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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)11625号 判決 1969年9月17日

原告 田口勤

<ほか五名>

右六名訴訟代理人弁護士 長尾憲治

右訴訟復代理人弁護士 小沢浩

被告 藤巻文武

右訴訟代理人弁護士 高木新二郎

同 楠本博志

右訴訟復代理人弁護士 清水紀代志

主文

一、原告らと被告との間において原告らが別紙物件目録一記載の土地につき所有権を有することを確認する。

二、原告らのその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、原告ら

請求の趣旨

(一)  原告らと被告との間において、原告らが別紙物件目録一記載の土地につき所有権を有することを確認する。

(二)  被告は、原告らに対し、別紙物件目録二記載の建物を収去して同目録一記載の土地を明渡せ。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決と第二項について仮執行の宣言を求める。

二、被告

請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一、請求原因

(一)  原告らは、昭和四一年一一月二八日訴外伊藤伯からその所有にかかる別紙物件目録一記載の土地(以下本件土地という)を買い受け、横浜地方法務局昭和四一年一二月七日受付第四一〇五七号を以って所有権移転の登記を受け、現にその所有者である。

(二)  被告は本件土地上に別紙物件目録二記載の建物(以下本件建物という)を所有して本件土地を占有している。

(三)  よって、原告らは本件土地の所有権が原告らに属することの確認並びに被告は原告らに対し、本件建物を収去して本件土地を明渡すべきことを求める。

二、請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)記載事実中、訴外伊藤伯が本件土地を所有していたことと原告ら主張の所有権移転登記のあることは認めその余は不知。

(二)  同(二)記載事実は認める。

(三)  同(三)記載の原告らの主張は争う。

三、抗弁

仮りに、本件土地の所有権が、原告らに移転したとしても、

(一)  被告は訴外伊藤伯との間で、右訴外人が本件土地を所有していた頃である昭和四一年九月二二日、証書貸付手形貸付契約を結ぶと同時に、右訴外人所有の本件建物につき、右貸金の担保として代物弁済の予約をなし、これに基づき右訴外人は被告のために横浜地方法務局昭和四一年九月二二日受付第三一八三二号をもって所有権移転請求権仮登記をなし、その後昭和四二年六月二九日、被告は右訴外人に対し右代物弁済の予約完結の意思表示をなし、この意思表示は同日右訴外人に到達し、被告は同日本件建物の所有権を取得した。かかる場合民法第三八八条が類推適用されるべきであるから、被告は代物弁済の予約完結の意思表示による本件建物の所有権取得と同時に本件土地について建物所有を目的とする法定地上権を取得した。

(二)  仮りに、被告の右主張が認められないとしても

1 訴外伊藤伯は、昭和四一年九月二二日、本件建物につき、前述の代物弁済の予約をなすことにより、黙示的に被告との間に、右敷地である本件土地につき賃貸借の予約をなしたものと解すべきである。

蓋し、土地とその地上建物とが同一所有者に属する場合において建物を任意譲渡するときは、建物取毀しとか移築とかの条件を付したような特段の事情がない限り、譲渡人は譲受人に対して黙示的に当然土地についての使用権を設定するものであり、土地使用権の通常の態様は賃貸借であるから、それが黙示的になされた場合は、土地についての賃貸借契約がなされたものと解すべきであり、代物弁済の予約も任意譲渡の一つであるから、これと同一に解すべきで、賃貸借の予約がなされたものである。

2 ところで、原告らは、被告の右賃貸借の予約後に、本件土地上に本件建物の存在することを確認し、且つそれを条件として訴外伊藤伯から本件土地を譲り受けたものであるから、原告らは、右譲り受けの際、訴外伊藤伯から本件土地についての賃貸借予約上の義務を承継したと解すべきである。

3 被告は、昭和四二年六月二九日、訴外伊藤伯に対し、前述の代物弁済予約完結の意思表示をなし、右意思表示は同日右訴外人に到達したが、右意思表示には黙示的に賃貸借予約完結の意思表示が含まれていると解すべきであるから、右同日、被告は本件土地につき建物所有を目的とする賃借権を取得した。

(三)  仮りに、原告らが、右賃貸借予約上の義務を承継しないとしても、

1 被告が訴外伊藤伯との関係で本件土地の賃借権を取得したことは、前記1及び3記載のとおりである。

2 被告は、本件建物につき、前述の所有権移転請求権仮登記を経由していたが、横浜地方法務局昭和四二年八月二日受付第二七一七九号をもって、前述の同年六月二九日代物弁済を原因として、右仮登記に基づく所有権移転の本登記手続を経由した。

そうすると、本件土地の賃借人である被告は、賃借地上に登記したる本件建物を所有するから、建物保護に関する法律第一条により本件土地の賃借権をもって第三者たる原告らに対抗できる。

四、抗弁に対する認否

(一)  抗弁(一)につき、本件建物が昭和四一年九月二二日現在訴外伊藤伯の所有に属していたこと及び被告主張どおりの仮登記の存することは認めるが、被告が本件建物の所有権を取得するにいたった経過に関する事実は不知であり、其の余の事実は否認し、被告が本件土地について民法第三八八条の規定の類推適用により地上権を取得したとの主張は争う。

(二)  同(二)の主張は争う。

(三)  同(三)につき、被告が、本件建物についての所有権移転請求権仮登記を、昭和四二年八月二日本登記に改めた事実は認めるが、被告が、本件建物につき、昭和四二年六月二九日代物弁済の予約完結の意思表示をしたとの事実は不知、被告の法律上の主張は争う。

四、再抗弁

仮りに、被告が抗弁(二)2において主張したような事情が存するとしても、原告は、訴外伊藤伯から本件土地を買受けるにあたり、同訴外人との間で同訴外人が本件建物を他に取り毀して移転させる旨特約したから、本件土地賃貸借の予約上の義務を承継することはありえない。

