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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)11330号 判決 1970年10月30日

破産者横川建設株式会社 破産管財人

原告 小林澄男

右訴訟代理人弁護士 刈部省二

同 植田義捷

被告 株式会社彩画堂

右代表者代表取締役 高橋正寿

右訴訟代理人弁護士 長田義衛

同 鈴木富七郎

主文

被告は原告に対し、別紙明細書記載の欠陥(かし)の修補と引換えに、金八〇万円を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分し、その一を原告のその余を被告の各負担とする。

事実

第一申立

1  原告

「被告は原告に対し、金八〇万円およびこれに対する昭和四二年一二月二三日以降支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担ともる。」

との判決ならびに仮執行宣言

2  被告

「原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  東京都中央区銀座東一丁目一〇番地に本店を置く訴外横川建設株式体社(以下破産会社という。)は、東京地方裁判所から、昭和四二年一一月八日午前一〇時破産宣告を受け、同時に原告がその破産管財人に選任された。

(二)  破産会社は、建築請負を業とする会社であり、被告との間に、昭和四〇年九月二〇日、次のとおりの建築工事請負契約をした。

(イ) 工事名 東横美術研究所新築工事

(ロ) 工事の場所 東京都世田谷区玉川奥沢町二の二五六の二

(ハ) 建築する建物の構造と床面積 鉄筋コンクリート造地上三階地下一階建

地上各階とも 一〇四・二七三平方メートル

地下一階 一五・四九八平方メートル

(ニ) 代金 金一、三六〇万円

(ホ) 代金支払方法

昭和四〇年九月九日  前渡金一〇〇万円

同年同月二〇日    前渡金二〇〇万円

同年一一月一〇日    内金二〇〇万円

同年一二月二五日    内金三〇〇万円

昭和四一年一月二五日  内金二五〇万円

同年三月一八日(引渡時)残金三一〇万円

(三)  破産会社は、昭和四二年一二月二一日以前に右請負工事を完成し、完成した建物(以下本件建物という。)を原告に引き渡した。

(四)  しかるに被告は、前記請負代金八〇万円を支払わない。よって原告は被告に対し、右残代金およびこれに対する原告の前同日付の右残代金支払方催告の内容証明郵便が被告に到達した同年同月二二日の翌日以降支払い済みまで商事法定利率年六分の割合の遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

すべて認める。ただし、被告に支払い義務があるとの主張は争う。

三  抗弁

(一)  破産会社のなした本件建物の建築工事には、別紙明細書記載の欠陥(かし)がある。その主な発生原因は、セメントの流し込み、窓枠のはめ込み等の不手際にある。

(二)  被告は破産会社に対し、昭和四一年五月頃以降、再三にわたって前記欠陥(かし)箇所の修補を求めたところ、昭和四二年六月、被告と破産会社との間で、破産会社は同年七月二一日から同月三一日までの間に前記修補工事を着手して完了すること、被告は前記欠陥(かし)箇所の修補の完成を確認した上で破産会社に対し請負残代金八〇万円を支払うこととの合意が成立した。

(三)  よって被告は、前記修補がなされるまでは原告の本訴請求に応じられない。

四  抗弁に対する認否

(一)  抗弁(一)記載の事実は否認する。

(二)  同(二)記載の事実は知らない。

(三)  同(三)記載の主張は争う。

第三証拠≪省略≫

理由

一  原告の請求原因に記載の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  ≪証拠省略≫によると、被告は、破産会社から昭和四一年四月六日頃本件建物の引き渡しを受けたが、当時、本件建物のうち、教室の内部は壁が塗ってなく、地下室は焼却炉が設置されず内装工事も末完成で、本件建物の周囲の整地も不完全であったが、地下室の工事は同年五月頃完成したこと、同年同月中旬になって、本件建物の各教室、地下室、階段室の内壁、便所の天井などから漏水し、また、煙道が壁の中で二度曲っていて掃除ができないなどの欠陥(かし)が発見されたこと、右欠陥(かし)の詳細と適切な修補方法は別紙明細書記載のとおりであること、本件建物の右の漏水は、破産会社がコンクリートが乾き切らないうちに次の工事を進めるなど工期の遅れを取り返すため無理な施工をしたことに原因があることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

三  被告代表者の尋問の結果によると、被告は破産会社に対し、前記の漏水を発見した直後その修補を求めたが、破産会社は地下室の溜り水をモーターで汲み上げる装置をしただけで、そのモーターもその後使用不能となったこと、被告は破産会社に対し、昭和四二年六月頃、前記の欠陥(かし)の修補を求め、その後重ねて同年七月二一日から同年同月三一日までの間に右修補に着手して完了することを求めたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

四  以上の事実によると、原告は被告に対し本件請負残代金八〇万円の請求権を有するところ、被告の主張する別紙明細書記載の欠陥(かし)の修補請求との同時履行の抗弁権も理由があるので、被告は原告に対し、本件建物について右の修補を受けるのと引き換えにのみ右残代金を支払うべき義務があり、遅延損害金の支払義務はない。したがって、右の態様における残代金支払義務の履行を求める範囲で原告の本訴請求は正当として認容し、その余の部分は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条第八九条を適用し、仮執行の宣言は相当でないので付さないこととし、よって主文のとおり判決する。

(裁判官 野田殷稔)

<以下省略>

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