東京地方裁判所 昭和43年(むのイ)502号 決定 1968年8月03日
主文
東京地方検察庁検察官親崎定雄が被疑者について昭和四三年七月二九日になした別紙記載の接見等に関する指定を取消す。
理由
一本件準抗告申立の趣旨および理由は、準抗告申立書記載のとおりであるからこれを引用する。
二当裁判所の事実調の結果によると、被疑者は昭和四三年七月二六日公務執行妨害等の罪で現行犯人として逮捕され、同月二九日付検察官の請求にもとづき同月三〇日代用監獄中央警察署留置場に勾留されたところ、同月二九日、東京地方検察庁検察官親崎定雄が別紙記載のとおり接見等に関する指定(いわゆる一般的指定)をしたことが認められる。
三ところで、右にいわゆる一般的指定は、それがなされるとその謄本が監獄官吏および被疑者に送達されることになり、以後監獄官吏は検察官が弁護人および弁護人となろうとする者(以下弁護人等という)との接見等の日時場所および時間を具体的に指定(いわゆる具体的指定)しない限りその接見等を一律に拒否し、それ故弁護人等はいかなる場合にもつねに検察官からいわゆる具体的指定を受けて接見するの外はないこととなるのである。以上の事実は当裁判所に顕著である。
してみると、右のいわゆる一般的指定が、実際上弁護人等と被疑者との接見交通を規制する効果を生じていることは明らかであるから、検察官がこれをどのように説明しようとも刑事訴訟法第四三〇条第一項にいう「第三九条第三項の処分」に該るものといわなければならず、従つて検察官のした一般的指定は準抗告の対象となり得るものといわなければならない。
四刑事訴訟法第三九条の法意は、拘束中の被疑者と弁護人等との接見交通の自由を最大限に保障しようとするところにあり、従つてその接見等は原則として自由であつて、ただ捜査における現実の必要との調整をはかるために、取調べや実況見分立会等のため現実的な支障のある場合に限つて接見等の日時場所および時間を指定し得るものとしたものと解すべきである。しかし弁護人等の接見等は右の具体的な支障を理由とする指定(具体的指定)のない限り、本来自由になし得なければならない筋合である。
ところがいわゆる一般的指定は、前示のとおり弁護人等の接見等を具体的指定のない限り不可能にするものであつて、それは正に弁護人等の自由な接見交通を否定することとなるものであり、法律の規定の原則と例外とを逆転するものである。
従つていわゆる一般的指定は刑事訴訟法第三九条第三項本文但書に違反する違法な処分といわなければならないものであり、本件の接見等に関する指定も違法として取消を免れないものである。
因みに、本件指定が取消された以上、検察官等および監獄官吏は弁護人から接見等の申出のある限り、検察官から接見の日時等の指定がないという理由でこれを拒むことはできず、何時でも被疑者と接見させなければならないことは当然であり、ただ、捜査上の現実的な支障がある場合に限つて、検察官が接見等の日時場所および時間を指定し得るに止まるものであることはもちろんである。
以上の次第であるから、本件準抗告を理由があるものとして検察官の別紙記載の指定を取消すこととし、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第二項により主文のとおり決定する。(宮本康昭)