東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)180号 判決 1970年1月26日
原告 エビス食品企業組合
被告 東京地方検察庁検事大熊昇 外三名
訴訟代理人 片山邦宏 外三名
主文
本件訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一八〇号車件につき、原告は、「被告大熊昇が益子公一に対する公務員職権濫用被疑事件(東京地方検察庁昭和四一年検第一二六九九四号)につき昭和四二年六月三〇日付でした不起訴処分および北島武雄に対する公務員職権濫用被疑事件(同庁昭和四二年検第九二三一七号)につき同年一二月二〇日付でした不起訴処分がいずれも無効であをことを確認する。被告国は原告に対し二億三、一六〇万円およびこれに対する昭和四二年六月三一日から完済に至るまで年六分の割合による金員並びに昭和四二年七月一日から本判決確定にいたるまで年五七九万円の割合による金員を支払うこと。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を、第一四七号事件につき、原告は、「被告鈴木安一が井本台吉、川島興並びに緒方節郎に対する各公務員職権濫用被疑事件につき昭和四四年三月一〇日付でした不起訴処分および同月一二日付でした不起訴処分通知がいずれも無効であること、また、被告布施健が原告の昭和四四年三月二四日付『東地特第〇七六八号に係る措置要求』に対してした黙示的拒否処分が違法であることを確認する。被告国は原告に対し四、〇〇〇万円を支払うこと。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、右各請求の原因として、原告らは、次のように述べた。すなわち、
第一八〇号事件の原告は、食糧品の卸売を主たる業務とする企業組合であり、また、一四七号事件の原告は、右組合の代表理事でもあるが、大洋漁業株式会社の「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(以下独禁法という。)一九条違反行為および同社の魚肉ハム、ソーセージを取り扱う香川県の食品卸売業者らが結成する香川<は>会の同法八条一項一号違反行為によつて多大の損害を被つているので、昭和四〇年八月三日同法四五条一項の規定に基づき、公正取引委員会に対して、右の事実を報告し、その証拠も呈示して被害の排除等右各違反者に対し適当な措置を講ずべきことを求めたところ、同委員会事務局審査部審査室の職員で右事件を担当した益子公一および当時の委員長北島武雄は、前記違反事実を知りながら、また、原告らからの再三にわたる督促にもかかわらず、なんら適当な措置をとらなかつたので、第一八〇号事件の原告は、昭和四一年一二月六日付で益子公一を、昭和四二年八月一〇日付で北島武雄をそれぞれ公務員職権濫用罪で告訴し、第一八〇号事件の被告大熊昇は、東京地方検察庁検事として右被疑事件を担当し、捜査の結果、右両名の前記所為が公務員職権濫用罪に当ることを認識しながら、益子公一(昭和四一年検第一二六九九四号)については昭和四二年六月三〇日付で、北島武雄(昭和四二年検第九二三一七号)については同年一二月二〇日付で、不起訴処分にした。しかし、これらの不起訴処分は、それ自体職権濫用の行為であり、その処分通知も行政不服審査法所定の教示を欠き、公文書の偽造・行使に該当する等重大明白な瑕疵が存するので、当然無効というべきである。
また、第一四七号事件の原告は、右事件に関し、昭和四三年八月二六日最高検察庁に対し東京地方検察庁検事八巻正雄を公務員職権濫用罪で告訴したところ、検事総長井本台吉は、最高検察庁の検事をして事件の捜査をさせるべきであるにもかかわらず、東京地方検察庁に事件を回送し、もつて職権を濫用して右原告の最高検察庁に対して捜査並びに公訴の提起を求める権利を妨害し、東京地方検察庁検事川島興は、同庁に回送された右被疑事件を不起訴処分に付し、同原告より該不起訴処分の理由告知の請求を受けたにもかかわらず、単に「嫌疑なし」と告知したのみで、納得のゆく理由を示さず、もつて、職権を濫用して右原告の不起訴処分の理由を知るべき権利を妨害し、東京地方裁判所民事三部の裁判長裁判官緒方節郎は、右原告が検事総長井本台吉、東京地方検察庁検事八巻正雄、同川島興を被告として提起した