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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)1200号 判決 1969年7月21日

原告(反訴被告) 会沢謙吉

右訴訟代理人弁護士 木村喜助

被告(反訴原告) 山田キヨ

右訴訟代理人弁護士 佐藤安俊

主文

一、被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し、別紙目録記載の宅地のうち、別紙図面(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(ハ)で囲んだ部分について原告(反訴被告)が所有権を有することを確認する。

二、被告(反訴原告)は右図面の(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)を結ぶ線上に設置されている長さ約一三・五五メートル、高さ約一・六メートル、幅約〇・一メートルの八段積みブロック塀を収去し、右図面の(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(ハ)を結ぶ線で囲まれた土地を原告(反訴被告)に対し明渡せ。

三、被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)と共同の費用をもって、右図面の(ト)、(チ)を直線で結ぶ線上に長さ約一三・二一メートル、高さ約一・二メートル、幅約〇・一メートルの六段積みブロック塀を築造することを承諾せよ。

四、被告(反訴原告)は金一九万三一二五円及び昭和四二年一〇月九日から主文第二項の宅地明渡済にいたるまで一ヶ月金五〇〇円の割合による金員を支払え。

五、被告(反訴原告)の原告(反訴被告)に対する反訴請求はいずれも棄却する。

六、訴訟費用は本訴・反訴を通じて被告(反訴原告)の負担とする。

この判決は、主文第二・四項にかぎり、かりに執行することができる。

事実

第一本訴

一  当事者の求める裁判

1  原告(反訴被告)(以下原告という)

(一) 主文同旨の判決

(二) 主文第二・四項につき仮執行の宣言

2  被告(反訴原告)(以下被告という)

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

二  請求原因

1  原告は昭和三九年三月一六日訴外小沢武夫から左記宅地建物を登記簿の表示どおりの現状(別紙図面(イ)、(ロ)、(チ)、(ト)、(イ)で囲む土地)で買受けこれを所有し、占有するもので、その所有権移転保存の登記手続を了している。

(一) 東京都練馬区北大泉町八〇番一八宅地一〇四・九五平方メートル(二一・七五坪)(以下本件宅地という)

(二) 同所同番七

公衆用道路四二・九七平方メートル(一三坪)の持分一、三一一分の一五八

(三) 同所同番同号

木造瓦葺亜鉛メッキ鋼板交葺二階建一階四二・一四平方メートル二階一三・二二平方メートル(以下本件建物という)

2  被告は、本件宅地の東側隣地である同所同番一九の宅地八六・〇八平方メートル及び本件道路の持分一、三一一分の七六二と右宅地上の建物を所有する者でその旨の登記手続を了している。

3  ところで、本件宅地と被告の右宅地との境界は、原告買受けの当初から別紙図面(ト)、(チ)を直線で結ぶ線であって、同線上に長さ約一三・二メートル、高さ約一・二メートル、幅〇・一メートルの六段積みブロック塀(以下旧塀という)が築造されており、それは原告と被告との共有であった。

4  しかるに被告は、昭和四二年一〇月五日から同月八日にかけて何らの権限もないのに不法にも旧塀を取毀し、新たに、原告の本件宅地上の別紙図面(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)を結ぶ線上に長さ一三・五五メートル、高さ約一・六メートル、幅約〇・一メートルの八段積みブロック塀(以下新塀という)を築造し、本件宅地中新塀以東面積約七・三八平方メートルを被告宅地に取りかこみ被告の買受地と称し、原告の右宅地部分の占有を侵奪した。

5  そして、原告は被告の右不法行為により次の損害をこうむった。

(一) 右侵奪部分の使用不能による損害、月額金五〇〇円の割合で前記侵奪後の昭和四二年一〇月九日から引渡完了日まで。

(二) 旧塀の取り毀しによるその価格の二分の一に相当する金一万三一二五円

(三) 原告の奥六畳の間は右侵奪をうけた部分をその出入路として利用していたため、それを塞がれ多大の不便を感ずると共に無法極まる被告の行為により精神的苦痛をうけたので、その慰藉料として一〇万円

