東京地方裁判所 昭和43年(ワ)10501号 判決
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〔判決理由〕
二、被告の責任
被告が甲車を所有しこれを自己のために運行の用に供する者であつたことは当事者間に争いがないので、被告は免責の抗弁が認められないかぎり自賠法第三条に基づく責任があるものといわなければならない。
そこで免責の抗弁について判断する。
前記当事者間に争いのない事実に<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。
安田は甲車を運転して幅員約5.5米の本件道路上を、北側にある雑木林の雑草と甲車左側面との間に約1.5米の間隔を保ちながら錦町方面から国立方面に向けて進行中、前方約一一米の地点に、原告(当時九歳のアメリカの少年)が雑木林の中から本件道路に出てくるのを発見した。しかし原告を避けることができず、雑草から1.6米本件道路に入つた地点において甲車を原告に接触させた。
甲車は衝突地点から約四米走行して停車し、停車位置に甲車の左前輪によるものと思われる1.75米の一条のスリップ痕が残つていたが、他にはスリップ痕はなかつた。
原告は昭和四二年七月七日アメリカからわが国に来たばかりで、車両の左側通行に慣れていなかつたため、雑木林から本件道路に出てくるに際し、左方の交通の状況は確認したが、右方に対する注意を全く怠つていた。
右認定事実によれば、甲車の速度はそれほど高速でなかつたことが認められるが、安田が原告を発見した地点から衝突地点までの間にスリップ痕がなかつたことを考えると、安田が原告を発見すると同時に急制動の措置をとつたとは到底推認することができない。
なお、原告が本件道路上に飛び出してきたのか、歩いて出てきたのかについては、本件全証拠によるもこれを確定することができない。
右認定の事実に基づいて安田の過失の有無を判断するに、安田が原告を発見と同時に急制動の措置をとらなかつたであろうことはすでに認定したとおりであり、甲車の速度がそれほど高速でなかつたことをも考え合わせると、もしも安田が適切なブレーキ操作を行い、かつ、右にハンドルを切る等の行為をとつていれば、発見地点と衝突地点との距離から判断して、本件事故は回避しえたものと推認される。従つて、安田の原告発見後の運転操作(ブレーキ操作、ハンドル操作)の過失はこれを否定することができない。
従つて、その余の点について判断するまでもなく、被告の免責の抗弁はこれを排斥せざるを得ない。
三、過失割合
原告は、一般に人が出てくるとは想定されないような雑木林の中から本件道路上に出てくるに際し、右方道路の交通の安全を全く顧慮しなかつたのであり、そしてその無謀な行動がまさに本件事故の主たる原因となつたのであつて、同人の右方道路に対する安全不確認の過失は重大である。右同人の過失と安田の前記過失とを対比すると、双方の過失割合は、原告につき六、安田につき四とみるのが相当である(原告が本件道路に出てきた時の状況が不明確な点は、証明責任の分配上被告側の不利益に解する。なお、付言するに、原告が来日したのが本件事故の一か月半ばかり前で、わが国における車両の左側通行を体得していなかつた点は、たしかに原告側に気の毒な事情ではあるが、かかる場合には当人なりその監護者なりにおいてそれだけ注意し配慮すべきものであるし、運転者安田が原告を外国人として視認したことがその後の運転行動に何らかの影響を及ぼす余裕があつたと認められる場合は格別として、そのような事情の必ずしも認められない本件においては、日米の交通規則の右の相違は過失割合の判断を左右しないといわなければならない。(倉田卓次 福永政彦 原田和徳)