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東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)191号 判決 1972年3月03日

東京都杉並区天沼三丁目二三番一〇号

原告

合資会社大鐘不動産

右代表者無限責任社員

小林幸之助

右訴訟代理人弁護士

久能木武四郎

東京都杉並区天沼三丁目一九番一四号

被告

荻窪税務署長

幡原寿治

右指定代理人

樋口哲夫

須藤哲郎

藤田誠一郎

稲永封吉

右当事者間の法人税更正処分取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

(原告)

「被告が原告に対し昭和四二年三月三一日付で原告の昭和四〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税についてなした所得金額・税額の再更正処分及び昭和四一年六月二九日付と昭和四三年三月三一日付でなした過少申告加算税賦課決定のうち、所得金額四〇万四九四六円に対応する額を超える部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

(被告)

主文と同旨の判決

第二原告の請求原因

一  原告は、その昭和四〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税につき、昭和四一年二月二八日欠損一、三七八万五、〇五四円として確定申告したところ、被告から同年六月二九日付で所得金額六二一万四、九四六円、税額二二八万五、五五〇円とする更正処分及び過少申告加算税一一万四、二五〇円の賦課決定を受け、さらに昭和四二年三月三一日付で所得金額二、〇四〇万四、九四六円、税額七九八万四、四七〇円とする再更正処分及び過少申告加算税二八万四、九〇〇円の賦課決定を受けた。

二  しかしながら、前記再更正処分のうち当初の更正処分の理由となつた二、〇〇〇万円の損金否認に起因する部分、すなわち、所得金額四〇万四、九四六円(再更正処分で新たに更正の理由とされた益金加算額一、四一九万円と確定申告の欠損額一、三七八万五、〇五四円との差額)に対応する額を超える部分は、次の理由により違法であるから取り消されるべきである。すなわち、

(一)  被告の前記再更正処分の理由のうち当初の更正処分の更正理由と共通する部分は、要するに、原告が、株式会社村上商店との間の東京地方裁判所昭和三九年(ヨ)第九四六四号不動産仮処分申請事件において、昭和三九年一二月二六日成立した和解条項に基づき、同商店に対し、昭和三九年一二月二六日一、〇〇〇万円、昭和四〇年一月一六日六、〇〇〇万円、同年六月三〇日二、〇〇〇万円、昭和四一年七月三一日一、〇〇〇万円の合計一億円の支払つたのは、原告が村上商店に対し別紙目録(一)記載の土地を賃貸していたところ、原告において同土地上にビルを建設するため右借地権を消滅させて原告にその使用収益権を回復しようとしたことから生じた両者間の紛争を最終的に解決する目的に出たもので、原告は、右金員を支払うことにより、村上商店をして地上の建物を取りこわさせたうえ前記土地の明渡しを受けてこれを利用することが明らかであるから、右金員は土地(借地権を含む。)の取得価額に該当するものであつて、これを繰延資産にあたるものとし本事業年度の償却費としてそのうち二、〇〇〇万円を損金に計上した原告の経理は否認されるべきである、という点にある。

(二)  しかし、前記一億円は別紙目録(二)記載の建物の明渡料であつて、同目録(一)記載の土地の借地権回収の対価ではない。すなわち、

別紙目録(一)記載の土地のうち(一)は原告が所有し、(二)、(三)は所有者大鐘正子から原告が賃借していたものであり、同土地上に存する同目録(二)記載の建物は村上商店の所有するところがあつたが、同商店による右土地使用の頴末は次のとおりである。

1 別紙目録(一)記載の土地は、戦前は大鐘保全合資会社がこれを所有し、同会社が右土地上に建物を建ててその一部を村上利春に賃貸していたが、昭和二〇年三月右建物が空襲により焼失したため、右建物の賃貸借は終了するに至つた。その後昭和二〇年一二月に至り村上利春から大鐘保全合資会社に対し、右土地を借り受けたい旨の申出があつた。大鐘保全合資会社としては、右土地が大鐘家二〇〇年来の土地であつて、同所にその店舗を構えていたところでもあつたので、終戦後の区画整理が施行された後には同所にビルを建築する計画であつたため、右区画整理が施行されるまでの間の一時使用を目的とするものであることを条件として右村上利春の申出を承諾した。右賃貸借が一時使用の目的であつたことは、当時建築資材が統制されていて普通建物の建築が不可能であつたこと及び昭和二〇年七月一二日勅令第四一一号戦時羅災土地物件令により当時は本建築物は許されず、バラツク建てのものしか許されていなかつたことからも明らかである。これを昭和二一年二月一日付で作成された右賃貸借契約証(乙第六号証)についてみるも、賃貸借の期間は戦災地復興区画整理施行によりバラツクを除却すべき間までであり、したがつて、バラツク建築を目的とする右賃借は暫定的一時使用の目的のものであつて、村上利春は右土地の借地権を取得しえず、賃貸借期間中は賃料の増減はなく、バラツク除却後区画整理が施行されて後改めて賃貸借の交渉をなす場合には、村上利春に対し時価により借地の希望の有無を優先的に交渉し、双方正義公平の観念に基づき協定すべきものと記載されており、また、右契約証と同時に作成された念書(甲第三四号証)にも、右と同旨の記載がある。したがつて、村上利春が右土地上に建てた建物もバラツクであり、昭和二六年ころには朽廃して使用に耐えなくなつたが、同人は右約定を無視し、大鐘保全合資会社の承諾を得ることなく、昭和二六年から翌二七年にかけてその増改築に着手した。このように、右賃貸借は、一時使用の目的のものであり、仮にそうではないとしても、右バラツクの朽廃により、遅くとも昭和二七年中には終了したものである。

