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東京地方裁判所 昭和42年(行ク)24号 決定 1967年6月09日

申立人

星野安三郎

右訴訟代理人

前田知克

福岡清

田邨正義

山川洋一郎

角南俊輔

石川博光

木内俊夫

重国賀久

被申立人

東京都公安委員会

右代表者委員長

堀切善次郎

右指定代理人

堀江元文二

外三名

右訴訟代理人

山下卯吉

竹谷勇四郎

主文

申立人の昭和四二年六月五日付集団示威運動許可申請に対し、被申立人が昭和四二年六月八日付でなした許可に付された条件のうち、「公共の秩序を保持するため、申請にかかる集団示威運動の進路のうち、赤坂見付交さ点〜特許庁角の間を次のとおり変更する。

赤坂見付交さ点〜山王下〜溜池交さ点〜特許庁前」の部分の効力を停止する。

申立費用は、被申立人の負担とする。

理由

一申立ての趣旨および理由

別紙一に記載のとおり

二被申立人の意見

別紙二に記載のとおり

三当裁判所の判断

1  本件疎明によれば、申立人が東京護憲連合の代表委員として、同連合に加盟している各団体の所属員を中心として昭和四二年六月一〇日憲法施行二〇周年を記念して憲法擁護の趣旨を広く国民各層に訴えるため、杉並区役所前から日比谷公園まで集団示威運動を行うべく、昭和四二年六月五日東京都条例(昭和二五年七月三日条例第四四号)一条に基づき、被申立人に対し、別紙三記載のとおり、右集団示威運動の許可を申請したこと、および被申立人が同月八日付を以て、別紙三記載のとおり、右許可申請にかかる集団示威運動の行進順路中、赤坂見附より永田町小学校および首相官邸前を経由して特許庁わきに至る間につき順路を一部変更のうえこれを許可する旨決定したことが認められる。

以上の事実関係のもとにおいては、集団示威行進の本質にかんがみ、進路の変更に関する本件申立てについては、回復の困難な損害を避けるため緊急の必要あるものと認めるのが相当である。

2  ところで、昭和二五年東京都条例第四四号「集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例」三条一項は、「公安委員会は、前条の規定による申請があつたときは、集会、集団行進又は集団示威運動の実施が公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合の外は、これを許可しなければならない。」とし、また「公共の秩序又は公衆の衛生を保持するためやむを得ない場合の進路、場所又は日時の変更に関する事項」に関し必要な条件をつけることができる旨を規定しているがこれらの規定は憲法が保障し、かつ、民主政治にとつてきわめて重要な集団行動による表現の自由を制限するものであるからその運用にあたつては、いやしくも公安委員会がその権限を濫用し、公共の安寧の保持を口実にして、平穏で秩序ある集団行動まで抑圧することのないよう戒心すべきことはいうまでもない。しかるに被申立人は前示のとおり申立人の本件許可申請を許可するにあたり、進路変更等の条件を付したが、右進路変更の条件を付するについて前記「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合」または「公共の秩序又は公衆の衛生を保持するためやむを得ない場合」であつたことを認めるべき資料はみあたらない。それゆえ、本件許可につき、進路変更に関し申立人主張のような条件を付したことは、被申立人において前記規定の運用を誤まつたもので違法といわざるをえない。

被申立人は、被申立人が本件許可にあたり進路変更の条件を付したのは、その進路にあたり国会等が存在しこれらはいかなる妨害または物理的圧力等をも受けることなく平穏な環境のもとにおいて国政を審議すべき任務を有するから、本件進路変更の条件を付すことなく許可を与えた場合には、国政審議権の公正なる行使が阻害されるおそれがあり、公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそれがあると主張するが、しかし本件許可申請がなんらの条件も付されることなく許可されたのであればともかく、前示のような諸条件が付され、なかんずく危害防止および秩序維持に関しきびしい条件が付されていること、本件集団示威行進の主催団体およびその参加予定者数が前示のとおりであること、前記被申立人の変更にかかる当初の進路が国会の周辺すべての道路ではなく永田町小学校から国会裏側を経て特許庁に至る道路であるにすぎないこと等にかんがみれば、本件集団示威行進が被申立人主張のように国政審議権の公正な行使を阻害する等のものとは断ずることができない。

