東京地方裁判所 昭和43年(ワ)11742号 判決
原告
小宮信一郎
外二名
代理人
本渡乾夫
同
田賀秀一
被告
埼東貨物自動車株式会社
被告
新井伝吉
代理人
中村光彦
同
小川恒治
第一 主文
一、被告会社は原告小宮信一郎に対し金一〇四、四三〇円およびこれに対する昭和四三年一〇月二五日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、原告らのその余の本訴請求はすべて棄却する。
三、訴訟費用については被告会社に対する原告小宮信一郎の訴の部分についてはこれを三分してその一を被告会社の負担、その余を原告小宮信一郎の負担とし、その余の本訴請求についてはすべて原告らの負担とする。
四、この判決一項は仮に執行することができる。
第二 本訴請求の趣旨
「被告らは不真正連帯の関係において、原告小宮信一郎に対し金五〇〇、〇〇〇円、原告小宮佳朗および小宮幸子に対し各金一五〇、〇〇〇円あて、ならびにこれらに対する訴状送達の翌日である昭和四三年一〇月二五日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払をせよ。」との判決ならびに仮執行宣言。
第三 争いのない事実
一、傷害自動車事故発生
とき 昭和四二年五月九日午前一〇時三〇分頃、雨上り
ところ 東京都足立区花畑町五三二四番地先の歩車道の区別ないアスファルト舗装の市街地の曲線道路上
事故車 被告会社所有のトヨペット六四年型二屯貨物自動車埼四い〇六八八号
右運転者 被告会社の従業員菊地昭一(当時二二才)
受傷者 歩行中の原告小宮信一郎(昭和三八年五月九日生)
態様 事故車は右路上を南進中、対向歩行してきた原告信一郎と接触、ために同人は受傷した。
二、責任原因について
被告会社は本件事故車の運行供用者である。
三、損害の填補について
被告会社は原告の間崎外科医院における入院治療費として金五五九、八〇〇円を支払つている。
第四 争点
一、原告らの主張
(一) 責任原因
1 被告会社の運行供用者責任
本件事故については事故車の運転者菊地が、花畑小学校に面した本件道路を運転するに際し、バス停に赴く幼児原告信一郎をともなつた対向歩行者を認めながら、十分徐行義務をつくさなかつた過失があるから、もとより被告会社は自賠法三条により賠償の責に任じなければならない。
2 被告新井の代理監督者責任
被告新井は運送事業を営む被告会社の代表取締役社長として本件自動車運行を具体的に管理、監督する立場にあるから、代理監督者として被告会社の従業員である菊地の過失により惹起した本件事故につき民法七一五条二項により賠償の責に任じなければならない。
(二) 損害の発生
1 原告信一郎の傷害の内容
右大腿骨骨折、脛骨骨折、骨盤骨折、頭部挫傷により、特に大腿骨折部の仮骨形成不充分のため六ケ月以上の治療を要し、その後もマッサージなどを続けねばならなかつた。
2 原告らの慰藉料
イ 原告信一郎
金五〇、〇〇〇〇円
現在五才で八千代幼稚園に通つているが、びつこをひいて歩かねばならず、運動は一切できず友達の活動を隅でみているという状態で、精神的な打撃も強く、右額が相当である。なお被告会社支払のほか金四七、二五〇円の治療費を負担している。
ロ 原告佳朗、幸子
各金一五〇、〇〇〇円あて
受傷の幼児を監護する父母としての悲歎、将来への不安を考慮すれば右額が相当である。
二、被告らの主張
(一) 被告らの無責
1 被告会社の無責
被告会社、菊地は左のように本件自動車の運行に関し注意を怠つておらず、原告信一郎および同人を連れ添つていた母原告幸子の一方的過失によつて本件事故が発生したものであり、本件事故車に構造上の欠陥も機能の障害も存しなかつたから、自賠法三条の責任を負うべくもない。
菊地は本件現場近くに差掛つた際前方道路西側を徒歩で左側通行してくる原告信一郎と原告幸子をふくむ対向歩行者三名を前方に認めたが、その時幌をつけた四トン車の大型貨物が対向してきて、すれちがいとなつたのでブレーキを踏んで速度をおとして徐行し右貨物車とすれ違つた途端、その貨物車の直後を一人でかけ出して道路中央近くまできていた原告信一郎を発見、ただちにブレーキを踏み、可能なかぎりハンドルを左に切つたが、左側に側溝と家屋があつたためそれ以上左によせることができず、ついに自動車の前部バンパー右端が原告信一郎に接触したものである。