六、再抗弁に対する認否

再抗弁事実は不知。

第三証拠≪省略≫

理由

一、本件土地所有権の帰属について判断する。

訴外伊藤伯が、本件土地を所有していたところ、同訴外人から原告らに対し、本件土地につき、横浜地方法務局昭和四一年一二月七日受付第四一〇五七号をもって同年一一月二八日売買を原因とする所有権移転登記がなされていることについては当事者間に争いがない。

したがって、原告らに本件土地の所有権がないことを認めるに足る証拠がない本件においては、右登記の存在により、原告らに本件土地の所有権があると推定される。

二、請求原因(二)記載事実は当事者間に争いがない。

三、法定地上権の抗弁について判断する。

仮りに被告主張のとおりの事実が認められるとしても、同一所有者に属する土地及びその地上の建物のうち、建物のみを代物弁済の目的とした場合、民法三八八条の法定地上権の規定の類推適用があるか否かが問題となる。

本来右規定は、契約によっては賃借権、地上権等の土地使用権を設定することが法律上又は事実上不能な場合に、地上建物の存立を全うせしめることを意図するものであるから、本件の場合のように、代物弁済の予約完結の意思表示をすることにより、土地と地上建物が別個の所有者に帰属するかもしれないことが、前もって被告にも予想され、したがって、かかる場合に備えて、代物弁済の予約と同時に、予め、建物の所有を目的とする土地使用権の設定について合意しておくことによって、本件建物の存立を全うせしめることが出来る場合においては、右規定を類推適用することは許されないというべきである。従って被告主張のその余の点を判断するまでもなく被告の主張する法定地上権の成立は認められない。

四、賃借権の抗弁について判断する。

(一)  被告が、本件建物の所有権者であることは前記認定のとおりであり、本件建物につき、登記簿上、訴外伊藤伯から被告に対し、横浜地方法務局昭和四一年九月二二日受付第三一、八三二号をもって、右同日の代物弁済の予約を原因とする所有権移転請求権仮登記及び昭和四二年八月二日受付第二七、一七九号をもって、昭和四二年六月二九日代物弁済を原因とする、右仮登記に基づく所有権移転の本登記の各記載があることは、当事者間に争いがない。

以上の各事実に弁論の全趣旨を綜合すると、被告が本件建物の所有権を取得した経過は、右訴外人が、昭和四一年九月二二日被告との間で、本件建物につき代物弁済の予約をなしていたところ、被告は、昭和四二年六月二九日、右訴外人に対し代物弁済予約完結の意思表示をなし、右意思表示は、同日右訴外人に到達し、もって本件建物の所有権を取得するに至ったものであることを推認することができ、右認定に反する証拠はない。

ところで、同一所有者に属する土地及び地上の建物のうち、建物のみが他へ任意譲渡された場合、当該建物の敷地に対する使用権を特に留保するとか、譲渡の目的が建物収去のためである等特段の事情がない限り、右敷地の使用権を設定する合意があったものと解するのが相当であり(最高裁判所昭和四一年一月二〇日判決参照)、右敷地使用権の法的性格は、土地利用の法律関係が殆ど賃貸借によっている現状からいって、特段の事情がない限り、敷地賃借権と解すべきであり、このことは、建物を他へ確定的に譲渡した場合と、担保のため譲渡担保又は代物弁済の予約の目的とした場合とでこれを別異に解する理由がないから、同一所有者に属する土地及びその地上の建物のうち建物のみが代物弁済の予約の目的とされた場合には、特段の事情がない限り、代物弁済の予約完結を停止条件として右敷地の賃借権を設定する合意があったものと解するのが相当である。

そうすると、訴外伊藤伯が、昭和四一年九月二二日、被告に対し同訴外人所有の本件建物について代物弁済の予約をなしたことは前記認定のとおりであり、右の当時本件土地建物のいずれもが同訴外人の所有であったことは≪証拠省略≫により認められるところであるから、他に特段の事情の存することにつき主張立証のない本件においては、同訴外人は、本件建物を代物弁済の予約の目的とすることによって、被告との間にその敷地である本件土地につき右代物弁済予約完結を停止条件とする賃借権設定の合意があったものと解するのが相当である。

そして、被告が、昭和四二年六月二九日、右代物弁済予約の完結の意思表示により本件建物所有権を取得したことは前記認定のとおりであるから、右予約完結による条件成就により、被告は本件土地につき建物所有を目的とする賃借権を取得したものというべきである。

ところで、被告が本件建物について昭和四一年九月二二日に所有権移転請求権仮登記を経由したあとである、同年一二月七日、原告らが本件土地について所有権移転登記を経由したものであること、及び被告が本件建物について昭和四二年八月二日右仮登記に基づく所有権移転の本登記を経由したものであることは前記認定のとおりであるから、本件土地の賃借人である被告は、賃借地上に登記したる本件建物を所有することとなり、且つ右仮登記の順位保全の効力により、被告は、原告らの本件土地所有権取得登記に先んじて本件建物について所有権取得の本登記を有したことになるから、原告らの右登記の存在にも拘らず、被告は、建物保護法一条の規定に基づき、本件土地の賃借権をって、本件土地の譲受人である原告らに対抗することができ、従って原告らは訴外伊藤伯の被告に対する本件土地賃貸借上の権利義務を当然承継するものといわなければならない。

そうすると被告の右賃借権の抗弁は理由がある。

五  よって、原告らの本訴請求は土地所有権の確認を求める限度で理由があるからこれを正当として認容し、その余は理由がないから、これを失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺剛男)

<以下省略>

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