2 大鐘保全合資会社は、村上利春が前記のとおり約定に反して増改築に着手したので、昭和二七年八月二日付内容証明郵便によりバラツク朽廃による一時使用の賃貸借の終了と前記約定に基づく借地条件の協定の履行を催告し、これに応じないときは直ちに右土地を明け渡すよう通告したが、さらに、右土地の隣地に興亜海上保険会社のビルが建築される際、村上利春が右土地の所有者であると偽り、隣地所有者として同意の調印をしたような事実もあつたので、昭和二七年一二月九日東京簡易裁判所に対し村上利春を相手方として家屋収去土地明渡しの調停を申し立てた。その結果、昭和二八年一二月二四日次のとおり調停が成立した(同庁昭和二七年(ユ)第六〇二号)。

(1) 大鐘保全合資会社は村上利春に対し、別紙目録(一)記載の土地を昭和二九年一月一日から六〇年間堅固な建物所有の目的で賃貸すること。

(2) 賃料は一か月七万二五一円とし、毎月末日限り支払うこと。

(3) 村上利春は大鐘保全合資会社に対し、右借地権設定の代償として六、七〇〇万円を次の方法により支払うこと。

(ア) 昭和二八年一二月末日五〇〇万円(保証金として支払最終日に六、七〇〇万円の一部に充当)

(イ) 昭和二九年六月三〇日三、二〇〇万円

(ウ) 昭和三〇年一二月三一日三、〇〇〇万円

(4) 村上利春が右六、七〇〇万円を昭和三〇年一二月末日までに支払わないときは、右賃貸借はなんらの通知催告なくして直ちに解消し、同人は右土地を返還すべきこと。

右によれば、村上利春は、右調停の成立により同人が昭和二一年二月一日に取得した一時使用の目的の賃借権がバラツクの朽廃によつて消滅していたこと、したがつて、その後において同人がなした増改築は違法であり、右土地を不法に占拠していたことを認めたことになる。

3 村上利春は、右調停に基づき大鐘保全合資会社に支払うべき六、七〇〇万円のうち、昭和二八年一二月末日に支払うべき五〇〇万円を履行したのみで、その余の履行をしなかつたが、当時、大鐘保全合資会社の清算がほぼ終了し、原告会社が昭和二九年一月二五日に設立されて前者の事業を承継し、別紙目録(一)記載の土地のうち(一)の所有権及び(二)、(三)の借地権を取得し、一方、村上利春も昭和二九年七月一五日死亡し、営業の主体が長男昌弘を代表者とする株式会社村上商店となつた等、諸事情の変動があつたので、昭和三〇年一月三一日改めて原告と村上商店との間で東京簡易裁判所において左記の和解をした。(同庁昭和三〇年(イ)第四号)

(1) 原告は、村上商店に対し別紙目録(一)記載の土地を昭和二九年一月一日から向う六〇年間堅固の建物所有の目的をもつて賃料一か月九万四、一三五円毎月末日払の定めで賃貸中なることを認める。但し、物価の騰落により地代の増減をなすことをうるものとする。

(2) 村上商店は原告に対し、右借地権設定に対する代償として六、七〇〇万円を支払うこと。その支払方法及びその他の条件を次のとおりとする。

(ア) 内金五〇〇万円は保証金として原告が預つていることを認める。

(イ) 代償金から右保証金五〇〇万円を控除した残金六、二〇〇万円に対しては、昭和二九年七月一日から一か月五一万六、六六六円の利息を付すること。

(ウ) 右六、二〇〇万円中三、二〇〇万円に対する一か月の利息二六万六、六六六円は、昭和二九年七月一日から毎月末日限り元金支払済みに至るまで地代とともに支払うこと。但し、昭和二九年一二月分までは支払済み。

(エ) 代償金残三、〇〇〇万円(保証金五〇〇万円及び右三、二〇〇万円を控除した残金)については一か月二五万円の利息を付すものであるが、これについては村上商店において昭和二九年七月一日から毎月末日限りその月分の利息二五万円宛を額面とし昭和三〇年一二月三一日を満期とする原告宛の約束手形を振り出し、これを原告に交付すること。

(オ) 代償金六、二〇〇万円は昭和三〇年一二月三一日支払うべきものであるが、村上商店が右期日までに右代償金の半額以上を支払い、かつそれまでの利息を支払つたときは、右期日現在の残額につきこれを手形債務に改め、その担保として村上商店の名義により別紙目録(一)記載の土地上に建築所有する建物全部を原告に差し入れ、手形の満期日を昭和三一年一二月三一日まで延期することを承認する。右延期に係る金額については、昭和三一年一月一日から毎月八厘五毛の割合により計算した利息の半額を現金で毎月末日支払い、その余の半額については手形債務とし、昭和三一年一二月三一日を満期とする約束手形を毎月末日当月分を村上商店が振り出し、これを原告に交付すること。

(カ) 村上商店が毎月支払うべき利息を二回以上怠つた場合、代償金の半額以上を昭和三〇年一二月三一日までに支払わない場合及び残額全部を完済しないときは、原告から右賃貸借契約を解除し、右土地の明渡しを請求するも村上商店は異議なきこと。但し、原告は、村上商店から既に支払を受けた代償金の返還をなすまでは右土地の明渡しを実行しないこと。この場合、村上商店は原告に対し右解除当時の時価をもつて右土地上の建物の買取りを請求しうること。

(キ) 村上商店が前記代償金六、二〇〇万円を利息とともに完済した場合は、前記保証金五〇〇万円は代償金に充当し、全額六、七〇〇万円の支払を完了するものとする。

(ク) 村上商店が本和解条項に違背し、契約解除を受くる場合は、その損害金として前記保証金五〇〇万円を原告に没収されても異通なきこと。なお、原告は右契約解除による損害金は右保証金五〇〇万円を限度とし、その余の請求をしないこと。

