東京地方裁判所 昭和43年(むのイ)414号 決定 1968年7月05日
主文
本件申立を棄却する。
理由
一本件申立の内容
別紙(一)準抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。
二当裁判所の判断
(1) 事実調べの結果によると、被疑者は昭和四三年六月二八日監禁罪の現行犯人として警察官に逮捕され、同月三〇日検察官から当庁裁判官に対し勾留の請求ならびに接見禁止等の裁判が求められ、同日右各請求が却下され右裁判に対し、検察官から準抗告の申立がなされ、同年七月一日準抗告裁判所で原裁判が取り消され、勾留状が発付されかつ接見等禁止の決定がなされ、被疑者は右勾留状の執行により、現在代用監獄中央警察署留置場に在監中であり、同月二日東京地方検察庁検察官は、本件について別紙(二)記載内容の「接見等に関する指定書」いわゆる一般的指定書を作成し、これを右代用監獄の長および被疑者に交付した(いわゆる一般的指定……以下一般的指定という)ことが認められる。
(2) そこで判断すると、刑訴三九条一項には、弁護人および弁護人となろうとする者(以下弁護人等という)の被疑者との接見交通権が保障され、同条三項では、公訴の提起前に限り、検察官、検察事務官又は司法警察職員において捜査のため必要があるときは、接見又は授受に関し、その日時、場所、及び時間を指定することができる旨規定して、右弁護人等の接見交通権と捜査権の調整をはかつている。
(3) ところで、右の権利は、憲法三四条による弁護人依頼権に根拠をもつ、被疑者および弁護人等の手続上の基本的権利であることは明らかであつて、法三九条三項の制限は、必要最少限度のものと解するのが相当であり、同項による日時および時間の指定は、具体的捜査に必要な当該の日、あるいは時間を除外する意味においてのものであると解すべきである。元来、自由であるべき接見交通が、検察官のみならず、検察事務官、司法警察員(司法巡査を含む)によつて制限されることを認めた同項の法意がこれらのものに一時的にせよ接見交通を禁止する権限を与えたものとは到底考えられず、それは、起訴前の勾留日数が短期間に限られ、その間に、起訴、不起訴の決定等および公訴維持に資する証拠の蒐集、起訴手続等がされなければならないため、一時、現実的な捜査を接見交通権に優先させ捜査の便宜を図つたにとどまるものと理解すべきである。
右のように解すると、弁護人のいう法三九条三項が憲法三四条に違反するという考えは根拠を欠くことになるほか、以下に述べる理由により本件一般的指定は同条項にいう指定に当らないものであるから、同条項による処分であることを前提とする本件申立についてはこの点についての判断は示さない。
(4) そこで、右のような理解に基づいて一般的指定の効力について考える。その指定書は、法務大臣訓令事務規程二八条の「検察官又は検察事務官は、刑訴三九条三項による接見等の指定を書面によつてするときは、接見等に関する指定書(様式四八号)を作成し、その謄本を被疑者の在監する監獄の長に送付し、指定書(様式四九号)を同条一項に規定する者に交付する」との定めに準拠している。
しかし、一般的指定なるものは、右事務規程に定めるのみで、他に法的根拠はなく、訴訟法上なんらの効果を持つものでもない。それは、せいぜい、検察官等の予定した取調べ等に先立つて弁護人等が被疑者に接見することにより被疑者の取調べ等が遅延し、起訴等の手続に影響することを防ぐため、予め、監獄の長に通知しておき、もし、弁護人等の接見要求等があつた時に、検察官等に現実的な捜査と重なり合わないかどうかを確認させ、もし重なるときは、一定の時間を除外して、接見等の日時、場所を指定し、捜査の遅延を防止するという事実上の効果があるにすぎない。
(5) 弁護人主張のように一般的指定によつて現実に接見交通が阻止されていることが認められるとしても、そうであるからといつて、右のような性質を有するに止まる一般的指定を目して、法三九条三項の処分ということができないことも亦自明の理であるといわなければならない。
それは、なんら同条項に規定する指定の実質を持たず、単なる事務連絡的な事実行為に過ぎないからである。
そうであれば、弁護人主張のような現実の運用については、それ自体について是正をはかるのが相当であり、本件一般的指定は、法四三〇条によつて取消を請求することのできる処分には当らず、本件準抗告の申立は理由がないといわなければならない。よつて、法四三二条、四二六条一項によりこれを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。(大関隆夫)