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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)11886号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕そこで本件事故の原因について判断する。

(一) 右争いのない事実、<証拠>から

(イ) 原告車を運転した訴外金正夫は事故前日に大阪を出発していること

(ロ) 被告車を運転した訴外森川天は事故当日江戸川の被告会社を出発したこと

(ハ) 本件事故は六月九日午前七時三分頃、横浜市戸塚町の通称戸塚バイバスで発生したこと

が認められ、これに反する証拠はない。

大阪から事故現場までは五〇〇キロメートル以上あり、江戸川から戸塚までは数十キロメートルの距離であることは公知の事実であり、この距離を走るには当時原告車は一〇時間以上、被告車は一時間余かかることは当裁判所に顕著な事実である。

そうとすると訴外金正夫は夜を徹して大阪から本件事故現場まで走行し、前日に休養をとつていたとしても運転による疲労のため、相当眠気を感じ、注意力も散慢な状況下にあつたというべきであり、これに比して訴外森川の疲労度は、大型車であることを考慮しても、はるかに少くなかつたと認められる。

(二) <証拠>から、次の各事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(イ) 事故現場の状況は凡そ次図<省略>のとおりである。

(ロ) 衝突後における原告車と被告車の停車状態は凡そ次図<省略>のとおりである。

すなわち、原告車は道路の中心線をまたぐように大破して止まつており、被告車は路肩の縁石を乗り越えて、約0.5メートル以上土堤に乗り上げた状態であり、運転席右ドア付近が小破している。

(ハ) 現場付近の最高速度の規制は高速車時速六〇キロメートル、その他の車両時速五〇キロメートルであつたがトレーラーについては道路交通施行法一二条二号に該当し、右規制よりさらに低い時速三〇キロメートルに制限され、その速度制限の解除はなかつた。

(三) <証拠>から次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(イ) 被告車は事故現場手前一〇五メートルを時速四五キロメートル程の速度で進行し、本件衝突時においてはほぼ時速三八キロメートルの速度であつた。

(ロ) 被告車の運転者訴外森川は五〇メートル程前方と思われるところを中心線をまたぐようにして対向して来る原告車を認め、はじめは原告車がふざけてやつているのかと思い、前照燈を点滅させて、これに警告を与えた。しかし避けようとしないので、ふざけているのではないと知り、急拠警音器を吹鳴し、左にハンドルを切り、制動をかけたが、制動がかかる間もなく原告車に被告車運転席右ドア付近へ衝突された。その後約二―四メートル走行し、進行方向左側路肩を乗り越えて左前車輸が土堤に約五〇センチメートル乗り上げた状態で前記(ニ)(ロ)のとおり停止した。

(ハ) 衝突地点は前記(ニ)(イ)(ロ)図の×地点付近で原告車進行方面から見て、中心線より一―1.5メートル左側に入つたところで、衝突の衝撃で被告車の右側のガソリンタンクのパイプが切れてガソリンが飛散し、路面を濡らした。

(ニ) 衝突前の原告車進行路面には何ら原告車のスリップ痕は見当らない。

(四) 以上の認定事実を綜合すると前記(ニ)(イ)の(1)図のとおり比較的見とおしの良い上下二車線の道路において、原告車を運転していた訴外金正夫は、長時間運転の疲労のため、注意力が散慢となり、いわゆる居眠り運転の状態に陥り入つたまま、何ら転把、急制動の措置を構ずることなく、中心線を越えて対向車線を進行し、被告車の運転席右側ドア付近に原告車を衝突させるに至つたものと認められる。

(五) 進んで被告車運転者訴外森川にも、責められるべき点はなかつたかどうかを考察するに、

(イ) およそ運転者たる者は細心の注意をもつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのは当然であるが、対向直進車がある場合には、その対向車の運転者も通常の運転方法を取るであろうことを期待して、運転すれば足り、対向車が中心線を越えているのを認識し衝突の危険を感じた場合でも対向車運転者が本来の車線に復する運転動作をとることによつて衝突を回避しうる距離関係にあると判断される限り、アクセルから足を離しあるいは警音器を吹鳴し、あるいは前照燈を点滅させて警告を与えれば足り、対向車が中心線を越えた状態で進行を継続してもこれと衝突しないように直ちに急制動や急ハンドルをとつて避譲するまでの義務はないというべきである。けだし、対向直進車の異常な状態に気付いたときただちにこれとの衝突を避けるための急制動・急ハンドル、もしくは急激な減速の措置をとるべきであるとすれば、余りにも運転者にとつて苛酷な注意義務を要求することとなるだけではなく、高速度交通機関としての本来の効用を強く減殺することとなり、さらに同一方向に進行している他の車両に対しての著しい障害ひいては接触、追突事故の誘因ともなりかねず、かえつて災害を増加させるおそれもあるからである。

(ロ) 被告車運転者の事故直前の運転動作を見るに、前記のとおり、警音器を吹鳴し、前照燈を点滅したのであり、進行道路の幅員から言つても事前に容易に左に転把して避けうる程の余地もないから、運転者としての注意義務は果していると言うべきである。被告車の衝突個所は右前輪のフェンダー後部から運転席右側ドア付近であつて、被告車の前バンバー・ラジエーター付近には何ら衝突痕は認められないことと証人森川の証言とをあわせて考慮すれば、被告車が左に転把して左に曲りはじめたときに原告車が衝突してきたものであつて、原告らの、訴外森川が何ら左へ転把していない旨の主張も理由がないというべきである。

(ハ) つぎに被告車の速度について考える。被告車の長さ重量は原告ら主張のとおりと認められ、被告車の運転者には、比較的運転の容易な小型車に比し、注意義務が加重されることは否めないが、現場付近の道路は前記(ニ)(イ)図示のとおり、多少曲つているとは言え、特に徐行を要求する状況にあるとは言いがたいもつとも現場付近走行の際の被告車の速度は少くとも時速三八キロメートルで、法令の制限速度三〇キロメートルを八キロ程越えているが、高速車の制限速度は六〇キロメートルで、牽引車でない大型車では時速五〇キロメートルであることから、歩行者が被害者である場合はともかく、対向車にとつて直ちに危険を生ぜしめる速度とは言いがたく、具体的事実として車に異常な状態があつたこともない。前記衝突個所から見ても被告車の制限速度を越えたことが本件衝突の直接の原因となつているとは到底断じえない。

(ニ) また原告らは、被告車が制限速度を越えたことが損害拡大の原因になつている旨主張するが、これを首肯するに足りる証拠はない。さらに原告車進行方向のようにやや下り坂になつているところを時速五〇〜六〇キロメートルの速度のまま無制動状態で衝突した場合は仮りに衝突された被告車が停止していたとしても、運転者および同乗者に死亡もしくは重傷の結果を生ずることは当裁判所に顕著な事実であつて、被告車に時速八キロメートル程の超過があつたことから訴外金正夫の死の結果がもたらされたともにわかに推測しがたい。いずれにしても訴外森川の制限速度違反の事実と本件死亡とは相当因果関係はないと言わざるを得ない。(倉田卓次 小長光馨一 佐々木一彦)

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