(ケ) 借地契約解除、土地明渡しの場合は、その時までに原告が村上商店より受領している代償金は村上商店に返還するものとする。但し、支払済みの利息及び利息の支払のため振り出した手形は返還しないものとする。

(コ) 村上商店が昭和三〇年一二月三一日までに前記代償金の半額以上を支払つた場合は、村上商店が前記土地上に堅固なる建物を建築するため、地主として原告の協力すべき諸般の手続については、村上商店の申出により原告はこれに応ずること。但し、村上商店が右建築に着工するには、前記代償金全額を完済した場合に限ること。

(サ) 原告は、村上商店が建築した建物の一部を他人に譲渡することは異議なきも、建物全部を譲渡する場合は、村上商店は原告の承諾を要するものとする。

4 ところが、村上商店が昭和三〇月一二月三一日までに前記六、二〇〇万円の半額以上を支払うことができなかつたので、原告は前記賃貸借契約を解除し、同商店に対し、前記土地の明渡しを請求したところ、同商店から右の支払を一か月猶予してもらいたいとの懇請を受けた結果、同日次のような約定が成立した。

(1) 村上商店は、昭和三〇年一二月三一日までに六、二〇〇万円を支払うことができないため、原告から前記賃貸借契約を解除され、前記土地の明渡請求を受けたことを認める。

(2) 村上商店は原告に対し、右土地上の建物の買取りを請求し、原告は昭和三〇年一二月三一日現在の時価で買い取るものとし、その代金は右建物の所有権移転登記を受けると同時に支払うこと。

(3) 原告は村上商店に対し、右建物を賃貸すること。

(4) 村上商店が原告に対し、昭和三一年一月三一日までに原告から支払を受けた建物買取代金を返すとともに、前記六、二〇〇万円のうち五、二〇〇万円を同月二〇日限り、残金一、〇〇〇万円を同月三一日限り支払つたときは、同商店は右建物を買い戻し、かつ前記土地の借地権を取得することができる。

(5) 村上商店が昭和三一年一月三一日までに右の支払を了して原告との間に新規の借地契約を締結することができないときは、同商店は前記建物を買い戻し、借地権を取得する機会を永久に失う。

5 しかるに、村上商店は、右約定をも履行せず、かつ建物の時価についても協定しなかつたので、原告は昭和三一年二月一二日付内容証明郵便で右建物を代金七七〇万円で買い取る旨同商店に通知した。その結果、同商店は、前記土地の借地権を取得する機会を永久に失うこととなつた。そこで、原告は同商店を相手方として東京地方裁判所に対し昭和三一年四月一七日同土地の明渡しを求める訴え(同庁昭和三一年(ワ)第二八一五号)を提起したが、その後同事件は調停に付され(同庁昭和三二年(ユ)第一九号)、昭和三四年二月二五日次のとおり調停が成立した。

(1) 村上商店は原告に対し、別紙目録(一)記載の土地上に存するその所有に属する同目録(二)記載の建物を七二五万円で同日限り売り渡すこと。

原告は村上商店に対し、右売買代金より延滞地代四〇五万一、八三〇円(昭和三一年一月一日以降昭和三四年二月一二日までの分)並びに次項(2)の借家契約に対する敷金として原告に差し入れるべき一五〇万円を差し引いた額を同日限り村上商店に支払うこと。

(2) 原告は村上商店に対し、前項により買取りたる建物を昭和三四年二月二六日から期限の定めなく、賃料一か月二二万五、〇〇〇円、毎月末日払いの約にて賃貸すること。右家賃額は目的建物の取りこわしまで値上げせざること。但し、増税ありたる場合はその分だけ値上げのこと。

(3) 原告は、前記土地の上に将来堅固なる建物(鉄骨のビルデイング)を建築するものとし、この場合同建物のうち地上一階全部を村上商店に賃貸し、かつ地下一階全部の所有権を同商店に取得せしめること。

但し、地下一階をガレージとして使用する必要ある場合には、当事者間において然るべく協議すること。

(4) 原告と村上商店間において、前項の借家条件並びに所有権取得に関する契約が成立した場合には、原告は同商店に対しビルデイングの建築着手期日の六か月前に前記(2)項の借家契約の解除の催告をなすものとし、村上商店は、原告の右建築着手に差支えなき期限内に同項の建物を原告に明け渡し、原告のビルデイング建築に協力するものとする。

6 かくして、原告は村上商店に対し同日七二五万円を支払つたので、同商店が別紙目録(一)記載の土地の使用につきなんらの権原をも有しないものであることが明確になり、原告は同商店に対し同目録(二)記載の建物を賃貸したきたのであるが、その後における社会情勢の変遷と建築基準法の改正(昭和三八年法律第一五一号)により、都心部におけるビルデイングの建築容積と敷地面積との割合が昭和四〇年一月二一日以降土地権利者に不利になることが明らかになつたので、原告は右土地上にビルデイングを建設することとし、村上商店に対し前記調停条項に基づいて前後数十回にわたりこれに協力するよう求めたが、同商店が誠意を示さないためこれが実現しなかつた。そこで、原告は、やむなく村上商店を相手方として、東京地方裁判所に昭和三九年一二月一六日、同商店は、別紙目録(二)記載の建物から退去し、原告が同目録(一)記載の土地上にビルデイングを建築するのを妨害してはならない旨の仮処分申請をなした(同庁昭和三九年(ヨ)第九四六四号)。その結果、同年一二月二六日同事件につき次のとおり和解が成立するに至つた。

(1) 村上商店は、原告が別紙目録(三)記載の土地(別紙目録(一)記載の土地のほか隣接する大鐘正子からの賃借地を含む。)に地下三階地上九階の鉄筋鉄骨造りのビルデイングを建築することに協力するため、原告との間に締結されている別紙目録(二)記載の建物に対する賃貸借契約を昭和三九年一二月二六日限り合意解除する。