不起訴処分無効確認請求事件につき、当該訴状に印紙の貼用がない故をもつて訴状を却下し、もつて聴権を乱用して右原告の裁判を受ける権利を妨害したので、同原告は、昭和四三年一〇月二九日高松地方検察庁観音寺支部に検事総長井本台吉および東京地方検察庁検事川島興を公務員職権濫用罪で告訴し、次いで、昭和四四年一月八日高松地方検察庁に東京地方裁判所判事緒方節郎を公務員職権濫用罪で告訴したところ、第一四七号事件の被告鈴木安一は、東京地方検察庁特捜部検事としてこれらの被疑事件を担当し、昭和四四年三月一〇日いずれも不起訴の処分をなし、同号事件の被告布施健は東京地方検察庁検事正として右原告から同年三月二四日付の「乗地特第〇七六八号に係る措置請求」なる書面を受領しながら何らの回答をもなさず、右請求を暗黙のうちに拒否したのであるが、右不起訴裁定、処分通知、黙示的拒否処分は、いずれも右被告らがその職権を濫用して同原告の告訴権の行使を妨害したものであるから、当然無効というべきである。
しかして、大洋漁業株式会社等の前記独禁法違反行為により、第一八〇号事件の原告は、企業の規模を縮少するのやむなきにいたり、これを原状に回復するためには、毎年五七九万円、二〇か年間、合計二億三、一六〇万円を要するところ、前記被告らの違法な不起訴処分によつて、同原告の大洋漁業株式会社等に対する右損害賠償の請求権を喪失するにいたつたばかりでなく、精神上の甚大な損害を蒙つた。
そこで、原告らは、各請求の趣旨記載のごとく前記不起訴処分・処分通知の無効確認および拒否処分の違法確認の請求と国家賠償法に基づき被告国に対して第一八〇号事件については、右物質的損害の賠償として二億三、一六〇万円およびこれに対する被告大熊昇が不起訴処分をした日の翌日たる昭和四二年六月三一日から完済にいたるまで年六分の割合いによる金員並びに精神的損害の賠償として昭和四二年七月一日から本判決確定に至るまで年五七九万円の割合いによる金員の支払いを、第一四七号事件については、精神的損害の賠償として四、〇〇〇万円の支払いを求めるため本訴に及んだと述べ、<証拠省略>
第一八〇号事件につき、被告国を除くその被告の指定代理人並びに第一四七号事件につき、被告らの指定代理人は、いずれも、本案前の申立てとして、主文と同旨の判決を求め、その理由として検察官の不起訴処分の当否は行政事件訴訟によつて争うことが許されず、また、不起訴処分の通知および不起訴処分の理由についての照会に対し回答をなさなかつたことは、いずれも、行政処分でないから、原告らの無効ないし違法の確認を求める訴えは、不適法である、と述べ、本案の申立てとして、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負損とする。」との判決を、また、第一八〇号事件につき、被告国の指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、右各事件の答弁として、原告ら主張の請求原因事実は認めるが、法律上の主張は争う、と述べ、<証拠省略>
理由
検察官の不起訴処分その他の行為の適否は、法律上該監督官又は検察審査会の専権事項とされているのであるから、たとえ、それが広い意味においては行政上の紛争と考えられるものであるとしても、裁判所の審査の対象となりえないものであり(最高裁判所昭和二七年一二月二四日大法廷判決、民集六巻一一号一二一四頁参照)、また、行政事件訴訟法が取消訴訟には当該行政処分と関連する損害賠償の請求の訴えを併合することができる旨を規定している(一六条一項、一三条一号参照)のは、取消訴訟が適法であつて本案の判断に親しむことを前提として、両請求に係る訴えがそれぞれ別個の訴訟として取り扱われることによつて生ずる審理の重複と判断の矛盾撞着を避けるため、本来被告および訴訟手続を異にする請求に係る訴えではあるが、特に併合することを認めたものであるから、単に関連請求に係る訴えであるということだけで、不適法な取消訴訟に損害賠償請求の訴えを併合して提起することは許されず、併合して提起された損害賠償請求の訴えは、不適法として却下を免がれないものと解するのが相当である。
よつて、本件訴えは、その余の点について判断するまでもなく、すべて不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 渡部吉隆 渡辺昭 斉藤清実)