東京地方裁判所 昭和43年(ワ)1229号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
[編注 一、(事故の発生)
原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。
(一) 発生時 昭和四二年一月七日午前一時二〇分頃
(二) 発生地 東京都新宿区早稲田鶴巻町二五一番地先路上(以下本件道路という)
(三) 加害者 普通乗用自動車(品五る二八四六号以下甲車という)
運転者 被告高橋昭彦(以下被告高橋という)
(四) 加害車 普通乗用自動車(五き九四〇二号以下乙車という)
運転者 訴外米野源二郎(以下米野という)
被害者 原告(乗客として同乗中)]
〔判決理由〕一、請求の原因第一項(一)ないし(四)は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば原告は本件事故により頭部打撲、頸椎捻挫、左下腿打撲、左前胸部挫の傷害を受け昭和四二年一月七日より同年七月三〇日まで厚生年金病院に入院したこと(入院の事実は当事者間に争いがない)が認められる。
二、被告高橋が甲車を所有していたこと、被告会社が乙車を所有していたことは原告と各被告との間において争いがない。従つて被告らはそれぞれ甲車又は乙車を自己のため運行の用に供していたものというべく、自賠法第三条但書の免責の主張が認められない限り原告の損害を賠償すべき義務がある。
三、(一) 本件事故発生の状況
<証拠>によれば次の事実が認められる。
本件事故現場は新宿区榎町方面から鶴巻町電停に南から北に向うアスファルト舗装された市街地の見とおしの良い道路で速度制限は時速四〇粁までとされており、車道幅員7.35米、両側に約1.7米歩道があり歩道上の車道寄りに電柱消火栓などが設置されている。
被告高橋は甲車を運転し時速約四〇粁で鶴巻町方面から榎町方面に進行したところ、現場附近東側歩道上にある電柱(江戸川1/5)より約五〇米手前で、反対方向から進行してきた大型貨物自動車とすれ違つたが、この貨物自動車がライトを上向きにしていたため、そのライトに幻惑されたので左側に寄せ縁石(東側)にそつて約五〇米進んだが、このとき前記電柱が目前に見えたので、ブレーキをかけ時速三〇粁位に減速しながらなお右電柱から十数米進み、その地点から四五度以上の急角度で右にハンドルを切りブレーキをかけながら道路中央より反対車線に進み、右側(西側)の縁石より2.1米の地点で乙車の前部と甲車前部が衝突した。
訴外米野は乙車を運転し榎町方面から鶴巻町方面に向い時速約四〇粁(時速の点につき原告と被告会社間において争いがない)で縁石より一米位はなれた道路左側進行したが、進行斜前方約二〇米のところから甲車が急に右側にハンドルを切つてきたので、米野は危険を感じブレーキを踏んだが、左側(西側)縁石より約1.1米の間隔を置き縁石に平行に約一〇米進んで停車したところへ、乙車が衝突し、甲車を約一米位縁石の方に押すようなかつこうで停車した。
現場には甲車のスリップ痕が前輪左4.25米、右4.75米で四五度以上の角度で残つており、乙車のスリップ痕は前輪左9.90米、右8.40米、後輪右3.8米であり、左前輪のスリップ痕は縁石より約1.1米の間隔を置いて縁石とほぼ平行についていた。
(二) 被告高橋の過失
右認定事実によれば被告高橋は対向車のライトに幻惑された場台ただちに運転を中止すべき義務があるのにこれを怠り、かつ対向車線に乗り入れた過失があることは明らかである。
(三)訴外米野の無過失
右認定事実によると両車の速度はいずれも時速約四〇粁であつたので訴外米野が甲車が急に曲つて来るのを見て危険を感じてから衝突するまでの時間的間隔はまことに一瞬というべく、この時間内に米野にとつて衝突を避けるための方法は、ブレーキを踏み、可能なかぎり左に寄ること以外にはあり得なかつたのであるが、左側歩道上には車道寄りに消火栓、電柱が設置されている道路であつたのであるから、縁石より一米の間隔をさらに左に急角度で寄りながら停車をすることを同人に期待することは無理といわねばならないから、甲車が曲つて来るのを発見してからのち回避措置につき米野に過失はないといわねばならない。
原告は、被告高橋は、ジグザグ運転ないし一旦左に寄り電柱に衝突しそうになつてから右にハンドルを切つたといつた異常な運転をしていたのであるから訴外米野はこのような対向車の走行に注意していれば、事故を避け得たものであると主張するが、被告高橋がジグザグ運転をしてきたと認めるのに足る証拠はなく、右認定のとおり被告高橋の五〇米位歩道縁石にそつて進行したのであるが、このことは特に異常な運転とみるべきでなくこのことから急に右に曲り対向車線に進んで来るかも知れないことまで予想し、訴外米野に対し、さらに左に寄り徐行しなければならないとする義務を課することもできない。
<証拠>に前記認定の全事実を総合すると、本件事故との因果関係を否定しえない「被告会社の自動車運行上の過失および乙車の構造上の欠陥・機能の障害」はなかつたものと認められる。
四、損害(被告高橋に対する関係)
(一) 逸失利益
<証拠>によれば、原告は本件事故当時小寺道子の経営するバーにマネージャー兼バーテンとして勤めており、、給与として一カ月三五、〇〇〇円のほか、チップ、集金手数料、賞与として平均一五、〇〇〇円を下らない収入があつたところ、本件事故後昭和四二年一一月まで全く収入を失い、同年一二月から昭和四三年八月まで「ニュー・トオキョウ」のカウンターマン兼バーテンとして働き一カ月二五、〇〇〇円の収入があつたこと、昭和四二年七月三〇日退院後東京厚生年金病院神経科に通院し、同四三年一一月当時の後遺症としては、頭痛、頭重、左半身不全麻痺(左上肢、下肢ともに殆ど自動運動は不能)があり、近い将来に回復の見込はないものとされ、労災保険七級に当るとされている。右事実によれば原告の損害は(1)昭和四二年一月より同一一月まで一カ月五〇、〇〇〇円の割合による五五〇、〇〇〇円、(2)同年一二月より昭和四三年二月まで、一カ月二五、〇〇〇円の減収があるので七五、〇〇〇円、(3)昭和四三年三月以後については、同年八月まで勤務し二五、〇〇〇円の収入のあつたこと及び労災保険七級は労働基準監督局長通牒の労働能力喪失率六五%となつていること等を合わせ考え、一カ月二五、〇〇〇円の減収が同月以後一〇年間程度継続するものと認めるを相当するので、一年の減収分三〇〇、〇〇〇円につき年別複式のホフマン方式により中間利息を控除すれば二、三八三、〇〇〇円(千円未満切捨)となる。右(1)ないし(3)の合計は三、〇〇八、〇〇〇円となる(被告会社が弁済したことに争いのない一二〇、〇〇〇円は、被告会社に対し免責が認められたのであるから右金額から控除しない)
(二) 慰謝料
前認定の原告の傷害の程度、入、通院の状況、後遺症、近い将来に回復する見込みがないこと及び本件にあらわれた一切の事情を考慮し、原告の受くべき慰謝料は二、〇〇〇、〇〇〇円をもつて相当する。
(三) 弁護士費用
以上により、原告の損害額は五、〇〇八、〇〇〇円となるところ、原告は法律扶助協会を通じ原告訴訟代理人に訴提起を委任したことが記録上明らかであるので、この弁護士費用として賠償を求めることのできるのは四〇〇、〇〇〇円と認めるを相当する。 (荒井真治)