(2) 村上商店は、原告に対しその責任と負担において昭和四〇年一月一六日までに別紙目録(二)記載の建物のうち(二)の建物を取りこわし、同月末日までにその余の建物を取りこわし、かつ、同月一六日までに所轄署に右取りこわしの届出並びに建物滅失登記申請手続をなすこと。

但し、右建物取りこわしの届出並びに建物滅失登記申請手続に原告の作成に係る書類を必要とするときは、村上商店からの請求の都度原告は直ちにこれを作成して交付すること。

(3) 原告は、村上商店に対し前項の建物取りこわし及び建物からの退去に関連して一億円を左のとおり交付する。

(ア) 昭和三九年一二月二六日一、〇〇〇万円

(イ) 昭和四〇年一月一六日村上商店が別紙目録(二)記載の建物につき第二項の建物取りこわしの届出並びに建物滅失登記申請をなすと同時に六、〇〇〇万円

(ウ) 昭和四〇年六月末日限り二、〇〇〇万円

(エ) 昭和四一年七月末日限り一、〇〇〇万円

(4) 村上商店は、原告に対し昭和三九年一二月一日より別紙目録(二)記載の建物を取りこわすまでの間一か月二八万円の割合による賃料又は賃料相当の損害金を支払うものとし、昭和三九年一二月一日より同月末日までの分は同月末日限り、昭和四〇年一月一日より建物取りこわしまでの分は建物を取りこわしかつ別紙目録(一)記載の土地を明け渡すと同時に支払うとともに、右建物の賃貸借について原告が村上商店から預り保管中の敷金一五〇万円を村上商店に返還すること、但し、村上商店が所定の期日に建物の取りこわしをなし、かつつてその滅失登記申請を履行したときは、昭和四〇年一月の賃料相当損害金は免除する。

(5) 村上商店が原告に対し昭和四〇年一月末日までに前記(2)項の手続を完了しなかつたときは、村上商店は原告に対する前記(3)項(ウ)、(エ)の金員支払請求権を失うものとする。

村上商店が所定の期日に(2)項の手続を完了したのに原告が(3)項の金員の支払をしないときは、原告は項(3)(ウ)、(エ)の金額の倍額を村上商店に支払うこと。

(6) 村上商店が昭和四〇年一月末日までに(2)項の手続を完了しない場合は、原告は直ちに別紙目録(二)記載の建物より村上商店を退去させ、直ちに右建物を原告において取りこわすことができる。

(7) 原告と村上商店との間には別紙目録(二)記載の建物並びに同目録(一)記載の土地については本和解条項以外に相互に債権債務の存在しないことを確認する。

7 かくして、村上商店が右和解条項に基づいて別紙目録(二)記載の建物より退去し、同条項所定の期日にその責任と負担において、右建物を取りこわしてその滅失登記手続を完了してので、原告は村上商店に対し同条項所定のとおり合計一億円を支払つたものである。以上のとおりであるから、右一億円が被告認定のような別紙目録(一)記載の土地の借地権回収の対価ではなく、別紙目録(二)記載の建物の明渡料であることは明らかである。よつて、原告が右一億円は右建物の立退料として、法人税法二条二五号、同法施行令一四条一項九号ロに規定する繰延資産に当るので、同令六四条により償却することができるものとして、消却費二、〇〇〇万円を損金に計上してなした確定申告は適法なものであり、これを否認してなした被告の再更正処分は右に関しては違法たるを免かれない。

(三)  仮りに右主張が容られず、原告が村上商店に支払つた一億円が借地権回収の対価であるとしても、原告の事業年度は、その定款上明らかなとおり毎年一月一日から一二月三一日までであり、右一億円は、昭和三九年一二月二六日成立した前記和解調書により原告が支払うべきことが確定していたものであるから、原告の昭和三九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税確定申告につき更正すべきものであつて、原告の昭和四〇年一月一日から同年一二月二一日までの事業年度分法人税確定申告について更正すべきものではない。しかるに、被告は、原告の昭和四〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税確定申告につき更正しているものであるから、この点からもその取消しを免かれない。

第三被告の答弁及び主張

(請求原因に対する答弁)

請求原因事実のうち、原告が村上商店に支払つた一億円が建物の明渡料であつて、借地権回収の対価ではないとする点、大鐘保全合資会社が終戦直後から別紙目録(一)記載の土地上にビルを建築する計画をもつていたとの点、昭和二一年二月一日同会社と村上利春との間に締結された右土地の賃貸借契約が一時使用の目的であつたとの点、右土地上のバラツクの朽廃により昭和二七年中に右賃貸借が終了したとの点、原告の村上商店に対する昭和三一年二月一二日付内容証明郵便により村上商店が右土地の借地権を取得する機会を永久に失つたとの点、原告が村上商店に対し右土地上の建物を賃貸してきたとの点は否認するが、その余の事実は認める。

(主張)

一  原告が村上商店に支払つた一億円は、その支出に至る一連の経過に照らしその性質を実質的に把握するときは、左記のとおり、原告が別紙目録(一)記載の土地を同商店に賃貸していたところ、原告において、右土地上にビルデイングを建設するために、同商店の右土地に対する借地権を消滅させ、原告に使用収益権を回復しようとしたことから生じた紛争を最終的に解決するために支出した費用で、その結果右土地の価額を増加させたものであることが明らかであるから、法人税法二条二三号、同法施行令一二条一号に規定する土地(土地の上に存する権利を含む。)の取得に要した費用に該当するものといわなければならない。