なお被申立人は、本件申立ては被申立人の本件許可前になされたもので不適法であると主張する。しかし、かりに本件申立ての後にもせよ、すでに本件許可がなされた以上右主張は採用しがたい。

四結論

よつて、申立人の本件申立ては理由があるから、これを正当として認容し(したがつて、行進の進路は本件許可申請書記載のとおりとなるものと解すべきである。)、申立費用は被申立人に負担させることとして、主文のとおり決定する。(杉本良吉 中平健吉 仙田富士夫)

異議陳述書

申立人星野安三郎

相手方東京都公安委員会

異議の理由

一相手方が、申立人申立の本件許可にあたり進路を変更する条件を付与したのは、次の理由によるものである。すなわち、元来国会は、国権の最高機関として、国政を、審議する場合においていかなる妨害又は物理的圧力等をも受けることなく平穏な環境の中において公正な審議ができることを常に保障されていなければならないものであるところ、本件申立は単なる請願のための集団行進ではなく、集団示威運動であり、その進路にあたる国会周辺の地理的条件は、別紙麹町警察署管内図のとおりであつて、進路両側に国会議事堂、総理官邸、議員会館、議員面会所、衆、参議院車庫、国会図書館等があるので、申立人の申立を無条件で許可するときは、現に、第五五回特別国会が開会中であつて、当然、予想される衆、参両院における本会議、委員会、その他の審議、折衝、連絡、打合せ等に伴なう両院議員の登退院等の往来、および政府委員その他国政審議に関係する者の前記国会及びその関係施設等に出入、往来することの確保ができず、このため国政審議権の公正なる行使が阻害されるおそれがあると認められるからにほかならない。およそ本件の如き集団行動は、単なる言論出版等によるものとは異り、現存する多数人の集合体自体の力、つまり潜在する一種の物理的力によつて支持されていることを特徴とする。しかもかかる潜在的な力は、あるいは予定された計画に従い、あるいは突発的に内外からの刺激、せん動等によつて極めて容易に動員されうる性質のものである。

この場合は平穏な集団であつても、時には昂奮激昂の渦中に巻きこまれ、甚だしい場合には、一瞬して暴徒と化し、勢いの赴くところ実力によつて法秩序をじゆうりんし、集団行動の指揮者はもちろん、警察力を以つてしても如何ともし得ないような事態に発展するような危険が存在することは、群衆心理の法則と現実の経験に徴して明らかである。

二右に述べたとおりの危険が現存するため、もしかかる事態が発生した場合には、現に開会中の前記国会の審議は不穏な環境のうちに進められざるをえなくなり、延いては十全の審議を遂げることができないことになり、公共の福祉に重大な影響を及ぼす結果となるものである。

よつて、行政事件訴訟法第二七条の規定により、行政処分の執行停止に関し、異議を述べる次第である。

昭和四二年六月九日

内閣総理大臣

佐 藤 栄 作

東京地方裁判所民事第二部御中

決   定

申立人星野安三郎

被申立人東京都公安委員会

右当事者間の昭和四二年(行ク)第二四号行政処分執行停止決定申立て事件につき、当裁判所は、昭和四二年六月九日付で処分の効力を停止する裁判をしたところ、内閣総理大臣佐藤栄作より当裁判所に対し、異議が述べられたので、行政事件訴訟法二七条に基づき、当裁判所は、つぎのとおり決定する。

主文

本件につき、当裁判所が昭和四二年六月九日付でなした別紙決定はこれを取り消す。

昭和四二年六月一〇日

(杉本良吉 仙田富士夫 村上敬一)

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