(四) 本件訴提起を余儀なくされ、訴訟代理人弁護士木村喜助氏に対し昭和四三年二月二日着手金として金三万円を支払い、同日本件解決の報酬として金五万円を支払う旨の契約をしたのでこの合計八万円

6  よって、原告は、被告に対し、

(一) 原告の本件宅地所有権に基づいて

(1) 前記侵奪部分が原告の所有であることを確認する。

(2) 新塀を収去し、侵奪部分を明渡せ。

(二) 原被告が前示各建物の所有者であるので、民法第二二五条に基づいて別紙図面(ト)、(チ)を結ぶ線上に旧塀相当の長さ約一三・二一メートル、高さ約一・二〇メートル、幅約〇・一〇メートルの六段積みブロック塀を原告と被告の共同の費用をもって築造することを承諾せよ。

(三) 被告の不法行為に基いて原告に生じた損害の賠償として前記5の(一)ないし(四)記載の各損害金合計を支払え。

二  請求原因に対する認否

1  認める事実

(一) 被告が本件宅地の東側に隣接する原告主張の宅地建物を所有していることと原告が原告主張の建物を買いうけたこと、そして、原被告が原告主張通りの宅地と公衆用道路の登記を有すること。

(二) 別紙図面(ト)~(チ)の線上に旧塀があったこと。

(三) 被告が原告主張通り旧塀を取毀したこと。

(四) 被告が原告主張の新塀を築造したこと。

2  争う事実

(一) 原告主張の侵奪部分の損害月額金五〇〇円

(二) 旧塀の価格二分の一、一万三一二五円

(三) 慰藉料額金一〇万円

(四) 弁護士費用としての八万円

3  知らない事実

原告が昭和三九年三月一六日訴外小沢武夫から本件宅地や道路敷地建物を買受けたこと。

4  否認する事実

その余の事実

三  抗弁

被告は、昭和四二年一〇月五日午前一〇時頃原告に対し、被告の土地権利証を示し、原告の土地権利証とつきあわせ、原告の占有している土地と被告の占有している土地は三三〇平方メートルを三等分した一つづつでありながら、原告の負担する私道部分が被告負担の私道部分より少く、従ってそれだけ被告宅地の坪数が少くなっている不合理を説明し、売主である訴外小沢喜代子(原告に対する売主である小沢武夫の妻)からも、同趣旨の説明をした結果、原告は本件土地や被告所有地を実測し、私道負担を除いた本件建物等の敷地部分の地積を同一とするとともに、それに基く原被告間の境界を定めることに同意したので、被告は旧塀をとりこわして新境界上に新たに塀を築造することにしたが、その境界線が原告の建物の一部にかかるため、原告のためこれを避けて別紙図面(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)の線を境界とし、ここに新塀を築造したものである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第二反訴

一  当事者の求めた裁判

1  被告

(一) 原告は、東京法務局練馬出張所昭和三九年四月二日受付第一三、六一〇号をもってなされた東京都練馬区北大泉町八〇番の一八、宅地一〇四・九五平方メートル(二一坪七合五勺)に対する土地表示を、錯誤を原因として九五・八六平方メートル(二九坪)に更正し

(二) 同日同所受付第一三、六一一号をもってなされた同番七、公衆用道路四二・九七平方メートル(一三坪)に対する持分一三一一分の一五八の表示を、錯誤を原因として持分一、三一一分の四三七に更正する各表示更正登記手続をせよ。

(三) 原告は、被告に対して金一八万円および昭和四三年四月一七日から年五分の率による金員を支払え。

(四) 訴訟費用は、原告の負担とする。

(五) 右(三)につき仮執行の宣言。

2  原告

(一) 反訴請求を棄却する。

(二) 反訴費用は、被告の負担とする。

二  反訴請求原因

1  訴外小沢喜代子は、その所有に係る東京都練馬区北大泉八〇番地所在土地三三〇平方メートル(百坪)中私道分として同番七道路四二・九七平方メートル(一三歩)を分筆し、残地を三等分し、それぞれの土地上に建物を建て、これらの土地即ち私道分を共有として、その持分三分の一づつと残地の三等分の一づつを地上建物つきで原被告他一名に売り渡した。