(一) 原告と村上商店との間の一連の紛争の経緯から明らかなとおり、別紙目録(一)記載の土地の使用関係は、昭和二一年二月一日締結された大鐘保全合資会社と村上利春間の借地契約にはじまるものである(昭和二八年一二月二四日の調停成立時までは、当事者に変更はなかつたが、前記昭和三〇年一月三一日の和解成立に至るまでの間に、昭和二九年一月二五日原告会社の設立、同年七月一五日村上利春の死亡により、当初の契約当事者の地位を原告と村上商店がそれぞれ承継するに至つた。)したがつて、前記一億円の有する実質的性質を把握するには、右借地契約の実質的性格を明確にしなければならない。

(二) そこで、右借地契約の実質的性格をみるに、その借地人であつた村上利春は、別紙目録(一)記載の土地上において戦前から家具販売業を営んでいたが、戦災によりその借家(村上利春が新築し、その費用を敷金の形として提供したものである。)が焼失したため一時その営業を中断していたところ、大鐘保全合資会社から同社において右土地上に建物を建築する資金がないので、従来の関係からも村上利春において右土地を使用するよう申出があり、その結果右両者間において借地期間は一応戦災地復興区画整理が施行されるまでとの約定で右土地の賃貸借契約が締結されたものである。

しかしながら、右土地の所在する区域は、昭和二一年四月二五日戦災復興院告示第一三号の指定する区域ではあつたが、右告示は昭和二二年一一月二六日に廃止されて区画整理は遂に施行されず、右借地契約の終期とされていた戦災地復興区画整理までという条件は成就するに至らなかつた。そして、村上利春は、従前の店舗を昭和二七年ころまでの間に逐次木造の本建築に増改築の、さらに、昭和二八年六月三〇日には右建物につき村上利春を所有者として所有権保存登記を了したうえ、右土地を賃借してその生業である家具販売業を継続することを強く希望し、企業及び生活の本拠としていたものである。他方原告が右土地上にみずからビルデイングを建築する計画を持つようになつたのは昭和三四年二月二五日の調停成立以後のことであり、また、右土地の地代は、昭和二一年二月一日から昭和三〇年一二月までの間に前後九回にわたつて増額されており、村上商店も昭和三一年一月から昭和三四年二月一二日までの地代を原告に正当に支払つていたものである。

以上のところからみると、昭和二一年二月一日大鐘保全合資会社と村上利春との間に締結された右土地の賃貸借契約の四項にいう「本契約ハ暫定的一時使用ニ供スルモノナルヲ以テ乙ハ本敷地ニ対スル借地権ヲ取得スルコトナキモノトス」なる文言は、単なる例文もしくは空文に等しく、右借地契約は、一時使用を目的とするものでなく、通常の借地契約であつたことは明白である。

(三) 次いで、右借地契約がいつまで存続していたかであるが、これが昭和二八年一二月二四日に成立した調停の時まで存続していたことは疑いの余地がない。そして、右調停成立の事情、経緯、調停条項及びその後の昭和三〇年一月三一日に成立した和解に至る経緯、その条項等からみて、右借地関係は、従前の「非堅固な建物所有を目的」とするものから「堅固な建物所有を目的」とするものへとその内容に一部変更があつたものの依然として継続していたものというべきである。さらに、右昭和三〇年一月三一日成立の和解による約定を村上商店が履行しなかつたことを理由に同年末をもつて借地契約が解除されたことを認めさせ、村上商店の土地明渡しのため原告が別紙目録(二)記載の建物を買い取る旨の約定をしながら、同時に、村上商店に右建物の買戻権を認める約定をしたり、また期限までに村上商店が右買戻権を行使せず、右建物を明け渡すべき場合には移転料等一切の請求権がないものと約定しながら、現実には猶予期間の名目で村上商店に堅固な建物の建築を認める約定をしたり(申一七号証の二)、さらには昭和三四年二月二五日に成立した調停においても、村上商店にはなんらの請求権がない筈であるのに、村上商店に原告が新たに建築するビルデイングの地下一階全部の所有権を取得せしめるとか、地一一階全部を優先賃貸する等、大幅な譲歩をしていることから見ると、村上商店は、右昭和三四年二月二五日の調停成立時まで、従前からの借地権を保有していたものと認められる。

(四) そして、右昭和三四年二月二五日に成立した調停条項のうち「地下一階全部の所有権を被告(村上商店)に取得せしめること。」の解釈につき、原告は有償であると主張し、村上商店は無償であると主張したことから紛争が再発し、結局、昭和三九年一二月二六日和解が成立し、原告が村上商店に対し一億円を支払うことにより長年にわたつて紛争が解決をみるに至つたものであるが、右調停条項についての原告と村上商店の見解はともかくとしても、これを客観的にみれば前記のとおり、村上商店が別紙目録(一)記載の土地についての賃借権を同調停成立時まで保有していたことは明らかであるから、右「地下一階全部の所有権を被告に対し収得せしめること。」とする条項は、村上商店の右借地権放棄に対する対価関係を示すものであり、さればこそ、原告は、その建築予定のビルデイングの地上一階全部の賃借権及びその地下一階全部の所有権を取得させる代りに、紛争の最終段階において村上商店に対し一億円を支払うこととなつたものである。

(五) 以上のように、昭和二一年二月一日の借地契約、昭和二八年一二月二四日の調停、昭和三〇年一月三一日の和解、昭和三四年二月二五日の調停、昭和三九年一二月二六日の和解は、いずれも原因、内容、当事者の実質は同一のものであり、一連のものとして把握することによつてこそ原告が村上商店に対して支払つた一億円の本質を理解することができ、それは右土地の完全な使用、収益、処分権を原告が回復するために支出したものであることが明らかである。したがつて、右一億円は、法人税法二条二三号、同法施行令一二条一号に規定する土地の取得に要した費用に該当する。

