存するものというべく原告は裏書の連続する手形の所持人ということができる。よって、原告は手形法第一六条第一項により権利者としての推定を受くべきである。

しかしながら、<証拠省略>を綜合すれば本件手形を原告会社が所持するに至った経過は被告会社主張のとおりであることを認めることができる。右認定に反する各証言は右認定を左右する証拠とするに足らず他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によれば原告は訴外江津巖は勿論他の何人からも本件手形の交付を受けて手形所持人となったのではなく、被告会社専務取締役川本正行からみせられたものを返還しないでいるに過ぎないから手形上の権利を取得する理由はないものといわねばならない。<以下省略>。

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