2  しかるに、右地上建物の建築工事請負人が過失により、境界を誤って被告買いうけの土地上に旧塀を築造し、売主の小沢喜代子もまた、更正の境界線上に旧塀が築造されたものと誤信し、同女の代理人小沢武夫も同女と原被告ら間の土地建物売渡契約にかかわらず、旧塀による境界をもって原被告間の土地の境界線と誤信して、それによる実測どおりに分筆し原被告と本訴請求原因1、2の各分筆登記と共有持分登記の手続を了した。

3  従って原告の前記分筆と共有持分登記は、当初の登記手続における過誤により、実体に符合しないものであり、被告は、原告のそのような登記の存在する関係で本訴請求原因2の如き登記を余儀なくされているので、原告がその登記を実体に符合するよう更正登記することに利益を有するものであるから、原告に対し、原告においてその更正登記手続をすることを求めるものである。また売主の小沢喜代子は原告に対しこれら登記の更正を求める権利を有するところ、被告は同女に対し買主として前記売買契約の内容に即した登記を求めることができる債権を有するので、被告は、同女に対する右債権者として、同女の原告に対する右の更正登記を求めることのできる債権を代位行使し、原告に対し請求の趣旨記載の更正登記を求める。

4  つぎに原告は、前叙のとおり旧塀の取壊しに同意しているのにかかわらず、被告に対し不動産侵奪罪の告訴をなし、また本訴請求にも及んだが、これら不法行為による損害の賠償として、左の金員の支払を求める。

(一) そのため、被告は、民謡歌手としての社会的名誉と信用をそこなわれたこと多大で、非常な精神的苦痛を蒙ったからその慰藉料として金一〇万円。

(二) 本訴請求に応訴するため佐藤安俊弁護士に被告の訴訟代理を委任し、着手金三万円をすでに支払い、また勝訴の折は報酬として金五万円の支払を約しているのでその合計八万円の損害賠償金。

(三) そして、右金員に対する昭和四三年四月一七日から完済までの民法所定の年五分の率による遅延損害金。

三  反訴に対する答弁、抗弁

原告は、旧塀等で区画された本件宅地と公衆用道路の持分及び本件宅地上の建物をともに買いうけたもので、それは特定物の売買である。そして、本件宅地等について、被告よりさきにその所有権移転登記をうけたが、それも現状の実測に基くもので、売買当事者はこれを承知して登記申請をしたもので何らの錯誤もない。

従って、被告主張の一〇〇坪の土地を三等分してその一つを原被告が買いうけたことを否認する。また三等分の一の売買を前提とする更正登記申請の申立も理由がない。さらに、本件は全く被告の一方的不法行為であって、被告主張の不法行為を否認する他、本訴における原告主張を反訴請求原因の答弁として援用する。

さらに、かりに境界確定につき被告主張の合意が存在したとしても、それは原告が被告の申入れを本件宅地に関するものではなく、私道分の持分に関するものと誤解したことによる合意であるから、その合意は要素に錯誤があったものとして無効である。

第三証拠≪省略≫

理由

一  原告が東京都練馬区北大泉町八〇番の一八、宅地一〇四、九五平方メートル(三一、七五坪)と同所同番七、公衆用道路四二、九七平方メートル(一三坪)の一三一一分の一五八の持分の各所有権を取得した旨、また、被告が同所同番一九、宅地八六・〇八平方メートル(二六、〇四坪)と右公衆用道路の一三一一分の七六二の持分の各所有権を取得した旨の各登記があること、右登記のある原被告の両敷地が隣接しており、別紙図面(ト)、(チ)の線上に旧塀が存在し、被告がそれを原告主張の頃取り壊し新たに同図面(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)を結ぶ線上に新塀を築造したことは当事者間に争いがない。