二  原告は、仮りに原告から村上商店に支払つた一億円を土地の取得価額とすることが正しいとすれば、これを理由とする更正は、和解契約が成立した日の属する事業年度である昭和三九年度の法人税についてなされるべきであり、昭和四〇年度の法人税についての更正の理由とすることは違法であると主張するが、本件再更正処分は、原告が昭和四〇年度の申告において右一億円を繰延資産として処理し、その償却費として二、〇〇〇万円を損金計理したことを否認してなされたものであり、土地の取得に要した費用は資本的支出として処理され、譲渡等がなされないかぎり損益に影響を及ぼすものではないのであるから、右処分に原告のいうような違法は存しない。

第四証拠関係

(原告)

甲第一号証、第二号証の一、二、第三、第四号証の各一ないし三、第五号証の一ないし四、第六号証、第七号証の一ないし三、第八ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし六、第一二号証の一ないし三、第一三ないし第一六号証、第一七号証の一ないし六、第一八号証、第一九号証の一、二、第二〇号証の一ないし七、第二一号証の一、二、第二号証、第二三号証の一ないし五、第二四号証の一ないし七、第二五号証の一ないし八、第二六号証の一ないし五、第二七号証の一ないし四、第二八、第二九号証、第三〇号証の一ないし三、第三一ないし第四一号証を提出し、証人柴田勝、吉原忠夫の各証言、原告会社代表者小林幸之助尋問の結果(第一、二回)を援用し、乙第一ないし第三号証、第五号証、第八、第九号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立(乙第七号証については原本の存在およびその成立)は認める。

(被告)

乙第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五ないし第一一号証(但し、乙第七号証は写)を提出し、証人村上孝憲の証言を援用し、甲第六号証、第一一号証の二、第二一号証の二、第二四号証の一ないし七、第二五号証の一ないし八、第二六号証の一ないし五、第二七号証の一ないし四、第二八号証、第三五号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一、原告がその昭和四〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税につき、昭和四一年二月二八日欠損一、三七八万五、〇五四円として確定申告したところ、被告が、同年六月二九日付で所得金額六二一万四、九四六円、税額二二八万五、五五〇円とする更正処分及び過少申告加算税一一万四、二五〇円の賦課決定をし、さらに昭和四二年三月三一日付で所得金額二、〇四〇万四、九四六円、税額七九八万四、四七〇円とする再更正処分及び過少申告加算税二八万四、九〇〇円の賦課決定をしたことは当事者間に争いがない。

二、原告は、原告が村上商店との間で昭和三九年一二月二六日成立した和解に基づき同商店に支払つた一億円は、別紙目録(二)記載の建物の立退料であつて、同目録(一)記載の土地の賃借権回収のためのものではないのにこれを土地の取得価額にあたるものとした点において、本件再更正処分は違法であると主張するので、先ずこの点について判断する。

