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東京地方裁判所 昭和42年(特わ)74号 判決 1968年12月07日

本籍

千葉県佐原市佐原イ五一三番地

住居

同県市川市市川四丁目三番二号

会社役員

八木清

大正一一年六月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官小野慶造・弁護人出射義夫出席の上審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役六月および罰金四五〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円

を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予

する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都中央区日本橋蠣殼町二丁目一〇番地所在の株式会社和孝および和孝商事株式会社の代表取締役をするかたわら、保険代理店業および貸金業を営み、かつ右各会社の株式その他の株式および不動産を所有して、右各会社からの給与所得、株式配当所得、不動産の賃貸による不動産所得ならびに前記事業による事業所得を得ていたものであるが、自己の所得税を免れる目的をもつて、貸金業による収入を除外した外配当収入、不動産賃料収入の各一部を除外し、簿外預金を設定する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ

第一、昭和三八年分の実際課税所得金額が二、七二七万三、一〇〇円であり、これに対する所得税額は一、一八〇万五、五四〇円であるのにかかわらず、昭和三九年三月一六日、東京都中央区日本橋堀留二丁目五番地所在の所轄日本橋税務署において、同税務署長に対し、課税所得金額は七六一万三、五〇〇円でこれに対する所得税額は五六万一、二八〇円である旨の内容虚偽の確定申告書を提出し、右年分の正規の所得税額と申告税額との差額一、一二四万四、二六〇円を法定の納付期限までに納付せず、もつて同額の所得税を免れ

第二、昭和四〇年分の実際課税所得金額が一、九二七万三、二〇〇円であり、これに対する所得税額は六五二万二、九三〇円であるのにかかわらず、昭和四一年三月一五日前記日本橋税務署において、同税務署長に対し、課税所得金額は九二二万八、〇〇〇円でこれに対する所得税額は七九万七、九九〇円である旨の内容虚偽の確定申告書を提出し、右年分の正規の所得税額と申告税額との差額五七二万四、九四〇円を法定の納付期限までに納付せず、もつて同額の所得税を免れ

たものである。(各事業年度の逋脱所得の明細は別紙一および二の各修正損益計算書の、税額の計算は別紙四の税額計算書のとおりである。)

(証拠の標目)

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の上申書二〇通、大蔵事務官に対する質問てん末書九通および検察官に対する供述調書二通

一、大蔵事務官本林照利作成の

1  配当金調査書

2  不動産所得調査書

3  保険代理収入調査書

4  手形割引料調査書六通

5  貸付金利息調査書

6  不渡手形調査書

7  銀行調査書

8  雑損失調査書

9  借入金支払利息調査書

10  有価証券期末在高調査書

11  不動産異動状況調査書

12  預金合計表

一、長妻謙一郎の「八木殿との金銭貸借に係る件」と題する書面

一、田丸音吉の「手形の割引について」と題する書面

一、池田平一郎の上申書

一、岩井邦博の「和孝商事(株)に就いての手形割引の件」と題する書面および同人の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、長井竜治の上申書および同人の検察官に対する供述調書

一、吉川溪二の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、四宮孝の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、山家清の上申書および同人の検察官に対する供述調書

一、吉田琴の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、日本不動産銀行の回答書

一、出頭三郎の検察官に対する供述調書

一、石井宏の検察官に対する供述調書

一、町田四郎の検察官に対する供述調書(謄本)

一、押収してある以下の証拠物件(当庁昭和四二年押第八八〇号、以下末尾のカツコ内の数字はその符号番号)

1  手帳五冊(1の1ないし5)

2  総勘定元帳五冊(2の1ないし5)

3  社長手持手帳四冊(3の1ないし4)

4  不渡手形一袋か5)

5  貸出金御手控等一袋(6)

6  吉田琴関係書類償還金計算書等一袋(7)

7  借用証書一袋(8)

8  貸金利息計算メモ一袋(12)

9  株券台帳一冊(14)

10  銀行勘定帳二冊(21の1、2)

11  手形受払帳(22)

12  経費明細表一綴(23)

13  金銭出納帳一冊(24)

14  受取手形台帳二冊(44の1、2)

15  手形受払帳二冊(45の1、2)

16  金銭出納帳三冊(46の1、2、3)

17  経費帳一綴(47)

18  所得税確定申告書等一綴(49)

(手形割引料収入(別紙三)における期間計算について)

弁護人は、「本件手形割引は、通常の手形割引とは性格を異にし、単純な債権譲渡又は商品売買の場合と同様に取扱うべきである。すなわち本件では、手形の買受価格は額面金額(満期支払約束高)より前受利息計算に従つて控除された金額ではなく、当該手形の信用度に応じて額面金額より取引上値引きされた額である。従つて手形の買入れ代金支払分は経費であり、買入れた手形は額面金額いかんにかかわらず、棚卸資金に該当し、買入れた価格以上に売れた際に、利益が生ずるものと解さなければならない。」旨主張する。

しかしながら、まず手形は、振出人(又は引受人)に対する一定額の金銭債権を化体した有価証券であつて、その評価はあくまで手形金額によることを原則とするものである。従つてこれを割引により手形金額以下で取得した場合には、その手形金額と取得額との差額について割引料収入が構成されるのである。ところで通常の商品棚卸資産は、その仕入時においては利益(あるいは損失)を構成せず後日それを転売したときに利益(あるいは損失)が生ずるのであつて、税務会計上、割引の対象となる手形は、右商品棚卸資産とは根本的に異る取扱いを受けなければならない。さらに、企業会計上の発生主義の立場からは、主たる営業活動による収益は、それが用役の対価である場合には、時の経過とともに発生すると認識されるのであり、従つて未収収益についても、期間対応分は収益に計上すべきことが原則とされる。税法上継続企業たる法人の未収収益については右会計上の認識基準と同様の基準において把握すべきものと解されるが、所得税法上においても、対価を得て継続して行う事業については、用役の対価として収入すべき金額は、時の経過とともに確定するものと解すべきである。

本件は、継続的な手形割引業にかかる事案であつて、その手形割引料収入については、前述した観点から、割引日以降時の経過とともに日々実現し、期間対応分が当該事業年度分の収入金額となり、未経過分は翌期に繰越されると解さなければならない。

弁護人の右主張は、買入れ手形を商品棚卸資産と同視する誤りに立ち、かつ税務会計における期間計算を顧慮しないものであつて、採用に値しない。

(法令の適用)

判示第一の事実につき所得税法(昭和四〇年法律第三三号)附則三五条により改正前の所得税法六九条、判示第二の事実につき所得税法(昭和四〇年法律第三三号)二三八条。以上につき情状により各懲役刑と罰金刑を併科。

併合罪加重につき刑法四五条前段四七条本文一〇条、四八条二項。換刑処分につき同法一八条。刑の執行猶予につき同法二五条一項。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 小島建彦)

別紙二

修正損益計算書

八木清

自 昭和40年1月1日

至 昭和40年12月31日

<省略>

別紙一 修正損益計算書

八木清

自 昭和38年1月1日

至 昭和38年12月31日

<省略>

<省略>

別紙三

手形割引料収入の明細について

第一事業年度(昭和38年分別紙一<14>)

手形割引料収入 19,530,161円

<省略>

第二事業年度(昭和40年分別紙二<15>)

手形割引料収入 13,811,846円

<省略>

別紙四

税額計算書

<省略>

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