そして、≪証拠省略≫に前記当事者間に争いのない事実を併せ考えると原被告の所有する両敷地と前記持分登記のある公衆用道路(以下私道という)は、これらを含む三三〇平方メートル(一〇〇坪)の土地から分割されたものであって、原告は昭和三九年三月一二日頃訴外小沢武夫から右別紙図面(イ)、(ロ)、(チ)、(ト)、(イ)の宅地と同図面の私道の持分と同宅地上の建物を、被告は同年同月一〇日頃訴外小沢喜代子から右宅地に隣接する宅地と同図面私道の持分と同宅地上の建物を各買受け、右両宅地と私道については同年同月一九日その分筆登記手続がなされて、原告においては同年四月二日、被告においては同年一二月二八日前記各所有権取得の各登記手続を了したこと、原被告が右買受に当っては、いわゆる建売住宅として、前記三三〇平方メートルの土地から私道部分を除いた残余を三分しその各区割に建築せられている住宅をその敷地とともに買いうけたこと、被告は売主側からその買受け部分の土地が右三三〇平方メートルを三等分したものと聞いていたことは認められるが、被告の買受けがその敷地を地積を指示して売買した場合にあたるものとは到底認めがたく、却って、被告も原告もその買受けに当ってはすでに旧塀等で区画せられて特定された一区画の敷地とその地上建物を各買受けこと、そして、売主側は、その一区画づつの敷地を実測した結果に基いて、その実測地積による前記分筆登記手続をなし、その分筆地積が均等でなかったために私道部分の持分の大小で按配して各敷地と私道持分の地積合計が大よそ一一〇平方メートルになる前記登記手続がなされて、原告はその買受けた本件宅地について登記手続を了したこと、しかるに、被告は、その購入宅地が前記一〇〇坪の土地から私道部分を除いた残地を三等分したその一であると主張して、昭和四二年一〇月五日から八日の間原被告敷地を測量した結果に基く新境界を原告敷地内に設定して前記旧塀が被告敷地内にあるとしてこれを取りこわし新たに前記新塀を築造したことが認められる。

二  そして、被告は、原被告両敷地の右測量や旧塀の取りこわし新境界の設定、新塀の築造等について、原告の了承をえた旨主張し、≪証拠省略≫は右主張にそうものがある。しかし、≪証拠省略≫によると、原告方から被告に対しその便所の臭気抜き煙突について苦情があったことを契機として、前示測量、旧塀の取りこわし、新塀の築造等が被告により一方的に短時日の間に強行されたこと、原告は当時七六、七才の老齢で動作も自由でなく、すでに気力も衰えていたこと、原告家ではその間しばしば被告に対し異議を述べ、その違法を責め告訴にも及んでいること、隣人同士として、旧塀の取こわし、境界線の変更、新塀の築造、土地の割譲等は互いに十分の了解をとげたうえで決せられるべきことであるのにかかわらず、被告は原告本人だけが明らさまに反対を表明せず、被告の申入れに対し「そうですか」と応答することをもって原告の同意あったものとあえて解釈していたことが認められるので、前記被告主張にそう各供述部分は信用することができず、他に被告の同主張を認めるにたる信用できる証拠はない。

三  従って、被告の前記一連の各行為は原告の本件土地所有権等を侵害した不法行為であって、被告主張の原告による同意合意が認められない以上その違法性を欠くものとすることはできない。

1  そうすると、原告の買受けた本件宅地は被告所有の同所同番一九の宅地八六、〇八平方メートルと別紙図面(ト)、(チ)の線、即ち旧塀をもって境界とするものというべく、しかもその登記手続も了しているのであるから、後記認定の同登記の更正登記を必要としないことと相まって、原告は被告に対し同部分の所有権をも対抗できるものというべく、被告に対しその部分の所有権が原告に属することの確認を求める請求は理由がある。

2  また、被告は、原告所有の本件宅地上に新塀を築造し、右(ト)、(チ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)部分の土地を侵奪したことは明かであるので、原告がその所有権に基いて新塀の収去と右侵奪のあった土地の明渡を求める請求も理由がある。

3  つぎに、旧塀は長さ一三、二メートル高さ約一、二メートル、幅〇、一メートルの六段積みブロック塀であったことは当事者間に争いがなく、旧塀は原被告が各買受の当初からその境界線上にあったことは前示認定の通りであるから、特段の事情について主張立証のない限り原被告の共有に属するものと推認できる。そして、被告が前示の通り昭和四二年一〇月五日から八日の間にこれを何らの権限もなく取りこわした結果、原被告はその宅地上にそれぞれ住宅を所有してその間に空地を存する関係となって、民法第二二五条第一項により互いに相手方と共同の費用をもって右境界の前記(ト)、(チ)線上に囲障を設けることを請求できるものと解せられる。