別紙目録(一)記載の土地のうち(一)を原告が所有し、(二)、(三)は所有者大鐘正子から原告が賃借していたものであり、同土地上に存する同目録(二)記載の延物は村上商店が所有していたこと、昭和二一年二月一日、右土地の旧所有者大鐘保全合資会社と村上利春との間において、原告主張のような同土地の賃貸借契約が成立したこと(但し、これが一時使用の目的によるものかどうかの点は除く)、村上利春が右土地上にバラツクを建て、その後昭和二六年から翌二七年にかけてその増改築を行なったこと、このこと等を理由として、大鐘保全合資会社が村上利春を相手方として昭和二七年一二月九日東京簡易裁判所に対し家屋収去土地明渡しの調停を申し立て、昭和二八年一二月二四日原告主張のような調停が成立したこと、村上利春は、右調停条項に基づき昭和二八年一二月末日までに支払うべき五〇〇万円を支払つたにすぎず、その余の履行をしないまま昭和二九年七月一五日死亡し、原告会社が昭和二九年一月二五日に設立されたこと等の諸事情から、改めて東京簡易裁判所において昭和三〇年一月三一日、原告と村上商店との間で原告主張のような和解が成立したこと、村上商店が右和解条項に基づき昭和三〇年一二月三一日までに六、二〇〇万円の半額以上を支払うことができず、同日原告との間で原告主張のような約定が成立したこと、村上商店が右約定をも履行することができなかつた結果、原告は同商店を相手方として当裁判所に対し昭和三一年四月一七日別紙目録(一)記載の土地の明渡しを求める訴えを提起したが、同事件はその後調停に付され、昭和三四年二月二五日原告主張のような調停が成立し、同日原告が村上商店に対し七二五万円を支払ったこと、その後原告は、別紙目録(三)記載の土地上にビルを建築するため村上商店に対し右調停条項に基づき協力を求めたが、同商店がこれに応じなかったため、同商店を相手方として、当裁判所に対し昭和三九年一二月一六日その主張のような仮処分の申請をなし、同年一二月二六日その主張のような和解が成立するに至つたこと、村上商店が右和解条項に基づいて別紙目録(二)記載の建物より退去して同建物を取りこわし、その滅失登記手続を了したので、原告が同商店に対し同和解条項に基づいて合計一億円を支払つたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第八ないし第一〇号証、同第一七号証の六、同第二〇号証の一、同第三〇号証の二、三、同第三四号証、乙第七号証(原本の存在についても争いがない)、同第一〇、第一一号証、証人柴田勝の証言により真正に成立したものと認める乙第五号証、証人村上孝憲の証言により真正に成立したものと認める乙第八号証、証人村上孝憲、柴田勝の各証言、原告会社代表者小林幸之助尋問の結果(第一、二回)(但し、証人柴田勝、原告会社代表者小林幸之助の各供述中、後記の信用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、村上利春は、戦前から別紙目録(一)記載の土地上で家具販売業を営んでいたので、同土地の建物が戦災によつて焼失して後も同所において家具販売業を営むことを強く望んでいたところから、大鐘保全合資会社との間において、昭和二一年二月一日前記のとおり右土地を借り受ける旨の約定が成立したこと、その際右約定とは別に大鐘保全合資会社の清算人であつた弁護士坂口憲一は村上利春に対し村上利春が引き続いて右土地を賃借して借地権を取得することを望んでいることを認め、右約定の期間経過後においても、右土地を賃貸する場合には、第三者に賃貸することなく村上利春に優先的に賃貸することとし、村上利春から賃借する意思のないことの表明のない限り第三者に賃貸しないとの趣旨の念証(乙第七号証)を作成してこれを交付していること、右約では賃貸借期間を戦災地復興区画整理施行によりバラツクを除却するまでとされていたが、昭和二二年一一月二六日、昭和二一年四月二五日戦災復興院告示第一三号が廃止されたことにより結局同区画整理が施行されなかつたこと、村上利春は、右土地上にバラツクを建てたが、以上のような経緯から昭和二六、七年ごろに至つてその増改築を大鐘保全合資会社に無断でなし、昭和二八年六月三〇日村上利春名義で所有権保存登記を経由したこと、これに対し大鐘保全合資会社から異議が述べられたが、村上利春が同所での営業を強く望み、将来同所にビルを建築したいとの意向を示したところから大鐘保全合資会社としても村上利春の右意向を受けいれることとして、右増改築を一応認めることとしたものの、右両者間において村上の利春ビル建築に必要な別紙目録(一)記載の土地の借地条件について合意が成立するに至らなかつたため、大鐘保全合資会社は村上利春を相手方として、昭和二七年一二月九日東京簡易裁判所に対して家屋収去土地明渡しの調停を申し立て、昭和二八年一二月二四日前記のとおりの調停が成立するに至つたが、その後原告会社が設立され、また村上利春が死亡したこと等により、昭和三〇年一月三一日原告と村上商店との間で東京簡易裁判所において前記のとおりの和解が成立したこと、しかしながら、村上商店において右和解条項に基づき六、二〇〇万円の半額以上を同年一二月三一日までに支払うことができなかつたため、同日右両者間において前記のとおりの約定が成立したこと、村上商店は、右約定をも履行できなかつたのであるが、これについては原告が右履行を妨害する行為に出たことによるものである旨また、右和解及び約定は村上商店が別紙目録(一)記載の土地上にビルを建築するための堅固な建物所有を目的とする借地権取得のためのものであり、この合意がなくとも村上商店としてはもともと右土地につき非堅固な建物所有を目的とする借地権を有するものである旨主張し、右両者間に再度紛争が生じたこと、そこで原告は、昭和三一年四月一七日村上商店を相手方として当裁判所に対し、右土地の明渡しを求める訴えを提起したが、該訴訟において村上商店は右土地につき借地権を有することを強く主張して争つたが、結局同事件は調停に付され、昭和三四年二月二五日前記のとおりの調停が成立するに至つたこと、右調停条項中の別紙目録(二)記載の建物の売買代金七二五万円は、同建物の固定資産税の課税標準価格と同額であること、その際右調停とは別に右両者間において念書(甲第二〇号証の一)が作成され、右調停条項中の前記原告が建築するビルの地上一階全部の賃貸借及び地下一階全部の所有権取得につき両者間に契約が成立しない場合において別紙目録(二)記載の建物が火災等により滅失した場合は、村上商店がその営業に必要な範囲の建物を右建物の保険金をもつて同商店が任意に建築することができ、建築に係る建物の所有権は原告に帰属するものとされていたこと、その後も村上商店は別紙目録(二)記載の建物において家具販売業を営んでいたが、原告から原告が別紙目録(三)記載の土地上に建築するビルの地下一階を駐車場とする旨の申出を受け、かくては前記昭和三四年二月二五日に成立した調停に基づき地下一階の所有権を取得することができなくなることから再度右両者間において紛争が生じ、さらに右地下一階の所有権取得が有償であるか無償であるかについても双方の主張が異なつていたことから右紛争が一段と激化したこと、原告としては、別紙目録(三)記載の土地上にビルを建築する計画であつたが、昭和四〇年一月二一日以降になると右土地上に建築しうる建物の容積率が制限されることを知るに及んで、その以前にその建築に着手する必要に迫られ、昭和三八年四月二六日から翌三九年三月二日までの間前後六〇回以上も村上商店を訪れ、二〇回以上もその間で交渉を重ねたが合意に達することができず、やむなく前記のとおり昭和三九年一二月一六日当裁判所に対し村上商店を相手方として、同商店は別紙目録(二)記載の建物から退去し、原告が同目録(一)記載の土地上にビルを建築するのを妨害してはならない旨の仮処分申請をなし、同月二六日両者間において前記のとおりの和解が成立するに至つたことを認めることができる。前顕証人柴田勝、原告会社代表者小林幸之助の各供述中右認定に反する部分は、前記当事者間に争いのない事実及び前顕各証拠と対比してたやすく信用することができず、他に右認定を左右するに足りる的確な証拠はない。

