東京地方裁判所 昭和43年(むのイ)473号 決定 1968年7月29日
主文
東京地方検察庁検察官親崎定雄が昭和四三年七月二三日付でなした別紙(二)記載の接見等に関する指定はこれを取り消す。
理由
一本件準抗告申立の趣旨および理由は別紙記載(一)、(二)のとおりである。
二当裁判所の事実調べの結果によれば、被疑者は兇器準備集合並びに公務執行妨害各被疑事件により、昭和四三年七月二〇日午後八時三分現行犯逮捕され、引続き同年七月二五日勾留されかつ同日接見も禁止され現在代用監獄駒込警察署留置場に在監中の者であること、東京地方検察庁検察官親崎定雄は同年七月二三日付で別紙(二)記載のような接見等に関する指定書(以下単に一般的指定という)を駒込警察署長宛に発送したことがそれぞれ認められる。
三よつて判断すると右の一般指定が「検察官又は検察事務官は、刑事訴訟法第三九条第三項による接見等の指定を書面によつてするときは、接見等に関する指定書(様式四八号)を作成し、その謄本を被疑者及び被疑者の在監する監獄の長に送付し指定書(様式四九号)を同条第一項に規定する者に交付する」旨定めた法務大臣訓令の事件事務規程第二八条に準拠して発せられたものであることは当裁判所に顕著な事実であり、そして右の事務規定の文言からみれば、右規程に準拠して発せられた本件一般指定は前記検察官が刑事訴訟法三九条第三項の指定を書面によつてすることを前提として予めその旨を本件被疑者及び同人の在監する監獄の長に通知し、もつて予め弁護人等がわざわざ監獄に出向いても刑事訴訟法第三九条第三項(同項の規定は、身体の拘束を受けている被疑者が弁護人又は弁護人とならうとする者との接見交通の自由を原則として保障した同条第一項に対し、例外的に捜査官に捜査のため必要止むを得ない場合に限り被疑者が防禦の準備する権利を不当に制限しないような配慮のもに公訴の提起前に限り前記第一項に規定する原則的自由に或程度の制限を加えることを許し、もつて両者の利益の調整をはかつたものであり、しかも弁護人等に対し前記限度を逸脱した捜査官の処分に対しては準抗告による救済規定「刑事訴訟法第四三〇条」を別に設けている等の諸点に着目するときは弁護人所論の憲法第三四条に違反するものとは、とうてい解されない。)に基く捜査官の指定により接見交通ができないような事態を惹起する場合があることを予防することを意図したものにすぎないもののようにも見受けられ、従つて一見した限りでは本件一般的指定は前記検察官が本件、被疑者の在監する駒込警察署の長に対してなした単なる内部的な事務連絡上の通知に止るような観を呈しているものの、右の一般的指定がなされると、後に接見等についての具体的指定がなされないかぎり、監獄職員の間では、右一般的指定を根拠として被疑者と弁護人等との接見等を事実上一般的に拒否するような取扱がなされていることは当裁判所に顕著な事実である。
してみれば検察官の右の一般的指定は、拘置監に対し右述のような取扱をなさしめている限りにおいて被疑者の在監する前記監獄の長に対する単なる内部的な事務連絡上の通知に止らずすでに弁護人等と被疑者に対しその接見等を一般的に制限する効果を生じているものとみるべく従つてれそ自体刑事訴訟法第三九条第一項および第三項の趣旨に副わない違法な処分に該当すると解される。これを要するに本件検察官の一般的指定は刑事訴訟法第三九条第三項が本来予定した処分とはいえないけれども、それによつて同条第一項によつて原則的に保障された接見等の自由が一般的に制限される取扱いをなさしめている以上はなお同項の処分として取り扱うことは妨げないものと解すべく従つてこれに不服のあるものは同法第四三〇条により準抗告を申し立てうると解するのが相当である。
四以上の理由により、本件準抗告の申立は理由があり、前記検察官の一般的指定は取り消されるべきである。(中谷敬吉)