4  ところで、旧塀は前示の通り当初から存在したものであるが、旧塀の如き材質構造の境界塀を構築する慣習があるものと認めることのできる証拠はない。しかし、すでに存した旧塀が前認定の被告の不法行為によって破壊された場合には、被告は原告に対し旧塀の価格の二分の一相当の損害金を賠償する責任を免れないものであるのみならず、そのような場合、原告の被告に対し旧塀と同一の材質構造の境界塀の設置を求めることが強ち不当であるとは解しがたいので、同法第二二八条にいう慣習ある場合に準じて、原告が被告に対しそのような境界塀を共同の費用で設置することができるものと解することもできなくはない。

そうすると、原告が原被告共同の費用で旧塀と同一の材質構造をもった塀を築造することについて被告の承諾を求める請求は理由がある。

5  また、被告が旧塀を不法に取りこわし、本件宅地中の(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(ハ)の部分を侵奪したこと等による不法行為上の損害賠償責任を免れないところ

(一)  原告は本件土地の一部を被告が侵奪したことにより、その使用が不能になったため月額五〇〇円相当の損害を請求する。≪証拠省略≫から右侵奪部分の土地価格が三、三平方メートル当り五、六万円であることが認められるので、右侵奪部分の地積が約七、一平方メートル余であることから右請求額相当の損害をうけたことを認めることができる。

(二)  つぎに、≪証拠省略≫から旧塀の築造費は一、八メートル当り約三〇〇〇円を要したことが認められるので、その取りこわし当時の旧塀の価格の二分の一、一万三一二五円相当の損害をうけたことを認めることができる。

(三)  また、≪証拠省略≫から前記不法行為によって原告家奥六畳の間の出入口が塞がれ、原告家の人々が多大の不便を強いられたことが認められるのみでなく、隣人たる被告が既存の旧塀をとりこわし、原告宅の敷地の一部侵奪したことによって、原告のうけた精神的苦痛がいかに甚大であったかは容易に推認できるので、その慰藉料は一〇万円をもって相当とする。

(四)  さらに、≪証拠省略≫から被告の前記不法行為により原告が本訴の提起を余儀なくされ、本件訴訟代理人弁護士木村喜助に対し昭和四三年二月二日着手金として金三万円を支払い、かつ、本件解決の報酬として金五万円を支払うことを約定したことも認められるので、右合計八万円も原告のうけた相当の損害と認めることができ、右はいずれも被告においてその賠償責任を免れず、原告の金員の支払を求める請求も理由がある。

よって、原告の本訴請求はすべて理由あるものと認める。

四  最後に反訴請求原因について検討する。

前記認定のとおり原被告敷地や私道をふくむ三三〇平方メートルが原被告他一名に三等分されて、各売買された事実はなく、原告は、すでに旧塀等で区画せられて特定された一区画と私道部分の持分をその地上建物とともに買受け、その買受け部分については、実測がなされ、その実測地積に基いて分筆登記によって原告の所有権取得登記手続がなされたのであって、原告がその更正登記を必要とする何らの理由がない。

ことに、前記三三〇平方メートルの土地中私道部分を除いた残部を三分するについて、仮りに、売主側にその分割について錯誤があったとしても、三分された各土地の各分筆登記がその分割部分に即応し、また、私道部分の持分についてもそのとおりの契約がある以上、登記手続に錯誤があるものと解することはできない。

従って、その余の点について判断をすすめるまでもなく、被告が原告に対し各更正登記手続を求める反訴請求は理由がない。

また、被告主張の原告による不法行為も前記認定事実に照らして到底認めることができず、さらにその余の点について判断をすすめるまでもなく、原告に対する損害賠償の反訴請求も理由がない。

それで、訴訟費用の負担について、本訴反訴を通じ民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 西岡悌次)

<以下省略>

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