従つて本件事故はもつぱら道交法一〇条、同一三条一項、同一四条三項に違反して左側通行と自動車の直後横断をおかした原告信一郎の過失と母原告幸子の監護上の過失にもとずいて発生したものであり、菊地は前方注視をつくし歩行者、対向車に対する危険予防の措置をつくしていたから過失はない。ちなみに菊地は本件事故の刑事上の責任については嫌疑不十分で不起訴処分となつている。
2 被告新井の無責
被告会社の代表取締役ではあるが具体的な運行管理、監督の立場にはない。また菊地に前記のように不法行為はなかつた。また被告新井は菊地の選任および事業の監督につき相当の注意をなしており、いずれにしても民法七一五条二項の代理監督者責任を負うべくもない。
(二) 過失相殺
かりに被告らに何らかの賠償責任があるとしても、前記のように原告らに重大な過失があるから、過失相殺が適用されねばならない事案である。
第五 争点に対する判断
一、責任原因
(一) 被告会社の運行供用者責任
本件事故については後記認定のように原告信一郎に重大な過失があつて、運転者菊地に十分同情の余地はあるが、かなり屈曲のはげしい幅員約5.5メートルの車歩道の区別のない人家、商家、学校裏門の続く市街地道路の運転として、前方約二〇メートル余に対する幼児原告信一郎をふくむ歩行者を発見しながら、接触の際原告信一郎を一メートル余はねとばして転倒させている点、事故車の危険予防の措置が万全だつたとはにわかにいえず、従つてもとより被告会社は運行供用者として原告信一郎に生じた損害賠償の責に任じなければならない。
<証拠―略>
(二) 被告新井の代理監督者責任は認められない。
被告新井が被告会社の代表取締役であることのほか、特に同人が代理監督者責任を負わねばならないような具体的な運行管理、指揮監督の実ないし会社と個人の企業としての事実上の同一性をしめすような事実の立証がないから、民法七一五条二項の責を肯定することはできない。
二、損害
1 原告信一郎の傷害の内容
原告主張のとおり認められる。
<証拠―略>
2 原告信一郎の慰藉料
金五〇〇、〇〇〇円
傷害の内容程度約四ケ月の入院、退院後もなお約四ケ月ギブスをはめ、昭和四三年七月までマッサージ経過観察を要した治療経過、右大腿部に約一二センチの傷痕を残した点などを考慮するとその年令にてらし、これを慰藉すべく右額が相当である。また原告は被告会社支払の外さらに四七、二五〇円の治療費を負担している。
3 原告佳朗、幸子の慰藉料は認められない。
本件受傷の程度ではいまだ近親者としての原告らの慰藉料請求権発生は肯定できない。
三、過失相殺
原告信一郎が母原告幸子に伴われて左側を歩行していたのは本件現場よりすぐ先に乗車すべきバスの停留場があるため、手前で横断したので、責むべき点はないが、本件事故発生については原告信一郎が北行幌つきの四トン貨物車の通過直後(事故車にとつてすれ違い直後)その後から突然、母のもとを離れて道路中央へとび出した過失によるところ大なるものがある。しかしながら商店、住宅の混在する市街地の歩車道の区別ない道路であることから過失相殺は総損害の四〇%にとどめるのが相当である。
<証拠―略>
ところで原告の損害は治療費計六〇七、〇五〇円(被告会社支払五五九、八〇〇円、原告支払四七、二五〇円)と慰藉料五〇〇、〇〇〇円の合計金一、一〇七、〇五〇円であるところ過失相殺により被告会社が負担すべき額はその六〇%、金六六四、二三〇円となる。そしてこれから被告会社支払の五五九、八〇〇円を差引くと、被告会社の未済残額は金一〇四、四三〇円となる。
四、結び
そうすると原告信一郎の請求は主文の限度で理由があり、同原告のその余の請求、その余の原告らの各請求はすべて棄却しなければならない。
訴訟費用につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言に関し同一九六条を適用した。(舟本信光)