以上の事実関係からみると、前記昭和三四年二月二五日に成立した調停は、別紙目録記載(一)の土地につき借地権を有すると主張する村上商店とこれを有しないとする原告との間における右借地権の存否をめぐる紛争を解決するためになされたものであり、右調停により村上商店が古くから営業の本拠として来た別紙目録(二)記載の建物を原告に譲渡し、以後同目録(一)記載の土地につき借地権を主張することなく、原告が同土地上にビルを建築するのに協力することを約したのは、単に原告が右建物を七二五万円という固定資産税の課税標準価程度の代金で買い受けたからではなく、原告が右建物を取りこわしたうえで新築するビルの地上一階全部の賃借権、及び(その他下一階がガレージとして使用する必要ある場合には当事者間において然るべく協議することの条件付ではあるが)地下一階全部の所有権を村上商店を取得しうることとされていて、それにより同商店において営業を継続することが保障されていたからでありそうだとすると、村上商店に右ビルの賃借権、所有権を取得させることは、それが有償であるか否かにかかわらず、原告が村上商店からの借地権の主張に妨げられることなく、右土地を一たん更地にして利用しうる状態を実現するための負担として合意されたものと認めるのが相当である。そして、前記のとおり、その後原告において建築するビルの地下一階を駐車場とする計画を立てたことから村上商店との間にまたも紛争が生じた結果、昭和三九年一二月二六日の和解が成立し、原告は村上商店に一億円の支払を約すことにより、同商店から、別紙目録(一)記載の土地および原告がその地上にビルを新築した場合における右建物についてなんらの権原も有しないことの確認と、別紙目録(二)記載の建物を同商店の責任において取りこわすことの承諾を得、原告としては、ここにようやく、村上商店に対するなんらの拘束をも受けることなく、右土地を所有者として(別紙目録(一)記載の土地のうち(二)、(三)については借地権者として)自由に使用収益うることとなつたものであり、してみれば、右一億円の支払は、幾度かの契約や和解、調停の都度、その態様を異にしつつ合意されて来た右土地の使用をめぐる村上商店(遡れば村上利春)との間の関係を一切清算し、直接には前記昭和三四年二月二五日の調停において約束された、原告が右地上にビルを新築してその地上一階の賃借権および地下一階の所有権を村上商店に取得せしむべき拘束を脱して右土地を所有者(ないし借地権者)としての完全な支配下におくための代償としてなされたものであるというべきである。

されば、右一億円は、税法上は、単なる損金とされるべきものではなく、また、取りこわしの約束の対象となつた建物を目的とする権利の対価とされるべきでないことはいうまでもなく、前叙の趣旨で支出されたものとして、法人税法二条二三号、同法施行令一二条一号に規定する土地(土地の上に存する権利を含む)の取得価額を構成すべき費用に該当するものというべきであるから、本件再更正処分には原告主張のごとき瑕疵はなく、原告の前記主張は採用するに由ない。

三、さらに原告は、前記一億円が土地の取得価額にあたるとすれば、原告の昭和三九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税の確定申告につき更正すべきものであると主張する。

しかしながら、本件更正処分は、原告の本件係争事業年度分法人税確定申告において、原告が前記一億円が法人税法二条二五号、同法施行令一四条一項九号ロに規定する繰延資産に当るので、同令六四条により償却することができるものとして本件係争事業年度分の償却費二、〇〇〇万円を損金に計上したのを否認してなされたものであることは当事者間に争いがない。されば、本件再更正処分には原告主張のごとき瑕疵のないこと明白であつて、原告の右主張は採用するに由ないものというべきである。

四、以上説示のとおり、本件再更正処分には原告主張のごとき瑕疵はないので同じ瑕疵を理由とする各加算税賦課決定の取消を求める部分を含めて原告の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきものである。よつて訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横山長 裁判官 渡辺昭 裁判官園部逸夫は差支えのため署名捺印することが出来ない。裁判長裁判官 横山長)

(別紙)

目録(一)

(一) 東京都中央区日本橋室町一丁目五番二

宅地 四〇三・四七平方メートル(一二二・〇五坪)

(二) 同所同番四七

宅地 四四・九九平方メートル(一三・六一坪)のうち、

二八・三三平方メートル(八・五七坪)

(三) 同所同番三六

宅地 四四・九九平方メートル(一三・六一坪)のうち、

一三・八一平方メートル(四・一八坪)

(別紙)

目録(二)

(一) 東京都中央区日本橋室町一丁目五番地二

木造モルタル塗瓦トタン交葺二階建店舗兼居宅 一棟

床面積 一階三二一・四八平方メートル(九七・二五坪)

二階二七九・三三平方メートル(八四・五〇坪)のうち、

(1) 家屋番号 同町五番の一三

木造モルタル塗瓦トタン交葺二階建南側店舗兼居宅

床面積 一階二〇九・六一平方メートル(六三・四一坪)

二階一七五・四七平方メートル(五三・〇八坪)

(2) 家屋番号 同町五番の三二

木造モルタル塗瓦トタン交葺二階建北側店舗兼居宅

床面積 一階 一一一・八六平方メートル(三三・八四坪)

二陥 一〇三・八六平方メートル(三一・四二坪)

(二) 同所同番地六

木造モルタル塗瓦葺二階建居宅 一棟

床面積 一階 三四・一四平方メートル(一〇・三三坪)

二階 二八・三六平方メートル(八・五八坪)のうち

(1) 家屋番号 同町五番の三〇

木造モルタル塗瓦葺二階建南側居宅

床面積 一階 五・四五平方メートル(一・六五坪)

二階 五・四二平方メートル(一・六四坪)

(2) 家屋番号 同町五番の三三

木造モルタル塗瓦葺二階建北側居宅

床面積 一階 二八・六九平方メートル(八・六八坪)

二階 二二・九四平方メートル(六・九四坪)

(別紙)

目録(三)

(一) 東京都中央区日本橋室町一丁目五番二

宅地 四〇三・四七平方メートル(一二二・〇五坪)

(二) 同所同番六

宅地 三〇二・〇一平方メートル(九一・三六坪)のうち、

四四・九九平方メートル(一三・六坪)

(三) 同所同番三四

宅地 五一・七〇平方メートル(一五・六四坪)

(四) 同所同番三六

宅地 四四・九九平方メートル(一三・六一坪)

(五) 同所同番四五

宅地 二七・四〇平方メートル(八・二九坪)

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